第12話 私のこと、知ってもらってイイですか?

 翌朝。

 柳瀬DとAD白崎がダイニングに向かうと、クラリスが一人座っていた。


「おはようございます」


 挨拶をすると、クラリスはこちらを振り返った。


「おはようございます柳瀬さん、白崎さん。じゃあまずは座ってください」


 促された柳瀬DとAD白崎は椅子に腰掛ける。


「クラリスさん、話があるって言ってましたけど?」


 AD白崎が首を傾げると、クラリスはこくりと頷いて話を始めた。


「はい。お二方には、私のことを知ってもらう必要があると思いまして……。私は王国北部のエルフの村で生まれたのですが、ハーフエルフという理由で村に住めなくなってしまいました。その時、セリーヌが目の前に現れて助けてくれたんです。それからセリーヌは私に魔法を教えてくれました。その結果、私はSランク魔導師の資格を得て、ご当主様に仕えることになったのです」


「とりあえず経歴は分かりましたけど、どうしてそれを?」


 問いかける柳瀬Dに、クラリスは真剣な表情で答える。


「それは、セリーヌが助けてくれた理由に私の重要な秘密があるからです」

「秘密?」

「ええ。私はある才能を持っています。でもそれは、この世界で私しか持っていない才能。セリーヌはそれを守る役目を担っているのです」


 なるほど。昨夜のセリーヌの忠告はそういうことか。


「つまりクラリスさんに何かあった場合、セリーヌはその才能を守る為に行動に出ると?」


 柳瀬Dが確かめるように訊くと、クラリスは静かに頷いた。


「じゃあ、クラリスさんの才能って何なんですか? そんなに凄いんですか?」


 AD白崎はその才能が気になる様子で、クラリスに問いかける。

 しかしクラリスは首を振り、申し訳なさそうに謝った。


「ごめんなさい。それについて教えることは出来ません。ただ、それは世界を一瞬で変えてしまうような危険なもの。だからセリーヌは私を守ってくれているんです」


 秘密にするくらいなのだから、よっぽど知られてはまずいものなのだろう。

 それにしても、一瞬で世界を変えるとは一体どういうことなのか。

 柳瀬Dも興味はあったが、クラリスを困らせるだけなのでこれ以上の質問はしなかった。




「朝から時間をお取りしてしまってすみませんでした。柳瀬さんと白崎さんは今日も撮影に行くんですか?」


 クラリスは先ほどとは打って変わり、優しい微笑みを浮かべながら言う。


「はい、また王都に行こうかと」

「クラリスさん的におすすめのインタビュー場所ってあります?」


 AD白崎が訊き返すと、クラリスは少考して答える。


「そしたら、公衆浴場はどうでしょう?」

「浴場? 銭湯みたいな感じですか?」


 首を傾げる柳瀬D。


「そうです。中流階級以下になると家にお風呂が無い人も多いので。きっとトレダカが転がってると思いますよ」

「その公衆浴場って回数券みたいなものってあります?」

「ええ。確かあったと思いますけど」


 それを聞いた柳瀬Dは、AD白崎と顔を見合わせる。

 AD白崎も異論は無さそうだ。


「じゃあ今日はそこに行ってみようと思います」


 柳瀬Dが言うと、クラリスは笑顔を見せた。


「お役に立てたみたいで良かったです。今日は特に予定も無いので、私が案内しますね」


 そこで、柳瀬Dはこちらから提案をしてみた。


「別にそのまま見学してもらっても構いませんよ」

「本当ですか? でも、昨日迷惑をかけてしまいましたし……」


 クラリスは一瞬喜んだが、昨日のことが引っかかって遠慮している様子だ。

 AD白崎は肩をぽんと叩き、ニコッと微笑みかける。


「別に私たちもう気にしてませんから。もし見学するだけだと気が引けるって言うなら、私のお手伝いでもしますか?」

「お手伝い?」

「はい。と言ってもテープチェンジくらいしかすることないですけど」

「……じゃあ、お手伝いとして参加させてもらっていいですか?」


 問いかけるクラリスに、柳瀬DとAD白崎は「はい」と笑顔で頷いた。


 クラリスが案内してくれたのは、王都の南側にある大きな公衆浴場だった。

 昨日に引き続き、今日も王都モヤサーマでロケを開始する。


「すみません。東京セブンチャンネルなんですけど、ちょっとだけお時間いいですか?」

「ほう、何かね?」


 柳瀬Dが声を掛けたのは、公衆浴場から出て来たお風呂上がりと思われる年配の男性。長く伸ばした髭がとても似合っている。


「こちらの公衆浴場はよく利用されるんですか?」


 質問に対し、男性はニコニコしながら首を縦に振る。


「そりゃあもう毎日来ておるよ」

「この浴場はどこが魅力ですか?」

「そうじゃな……。やっぱり広々としている所かのぉ」

「そしたらですね、こちらの回数券を差し上げますので『家、ついて行ってイイですか?』」


 柳瀬Dが公衆浴場の回数券を差し出す。

 すると男性は手を持ち上げ、受け取るのを拒否した。


「それはお金みたいなもんじゃ。さすがに貰えんよ」

「そうですか……」

「じゃ、ゆっくりして行ってな」


 男性がのんびりとした足取りで立ち去って行く。

 別にお風呂に入りに来たわけじゃないんだけど……。

 気を取り直し、柳瀬Dは次の人を探した。

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