第14話 こんなでも、夢を持っててイイですか?
少し雰囲気が暗くなってしまったので、AD白崎は思い切り話題を変える。
「じゃあさ、ノエミちゃんは今ハマってることってある? 別に趣味とかでも」
「うーん、趣味かぁ……」
ノエミは顎に指を当てて唸ると、麻袋に手を突っ込んだ。
がさごそと中を探り、何かを取り出す。
「それ何?」
問いかけるAD白崎に、ノエミは「んー」と唸ってから答える。
「正確にこれが何かは分からんけど、アタシはこうやって遊んでる」
するとノエミは取り出したそれをカチャカチャと動かし始めた。
「多分どうにかすりゃあ数字が揃うと思うんだが、なかなか難しくてな……」
立方体のそれぞれの面が九つの正方形で構成されていて、その一つ一つに一から六までの数字が書かれている。
色か数字かの違いはあれど、これは間違いなくルービックキューブだ。
柳瀬Dが気付いたのと同時に、AD白崎もピンと来たらしい。
「ノエミちゃん、それルービックキューブだよ」
AD白崎が教えてあげると、ノエミは「るーびっく、何……?」と首を傾けた。
「数字を揃えるゲームなのは合ってるけど、元がぐちゃぐちゃだと多分揃えられないんじゃないかな?」
ノエミはそれをどこで拾って来たのかは知らないが、様々な人の手によってこねくり回されていた場合、数字を揃えるのは不可能に近い。ごく稀に一瞬で揃えられる人もいるけれど。
AD白崎の言葉に、ノエミは力強く言い返す。
「いや、絶対に揃える。アタシなら揃えられる」
「だってノエミちゃん、プロじゃあるまいし」
「いくら時間が掛かろうが、アタシはこれを揃えてみせる」
言い張って聞かないので、AD白崎は諦めたように微笑んだ。
「そっか。まあノエミちゃんなら、いつか揃えられるかもしれないね」
「ああ。アタシに出来ないことなんて無ぇよ」
ノエミは自信たっぷりな表情を浮かべ、ルービックキューブを麻袋に戻した。
「それじゃあさ、ノエミちゃんは将来の夢ってある?」
AD白崎が続いての質問をすると、ノエミはふと視線を逸らした。
そのまま黙ってしまったので、AD白崎は優しく語りかける。
「別に非現実的なことでもいいよ? 夢だよ、夢。絶対笑わないから」
「…………」
しかし、ノエミはぎゅっと口を噤んだままだ。
質問を変えた方がいいのではないか。
柳瀬DがAD白崎に声を掛けようと一歩前に出る。
その時、クラリスががしっと腕を掴んだ。
「ノエミちゃん、多分言いたいことがあるんだと思います。待ってあげましょう?」
クラリスにそう言われ、柳瀬Dはもう少し見守ることにした。
ただ、あまりに沈黙が長すぎる。
何かしらのアクションは必要だろうと考えていると、AD白崎がおもむろに口を開いた。
「子供の頃、私には色んな夢があったんだ。ケーキ屋さんにお花屋さん、保育士さんに看護師さん。アイドルにだってなりたかったし、宇宙飛行士に憧れたこともある。おまけにパパのお嫁さん。さすがにそれは今でも恥ずかしいけど……。でもね、そういう夢があったから、私はここまで頑張って来られたんだって思う。だからさ、ノエミちゃんも夢があるなら、私に教えてよ?」
「アタシ、アタシは……」
ノエミは目を泳がせながらも、答えようとしている。
AD白崎は「うん」と優しく頷く。
「正直言って、どうすりゃなれるのかも分かんねぇんだけどさ……。魔導師……。アタシ、魔導師になりてぇんだよ」
その答えに、柳瀬Dは思わずクラリスの顔を見遣る。
「アンタら、笑ったら承知しねぇかんな?」
顔だけでなく耳や首まで真っ赤にしているノエミに、AD白崎はニッコリと微笑みかけた。
「人の夢を笑ったりなんてしないよ。それに、魔導師になりたいなんて、すっごく素敵な夢だと思うな」
柳瀬Dとクラリスも、後ろでこくこくと首を縦に振る。
「……これ、絶対内緒だかんな? アンタが自分の恥ずかしい夢を語ってくれたから、教えてやっただけだ」
照れてしまったのか、腕を組んでそっぽを向くノエミ。
すると今度は、AD白崎が顔を赤くした。
「え、恥ずかしい? 私の夢、そんな恥ずかしかった!?」
こちらを振り返り、「そんなことないですよね?」的な視線を送ってくる。
まあ、そこそこ恥ずかしいことは言っていた。
柳瀬Dとクラリスは微妙な笑みを浮かべる。
「うわぁ、これ無し! 私のとこ全部カット!」
大騒ぎするAD白崎に、柳瀬Dとクラリスだけでなくノエミまでもが噴き出した。
「じゃあな。回数券感謝してるぜ」
手を振るノエミに別れを告げ、柳瀬DとAD白崎、クラリスは王都の中心部へと戻った。
「ノエミちゃんの夢、叶うといいなぁ」
呟くAD白崎に、柳瀬Dも首肯する。
「あれだけ頑張ってるんだし、報われてほしいよな」
「いっそのこと、クラリスさんが魔法を教えてあげたらどうですか?」
AD白崎はそう言ってクラリスの顔を見る。
それに対し、クラリスは戸惑ったような表情を浮かべながら答えた。
「私ですか? きっとあの子だってハーフエルフには教わりたくないと思いますけど……」
「ハーフエルフってそこまで嫌われ者なんですか?」
首を傾げる柳瀬D。
「ええ。お二人が思っている以上に、嫌われています」
あまりにきっぱりと言うので、柳瀬DもAD白崎もどう返せばいいのか分からずに黙り込んでしまった。
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