第17話 国王選、応援してもらってイイですか?

 応接室のような部屋へ通されたクラリスと柳瀬D、AD白崎の三人。

 ブノワとテーブルを挟んで、ソファに腰を掛ける。


「では、ブノワさんについて色々とお伺いしますね」


 クラリスの言葉に、ブノワは優しい笑みを浮かべる。


「はい。何でも訊いて下さい」


 柳瀬DとAD白崎はインタビューがちゃんと成立するか、口出しはせずに黙って見つめている。


「まずはブノワさんの過去、経歴についてお聞きします。ブノワさんは名門校である聖アドマチ学院をご卒業されたのですよね?」

「はい。ブノワは王都モヤサーマで生まれ、聖アドマチ学院幼稚舎に入学。そのまま内部進学し、聖アドマチ学院高等部を十八の時に卒業しました。成績は常に上位、神童と称えられていました」

「やはり、ブノワさんは昔から貴族としての自覚をお持ちだったんですね」

「当然です」


 満足げに頷くブノワ。

 クラリスはフードの下でバレない程度に一瞬顔を顰めた。

 だがすぐに気を取り直し、次の質問を投げかける。


「そして現在はマルティネス家代表の貴族院議員として国政に参加されていますが、主な役割はどんなものですか?」

「ブノワは議員となってから一貫して経済を担当しています。かつての大戦の後、ティービスとのパラビー条約の細部を詰めたのもこのブノワなのです。今も国民一人ひとりの幸せを考え、より素晴らしい社会になるよう努力しているのですよ」

「さすがブノワさん。おっしゃることが違いますね」


 ここまでのインタビューを聞いて、柳瀬Dには少し疑問に感じることがあった。

 柳瀬DはこっそりとAD白崎に囁きかける。


「クラリスさんの態度、ブノワさんを持ち上げてる感じになってない?」

「まぁ、否定は出来ませんね……」


 AD白崎も同じことを思っていた様子だ。


「一応政治が絡んでる訳だし、特定の誰かを応援してると捉えられるのはまずいよな?」


 柳瀬Dが呟くと、AD白崎は「そうですか?」と首を傾げた。


「これが放送されるのはあくまで日本であって、この世界じゃありません。だから大した影響はない気がしますけど」

「まぁ、確かにな……」


 言われてみればそうだ。

 東京セブンチャンネルはこの世界の国民は当然観られないので無関係だ。それに、たとえ東京セブンチャンネルでこのVTRが流れても、視聴者にはほとんどフィクションのように捉えられるだろう。

 それなら多分問題ないか。

 柳瀬Dは思い直し、そのままインタビューを続けさせる。


「そして来週には次期国王選出会議が控えていますね。ブノワさんは誰の支援を?」


 この質問を口にしたクラリスの顔つきが急に変わる。

 恐らく国王選はモナール家にとっても重要なものだからだろう。


 ただ、ブノワはそれに気付くことなく椅子にもたれかかって答える。


「いやぁ、ここだけの話なんですがね。実は、このブノワが国王に立候補しようと思っているのですよ」


 その言葉に、クラリスだけでなく柳瀬DとAD白崎も驚きの声を上げる。


「「ブノワさんがですか!?」」


「はい。ブノワ自らが国の頂点に立つことにより、国民はもっと幸せになれるのです。そんなに驚くことではないと思いますが?」


 ブノワはメガネをくいっと上げ、紅茶を一口啜る。


 クラリスは唇を噛み、今にも感情が爆発してしまいそうな状況だ。

 その様子を見たAD白崎は、クラリスの手を握って落ち着かせる。


「クラリスさん、ここは抑えましょう。立候補すらまだなんですから」

「そうですね、すみません……」


 ふーっと長く息を吐き、クラリスは心を鎮める。


「えっと。次期国王に選出されるには支援や後ろ盾が必要となりますが、ブノワさんにそのような存在は?」


 気を取り直し、クラリスはディレクターとスパイの中間のような質問をする。


 インタビュアーがクラリスだと気付かれれば一大事になりかねないが、ブノワは完全に油断しているらしく、得意げに口を開いた。


「もちろん支援者は見つけています。それが誰なのかは来週の会議まで明かせませんが、きっとあなたも驚くと思いますよ?」

「そうなんですね。とても楽しみです」


 最後にクラリスは無理やり笑顔を作り、心にもない言葉でインタビューを締めくくった。


「ブノワさんがテレートの民にどんな幸せをもたらしてくれるのか、本当に期待しています。本日は突然の取材、ありがとうございました」

「いえいえ。あなた方は宣伝をしてくれたのだから、感謝するのはブノワの方です。これからも是非ともブノワを応援して下さい」


 クラリスと柳瀬D、AD白崎は深々と頭を下げ、ブノワ邸を後にした。




 モナール家に戻る途中、クラリスは柳瀬DとAD白崎に話を切り出した。


「あの、誰にも話さないで下さいね?」


「分かりました」

「もちろんです!」


 柳瀬DとAD白崎はこくりと頷く。


「実はご当主様、最近ブノワさんと会う回数が増えているんです。私が護衛で同行した時も、お二方はとても仲良くしておられました。それを考えると、もしかしてブノワさんの支援者ってご当主様なんじゃないかと……。もちろん私の推測でしかないんですけど、ちょっと気になってしまって」


 どこか不安に感じている様子のクラリス。

 確かに、ブノワが国王になるのは少々危険な気がする。


 その時、AD白崎が声を上げた。


「じゃあ、バレない程度に探りを入れてみましょう!」

「探りを入れるって、どうやって?」


 首を傾げる柳瀬D。


「それは夕飯のタイミングで。よ〜し、テレビマンの意地、見せちゃるけんよ!」

「白崎、それどこの方言だよ……」


 謎の方言が飛び出すほど張り切っているAD白崎に、柳瀬Dは呆れた表情を浮かべた。

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