主従廻戦2

 異星においてセワとシュンスィの密会が行われた事を知る者は少ない。


 共にコニコ、エシファンの国主。姿を消す事など容易ではなく、また、ムカームの指示により動向がチェックされており、何人なんぴとにも知られずに動くなどまず不可能である。ましてや二人同時になど考えられる暴走である。しかも密会までしたとなれば申し開きもできないムカームへの背信行為。事が知られればすぐさま処罰されエシファンとリビリの首が挿げ替えられるだろう。その際には二国の扱いが他の植民と等しく地に落ちる事は想像に難しくない。


 それほどまでの危険を冒して両者は何をするのか。それほどまでの危険を背負ってまでやるべき事とはいったい何のか。


 決まっている。謀反。反乱。革命の類である。




「こうして二人で会うのも何十年ぶりかな。もっとも、当時は互いに仕える身であったし、我が国に至っては呼び名も違っていたが」


「良い時代だった。とは申しませんが、今よりは遙かにマシだったでしょう。地位を奪われていたエシファンにおいては、今も昔も屈辱が尽きぬでしょうが」



 とある場所のとある部屋で両者は向き合っていた。実はこの二人旧知の仲であり、内心はともかくとして今も昔も深く繋がっている。リビリ侵略の最中さなか、エシファンがドーガの動きを察知していたのはこのためだ。



「そうとも。実に屈辱だ。考えるだけで腸が煮えくり返る。リビリの下郎共が滅びたと思ったら、今度が外海の野蛮人が大きな顔をしている。実に我慢ならんよ」


 セワは「ふむ」と相槌を打ち、大層無念であるといったように視線を落とした。実際にはかつて仰いでいた宗国の凋落など笑いが止まらない愉快なでき事だろうが、この場は堪えねばならない。


「しかしそれもここまで。我らが手を取り合えば如何にドーガといえども……」


「ウンセイ、言葉は慎重に選べ。私はできもしない事を可能だと申すような間抜けと手を組む気はない」


「……失礼いたしました」


「すべてにおいて力不足。これは変えようのない事実だ。どう足掻いたって我らではムカームの持つ部隊の半分にも及ばんよ。力と資源と意識を削がれては、どうあっても正攻法での勝ち目などない」


「仰る事は分かりますがしかし、それを言ってしまうと身も蓋も……我らがこうして大きな危機軒を冒してまで会っている意味が……」


「まぁ聞けウンセイ。私はあくまで正攻法の話をしている」


「と、申されますと、何か策が」


「無論ある。これまで水面下で動いてきたがムカームめ抜け目がない。何をしようとも奴の影がちらつきどうにもならず二の足を踏んでいたが、此度のドーガとの貿易により少しだけ綻びが生じた。機はまさしく今だろう」


「トゥトゥーラのキシトア。あれも中々に厄介な人間ですが、此度はよくぞやってくれたといったところでしょうか」


「あれもいずれ我らの前に跪かせる。が、まずはムカームのドーガが先だ。奴を打倒せん事にはどうにもならぬからな」


「まさしくその通りで。して、どのように料理するおつもりでしょうか」


「ウンセイ。貴様、フェースを訪れた事はあるか?」


「生憎と……」


「そうだろうな。あそこはドーガの経済的な生命線である奴隷の拠点であり、秘匿されている実験施設などもある禁断の島。そう易々とは入れまい」



 少し間を置き、シュンスィはセワの目を直視して、怪談でも語るように言葉を続けた。



「しかし私は、いや、エシファンは入っている。そして、フェース人奴隷を管理している」


「……なんと」

 

「昨今は外海の植民地支配に人手が取られているようでな。その穴埋めとして、エシファンの人間が駆り出されたのだ」


「なるほど、それで、ドーガの新兵器の情報でも入手いたしましたか」


「いや、我らが任されているのはあくまで奴隷の管理。研究所には近づく事もできない。が、一つ仕込んでおいたものがある」


「それは、いったい……」


「技術だよウンセイ。我らはフェース人に兵器の扱い方や人の殺し方。戦い方を教えた。これが意味する事が、何か分かるか?」


「兵隊、ですか」


「その通りだ。今やフェースの人間は子供であろうとも兵器を扱い人を殺せる。実践こそ経験しておらぬが、一度反乱が起こればドーガとて必ず手を焼く。造反が起きれば混乱は必至。戦力の何割かは分断できるだろう」


「なるほど。そこを叩くと」


「そうだ。が、しかしこれだけではまだ不足している。エシファンとコニコの軍事力ではドーガは落としきれん」


「では、いったい……」


「トゥトゥーラにやってもらうのだ。キシトアをそそのかしこちら側につけ、ドーガを落とす」


「そんな事が、果たして可能なのでございますか?」


「可能だ。今、トゥトーラとの外交にバンナイを出しているが、貴様は、奴を知っているか?」


「はい。大変な有望株だと伺っております」


「奴にキシトアを懐柔させる」


「しかし、もし失敗なされたら……」


「なに、心配いらん。その場合は奴がキシトアを殺し、自らも自刃し責任を取ってもらう事になっている。無論、形の上での誠意はトゥトゥーラに見せるが、それで済めば安いものだ」


「……信じて、よろしいのですね?」


「無論だ。私とお前の仲だろう」



 シュンスィがそう述べると、両名は互いに固い握手を交わし笑みを浮かべた。


 異星にまた、血が流れようとしていた。

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