第7話 熱烈なハグ
不気味なBGMが流れる。
雰囲気を出すためにカーテンを閉め切って部屋を暗くし、七奈の見たいといっていたホラー映画を鑑賞していた。
まだ開始十分くらいなのだが、もうすでに七奈は怖そうに肩をぷるぷると震わせている。
それに肩はほとんど触れあっていて、先ほど俺を懲らしめた神器こと枕をぎゅっと抱きしめている。
めちゃくちゃ可愛いなと思ったことは、言うまでもないだろう。
「……そろそろ出るんじゃないか?」
「そ、そういうこと言わないでよ! わ、私だって実際そう思ってるから!」
「ほら今足音聞こえた」
「もぉー! 私を怖がらせて楽しい?」
「楽しい」
「お、覚えてなさいよ……」
鋭く俺をにらみつけるだけで、反撃する余裕も今の七奈にはないらしい。
ほんといつも思うのだが、なんで苦手なのにホラーを見るんだろう。
苦手だからこそ、というのだろうか。とんだスリラーだよ全く。
「ひ、ひぃ……」
「怖がりすぎだろ。ってか、シャツが伸びるんですけど」
枕だけに飽き足らず、俺のシャツの端を掴んでくる。
「い、いいじゃない減るもんじゃないんだし……それに、ほんとに怖いのよ」
「じゃあなんで見たんだよ」
「怖いからに決まってるじゃない!」
「理由になってねー」
まぁそういうことなのか、と納得しておいた。
俺はホラーが苦手じゃない。むしろ得意な部類だと思う。
しかしそれに加えて、今はあの予知ノートのことが脳内を駆け巡っていた。
この距離感。
今日の七奈はやけに怖がっていて、いつもより距離がかなり近い。
——これは本当に、抱き着かれるんじゃないか?
そう思ったらホラーの怖さではなく、抱き着かれるというドキドキ感から、鼓動の速さが加速していった。
「う、うぅ……」
涙目になりながらも画面を見つめる七奈。
この感じ、間もなく幽霊出るぞこれ……。
だんだんとBGMが大きくなっていき、主人公の呼吸も荒くなってくる。
ジェットコースターが徐々に高度を上げていくような、緊迫感。
そしてBGMが止まった瞬間、気味の悪い女の人がドアップで映り込んだ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあぁあ‼」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
七奈が悲鳴を上げながら、さっき抱いていた枕を放り投げて俺に抱き着いてきた。
それに今度は俺が悲鳴を上げ、大混乱。
「出たぁぁぁぁ! ついに出たぁぁぁ!(お化けが)」
「マジで来たよ! ほんと来たよ!(七奈が)」
「見なきゃよかったよぉう……うわぁぁぁぁ!」
思い出しセカンダリーウェーブ。
さっきよりもより強い力でぎゅっと抱き着かれ、もうホラーとか通り越してますこれ。
っていうか柔らか! 俺に触れてるところ全部柔らか!
理性が駆けだしそうなのを抑えて、必死にこらえる。
「ちょっと七奈さん? なかなかきついんですけど?」
「が、我慢しなさいよそれくらい!」
「う、うへぇ?」
本心を言えば、もっと抱き着いてくださいお願いします(土下座)なのだが、現在床に押し倒され、俺に覆いかぶさるように七奈が俺に抱き着いているという状況。
これ、思春期の男の子にはなかなかきついんですけど⁈
絶対今晩寝れないんですけど⁈
「ほ、ほんとにお願い……あと、十分だけ……」
「じゅ、十分⁈ 色々と社会的にも物理的にも死にそうなんですけど⁈」
「じゃ、じゃあ五分でいいから……お願い……」
「どんとこい」
そんなうるうるとした瞳でお願いされては断れるはずもなく、余裕の表情で許可。
やらねばならぬ時が男にはあるのだ。
——そういえば、あの予知ノートの信ぴょう性は確かなものとなったな。
もはや奇妙な現象さえ今ではおまけのように思えてくる。
とりあえず今はテレビから流れてくる悲鳴と不吉なBGMに反して、目をぎゅっとつむってめちゃくちゃ怖がる七奈が可愛すぎて、大変だ。
ほんと、大変だ!
それにしてもあの予知ノート、最高かよ……。
今後対価を要求されてもいいや、と思うほどだった。
非現実……バンザイ。
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