第22話 異世界ロケ、放送してもイイですか?(中編)

「戻ってくる時は一度ここに入って扉を閉め、もう一度開ける。また、この手順を柳瀬殿と白崎殿以外が行ってもこの世界には繋がらない。では、国王選の話、よろしく」


 扉の向こうを眺める柳瀬DとAD白崎に、セリーヌは最後にそう告げて立ち去っていった。


「まあ、セリーヌはあんな性格だが嘘はつかない。そこは安心してほしい」


 やれやれとため息を吐くフィリップの言葉に、柳瀬Dはこくりと頷く。


「はい、それは重々承知してます」

「なら良いんだ。それじゃ、国王選については私の方からもよろしく頼むよ」

「分かりました」


 柳瀬DとAD白崎は沓摺くつずりを跨ぎ、カメラ倉庫へと足を踏み入れる。


「色々作業とかもあるんで、三日後くらいに戻ります」

「うむ。ヤナセ君、シラサキさん、お気を付けて」

「じゃあ、失礼します」


 フィリップと別れの挨拶をし、扉を閉める。

 そして、間を置いてもう一度扉を開けると、そこは見慣れた空間だった。


「六本木に戻って来たな……」

「ですね……」


 この数日間異世界にいたこと。今自分たちが局にいること。

 何だか実感が湧かず、妙な感覚に襲われる。


「よし。まずはチーフプロデューサーに会わないとだな」

「あれ? 今日あの人出社でしたっけ?」

「曜日的には多分いるんじゃないか?」


 柳瀬DとAD白崎はチーフプロデューサーに会うため、制作局へ向かう。

 番組を担当するチーフプロデューサーはかなり多忙で、局内にいる時は打ち合わせや会議に出ていることが多い。その上局内にいないこともあるので、捕まえるのは容易ではない。


 しかし、今日は意外にもあっさりと捕まった。というより、向こうから声をかけてきた。


「おお柳瀬。やっと戻ったか」


 そう言って笑顔で近づいてくる五十代の男性。彼こそがこの番組のチーフプロデューサーである越谷こしがや。東京セブンチャンネルで数々のヒット番組を生み出してきた名プロデューサーだ。


「越谷さん、お疲れ様です。今お時間大丈夫ですか?」

「ん? そんなに長くなければ平気だけど」


 打ち合わせまでまだ時間があるとのことだったので、柳瀬DとAD白崎は落ち着いて話の出来る社員食堂へと移動した。


「しばらく二人のこと見なかったけど、どっか地方まで行ってきたの?」


 気さくな態度で質問を投げかける越谷チーフPに、柳瀬DはAD白崎と顔を見合わせてから口を開く。


「地方というかですね……。まず聞いてもらっていいですか?」


 そして、ここ数日の間に起きた出来事と国王選の話をした。


 最後まで聞き終えた越谷チーフPは、しばらく信じられないといった表情を浮かべていたが、やがてぽつりと呟く。


「これ、来週のあの枠でやれたら面白いぞ」

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