武器よこんにちは1
七賢人はドーガへ渡らせた遣いからの連絡がない事に苛立ちを見せていた。
「どういう事だ! 未だ来ぬのか連絡班は!」
伝令の完了すら不明である状態は極めて不健全であり、次の一手が打てない。作戦に組み込まれていた部隊が使えぬとあらばまた一から構想を練らねばならなず、また、そこから立案し、煮詰めるなければならないが、それにどれだけの時間がかかるのかも知れない。加えてそれぞれの派閥から兵を出したくないうえ、他者が功績を上げるのも妨げたい七賢人達が決断を渋るのは明白。これではいつ打開策が展開できるか分かったものではないだろう。焦るのも当然である。
「……防衛隊を動かしますかな?」
「馬鹿な……城の守りを疎かにするわけにはいかん……」
防衛隊とは城を守護する部隊であり、あえて無派閥となっている。それを動かすというのは相当の事態であり、また、警備が手薄となった場合、万が一の可能性も考慮しなくてはならない。体系上、七賢人が死んだ場合でも国営に壊滅的な打撃となるような事はないが、彼らは自身の命が惜しい。城の各部屋に住む彼らに、防衛隊の派遣など認められるわけがなかった。
「ではどうします? やはり、全員で厳選した兵を集め対応いたしますか?」
「何度も言うがそれでは統率が取れんし、バランスも考えなくてはいかん。動きの速い賊を相手に後手後手に回っては戦果も上がらんだろう」
バグ達はホルスト領を攻める傍ら、他に散らばる集落を抱き込みその規模を拡大していった。それはバグの持つ天性の人柄に依る所でもあったが、最も大きな要因としては、やはりホルストへの反発心からであろう。彼らは身が露見しないよう顔を隠し戦闘へ参加し、捕らえられた際は身体に巻き付けた火薬に火をつけ自害するほどの徹底ぶりであった。
一市民に過ぎない彼らがそれだけの覚悟を持って戦えるのは、やはりホルストという国が未だ色濃い影を持っているからに他ならない。
ホルストは確かに形上の人権は保証した。しかし、その実態は強権による搾取が横行する中央集権型社会主義国家であり、弱者を挫き強者を肥えさせるシステムを維持していた。いや、むしろ、ジーキンスの時代よりも深く、狡猾に築かれているといってもいい。形式上では身分と自由を保障されているのにもかかわらず、実際の生活ぶりは階級制があった頃と変わっていないのだ。それに反感を抱くのは人間であれば当然である。サテライトに住む人間の内に秘めていた反旗の志がこの内乱により一挙に爆発し、結果的に七賢人の予想を超えた速度と範囲で戦いが発生していったのであった。
「とはいえこのまま手立てなく、散発する内乱を捨て置く事はできないでしょう。ここまできたら、いずれかの部隊に動いてもらう他ないかと……」
一同はその言葉にやはり黙る。やむを得ないと理解しながらなお手を
「サテライトの人間を集め、賊を討伐させるというのはいかがでしょうか。黙認している各所の集落に、戦いに参加すれば独立を認めるが、そうでないのであれば然るのちに滅ぼすと言えば従いましょう」
市民に戦いを強要するとはほとほと落ちぶれたものであるが、その案を聞いた七賢人達は皆眼から鱗が落ちたよう俄かに色めき立ち感嘆の声を上げたのだった。
「それは名案だ! 是非そうしよう!」
「いや、どうにもならん連中故助力してやったが、人助けはするものだな!」
こうして徴兵案は即座に可決。一週間後にはには公認、非公認問わずほぼ全てのサテライトへと伝えられ、そこに住う男連中が一斉に出兵する事となった。中には既にバグ達に協力をしていたサテライトもあったが住民を人質に取られてはどうしようもなく、次々と戦線から離脱していった。バグとカシオンはそれを止めなかった。
「密告する者も出てくるかも知れませんね」
夜長、バグと今後の方針を話し合っていたカシオンが諦観めいた表情を浮かべそう呟いた。
「そうだな。多数のサテライトが協力している事を知られたら、確かにまずいな」
「いえ、そうではなく……」
「なんだ? 他に何か憂慮すべ事があるのか?」
「……元賢士であり脱走者であるバグ様の存在が知られますれば、敵は果敢に攻めてきましょう。今はまだ本腰を入れてはいませんが……」
「分かっている。しかし、それは遅かれ早かれ同じ事だ。今は向こうもくだらん事情で挙兵せずにいるが、近い内に必ず大攻勢を仕掛けてくる」
「それはそうですが……」
「敵が強大なのは想定済みだろう。それを今更憂いても仕方ない。それに打ち勝つ術を考えるのが我らの役目だ」
「……そうですな。失礼いたしました」
カシオンは喉まで迫り上がってきた言葉を呑み込み頷いたが、悲観を下すことはできないようであった。彼が懸念しているのは、バグが捕われた時の事である。
大陸を脱するだけでは飽き足らず、次は叛徒を従え侵略行為を働くなど、いくらジーキンスの世代からの脱走者といえ、捕らえられればその身は容赦なく痛めつけられるだろう。
バグの存在を七賢人が知れば、恐らく生け捕りを命じられ、並の人間であれば生まれてきた事を後悔するような責め苦を受け、天下泰平を乱す大罪人の末路として拷問の様子が公開されるに違いないだろう。また、カシオンの想像はそこで止まっているだろうが、更に危険かつ残虐な未来も見える。民衆はバグの拷問を、最初は悲惨だと目を背け嫌悪するだろが、時間とともに生物の持つ残虐性が目覚め、
人類の発展は争いによって促されたという説があるが冗談ではない。互いに助け合い尊重し合う、相互助力により栄ある未来を手にできるのである。それを阻む事は、即ち星の不幸に繋がる。悪鬼悪童、修羅の魂を宿らせてはいかん。
死ぬにしても英雄として、戦場でだな……
この戦いで血は流れども、決して人間の心まで鮮血に染めてはならないと誓いながら、俺は更に観察を続けた。
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