第5話 聖女様との下校 2
僕は、今、聖女様となぜか途中まで一緒に帰るということになった。
なんでやねん。
関西の人どころか関西に一度も行った頃すらないのにそんな言葉が出てしまうくらい、全く持って意味がわからない。
「……はぁ」
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないです……」
なに、これ?
すごい嫉妬の目線がこっちに向かって来ている。教室のときは1クラス分の嫉妬の目線だったのでなんとか我慢できたが……
いまは全クラスが下校中。つまり、今帰っているほとんどの人が僕を睨んでいるというわけだ。
はぁ……。
それにしても、前の僕を見ていると、聖女様と一緒に帰るなんて信じられないことだよな。こんなに平凡な人間が。
本当に、この世の中はなにがあったり起こったりするのか、分からないものなんだな。もしかしたら、世界は神様のいたずらでできているのかな?
そういえば、帰るとこをたまに見ることがあるんだけど、だれかと一緒に帰っているのを見たのは初めてかも……?
聞いてみるか。
「そういえば、聖女様はいつも誰と帰っているんですか?」
「一人です、誰とも帰っていません。だって、昨日の件があったのは、一人でいたからでしょう?」
「あー……なるほど」
へぇー、ひとりなんだ。友達くらいいくらでもかんたんに作れそうなんだから、作ればいいのにね。
……なんかこう言うと人を悪く言っているみたいで罪悪感がある。ごめんなさい聖女様。
「あ、あの!」
「はい、なんですか?」
「その敬語をやめてほしい、です……。なにか他人行儀な感じがして……少し寂しいです」
「……でも、聖女様は敬語じゃないですか?」
「私のは……口癖みたいなものなので。……でも、早川さんは変えてくださいっ」
「はい……じゃなくて、う、うん……」
なんか無理矢理感がすごい。けれど、このkawaii聖女様がちょっとぶりっ子みたいに可愛く言っているので、断れない。
ずるいなぁ……。
「あと……」
「まだなにかあるんで……じゃなくてあるの?」
「はい。もう一つは、その聖女様という呼び方を変えてほしいんです。」
「……あ、うん」
だから、その外見はズルすぎるよ! なんか本当にやばいお願いであっても了承しちゃうかも……。
「えーっとそれで、どういうふうに呼べばいいの?君? 聖女さん? あなた? それとも……」
「名前ですっ!」
「……え、ぇぇ……」
「だめ……ですか?」
「もちろんいいです」
上目遣いで頼まれたら、そりゃあもう僕は一撃である。
なんかいいように僕は扱われている気がするけど、それでもこの聖女様に扱われるというのなら、別にそれでもいい気がする。
「えーっと……しの……東雲さんで……いいかな?」
「はいっ! ありがとうございます。……そうだっ、私は早川さんのことを律くんって呼んでもいいですか?」
「もちろんです」
律くん……。なんかいい響き。蓮とか楓さんに言われたときには何も感じなかったのに。
でも、聖女さ……じゃなくて、東雲さんからその言葉が出てくると、とっても特別のように感じてしまう。
「や、やったぁ……!」
「……」
なんだか嬉しそうな顔をしていた。僕なんかでも喜ばせることができるんだなって思うと少しだけ嬉しい気持ちになった。
「……なんか、周りの目線がちょっと怖くて嫌だったけど……でも、こんな時間も悪くはないかもな」
僕は、小さくつぶやいた。
「……えーっと、なにか言いましたか?」
「いや、なんでもない。」
「そ、そうですか……?」
「うんっ」
その後も、幼馴染との昔のエピソードだったり、幼馴染の恋人についてのエピソードだったりと、いろんなことを話して過ごしていた。
あと、嬉しかったのが、弁当のときに僕がすごい好みで美味しかった玉子焼き、あれは東雲さんの好みでもあったらしい。
つまり、好みが一緒。
偶然だけど、こういうさりげないことでも共通点があるってうれしいでしょ?
「……じゃあ」
「はい、また明日です!」
「さよならー」
「さよなら!」
そして、分かれ道になると、僕たちはさよならの挨拶をして、分かれることになったのだった。
そこからアパートに向かうまでの時間に、少し浮かれすぎて目の前にある電柱にぶつかったり、なにもないところで躓きかけたりと、色んなことがあったのだけど……。
恥ずかしいから言わないことにしておく。多分、誰にも見られていないだろうし。
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