第3話 僕と幼馴染とその恋人

 現在はなんとかこの戦場を突破し、一時の休み……つまり、昼休みに入っていた。


 ふぅ……、それにしても、聖女様はすごい人気だよなぁ。


 この昼休みが始まる前の4時間は、すごい嫉妬の目線が痛かった。まぁ、今もすごい目線がこっちに向けられているのは分かるけど。


「なぁ、律。一緒に昼ごはんを食べないか?」


「そうしよう、そうしよう。律くんはお弁当あるでしょ。私もちょうど蓮に作ろうかなって作ってきたし」


「お……うん」


 僕に許可を取ると、自分のイスをこっちに持ってきて、僕の机に傾ける。その後、3人の「いただきまーす」という言葉と同時に、それぞれの前にある弁当を開け始める。


 聖女様が作ったってことなんだよな。どんな感じなのかな?


 開けてみると、すごかった。語彙力がなくなるくらいにすごかった。


 本当はもっとすごさを伝えたかったんだけど、僕はあいにくそんな語彙力なんて持ち合わせていないのでどういえばいいのか分からない。でも……


 すごかった。


 単なるタコさんウインナーでも、聖女様が作ったというだけでとても可愛くて輝いて見える。それに、


 玉子焼きを食べてみると、ちょっと甘めな、まさに僕の理想、好みの味で、すごい美味しかった。


 もしかして、僕の事を調べてくれたんだろうか? 


 ふふっ……ぐふふふふ……ゴホンゴホンッ。


 やばい、犯罪者になりそうだった。というか、犯罪者の笑い方をしていた。


 そんなことを考えていると、僕の幸せな雰囲気をかき消すように幼馴染の声が聞こえてきた。


「それで……どういうことなのか説明してもらおうか」


「聖女様となにがあったの? 昨日のお礼って。お弁当をもらうほどの何かをしたの?」


「それは……」


 少しからかうように、なにかイジワルそうに笑いながら質問してきた。


 どうしようか。……でも、とりあえず聖女様がホームルーム前のときに、昨日にあったことを誤魔化そうとしたってことは……


 それを言いたくなかった


 ……ってことなんだよね、多分。それなら、隠したほうがいい気がするし、よしっ、そうするか。


「えーっと……ハンカチを拾ったんだよ。僕が歩いているときに、ちょうど前の人がハンカチを落としていて、そしたらその人が聖女様だったっていう」


 ふふっ。なんてすごいんだ。これなら絶対にバレることはないだろうな。ちょっと僕、もしかしたら作家になれちゃ……


「嘘だな」


「うん、嘘だね」


「…………なんでっ!?」


 なんでばれるんだ? バレる要素なんてどこにもないはずだろうが……!


「イヤイヤ、それって小説でよくある場面じゃん。多分、律くんはそれをパクったんでしょ。」


「あぁ、あと……」


「他にも……」


「それと……」


「………」


 やめてくれーーーっ!! どんだけ僕は自意識過剰なんだ……って思われてしまうから!!


 ……ふぅ。はいはい、分かりましたよ、分かりましたー。僕はどうせ平凡な人間なんですよ。そうなんですよ!


 それにしても、なんでこんなにもバレる要素があるんだよ。どんだけ僕は無知なんだよー!


 こ、こうなったら……!


「本当は昨日にね、近くの公園に行ったんだけどそこにひとりの女の子が俯いてベンチで座っていたんだ。気になってみてみると、その子はお腹で空いているようで、僕はちょうど持っていたコンビニのサンドウィッチをあげたら、その人が聖女様だっていう」


 ふふふ……! これは流石にバレることはないだろう! だって、ベンチで座ったのは事実なのだから。それに、弁当だったらバレルかと思って、コンビニのサンドウィッチということにもしたし……。


 天才だっ! 僕! ちゃんと反省して次に繋げることができ……


「嘘だな。」


「うん、これは確実に嘘だね。」


「……だからなんでなんだよっ!?」


「これは誰でも嘘だったって、絶対にわかると思うよ、律くん」


「そうだよな、こんな話を作って、律は楽しいのか?」


「ここのところとか……」


「そうそう、あとこんなところとかも……」


「…………………………」


 なんでなんだよーーーーっ!! こんなに惨めなことなんてあるもんか! それなら、僕はどう言えば分かってもらえるんだよ!


 こうなったら、最終手段。世界最強の作戦!


 嘘っぽく本当のことを言うことで、この出来事を嘘だと思わせてやる!



「えーっとね、帰っている途中に襲われている人がいたんだ。それで、その人を助けることにしたんだ。そして、助けたあとに大丈夫か確認してみると、それが聖女様だったんだっていう。」


 すげー! 僕は、もしかしたら天才子役として売れるんじゃないの? ちょっと僕、オーディション受けてこようかな……?


 まぁ、これも小説でよくありそうな場面なんだし、僕がヤンキーから助けるなんてないと思ってそうだし、バレるわけな………


「へぇー、そうなんだ」


「律って、すごいな。襲われているところから助けるって結構苦労しそうなのに……」


「……なんでこんなことになるんだよっ!?」


 いやいやいや、なんで信じてしまうんだよっ! おかしいだろ! これは、もしかして、この人たち、僕らの様子を見ていたとか……?


 ……今さらながら気付いたことがあります


 ……僕って、毎回話をする度に自分からフラグをたてていましたね。今、気付きました。ははっ、ははははっ……。


「違うよ。律くんがヤンキーから救ってくれたとこなんて見てないよ」


「…………なんで心が読めるんだよっ!?」


 超能力なのか!? そうなのか!?


「別に超能力でもなんでもないよ。だってね、聖女様から直接聞いたから」


「……今の時間は何をしたかったんだよっ!?」


 なんで知っているのに僕に聞いてきたんだよ。知っているのなら聞かないでいいじゃないか!


 あと、聖女様は言ったのかい! 言ってよかったのかい!


 ……それに、さり気なくまた心を読むんじゃないっ!

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