第24話 間に合わないので、別行動でもイイですか?(前編)
「え〜と、これは手分けしてやらないと無理なやつですよね……?」
「ああ、無理なやつだな……」
越谷チーフPが去ってから五分後。
ようやく頭の整理が終了した柳瀬DとAD白崎は二人で頭を抱えていた。
名物プロデューサーから与えられたタスクは大きく分けて二つ。
一つはここ数日で溜まった異世界ロケの映像を一本十五分×五本に編集すること。そしてもう一つは国王選の開催日時を水曜十九時開始にしてもらえるよう調整すること。
編集作業については明日の夜までに必ず一本は完成させなくてはいけないし、国王選の日程調整もなるべく早めにするべきだろう。
「とりあえず編集が出来るのは僕だけだし……。白崎、ちょっと荷が重いかもしれないが、お前に時間の調整任せてもいいか?」
新人AD一人に任せきりにしてしまうのは苦渋の判断だが、こうするより他はない。ここは彼女を信じよう。
そんな柳瀬Dの思いを知ってか知らずか、AD白崎はこくりと力強く頷いた。
「分かりました! やってみます!」
どこから来る自信なのかは謎でしかないが、その心意気は頼もしい。
「それじゃあ、僕は編集室に籠もりきりになるだろうから、後はよろしく頼むぞ」
「了解です」
なぜか敬礼をしてみせたAD白崎を横目に、柳瀬Dは早速編集室へと向かった。
ロケの素材は全部で五つ。
吉祥寺でのクラリスとの衝撃の出会い、市場で密着した料理好きの主婦、大戦に参加した英雄の騎士、公衆浴場で会ったホームレスの少女、そして国王選に立候補するという貴族院の政治家。
これらをそれぞれ十五分のVTRに纏めなければならない。
「まずは異世界に転移するってところでいかにリアリティを出すかだよな……」
もちろん柳瀬Dはクラリスの魔法により本当に異世界に転移したのだが、ただそのままの映像を流すだけで視聴者は信じてくれるだろうか。作り物と思われてしまった時点でその後の深夜特番、ひいては水曜の国王選生中継に繋がらなくなってしまう。
とにかく、初回放送は必ず成功させなければいけない。
今までに感じたことのないプレッシャーに押し潰されそうになるが、こんなことで挫けるつもりは無い。自分にだってテレビマンとしての矜持がある。
「この番組の良さは派手な演出をしないこと。何も手を加えず、そのまま流そう」
悩んだ末、転移の場面も余計なテロップやBGMは入れないことに決める。
その先はいつもと同じように家の外観やら部屋でのインタビュー映像やらを見やすく繋いでいく。そして最後にシンプルなテロップとお決まりの『レット・イット・ビー』を足して編集完了。
「よっしゃ、終わった〜」
とりあえず一つ完成させた柳瀬Dは、疲労をほぐすように大きく伸びをして肩を回した。そこでふと壁に掛かった時計の時刻が目に入る。
「ん? 六時……?」
一瞬見間違いではないかと自分の目を疑ったが、どう見ても針は六時を指している。柳瀬Dは作業に夢中になり過ぎたあまり、すでに夕方であることに気付いていなかったのだ。
「まずい、越谷さん絶対気にしてるよな? ってか、白崎にも状況聞かないと。やばいやばい……!」
柳瀬Dは完成したテープを手にすると、急いで編集室を飛び出した。
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