第2話 聖女様の恩返し

「おはよう!」


「おぉ、おはよー」


「おはよ!」


 翌日のこと。僕は、なんだかボーっとした気持ちで挨拶しながら教室へと入る。


 はぁ……。聖女様の笑顔って、なんであんなに心に残るんだろうか。初めて会って話をしただけなのに……。


 なんてそんなことをボーっと考えながら椅子に座ると、僕の机の前に2人の男女がやってきた。


「……おはよ、んーっと、どうかしたのか?」


「おはよー、そうそう、なんかいつもと比べてボーってしているよね。」


「おはよう。そう、かな? 別になにもないと思うんだけど?」


 二人のうち1人は、僕の幼馴染の桐谷 蓮(きりたに れん)である。小学校のころからよく話している親友だ。


 でも……僕と明らかに違うところは、蓮はイケメンなんだよな、少し憎いぜ……。まぁ、悪いやつじゃないっていうのは分かっているんだけどね。


 で、もう一人は、この蓮の恋人である、桜井 楓(さくらい かえで)さんだ。この人も蓮と一緒によく遊んでくれるいい人。


「……いや、絶対になんかあっただろ?」


「うんうん。これでなにもないと言われても信じられないよ?」


 と言われる僕。いつも通りに過ごしているつもりだけど、なんだか今日はすごい言われようだな。それほど、おかしいんだろうか。


「別になんでもないって。昨日に……えーっと、特売で野菜が買えなかったのが嫌だっただけ。」


 なんでこの言われようなのか、なんとなく察しはついている。おそらく昨日のことだろう。だが、聖女様のことを許しなく話すのはいけない気がする。


 そう考えた僕は、咄嗟に言い訳を言い繕う。


 ふぅ……。この言い訳は完璧だな。この二人には、僕が一人暮らしをしていることを知っているし。バレることなんて……


「いやいや、律は料理できないだろ?」


「うんうん、それにいつもコンビニでカップラーメンとか買ってきて食べているし」


「……昨日は、スーパーに行ったんだよ。でも、なんで僕が料理できないって事になっているんだ……?」


 くっ……。な、なんで分かったんだよ! 僕が料理出来ないだなんて。教えてないだろ!


「いや、分かるだろ。律のアパート行ったときに冷蔵庫をみたんだけど、水とカップラーメンでほとんどが埋まっていたぞ」


「それに、いつも弁当を持ってきてないじゃん。あと、律くんは学食だし」


「…………」


 なんで……、ん? ちょっと待て? なんで、蓮は僕のアパートに行ったときに冷蔵庫を見たんだ? 蓮はもしかして料理できるタイプか? 彼女もいてイケメンで料理できるタイプなのか!?


 な、なんて、憎いんだっ……!!


 そんな会話をしていると、扉ががらがらと音を鳴りながら開き、例の人が入ってきた。


「おはようございます!」


「あ、おはよう。聖女様!」


「聖女様……今日も笑顔が似合いますっ!」


「聖女様、私と付き合ってー!」


 そう、聖女様だ。


 聖女様がこの教室に入ってくると、いつものようにこんなことになる。誰もが何を話していたり喧嘩していたりしても、この一声で全てがなり止む。


 ……ん? なんか最後だけ変なやつがすごいおかしいことを言っていたような? それも、女子が。


 ガールズラブの始まりか? ガールズラブの始まりなのか!なのか!?!?


 そんなことを考えながら聖女様の歩く先を見ていて、ふと疑問に思った。


 ん? ……今、聖女様はどっちに向かっているんだ? なんで僕たちのいる方へ向かってきているんだ?


 聖女様の席は、僕たちがいるところとは逆のところのはずなんだけど?


「おはようございます、早川さん。」


「……あ、え、おは……よう……」


 え? なぜかはよく分からないのだけど、何事もなかったかのように平然と僕の机に向かってきて挨拶をした。……それも、僕の名指し。


 これは、やばい……。


「な、なんであの早川なんかに……! 地味なやつなんかに挨拶を……!?」


「聖女様……どういうことかしら……?」


「私の聖女様は……なんで? 私を差し置いて……あの早川……!!!」


 聖女様とはいえ、なんで1人の生徒がもうひとりの生徒に挨拶をしただけでこんな事になるんだろう……?


 さすが、聖女様だな。


 ……いやいや、だからちょっと待て。最後のなんだよ。私の……とか、なんとか。なんでいつもひとりおかしいやついるんだよ。


 ……それなら、なんでヤンキー3人組には普通にヤンキーだったんだよ! おかしいやつはいなかったぞ! ……まぁ、もとがおかしいんだけど!


 そんなことを考えていると、蓮と楓が、聖女様のことを疑問に思ったのか、質問していた。


「ねぇねぇ、聖女様。なんで早川くんに個人で挨拶をしたの?」


「えーっとですね、……昨日、色々とありまして」


「ほらあったんじゃない。いろいろって?」


「…………いろいろです」


 おーい……なんでいろいろってごまかしたんだよ……。おかげで周りの人はいろいろがなんなのか誤解している人が大半だぞー?


 周りからの嫉妬の目がすごい痛いよー?


「それで、えっと何かな?」


「あ、いえ、普通に仲良くなりたいと思って挨拶しただけです。……あっ、そういえば昨日のお礼にお弁当を作ってきたので、良かったらどうぞ」


「えっ……あっ…………」


「どうぞ?」


「……どうも」


 これは……なんかいろいろとまずくなっているような?


「……こうなったら、ちょっとうちの道場から刀持ってくるぜ……」


「……なら、私は警察で働いているお父さんから銃を貰ってくるわ……」


「……私は部長から弓道部で使っている弓を借りてきます……」


「「「「……許さねー……」」」」


 おー……仲良くなることはいいことだ。


 ……でも、よってたかって他の人を傷付けるのは……やめようね?


 いけないことだよ?


 いじめだよ?


 犯罪だよ?


 それにしても、なんでこんなに武器を身近に持ってる人がいるんだよ!?


「はぁ……」


 これはいよいよまずいことになってきた……。

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