第27話 生中継の準備、このまま進めてイイですか?

 柳瀬Dが編集室を出ると、ちょうど廊下にAD白崎の背中を見かけた。


「おい白崎、もう戻ってたのか。調整の方どうなった?」


 追いついて声を掛けると、彼女はにやりと笑って頷いた。


「調整ならバッチリですよ。水曜夜七時開始でいいんですよね?」

「ああ。よし、これで後は越谷さんに報告して、ひたすら編集するだけだな」


 時間の問題が無事解決し、ホッと胸を撫で下ろす。

 しかしここで、まだやるべきことがあったと気付く。


「そうだ忘れてた、機材とそれを動かす人を集めないとじゃないか。来週水曜に空いてるやつ誰か居たかな……?」


 そう言ってスマホの電話帳を開く柳瀬Dに、AD白崎が「ふふ〜ん」と得意げな表情を見せる。


 何でこんな顔をしてるんだこいつは。

 柳瀬Dが訝しむ視線を送ると、新人ADが口を開いた。


「柳瀬さん、大丈夫です。その必要はありませんよ」

「は?」

「それはもう私が解決済みですから」

「どういうことだよ?」


 意味が分からず眉を寄せる。


「セッティングから当日の撮影まで全部セリーヌさんがやってくれることになったので、人は集めなくて平気になりました。だから大丈夫です」

「ええっ、嘘だろ? あのやる気の無いセリーヌさんが本当にそこまでやってくれるのか?」

「はい。ラノベで買収したのですっぽかされることは無いはずです」


 このAD、また随分と汚い手を……。

 しかし、こういう狡猾さこそテレビ業界で成功するために必要なのかもしれない。もしかしてこいつ、将来大物になるタイプか?


「とにかく、あとは来週に向けて深夜特番で盛り上げていくだけですよ!」

「そうだな。それじゃ、早く越谷さんに現状を報告しよう。どこにいるか分かるか?」

「越谷チーフなら多分デスクにいると思いますけど」


 と言うことなので、柳瀬DとAD白崎は越谷チーフPを探して制作局フロアへと向かった。




「越谷さん、お疲れ様です」

「おお柳瀬、お疲れ。編成の変更はゴーサイン出たぞ。そっちはどうだ?」


 柳瀬Dの呼びかけに、デスクでノートパソコンのキーボードを叩いていた越谷チーフPは答えながら立ち上がるとこちらに歩み寄ってくる。


「とりあえず一本目の編集は終わりました」

「向こうの人と話をして、水曜夜七時から開始ってことで了解もらいました」


 二人が答えると、越谷チーフPは「そうかそうか」と腕を組んで頷く。


「ってことは、これから残りの編集とスタッフ集めやる感じ?」

「いえ、異世界の人に頼んだのでスタッフ集めは必要ないです」


 そう応じたAD白崎に、越谷チーフPが驚いた様子で問いかける。


「ちょっと待った、テレビカメラとか向こうの世界に無いでしょ? 生中継で失敗も出来ないんだから、素人には任せられないよ」


 それに対し、新人ADは笑顔を浮かべ言う。


「ああ、その辺は心配しなくて大丈夫です。私が頼んだ人は万物を理解する全知全能の観測者様なので」


 いやいや、セリーヌさん自分のこと全知全能なんて言ってたか?

 そもそもそんな雑な説明では越谷チーフPにどんな人か伝わらないだろう。


 何か補足説明をするべきかと思案していると、突然越谷チーフPは可笑しそうに笑いながら首を縦に振った。


「はははっ、異世界にはそんな神様みたいな人間がいるのか。それなら丸投げしても問題は無いかもな。白崎ちゃん、本当に信じていいんだよな?」

「はい、もちろんです!」


 越谷さん、そんな簡単に信じちゃうんですか?

 と思ったが、セリーヌさんの存在を信じてもらえたのは何よりだ。


 自信満々に言い切ったAD白崎の肩を越谷チーフPは軽く叩くと、最後に一言告げる。


「まずは深夜特番、成功させるぞ」

「「はい」」


 柳瀬DとAD白崎は気合いを入れ直し、再び準備に取り掛かった。

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