第9話 聖女様とショッピング

「えーっと……今、なんて言った?」


「だから、私のために話し相手になってくれた恩返しです。今日の晩ごはん、作りますよ……って」


 東雲さんは、何を言っているのかな? 本当に。僕のために晩ごはんを作ってくれるとかなんとか……。えっ!?


「えっ……いや、別に大丈夫だから……!」


「うー……さっき律くんは言いましたよね。自分の恩返しが断られたら悲しいって……。私も、同じなんですよ?」


「うぅ……、わ、分かったよ。ありがとう、東雲さん。それで……晩ごはんどうするの? 僕の家にはカップラーメンくらいしかないけど……」


「なら、買いに行きましょう!」


「おぉ……うん……」


 あぁ……。なんで僕は、さっきああ言っちゃったんだろう?まぁ、嬉しいのはすごい嬉しいんだけど。晩ごはんを作るってことは……


 僕のアパートに入るってことだよね? やばい……! 誰も来ないと思って……片づけてない!


 幸いなことにエッチな本とかやばそうなやつは置いてはいないにしろ……恥ずかしい!


 少し東雲さんには悪いけど、家に入る前にちょっと待ってもらうことにするか。


「じゃあ、近くのスーパーに行きましょうか。」


「……あっ、うん。行こっか」


 そして、てくてくと歩いてスーパーに向かった。下校しているときも思ったけど、女性って少し歩幅が短いんだなって実感させられた。


 とりあえず、急ぐ必要もないし、この時間を長く続けたいので、東雲さんの歩幅に合わせることにした。


「それにしても……本当にいいの? ご家族とかは」


「大丈夫ですっ! 家族には電話すればいいので。あとで電話しておきます。それに……律くんと一緒にいると言っておけば大丈夫でしょうから」


「そうなんだー」


 僕と一緒にいると言えば、お母さんとかお父さんとかは遅くまで帰らなくても認めて……認めて……みと……めて……?


「もしかして……僕のことを東雲さんの家族に言っていたり……する?」


「はい、もちろん!」


「どんな感じで僕を説明した? もしかして……東雲さんを誑かそうとして来る悪いやつ? ヤンキーから殴られる弱いやつ?」


「いや、そんなことは言っていませんよ。だいたい、誑かそうとしてないですし、弱いやつでもないじゃないですか。お父さんとお母さんに言っているのは……むしろ……!」


 こんなふうに言ってくれるなんて……。なんて優しいんだ、東雲さんは。……って、むしろ?


「むしろ……? むしろって……もっと悪いふうに言っているの?」


「いやいや、違います違います……! むしろっていうのは良いふうに言っているってことで……気になっているとか……あっ、いや、なんでもないです……!!」


「う……うん……。ありがと……」


 なんでこんなに慌てているんだろう? でも、こうやって顔を赤くしながら……でも、それを隠そうと顔を隠して慌てている東雲さん。 


 すごい……尊い……! 小動物みたいな可愛さだよ。チョコチョコ動き回っているところとか……なおさら!


「えっと、ここだっけ?」


「はい、そうです」


「もしかして、ご飯の食材ってここで毎日買っているの?」


「はい、お母さんがそうですけど……なにかありました?」


「いや、なんでもない」


 へぇー、僕がカップラーメンをよく買いに行くところなんだけど……。もしかして、東雲さんのお母さんと会っていたりするのかな? まぁ、そんな偶然は無いだろうな。


 そんなことを考えながら、僕と東雲さんはスーパーの中へ入った。


「それで、何を作るつもりなの?」


「えーっと……パスタでも作ってみようかと」


「パスタか。僕、好きだよ。よく僕の好きな食べ物を知って……って、あぁ、東雲さんも?」


「はいっ!蕎麦もいいかな?と思ったんですけど、一緒にお店に行くって律くんと約束したので」


「へぇー!」


 すごい……!


 ここまで似てくるとちょっと怖くなってくるんだけど……。もしかしたら、東雲さんのドッキリ……でも、東雲さんのすれしそうな顔を見たらそれはなさそうだし。


「それに……」


「それに……って、パスタにする理由がまだあるの?」


「はい、私……パスタしかお母さんに教えてもらってませんから。パスタって、茹でればほぼ完成みたいなところがあるから。……まぁ、本当はまだ手順はあるけど。」


「あ……うん……そう……。でも、さっき、お母さんに教えてもらったから普通に作れるって言ってなかった?」


「あ、それは……パスタのみのことで。……でも、おにぎりは教えてもらわなくても作れますよ! あと……カップラーメンも!」


 おにぎりとカップラーメンは……僕でも作れるけど……。でも、なんかこういうふうに必死に弁解しようとしている姿、なんかいい……!


「ふふっ!」


「もう……笑わないでください」


「ごめ……ふふふっ!」


「もう……!」


「ごめん……ふふっ」


「ちょっと笑いすぎですよ……は、恥ずかしいじゃないですか……っ!」


「いや……本当にごめん……ふふっ……そのパスタ以外にも作れるものあるよって弁解している姿が……可愛くて……ふふっ!」


「か……かわ……!? その、私って、可愛い……ですか?」


「うん!」


「可愛い……か。……って、は、はやくパスタを……パスタをつくる具材を集めましょ!」


「あ、うん……わかっ……た……?」


 あれ、僕は今……東雲さんに向かってなんて言った……?


 もしかしてだけど……東雲さんに直接可愛いって……言ってしまった?


「あ……いや……あの……。なんでもないからね!?」


「あ……はい……わ、分かってますよ……!」


 そして、ぎこちない感じでスーパーのなかを歩き回って食材を集めていった。


 これは、僕と東雲さんには知らないことなんだけど、周りの人は僕たちの姿を見て初々しいカップルさんだと思って……温かい目で少し微笑みながら見られていたらしい。


 ただ1つ安心だったことといえば、この噂を僕と東雲さんが……知らなかったことなのだろう。





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