第2章 世界を変えるマイオナ大会
第11話 世界を変える! そんなゲームがあるらしい
シェアハウスの1階は共有スペースになっている。
共有リビングでは、今日も住人が集まって同じアニメを共有して見ている。
かつては人数分のアカウントごとの契約を行うのが主流だった動画コンテンツ配信。
最近ではAR空間内のディスプレイオブジェクトと契約を結びつけることで、月額使用料を抑えるのが庶民層の多くに広まっている。
そのため、2010年代とか2020年代には個人用端末で各々が見るようになったため消えていった、いわゆるチャンネル権争いという文化が各地に蘇っていた。
「ぎゃははははっ!! ぎゃははははっ!!」
ソファを陣取り、今月分のスナックを大切に貪りながら、ギャグアニメに声を上げている
年齢の幼さと生来の気質によるワガママさで、多くの場面でのチャンネル権争いの覇者は彼女だった。彼女に勝てるのは、
非生産系コミュニティーのシェアハウス内での1日は、姫華が選ぶ動画コンテンツを一緒に見たり、気分によって各々の興味の向く行動を行って消費されていく。
つまり自堕落である。
あの世界を揺るがす事件の解決以降、5人はやることもなく自堕落な日々を過ごしていた。
そもそもそのような生産行為に対して自堕落だからこそ、非生産系なのだ。
ここに住んでいる住人の多くは、働かなくて良い状況に置かれたら、迷いなく浮いた時間を自分の趣味に使うことを選ぶような、生粋の怠惰な人間たちであった。
だが、そんな生活を続けることが、AI生産主義とかいう、『生産』と名の付くシステムを掲げるこの国の中で許されるはずがなかった。
いや正確には、ただ生きるだけなら許されはするのだが、堕落した生活の中でなお生活水準を求めようとする非生産系の人間にとっては、耐え難い状況に追い込まれていくのだ。
「なあ、
姫華が、
当然のように、自分で動く気は無いらしい。
「もう無いぞ」
「は?」
「いや、だからもう今月分は食い切ったぞ、お前」
「由々しきじたいじゃん! まだ今月は10日いじょうのこってんのに!」
「つっても、食べ尽くしたのはお前だからな」
「そんな正論いわれても、おなかはへるから。後10日も、お菓子のまずくわずなんて死んじゃう。口座の残金は…………やっぱ0かあ」
姫華は仮想ディスプレイに表示される0の文字を睨みつけているようだ。
だが、そんなことをしても突然残高が増えるようなことは無い。
「ていうかだな、ここ最近稼げてないせいで、来月の配信サイトの契約料払える見込みが無いぞ。そのディスプレイオブジェクトも10日後には、ただの飾りになるはずだ」
AR空間内の座標と紐付いたそのディスプレイオブジェクトは、優正がこの家を購入する際に安かったからという理由でオプションに付けたものだ。
残念ながら来月には、風変わりなタペストリーと化してしまいそうだが。
「まじかー稼がなきゃかあ」
心底嫌そうな顔をする姫華。
「なあ、みんな。なんか、いい金稼ぎになりそうな情報なーい?」
姫華の声は、優正以外の3人にも含めてかけられたものだったが、誰も返す者はいなかった。
部屋は、しんとしている。
当然、そのような美味しい話は、そこら中に転がってはいないのだ。
と思っていたのだが、その時は偶然にもタイミングが良かったのだ。
アイディアが無いから黙っていたと思っていた中の1人。
てまりが言葉を返さなかったのは、その瞬間手元で映し出しているネットニュースに心を奪われていたからだった。
一通りの自分の中で湧き上がる興奮が駆け巡り終わったようで、次はそれを外に吐き出すタイミングになった。
「WCP――ワールド・チェンジ・プロジェクトをやりましょうっ!!」
高らかと宣言する。
ワールド・チェンジ・プロジェクト……世界を・変える・計画……?
「すまん。何だ、それは?」
「相模さん、知らないんですか? ゲームですよ。
「そ、そうなのか……」
あいにく、ゲームにそこまで興味のない優正は知らなかったが人気らしい。
だが金儲けの話なのにゲーム? 動画配信でもするつもりなのだろうか?
旧時代で思考が止まっている優正は、その時そのようなことを考えていた。
2040年現在のゲーム市場の金の巡りがどうなっているかなんてことを、全く知る由もなく。
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