衝撃のトリーズナー1
かくしてバグ一団を迎えた決死隊はホルストの領土へ攻め込むため集結したのであった。
サテライトから集められた武装集団はバーツィットの近郊に待機していた。地形的な意味合いもあるが、バーツィットは属国となってから周辺警備を疎かにしており、また、ホルストの方もそんなところに反体制勢力が潜伏してはいないだろうという油断があったのである。灯台下暗しだ。
決死隊の指揮はバグ執る事となったわけであるが、皆、彼に対して好意的であった。カシオンが事前に話を通していたのもあるが、バグの持つ、そのカリスマめいた人徳が疑うという心を失念させ、無条件に人を信頼せしめたのである。それはまさに才能。
「あぁ。やはり持ってますね。神格」
モニターを見ていたジョンが呟く。
「なんだそれは。スキルのようなものか?」
「
「なるほど。預言者になれると」
「石田さんが望むのであればすぐにでもそうなれます。そのために必要なものは……」
「……託宣か」
「そうです。神の言葉として石田さんが語れば、彼はこの星のエバンジェリストとなるでしょう」
「……」
ジョンの言葉にしばし悩む。バグが文字通り指導者となれば一致団結してより強固な組織が作られるだろう。また、一度俺が介入すれば恩寵として奇跡を起こさねばならぬから、勝利は約束されたものとなる。まさしく神の意思により、俺が星の行く末を決定づけるのだ。
だがそれは、この星に住む人間の自由意思を削ぐことに直結する。彼らの生を、想いを、俺の自己満足的な正義感により踏みにじり、強制する事になるのだ。それはもはや人間の在り方ではない。子飼の犬と等しく、命じられるがままに生きる家畜生物である。
「辞めておこう。趣味じゃない」
俺がそう述べると、ジョンは「分かってました」と言わんばかりに鼻で笑った。
「そうでしょうな。貴方はそういう人だ」
「知ったような事を……」
「知ってますとも。また、切羽詰ったら結局手を出して余計に場を掻き回す事も」
「うるさいな! いいんだよ俺の事は!」
ウダウダといらん事を言うジョンを無視し、俺は再び大陸が映されるモニターへと視線を戻した。
バグ達は既に準備が完了しており、後は攻め入るのみといった様子。戦いの始まりは近い。一団はホルスト領へと攻め入らんと、砂塵を巻き上げ駆け出す。
「突撃だ!」
バグが叫ぶと複数の雄叫びが重なり合い、地響きのような音を立て大気を震わせあ。平定後の大陸における初めての紛争の開幕である。
反乱軍(あえてそう呼ぶ)の戦略としては、小型恐竜に乗った騎竜隊が突貫。深く侵入したところを見計らい火器を装備した
騎竜隊は主に罪人で構成されており、ほぼ全員といっていいほどホルストに対して憎悪を抱いていた。元の気質もあるだろうが、その憎悪が恐怖を上回っていたため、彼らは二つ返事で死のリスクが過大な任に当たったのだった。
さて。一方のホルスト側はというと、最初こそ混乱をきたしたものの即座に冷静さを取り戻し防御を堅めた。軍国だった頃からさして時間は経っていないため対応力はやはり高い。相手が恐竜を引き連れていようが恐れる事なく迎え撃つ姿勢はさすがである。
「陣形を維持しろ! どこの狂人共か知らんが相手は蛮族だ! 守勢に徹し隙を作るな!」
ホルストの指揮官が叫び命じると、部隊はその声に応じ鉄壁を築く。阻まれ反乱軍の先鋒はこれを突破できず、ドラグーンが機能しない。前提とした作戦行動ができぬ以上、反乱軍の戦略は失策となりつつあった。
「……兵を退かせろ。敵が追ってきたらドラグーンで援護射撃」
バグがそう命じると
そしてホルスト軍がこれを追撃したのが反乱軍にとっては幸運だった。陣形が伸び薄くなった隊列。ドラグーンの射撃を浴びせるのに好都合である。
「いかん! 深追いしすぎだ! 後退!」
伝令が下るも時既に遅し。油断したホルスト軍は次々とライフルの的となり大地を赤く染めていく。一転して劣勢。撤退命令まで出された陣形は瓦解し、見るも哀れな烏合の衆と化した。
「この機を逃すな! 騎竜隊は反転し全速進撃! 本体もこれを追い敵を殲滅する!」
空気を裂くようなビューグルの音が響くと、反乱軍は怒涛の勢いで攻勢をしかけホルストの領土へ向かって進んでいった。先までと異なり大型恐竜までが突撃してくる様はまさに脅威でありホルストの軍は戦意を喪失。敵前逃亡する者多数。立ち尽くし、嬲り殺される者多数。白旗を挙げ降伏を示す者多数となり、局地的な戦場において反乱軍は勝利を納めたのであった。
「勝ったぞ! 我々の勝利だ!」
鮮血の舞台でバグがそう述べると、皆が一様に祝福の声を上げた。しかしその代償は、決して少なくはなかった。
この戦いによる反乱軍の犠牲者は全体の三割にものぼる。補給が期待できぬ以上それは致命的な消耗へと繋がりかねず、また、戦略上での勝敗がいずれに傾くか予想するに、十分な効果を持っていた……
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