武器よこんにちは4
さて、汚物の山にある書類と同じく、ホルストと叛徒両陣営に与する立案書を書き上げたのも他でもないキシトアである。
トゥーラは滅亡後、しばらくは細々と田畑を耕し生活していたが、テーケーが鉱物発掘や開発などを進めるうちに規模は拡大していき、かつての繁栄を凌ぐ隆盛を築きつつあった。だが発展するにつれ人々が持つ不安の種が芽を出していく。またホルストに滅ぼされたら、また敗走し、一から国を作っていかなければならないとしたら、今の生活が奪われたら……そんな恐怖に人々は苛まれていたのだった。
それを間近に感じていたキシトアはこれから先、再びトゥーラが滅亡しないためにどうするべきか思案するのを日常としていた。一見奇天烈に見える彼であったが、祖国に対する想いは誰よりも強く熱かったのである。
そんな折に第三サテライト叛逆の報が耳に入るとトゥーラの意見は二分される。自分達も反乱軍に加わりホルスト打倒の旗印を掲げるという強硬派と、静観し事の行く末を見守ろうという穏健派で対立が始まったのだ。それぞれの立場の人間が声を大にして叫び、ついには市中で争いにまで発展する始末となったトゥーラは一時混沌とした様相を見せるようになったのだが、それを止めたのがキシトアであった。
「身内で争って何とするか愚か者共!」
それは討論会の際、キシトアが強硬派と穏健派を相手にて発した言葉である。
「やるにしろやらぬにしろ互いの主張を挫くために暴力を振るうとは何事だ! それでは貴様らが憎しみを抱いて止まぬホルストと同じであろう! 情勢不安な時だからこそ手を取り合い協力せねばならぬとなぜ理解できぬ!」
黙る一同。しかし、なおも引き下がる者もおり、激しく弾圧を行なった。曰く、「代案もなく、また行動もできない人間が口だけ挟むな」との事であったが、これに対してキシトアはかくの如く語る。
「我に策あり。しばし見ておれ」
嘲笑。「先送りか」と誹謗する声多数。しかしキシトアは意にも返さず、自らが持つ全知全能を駆使し備えた。武器をかき集め、人を育て、ホルストの状況をつぶさに把握し、常に目を光らせて動く時期を待った。そうしてついにホルストから、参戦を条件とした独立許可の府令な出されたのだった。
「今こそトゥーラ再興の時」
キシトアはそう述べ、父であるテーケーに自らが立案した策を進言すべく立案書を書き上げた。以下がその内容である。
一、ホルストが独立を容認するとの姿勢を取ったのはまさに願ってもない事である。これを利用せぬ手はない。
二、とはいえホルストは国を奪った仇敵である。平伏し、服従するのは国民一同本意ではなく、我においても望まぬ所である。よって、欺き手玉とし、トゥーラの主権を勝ち得た後に奴らを足蹴にしてやるのがこの作戦の最終的な目標である。
三、故に、ホルスト側として参戦するにあたり全力を持って反乱軍の討伐を目指すといった愚は犯さず、程々にて戦場を駆け、撤退や怠慢も辞さない構えを良しとする。これについては戦況を見極める目と決断する力が必須となるため、我、キシトア自身が任に就き、全責を負うものとする。
四、また、ホルストの敵がサテライトという点にも着目すべきである。本来であれば、我らと奴らは同じ思想の元に手を組むべきであったが、果断かつ火急に過ぎる行動に出たためこれが叶わず。そればかりか、他の集落を戦乱に投じるというまったく愚劣な結果を招く結果となった。我らにとってこれは追い風となり得るだろうが、必ずしも全てがそうなるわけではない。この戦いにおいては十中九でホルストの勝利となるだろうし、自立が認められた集落は戦争により状況が最悪となり弱体化が加速していくに違いない。周囲の力が弱まれば益々ホルストが絶対的な存在となるのは明らかで、悪戯な徴兵を招いたサテライトの暴走は利敵行為ともいえる。よって、件のサテライトを踏み台にするにはまったく罪悪ではなく、寧ろ再興の誇りとして進んで謀るべきである。
五、然るに、サテライトには程度の物資を与え、滅びるまで戦い抜いてもらうのが良策である。勝てる見込みのない戦いに打って出た奴らの精神状態は錯乱しているといっても過言ではないだろう。故に、死に物狂いで戦闘に当たるはずである。であれば、ホルストへの打撃も無視できぬものとなり得るし、戦後、こちらが有利に動ける事必然であろう。また、万が一にもサテライトが喉もに喰いつきホルストを絶命に至らしめる可能性もなくはない。そうなれば我らが天下を取るのも容易い。瀕死となったサテライトを、余力溢るる戦力で打ち破ればいいのだ。むしろそれを望むべきだが、まずないであろう。
六、以上がトゥーラ再興のため我が発案した策である。現段階においてはこれ以上の手段はないと信じるところであり、また、準備も万全とした。修正、反対あれば聴きはするが、理に合わぬ感情論を提示するのであれば然るべき罵倒を覚悟していただきたい。
これを読んだテーケーは「憶測と推測だらけだな」と言いつつ概ね認め全権をキシトアに与えたが、ただ一点、項目五後半部のみ修正を指示した。
「死にかけの相手を撃ってどうする。相手がホルストならいざ知らず、自由を求め戦った者達だ。それに敬意を払わず、あまつさえ漁夫の利を得ようなど、許されるべきではないなぁ」
「しかし我らはホルストに与するのですよ? サテライトが大陸を掌握したとして、これを放っておくでしょうか」
「奴らはそうする。元々が独立と主権の獲得を目的とした戦いだ。戦いを強いられた他の集落を弾圧する事などしないよ」
「しかし、我らはサテライトに武器も提供しております。戦況を混乱に陥れていた事が露見すれば、如何なる事態となるか……」
「その時は……」
テーケーはほくそ笑み、言葉を続ける。
「笑って誤魔化すさ」
それを聞いたキシトアは肩を落としたが、一応納得をして該当部を修正したのであった。
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