第26話 間に合わないので、別行動でもイイですか?(後編)

 まさかの展開ではあったものの、これで与えられたタスクは完了だ。

 しかし、この程度の仕事で満足するようなAD白崎ではない。

 事前に買い込んだ大量のラノベ。今からその謎の買い物の理由をご覧に入れよう。


 フィリップとの話を終えたAD白崎は、階段で二階へ上ると大きく息を吸い込んだ。そして、お屋敷中に響くような声で叫ぶ。


「セリーヌさん、出て来てくださ〜いっ!」


 すると、近くの扉がガチャリと開いてセリーヌが姿を現した。


「白崎殿うるさい、耳障り」

「あ、いたいた! セリーヌさん、手伝ってほしいことがあるんですけど……」


 笑顔で駆け寄るAD白崎を見て、セリーヌは露骨に嫌そうな顔をして扉を閉めようとする。

 だが、彼女のその面倒臭がりな性格はとっくに把握済みだ。


「待って待って、ちゃんと対価は用意してあるから。ほらこれ!」


 扉の隙間に本屋の紙袋を差し込むと、中身を確認したセリーヌが再び廊下に出て来た。


「大人気ゲーム小説の一巻から最新巻まで。この報酬はなかなかに興味深い。これをくれると言うなら、ある程度のことは引き受けても構わない」

「じゃ、契約成立ってことで!」


 完璧に思惑通り、作戦成功。やっぱり私って天才?

 よっしゃとガッツポーズするAD白崎に、セリーヌは呆れた表情を浮かべつつ問う。


「それで、私に何をさせるつもりなのか」

「国王選を生中継するので、そのための機材準備です」

「…………ん?」

「カメラのセッティングとか配線とか、その他諸々。まあ撮影スタッフみたいなものです」

「白崎殿、ちょっと何言ってるか分からない」


 どこかの芸人みたいなツッコミを入れるセリーヌに、AD白崎は「またまた〜」と笑いながら煽るように言う。


「万物を理解し宇宙の摂理をも解き明かす観測者様なら、これくらい余裕でしょ? それとももしかして、機械系は苦手なのかな〜?」

「苦手ではない。テレビカメラなど、扱い方から技術進歩の過程まで全て知っている」


 人間ごときに馬鹿にされたのがよほど不愉快だったのか、変な意地を見せるセリーヌ。直後、こちらに指を突きつけると、強い口調で宣言した。


「この程度の雑用、私一人で十分。局員も制作会社員も寄越さなくていい」


 ほほう、言ったな?

 不敵な笑みを浮かべたAD白崎は、大きく首を縦に振ってその発言を受け止める。


「そうですよね〜。セリーヌさんの邪魔になってもいけませんし、ここは一人でお願いします」


 こうしてAD白崎はほんの少しの時間で、生中継の準備に必要な人員の問題を解決してしまったのだった。

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