第8話 現実と非現実
「お前ってさ、世の中に非現実的なこと起こると思うか?」
「そうだな……起こらないんじゃねーの? 普通」
「だよなぁ」
第二の予言が的中した翌日。
珍しく七奈はクラスメイトと学食に行くと言っていたので今日は俺と大夢の二人で、ベンチに座って昼食を取っていた。
というのもほとんど済ませたあとで、近くの自動販売機にて購入したコーヒー牛乳で口直ししているといった感じだ。
そんな優雅な昼休みの中、俺は第二の予言が的中したことを冷静に見て、「えっやっば」と改めて思い始めていたのだった。
「でももしアニメの世界とかで起こるようなことが現実で起こったらさ、お前どうする?」
「とりあえず全裸でテンション爆アゲで踊るかな、深夜に」
「だよな——じゃねぇよ! とんだキ●ガイ野郎じゃねーか」
「そもそも非現実的なことが起こった時点でこの世界もう終わりだろ。世紀末だよ世紀末」
「んな大げさな。ってかそもそもそういうの普通起こらないよな」
「あたりめーだろ。俺たちが生きている世の中なんて理不尽に溢れたクソ社会だぞ? それが嫌になって二次元の世界に妄想垂れ流したんだろうが」
「お前辛辣な某サイトの感想みたいなこと言うんだな」
「俺だってな、美人なお姉さんに甘えられる生活してぇんだよ。だがな、現実は非情だ」
「激しく同感だ」
大夢はモテるのだが、大体告白されるのは同年代か年下。あるいは二つ年上くらいの人しかいない。
しかし大夢のストライクゾーンは二十台後半。
友達が次々と結婚していく中一人悲しくご祝儀を作り笑顔で渡すことに対して「クソくらえ」と思っている独身の大人女性がタイプだそうだ。
ほんと、こいつのタイプの女性聞いただけで変態ってわかる。
やっぱり神は完璧を作らないんだな。
「やっぱりこの世界って夢ないよな」
「今を時めく男子高校生が言うセリフじゃないけど、二次元と現実を比較したらむなしくなるのは間違いない」
「これまた激しく同感だ」
ただ、実際それが今起こってるんだよなぁ全く。
最初は「ラッキースケベと同じ類。もしくは友達くらいだろ」と思っていたのだが、やはり冷静に考えてみれば奇妙だ。
普通予知ノートなんてあるはずない。
でも、実際に予知ノートは俺に起こるラブコメ展開的なものを二回連続当ててきている。
これは本物と認めざるを得ない。
それに正直、今んところ俺にいいことしかないんだよなこのノート。むしろ俺としては「どんどんもってこい!」と思うほどには素晴らしいとも思っている。
しかし人間わからないものに興味を持ってしまうもので、ここまで来たらさっぱりしている俺でも気になってくる。
ただこんな都市伝説聞いたこともないし、ネットで検索をかけてみたが、ネット小説に引っかかったくらいしか成果が得られなかった。
やはり想像上の産物なのだ。
だから八方ふさがり。
今の俺にその正体を暴く術などなかった。
そういうわけで、こうしてダラダラと大夢に遠回しに話していたのだ。
実際俺が、「最近予知ノートが舞い降りた」とか言っても「頭おかしいな。俺が殴って直してやるよ」くらいにしか言われないだろうし、実際俺が誰かからそういわれたら何も言わずに叩いて直そうとする自信がある。
だがやはり他者の意見も聞きたいというのも事実で、ここはうまいこと聞いてみることにした。
「もし予知ノートが突如現れたらさ、お前どうする?」
「ビリビリに破って焚火でもするかな」
「クレイジーすぎだろ! お前の心恐ろしいわほんとに」
「それは冗談で、普通にめっちゃびっくりする。けど、面白いなとは思うな」
「だよなぁ。もはや一周回って現実受け入れるよな」
「そもそも、受け入れるしかないからな」
……ちょっとだけ、その言葉カッコよく聞こえました。ちょっとだけ……ほんと、ちょっとだけなんだからね!(なぜツンデレ?)
でも心に響いてきたことは確かで、確かに受け入れるしか今の俺にできることは何もないんだなということに気づくことができた。
「そうだよな。サンキュー」
「……で、これ何? ネット小説でも書くのか?」
「違うわ! ただの興味本位だっての」
「ほーん」
そんな会話をしていたら、いつの間にか飲んでいたコーヒー牛乳は空になって、ずずずーっと音を立てていた。
——受け入れるしかない。
そうなのだが、どこか引っかかる感覚が、異物のように俺の中に確かにあった。
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