第23話 異世界ロケ、放送してもイイですか?(後編)

「越谷チーフ、あの枠ってどの枠ですか?」


 キョトンとした顔で首を傾けるAD白崎。

 しかし、柳瀬Dには一つ思い当たる枠があった。

 考えることすらも放棄している様子の新人ADに、柳瀬Dが先に答える。


「来週の厳しい枠って言ったら水曜の十九時から二十二時だろ。大日本放送は野球中継、日の出放送はクイズパワフルセブンの二時間特番、TTVが六大学王の三時間スペシャルで、ベイテレビは闘走中を四時間ぶっ続け。このラインナップにウチが勝てると思うか?」


 それを聞いた直後、AD白崎は「無理無理!」と勢いよく頭を振った。


「なんですかその魔境みたいな枠! これじゃセブンチャンネルなんて誰も見ませんよぅ」


 誰も見ないはさすがに極端だが、民放キー局の視聴率争いで最下位に沈むのは火を見るよりも明らかだ。


 場が微妙な空気に包まれたところで、越谷チーフPが口を開く。


「まあ確かに、俺も勝ち目は無いと思ってた。だから捨て枠のつもりでバス旅の総集編を組んでたんだけどな。でも、柳瀬の話を聞いた途端にピンと来た。異世界の国王選、この枠でやろう。出来れば生中継で」

「「な、生中継!?」」


 想像の遥か上を行く提案に、柳瀬DとAD白崎は思わず大声で叫んでしまう。

 そんな二人に対し、セブンチャンネルの誇る名プロデューサーは頷いて言った。


「その国王選ってのは来週なんだろう? 向こうの世界で重要な会議だというのは分かってるけど、テレビ的には生中継でやるのがベストだ。柳瀬たちが向こうの人とどういう関係にあるのかは知らないが、時間とか諸々調整してみてくれないか?」


「わ、分かりました……」

「了解です……」


 越谷チーフPの表情からはテレビマンとしての情熱がひしひしと伝わってきて、柳瀬DとAD白崎は彼の言葉をただ受け入れることしか出来ない。


 そして、一度スイッチが入った越谷チーフPの勢いはもう止まらない。


「ただ、それをいきなり放送するわけにもいかないよな? じゃあ、明日から火曜まで深夜に特番を組もう。そこで今日までに撮ってきた素材を流す。番組名は『異世界、ついて行ってイイですか?』でどうだ? 早速だが柳瀬、編集頼む。一本十五分でそれを五本、出来るな?」


 いや、いくらなんでもそれはハードスケジュールすぎる……。

 そう感じた柳瀬Dだったが、もはや自分に拒否権など与えられていない。


「よし、これはバズるかもしれないぞ〜。っと、もう会議の時間だ。二人とも、よろしく頼むぞ」


 時計を確かめると、越谷チーフPは興奮した様子のまま会議へと向かっていってしまった。


「…………」

「…………」


 取り残された柳瀬DとAD白崎はあまりの急展開に頭が追いつかず、しばらく黙って顔を見合わせていた。

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