Country Lord2

 歴史の中で人の死は簡単に片づけられるが、当代に生きる人間にとって誰彼かが死ぬというのは大変な事である。また、こういう表現をするのははばかられるが、名もない人が死ぬのであればその周りの人間が悲しみ、苦しむだけに終わるのだが、相応の人間の命がなくなったとあればそれは、あらゆる界隈に影響を及ぼす事となる。命に大小はないと信じたいが、生涯においての大小は存在すると認めざるを得ない。

 

 ムカームが死んだのはバーツバが独立を宣言し、CDEモーターズが絶縁状を叩きつけた数年後の事である。この年にはキシトアが第二期政権を発足した他、半球側にある国家を発見したりユピトリウスとガーデニティーが協議を結んだりと色々な動乱が起こっていた。ムカーム本人にしてみればまだまだこれからと思っていただろうし、再び混乱を形成しつつある異星の中で再度の躍進を目論んでいたかもしれないが、天寿には抗えなかったようだ。奴の非道には何度も激怒していたが、いなくなったらなったで、何やらもの悲しい気持ちとなるが不思議だった。これまで、奴のために死んでいった人間の事を想うと、そんな事口が裂けても言えないのだが。


 ムカームの死後、ツィカスとバーツバは実に迅速に政権の立て直しが行われていった。国主は民意に則して選出されるようになり、それまでは一旦ジッキが両国を預かる事となる。なお、ライトは失脚。その後はジッキとムカームへの告発本を執筆していたが発売前に麻薬中毒死している。捜査などろくにされなかったため真相は不明だが、まぁ、お察しであろう。

 選挙の結果、ツィカス、バーツバ共にジッキが大統領に選ばれその任に就くが、さすがに二国を束ねるのは問題があるとの判断で、ツィカスにはムカームの側近であったフィルが大統領に選ばれた。この決定はツィカス国民にとって大きな不満であったが、実際よく働き無難な決断を下していたため評価はよく、何ならツィカス最初にして最大の賢君とも一部では呼ばれている。はるか先ではその生涯がドラマ化される程人気を博しており、なんだかなぁという気持ちになったりもした。



 こうしてツィカスとバーツバもトゥトゥーラに倣い国民主権の政治体制を敷くようになったのだが、バーツバにおいてそれは仮初のものであり、民主主義とはかけ離れた国家運営が行われていたのであった。基本的には自由と平等が順守されるよう法整備などがされてる事になっていたのが、蓋を開けてみれば利権と資本家への優遇ばかりで、市民は酷い搾取を受けるような制度が幾つも条文に書かれていたのだ。しかしそれを知る人間は少ないばかりか、上辺だけ取り繕う大統領、つまりジッキの言葉に感涙し、我が国こそが民主国家と声高に叫ぶのである。これは市民の腹を膨らませつつ足先の肉を削ぐというような税収精度が完璧に機能していたのと、ジッキ自ら行ったプロパガンダ戦略の賜物である。真の悪とは一方の方向から見れば正義となるようで、ジッキの神聖化は近代まで続いたし、なんなら未来においても信奉する者は少なくない。地球におけるどこかの国の総書記とか主席とか呼ばれるような連中と同じような扱いとなっていた。

 一方ツィカスにおいては前述の通りフィルが上手く運び無難な政治をしていた。ジッキ相手に付かず離れず。媚もしないが邪険にもしない絶妙な関係性を築き共存していたのは流石といえよう。長い間副官として仕えた経験が生きたのかもしれない。


 こうしてみると両国は非常に順調に進んでいるように見えるが、長い歴史の中でやはり失速を経験する。最初に訪れたのが、ジッキが死に端を発する騒動である。

 ジッキが大統領になった際、彼は既に異星の平均寿命を超えていた。それでもなお溌溂としていたのは自らの身体的資質と潤沢な資金による健康活動。それとストレスの少なさからだろうが、生物である以上死ぬ時は死ぬ。ジッキはある日、就寝の最中心臓が止まり、そのまま冷たくなっていたのを発見される。

 彼の死においてバーツバは大変な騒ぎとなった。調べてみると出るわ出るわの不正の数々。そして報じられる悪徳なる行い。これまで止まっていたジッキ政権の不利な情報が、ダムが決壊したように市中に溢れ、バーツバの政治に大きなダメージを与えたのである。

 また、タイミングが悪い事に、この後すぐ異星の主要国家全てを巻き込んだ戦争、二次大戦が勃発。中間地点に位置するツィカスとバーツバは甚大な被害を受け、しばらくの低迷を余儀なくされたのであった。街は破戒されるし人は死ぬし景気は低迷するし金はなくなるしで、国として機能しているのか怪しいくらいにボロボロとなっていたのだが、生存していたフィルの手により復興の指揮がなされなんとか国家は存続。ジッキの隠し財産も見つかり、再び先進国として表舞台へと立ってく事となる。



 それから両国の大統領は人格、能力共に優れた人間が選ばれるようになる。過去の失敗が生きているのは市民の意識も高い事もさる事ながら、これまでに絶対的な指導者が存在していたからかもしれない。

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