第6話 枕投げ単独開催
授業は長かったようで短く、放課後の時間に突入した。
今日はこの後学校に残ることもないし、まっすぐ帰宅できる。
その喜びを噛みしめながら荷物を整理していると、目の前にもう帰宅準備を終えた七奈が仏頂面でやってきた。
「お前用意するの早すぎない? そんなに楽しみなのか?」
「っ……な、なわけないでしょ! わ、私は今日朝待たせた仮をここで返そうと思っただけよ! じ、自意識過剰にも程があるわ!」
はい出ましたツンデレ。
こういうときの七奈はわかりやすく、やはり楽しみにしているんだろう。
というのも、七奈は確かに人気があるのだが特定の誰かと仲良くするということはあまり好くなく、仲がいいと断定できるのは俺と大夢くらいしかいない。
俺が言うのもあれなのだが、七奈はあまり人付き合いが得意ではない。
いわゆる不器用というやつだ。
加えて七奈は「私は別に友達百人つくりに学校来てるわけじゃないわ」と言い放っていたので、俺と同様に友達がたくさんほしいというわけではないのだ。
少ないと何かと便利なこともあるしな。人間関係に悩まされることもないし、ラフだし。
「あとちょっと待ってくれ。今日は宿題が案外あるから持って帰るものが多いんだ」
「……十、九、八、七——」
「ちょっと七奈さん? なぜ急にカウントダウンを?」
依然として「機嫌悪いの?」と思ってしまう表情なので、不吉なカウントダウンにしか思えない。ってか十秒しか待ってくれないとかどんだけせっかちなんだよ。
常に暇だろうが。
「これがゼロになった時、慶の頭が爆発する仕組みなの」
「理不尽過ぎんだろ! ってか仮返す気ゼロじゃねぇか!」
「死んでしまったら、仮も何もないもの」
「あくまでも殺す気なのかよ!」
「ホラーのいい前菜……かな?」
「ホラーの前菜で幼馴染殺してんじゃねぇよ!」
壮絶な俺の命防衛線を繰り広げている間に何とか自分の荷物を整理することができ、急いで立ち上がってスクールバッグを肩にかける。
「さっ、早く行きましょ! お腹すいたわ」
「ツンデレの次は腹ペコキャラに転身かよ……忙しねぇなぁ……」
「あ? なんか言った?」
「さてと、肉まんかなぁ」
「私あんまん」
「俺ピザまん」
そんな会話をしながら、コンビニに向かった。
***
「さっ、早く見ましょ!」
「そんな急かすなって。今すぐやりますから」
興奮隠し切れず、といった感じで俺の家に来てからずっとソワソワしている。
ちなみに現在俺と七奈がいるのは俺の部屋。
リビングでもよかったのだが、抱き着かれる可能性を考慮すると家族に見られたら恥ずかしさ極まりないので俺の部屋にした。
まだ俺以外に帰ってきている人はおらず、見る時間を考慮すれば仕事帰りの母さん、または部活帰りの三咲と遭遇する可能性が高い。
そしていつもからかわれるので、どうにか回避したかったのだ。
というかそもそもテレビを見るときは俺の部屋という暗黙の了解があるので、特に違和感はない。
ただ俺も実はソワソワしていて、今ソワソワしたって仕方がないということはわかっているのだが、どうしても抑えきれない。
「と、とりあえずクッションは必須よね」
「まぁお前ホラー結構怖がるから必須アイテムだな」
しかし俺の部屋にクッションはない。
そのためリビングから拝借しようかなと思っていたのだが、七奈は俺の枕をロックオン。
「……しょうがないから慶の枕でいいわ」
「飲み物持ってくるついでにクッション持ってくるから、別に妥協して俺の枕にしなくたって……」
「ま、枕が良いの!」
すでに枕を腕の中に抱いていた七奈がそう言い放つ。
「なぜ枕? 俺のよだれとかついてるかもしれないんだぞ?」
「……べ、別にいいから!」
枕に愛着でもあるのかよ。
まぁ実際その枕は今朝ちょうど夏に向けて涼しいカバーのものに交換したばかりなので、間違いなく汚くはないのだが……この後俺がそれで寝るということを考えてほしい!
寝れんだろうが。
「ま、まぁとりあえず俺は飲み物取ってくるから、七奈はテレビの準備をしといてくれ」
「わ、わかった……」
七奈がテレビを操作し始めたのを見て、俺は一階に降りて飲み物を取り、部屋にまた戻ってきた。
「お待たせー。って、全然準備できてないじゃん——」
テレビに視線をよこしてから、スライドするように七奈の方を見ると、そこには枕に顔を埋めて息を大きく吸う幼馴染の姿があった。
一瞬の静寂の後、ゆっくりと枕から七奈の顔がライジングサン。
——わぁー。ほんとに太陽みたいに真っ赤な顔だぁ。
「……の、ノックくらいしなさいよ!」
その言葉と同時にメジャーに行けるほどの速度で枕が飛んでくる。
もちろんよけれるはずもなく、俺はそのまま枕に大ダメージをくらわされた。
よ、世の中理不尽だ……。
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