武器よこんにちは11

 戦後処理はつつがなく行われた。

 反乱軍の死体は焼かれて埋められ、それで解決となった。自身の懐が痛まずに終戦を迎えた七賢人は内乱の原因究明よりも早期の事態終息を優先したからである。

 この決断には複数の反対意見もなされていたが全て無視された。これは俺の介入する余地もなく、七賢人の怠惰ともいえる日和見主義により招かれた結果である。彼らにしてみれば地方の領土と与り知らなかった集落への損害などないに等しいものであったし、生来に対する禍根も残らないと信じて疑っていなかったのだった。


 陽動に紛れホルスト城を破壊する手筈となっていた工作部隊においては、道中に見回り兵に見つかり交戦。敗北し、そのまま自死を迎えた。発破による自爆は程度の被害を出したものの戦況を打破する一手には成り得ず、敗者の顛末の一つとして記録されるだけであった。


 こうして、反乱軍の戦闘員は全滅。剣を取った者は等しく一様に黄泉の門を潜ったのである。それは無論、バグも例外ではない。

 彼が最後に見たのは齢十三の少年が自らを殺さんと切っ先を震わせている姿であった。集落のため、そこに住まう人間のため戦う少年を見たバグは死に場所を決めたのだろう。もはや勝敗が決した戦いにおいて、未来を担う少年の手にかかる事を自ら選んだように思える。


 全てが決し、敗戦の報を聞いたカシオンはその身を谷底へと投げ絶命を果たす。サテライトに住んでいた人間は皆、それぞれ別の集落へと移動していったのだが、それが咎められる事はなかったのは前述した七賢人の意向からである。皮肉にも、ホルストの決定が彼らを真っ当な生活へと導いたのであったが、これは討伐の布令が出た際それに参加し名目上ホルスト側に立ったカシオンの目論見でもあった。第三サテライトの人間の移動に関しても黙認され、それぞれの地で公助共生の下に天寿を全うする。


 こうして大陸には再び平安が訪れたわけであったが、虎視眈々と覇権を狙う人物がいた。

 まず、トゥーラ改めリャンバのキシトアである。

 彼の思惑通り、戦場において上手く動いたリャンバ軍は被害をほとんど出さず公に認可されたのだった。さすがに国として独立することは許されなかったが、今まで隠れ住んでいた事を想えば大きな進歩であろう。日陰の集団として常に滅亡と隣り合わせであったキシトア達にようやく安定と権威簒奪の機会が巡ってきたのである。


 戦中、キシトアは友軍にリャンバで醸造した酒を振る舞っていたのだが、これが大いに好評である事に目を付け途中金をとるようになった。また、終戦後の販路も獲得し、リャンバの酒は大陸中に流通する事となる。

 そのうちに酒以外にも工芸品や加工品なども取り扱うようになり、その品質からリャンバ製品は絶対的な信頼を勝ち得ていった。そうして築いた信頼を利用し、リャンバは商業集団『マトゥーム』を組織し、市場を独占していく事となる。



 次に、フェースを支配したムカームも世界征服の野望に向けて動いていた。

 彼はチェーン暗殺後にドーガと公約を結ぶ。それは、フェース制圧に協力した見返りとして、一部のドーガ領土の支配権をホルストに渡すというものであった。

 ドーガ側は勿論これに反対したが、ムカームはチェーンの意向だと述べ署名まで用意していた。当然それは彼の策略であり全ては虚偽と偽造であったのだが、チェーンという絶対的な存在を失ったドーガは想像以上に脆く、ホルストの強大な力の前に抗う事ができなかったのである。


 こうしてムカームは何食わぬ顔をして大陸へと戻り事の顛末を報告。接収したドーガの土地に関して、自分が責任をもって取り仕切ると述べたのであった。


 これに関して七賢人はムカームの案を呑むしかなかった。小さいとはいえ一国から奪った領土の統治である。相応の戦力は当然必要なわけであるが、派閥の関係上、七賢人は誰しも抱えている戦力を放出したくはなかった。考えようによっては勢力拡大の機会でもあったが、下手に動けば他六人全員と敵対する事態となりかねず、保身を優先する彼らは誰もリスクを取る事ができなかったのである。


 ドーガから接収した地は農業地域と工業地域の二つに分断され、それぞれバーツバとツァカスと名付けられた。農業都市であるバーツバにはバーツィットから、ツァカスには奴隷となっていたホルストの人間が割り当てられ住まう運びとなった。また、その中間に大規模な基地が建築され、総統として着任したムカームが在留し、指揮を執る事となる。



 こうして歴史は過去となり、新たな時代が動き出した。

 もはや見慣れた異星の姿であったが、その中身はめまぐるしく変化していき、俺はその様子を複雑な心境で見守っていた。神として異星人を導くべきなのか、それとも、諦観者として黙するべきなのか。すでに結論を出したはずなのに未だ心が揺れ動くのは生来の優柔不断な質のせいであるが、それで引っ掻き回されたとあっては、異星人にとっては堪ったものではないだろう。発端は自分ではあるが、まったく申し訳ない気持ちが無限に浮かぶ。

 つくづく、自分という存在に嫌気がさしながら、俺は変わりゆく世界を眺め、煮え切らぬ思案を歯がゆく思うのであった。

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