第9話 見当がつかない

「ふぅ~」


 疲れた体に、程よい温度のお湯が染み渡る。

 夏を感じるほど最近は暑くなってきたが、それでもやはり風呂はいい。

 俺の一日の中で至高のリフレッシュ時間だ。


「それにしても、ほんとどうしたもんかなぁ」


 受け入れるしかない、とは言っても違和感があることは確かだし、俺にとっては嬉しいことだがやはり非現実的すぎる。

 なんでもいいからとにかく嬉しい、ひゃっほい! という気持ちが六割。なんだこれという気持ちが四割というのが今の俺の心の内訳だ。


 その四割が今は先頭に来ていて、頭を悩ませる。


「二回連続幼馴染のことに関すること、ってのがやっぱり引っかかってんかなぁ」


 予知ノートの予言の二つともが、幼馴染に関すること。さらにどちらも「ラブコメかよ!」とツッコんでしまいたくなるほどにラブコメ展開の予言がされている。

 

 やはりそうだ。俺はここに何か違和感を持っている。

 

 普通SFとかだったら町を揺るがしかねない事件とか、地球滅亡しちゃうよみたいな、こうもっと規模の大きいものが予言されるはず。

 そうすると俺にそれを食い止める使命を与えられているのかと思って納得がいってしまう。いや、どちらにせよ非現実的なのだが、そっちは映画などで見慣れている。


 しかしこの予知ノートはどうだろうか。


 なんか俺に、使命とか課してる? 予言することで、何か変えようとしてる?

 

「……なんもねぇじゃねぇかッ!」


 そこが一番の悩みポイント。

 

 もはや予知ノートがなんなのかはおいておいて、予知ノートがなんの目的で俺のところに現れているのかがわからない。

 

 まぁしいて言うならば——



 俺と七奈をくっつけようとしてる?



「……そんな予知ノート聞いた事ねぇぞ……」


 ラブコメの神様でも存在しようもんなら、予知ノート置いて「あとは任せた」とかなんか嫌なんですけど! すごい適当感あるんですけど!

 

 でも二回連続ラブコメ展開を予言してきたあたり、確かにラブコメの神様が存在するというのもあながち間違いじゃない……のか?

 なんだろう。ラブコメの神様が仕事をしたくないめんどくさがり屋な人なのか、もしくはこれで俺の反応を楽しんでるゲス野郎にしか思えなくなってきた……。


 考えれば考えるほどおかしな方向に思考がいってしまう。

 やっぱり考えてもわからんもんはわからないんだよなあ……。


「あぁーダメだこりゃ」


 今回の思考でもまた、予知ノートに対する結論は浮かんでこなかった。


「お兄ちゃん今お風呂入ってる?」


 そんなときに三咲の声。

 風呂場のドアに、三咲のシルエットが映った。


「入ってるぞー」


「あと何分ぐらい?」


「うーん……二十分くらい?」


「いや長っ! そんなんじゃ脱水症になっちゃうよ!」


「おっ珍しく俺に気を使ってくれてるのか?」


「ま、まぁね! そんなお兄ちゃんにここでプレゼント!」


 三咲がそういった瞬間、ドアがガラッと開き、涼しい風が吹き込んできた。

 

「お水をサービス!」


「……えっお前気遣いできたのかよ……」


「その反応はないでしょ! でももちろんお金取ります~」


「やっぱりお前だなおい! ってかそれ水道水入れただけとかないよな?」


「水道水に私の愛を込めました」


「ただの水道水じゃねぇーか!」


 料理を作るときに愛を込めて作って言うけど、水道水に愛を込める奴は初めて見た。

 というか愛はプライスレスだろうが!


「セクハラお兄ちゃんが数万払ってくれたら、可愛い妹の背中洗いオプションもついてくるよ?」


「お前現金な奴だなぁ……お兄ちゃんさすがにドン引き」


「お兄ちゃんは将来私の財布となる宿命……」


「んな宿命今すぐ破棄するわ!」


「うわぁぁぁ! ロリコンのお兄ちゃんが私の親切心を踏みにじった挙句セクハラまでしてきたよぉぉぉぉ! 今すぐ児童相談所にテレフォンを~!」


「冤罪過ぎるだろうが!」


 三咲は風呂のドアを開けっぱなしにしたまま逃げ出してしまった。

 

 ほんと、最近は妹が叫ぶオチ多すぎない?


 そう思いながら、少し寒いなと思う俺だった。

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