第8話 聖女様と2度目の下校

 大丈夫かな……。なんかすごい緊張してきたんだけど。


 僕は今、校門の前で東雲さんを待っていた。もちろん、帰りに一緒に帰ろうと誘うためだ。


 ……今、こうやってみると、恋人同士で待ち合わせしているみたいな感じみたいじゃない?


 ……って僕は何を考えているんだ!? はぁ、すごい緊張する。本当に……僕のささやかな恩返しを……一緒に帰るという恩返しを……。


 ちゃんと貰ってくれるんだろうか?


 そんなことを考えていると、付近の人がザワザワとざわつき始めていた。そして、僕の視界の隅に、東雲さんの姿が映った。


 来た……な……。


 よしっ、覚悟はできた。


「ねぇ、東雲さん?」


「あっ、律くん。どうかしましたか? 誰かを待っているんですか?」


「あのー……待っているのは待っているんだけど……その、待っている人は東雲さんなんだ」


「えっ……私、ですか? なんでしょう?」


 少し不思議そうな顔はしていたが、嫌な素振りを見せることもなく、……いや、どちらかというと嬉しそうな顔で話を聞いてくれた。


 本当に良かった。そして、僕はちゃんと言った。


「あのー……、一緒に帰ってもいいかな?」


「えっ……? ほ、本当ですか! あっ、はい、もちろんです!」


「やっぱり……だめだよね………って、ん? 今いいって……言った?」


 本当に? 僕の聞き間違いなんかじゃ……ないよね?


 よ、良かったぁ……っ! 本当に。断られたら、本当に嫌だったんだよな。なぜかはよく分かっていないけど。女子に断られるのがなんとなく嫌だったからとか? それとも……


 聖女様に……東雲さんに断られるのが嫌……だったから?


「はい、言いましたよ?」


「あ、ありがとう!」


「えっと……どういたしまして? では、さっそく帰りましょ!」


「うん!」


 そして、嬉しさとか恥ずかしさとか、そんな気持ちを紛らわすために、僕は歩き出した。


 その後、数秒が経ったときに東雲さんが僕に向かって、気になったらしいことを聞いてきた。


「それにしてもなんですけど……なんで私を、一緒に帰ろうって誘ってくれたんですか?」


「それは……僕の東雲さんへの……恩返しかな?」


「恩返し……ですか?」


「うん。お弁当を作ってくれたから」


「お弁当……それは、あの……私を律くんが助けてくれたからで……」


「でも……それでも、嬉しかったんだよ。恩返しとはいえ、お弁当を作ってくれて。それに、僕になにかしてくれたら返したいってなぜか思えちゃって」


「そう、でしょうか……?」


「うん、例えば東雲さんは、僕を助けてくれたとするよ」


「はい。」


「それで、僕はその恩返しにお弁当を作ってきたとする」


「はい……」


「そしたら、東雲さんは……どうしたい?」


「そしたら……私は、その恩返ししたいです。恩返しでしてくれたこととはいえ、私のためになにかしてくれたんですから」


「そうだよね」


「……そういうことなんですね。納得できました。でも、一緒に帰ることが……恩返し?」


「あっ……嫌だったかな?一緒に帰ったときに言っていたじゃん、一人でいつも帰っているって。だから、話し相手になってあげようかなって」


「ふふっ、ありがとうございます。私にとって一番嬉しい恩返しですっ」


「……よ、よかった……。嫌だと言われたらどうしようか考えてしまったよ」


「……そうですね。どうしてか今考えてしまったんですけど、私達ってどこか似ているんでしょうか?」


「似て……る?」


 似てる……か。もしそうだったら嬉しいな。でも、そういえば…玉子焼きの味の好みも似ていたし……。


「でも、玉子焼きの好みの他に、似ているところってある……?」


「たくさんありましたよ。さっきの会話もなんですが、すごい私と考えが似ているんだなって」


 そして、いろいろと確認してみたんだけど、好きな食べ物とか趣味とかちょっとしたところがよく似ていた。


 すご……。まぁ、よく行く店とかまでは一緒の所ではなかったけどね。でも、分類では一緒だったので、今度、それぞれのおすすめの店に行こうとなった。


 デート……だよね? これって…異性と二人で出掛けるって……デート?


 やったーーーー!!! 本当に!? いいの!? ちょっとお父さん頑張っちゃお!


 ゴホンゴホンッ。東雲さんがまだ横にいるんだ、やめておこう。それに、なんだよお父さんって。


「似てる……か……」


 東雲さんが小さくそう呟いていた。嬉しそうなので、嫌がってはなさそうだ。


「律くんって一人暮らしですよね。似てるってことは……じゃあ、もしかして料理してません?」


「なんで分かったの……? ってもしかして、東雲さんも料理ができないの?」


「まぁ、そうですね。最近お母さんから習い始めて、ようやくなんとなくは作れるようになってきました。でも、それは教えてくれる人がいるからで……今、一人で暮らしているってことは教えてくれる人がいないってことで……ちょっと前の私と同じなんじゃないかなーって」


「そのとおりだよ」


「じゃあ、今日は私が料理を作ってあげましょう。話し相手になってくれた……恩返しですっ!」


「うん……よろしく……えっ……はい?」


 なんで、こうなったんだろう?


 これが……僕の『恩返しから始まる聖女様と僕のラブコメ学校生活』の幕開け……つまり、始まりであった。

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