第10話 聖女様の料理 1

「ただいま」


「あっ…お邪魔します」


「どうぞどうぞ」


 僕は、ちょっとだけ東雲さんより先に靴を脱ぐと、案内しようと東雲さんに手を回して方向誘導する。


 すごい、緊張する……。女子なんて初めて呼んだかも! ……いや、楓さんが入ってきたけど、別に興味も何もないから、初めてと言うことにしておこう!


 そんなことを考えながら、僕と東雲さんはリビングに入る。そして、思い出す。


 あっ……片付けるのを……忘れてた。やば……。


「やっぱり……」


「やっぱり……? 東雲さん、どういうこと?」


「いや、もしかしたら掃除出来ないんじゃないかなー……っと。だって、料理と一緒に、お母さんに最近掃除を教えてもらっているんです。だから、それからもわかると思うんですけど、最近まで掃除もできなくて」


「すごいな、このシンクロ」


「本当にですよね。なにか、運命みたいな」


「運命?」


「あ、いや、そう言うわけではないですよ!?」


「あっ、うん。わ、分かってるよ?」


「じゃあ、さっそくパスタを作りましょうか」


「それでなんだけど、どんなパスタなの?」

 

「それは、ミートソースパスタです! やっぱりパスタといったらそれかなって」


「やっぱりすごいね、このシンクロ。僕もパスタのなかで一番好きなのがミートソースパスタなんだ」


「それは、よかったです!」

 

 そして、最近はずっとあんまり使っていない料理器具を取り出すと、東雲さんは片方の手を自分の腰にかけて、もう片方の手を上にあげて、こういった。


「では、3分間……ではなくて、20分間クッキングー!」


「おー……?」


 かわいいがかわいいしてる(?) なんか、よくわからないけど可愛い……ってか、尊いレベル……だよ。


 あっ、なんか鼻血出てきそう……。


 そう思って、鼻をおさえる。別に鼻血は出ていなかった。良かった、こんなところを東雲さんに見せる訳にはいかないからなぁ。


「どうしたんですか? 律くん。急に鼻をおさえ出して。」


「あ、いや……なんでもないよ。大丈夫」


「そ、そうですか?」


「うん」


「なら、良かったです」


 そういって、僕に向けて笑顔を返してくれた。やばい、これはまじでやばい。


 ちょっと危ない。理性が持つかどうか……。


「では、20分間クッキングー!」


「おー! それで、まずは料理の材料ですが、どんなものがあるんですか?」


 東雲さんのノリに乗って、敬語にして質問を返してみた。


「えーっとですね! スパゲッティ、ミートソース、玉ねぎ、塩、ニンニク、オリーブオイル、こしょう、トマト、合挽き肉……。」


「……………?」


 食材の材料をいっている途中に、なぜか言うのをやめて、スマートフォンを開き始めた。それにしても、スマートフォンのカバー可愛い……!


 でも、どうしたんだろう?


 ピロリンッ


 東雲さんのスマートフォンから、lineという会話できるアプリで、誰かからなにか言われたときに来る効果音が、流れた。


「あと、薄力粉、コンソメですっ!」


 あー……忘れてたんだ。でも、こんな風にごまかそうとする姿……可愛いっ!


「それで、作り方はどんな感じで作るんでしょう?」


「玉ねぎ、ニンジン、ニンニクをみじん切りにしますっ!」


「おぉー、じゃあどうぞ。」


 トン……トン……トン……トン……トン……


 少しぎこちない感じではあるけど、きちんと細かく均等にきることができている。本当に、最近練習し始めたのかって思うほど。


「……ふぅ。できました!」


「すごっ……すごい平等で本当に細かく切れていますね!」


「そうですか? ありがとうございます!」


「それで、このあとはどうするんですか?」


「はい。えーっと……フライパンにオリーブオイルをいれて、ニンニクを弱火で炒める……です」


 最初に比べて自信はなさそうだ。でも、まだ料理を習っただと考えてみると、これだけできるのは、本当にすごいと思う。


 そして、僕のアパートに使わないのに、なぜかあったフライパンにオリーブオイルとニンニクをいれて、弱火で炒めていく。


 ……いや、本当に初めて?


 僕は、驚いていた。そして、尊敬した。僕は静かに一生懸命に頑張っている東雲さんを、見つめていた。


 こんな、幸せな時間がずっと続けばいいななんていう、あり得ないことを考えながら。

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