第25話 間に合わないので、別行動でもイイですか?(中編)

 一方、異世界側との調整役を任されたAD白崎は柳瀬Dを見送った後、思いもよらぬ行動に出ていた。それは……。


「よし、これだけあればセリーヌさんも頑張ってくれるでしょ」


 大きな紙袋を下げ、本屋から出てきたAD白崎。

 なんと彼女はテレートに転移する前にテレビ局近くの書店でライトノベルを爆買いしていたのだ。


 大量の人気ラノベを手に局に戻った新人ADは、そのままカメラ倉庫へと向かう。

 そして、セリーヌに教えてもらった手順を踏んでクラリスやフィリップが待つお屋敷に瞬間移動。


「到着っと……」


 沓摺くつずりをぴょんと飛び越えて着地したAD白崎は首を左右に振る。しかし廊下には誰もいない。

 しばらく待ってみるも誰かが通る気配は感じられなかったので、大声で呼びかけることにした。


「すみませ〜ん! 白崎戻りました〜!」


 すると、メイドのクロエが遠くの扉から顔を覗かせた。

 掃除の途中だったのか右手にほうき、左手にちりとりを持ったままこちらに歩み寄ってくる。


「おかえりなさいませ、シラサキ様。随分とお早いお戻りで。ただいまフィリップ様を呼んで参りますね」

「お願いします!」


 AD白崎が笑顔で言うと、クロエは「少々お待ちください」とお辞儀をして階段を下りていった。


 それから間もなく、クロエが階段を駆け上りつつ声を掛けてきた。


「フィリップ様は一階でお話ししたいとのことです。よろしいですか?」

「はい、私は別にどこでも」


 とにかく話さえ出来れば場所はどこだろうと構わない。

 クロエの後に続き、一階のダイニングへ。


「シラサキさん、まだ別れてから数時間しか経っていないが、何か急ぎの用件かな?」


 優雅に足を組みながら椅子に腰掛けていたフィリップは、質問を投げかけながら座るよう手で促す。

 AD白崎はラノベの入った紙袋を床に置き、椅子に腰掛けてから話を切り出す。


「まず報告しておくと、あの後すぐに責任者の人に国王選の件について話をすることが出来ました。そして、放送についても認めてもらえました」

「ほう、それはありがたい。その責任者の方には感謝しなければいけないね」

「はい。なんですけど、放送枠は来週水曜日の夜。しかも生中継をしたいとのことで……」

「ナマチュウケイ、とは?」


 生中継の意味が通じなかったようで首を傾げるフィリップ。


「えっと、どう説明したらいいんですかね? 撮影した映像が時間差無くそのままテレビに流れるというか、とにかく生の中継です!」


 上手く言語化できなかったのでノリと勢いで誤魔化す。

 そんな適当な新人ADに対し一瞬戸惑った表情を浮かべたフィリップだったが、それとなく理解してくれたのかそのまま会話を進める。


「そうか、来週の水曜日か。時間は?」

「夜七時から十時の三時間です。でですね、生中継で放送するにあたって、国王選をその時間に合わせて開催してもらえないかって相談なんですけど……」


 報告を終え、いよいよ本題を切り出したAD白崎。

 だが、いくら放送のためとは言っても多くの人が関わる国王選の時間を調整するのはなかなか難しいのではないだろうか。


 諦め半分で答えを待つAD白崎に、フィリップは予想外の言葉を口にした。


「おお、それは偶然だねぇ。国王選は元々その時間に行う予定だったのだよ」

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