鋼鉄船の襲来

弥助の耳目録

 海の果てより大きな船でやって来た異人連中は珍妙奇怪な言葉を喋るばかりで何をいっているのかちっとも聞き取れなかったがどうもドーガという場所からはるばる渡ってきたというのは理解できた。

 鉄砲や剣や槍を持った人間が大勢と、何やら陰気臭い人間が少し。まったく様子の異なる人間がぞろぞろと歩く光景は大規模なチンドン屋の行列のようで可笑しく、いつの間にか見物していた町人達も同じような事を思ったようで、ゲラゲラと大口を開けて笑ったり、クスクスと口元を覆って笑ったりしていた。


 異人達はあれやこれやと話して回っていたが、結局誰一人として何を言っているのか分からず困ったというような苦笑いを見せていた。それを見た子供が、腹が減っているのかと勘違いして一人の異人に握り飯を渡すと、異人はやっぱり困ったような顔をしてから、礼のような事を言って一口かじり、また困ったような顔をしてモムモムと握り飯を噛んだもんだから、これも可笑しかった。


 しばらくすると町役人がやって来たのだが事態は変わらず。あれやこれやと訳の分からぬ事を言い合って、結局異人達は船に戻っていった。俺達は異人の船を見物してやろうと酒を持って浜辺に集まり魚やら貝やらを焼きながら一杯二杯とひっかけていると、気が付いたら異人の連中も混ざっていて一緒に酒を飲んだり焼いたものを食べたりした。異人の酒や食べ物は美味かったが、何を言っているのかはやはり分からなかった。それでも存外気持ちのいいやつらで、飲んで騒いで、踊ったり歌ったりして過ごしていると朝日が上がって、肩を並べてご来光を拝むと昔からいる兄弟のような感じもしたが、あれやこれやと聞いても何を言っているのかは分からなかったものだからやはり兄弟ではなく、とはいえ杯を交わしたのから他人でもなしと意味もなく笑って酒を飲み、それから帰ってしばらく寝て過ごした。



 起きてみると外が騒がしく、何事かと平八に聞いてみたら、「浜に行ってみな」ときたものだから酒を買うついでに行ってみると、中央からやってきた偉そうな役人共が浜に集まり異人と何か話しているのが見えた。しかし昨日と同じでお互い何を言っているのかちっとも分かっていない様子で、こりゃあ駄目だなと腰を下ろした。

 その時俺は、異人の中にいる恐ろしい男を見た。派手な服を着たそいつは獣みたいな目で役人を睨み、腕を組みながらどう狩るか考えているような感じだった。間違いなく、あいつが異人の親玉だ。

 俺はそれを見て怖くなって、あんな連中を兄弟みたいだなんて思ってしまったのかと震えた。あれは同じ人間じゃない。俺達をどうする気かしらないが、関わったら絶対に酷い目に遭うに決まってる。あいつだけが特別だったとしても、あぁいう奴が生まれてしまうような場所で育った人間とは根本が合わない。俺は中央の連中がどうにかして奴らを追っ払ってくれるよう祈りながら浜から逃げて、酒を買って布団に籠って震えて、酒を飲んだ。今まで恐ろしい事はあったが今日ほど肝が凍り付いたようになったのは初めてだった。あぁ、寿命が縮んだ。恐ろしい、恐ろしい。

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