戦禍、再び……7
カシオンによると第三弾サテライトの付近には他に集落が二つあり、それぞれ第一、第二サテライトと呼ばれているとの事であった。いずれも人が生活しており、第三弾サテライトの健常な肢体を持つ者の半分がホルストに命じられ、それぞれに散っていったという。
そしてもう半分においてはホルストが未だ発見していない集落に武装集団として秘密裏に待機しているのだった。それが意味するところは一つ。反乱である。
「ホルストの管理下にない集落から攻め込めばサテライトに住む住民に責が及ぶ事はないでしょう。また、大義名分としても独立や生活圏拡大ではなく、あくまで打倒ホルストを掲げます。さすれば、失敗した後に他集落の取り締まりや低奴の復活もないかと」
「なるほど。希望的観測であるのは否めないがまぁいいだろう。だがそれだけでは足りぬな。戦う前から負けた後の話などはしたくないが、貴様の案で血迷った人間の反乱として片付けられたとしたら、ここに住む者達の救いにはならないだろう」
「それも考えております。ホルストには仲間が既に潜入しておりまして、こちらが攻め込むのを見計らって第三弾サテライトの惨状を流布し、扇動する手筈となっております。発起により生じた不安に付け入れば、反体制、人道社会の誘導は易いかと」
「その任に当たるのは信頼に足る人物なのか」
「無論でございます。名をロイゲンと申しますが、聡明であり人徳がございます。人民を導くのにこれほ適任はないかと」
「いいだろう。貴様が言うのであれば信じよう。では次に、如何にして敵を叩くかだが……」
「はい。まず、方々に散らばっている反ホルストを掻き集めておりますが、戦力としてはあまり期待はできません。正規軍の足元にも及ばないでしょう」
「そうだろうな。俺は海で奴らの新型艦を見たが、はっきり言って太刀打ちできるとは思えなかった。規模が違いすぎる。おまけに個々人の練度の差を鑑みれば、正攻法での勝利は絶望的だろう」
「ですので、こちらに秘策を用意いたしました」
「秘策?」
「はい。実は同胞が隠れ住む地には恐竜が生息しておりまして、これを数頭手懐ける事に成功いたしました。銃や大砲には敵いませんが、白兵戦であれば猛威を奮いましょう。この恐竜部隊で奇襲をかけ、敵に恐怖心を与えれしばしの時間は稼げるかと存じます。その間にロゲインが扇動した人員を呑み込むも良し。交渉のテーブルに付くも良しと、少しばかり選択ができるようになるかと」
「……ふむ」
それが机上の空論である事はバグにも、また語っている本人であるカシオンでさえ分かっていたし、火急に過ぎる事も承知しているようだったが、それにも理由があった。
第三弾サテライトはいわば処理場としての機能を目的とされており、表立った支援は許されていなかった(治療も本来許可されていなかったが黙認されていた)。また、反乱防止のため各集落が団結する事も禁じられており、実質的に自由はなく、常に鎖に繋がれている状態であった。本来であれば集落の力を徐々に力をつけていき、ゆくゆくは対等の立場で発言できるよう事を進めるのが最善であろうが、今失われる命を見捨てる事がカシオン達にはできなかった。より多くの命が失われる本末転倒な結果となるとしてもである。
「分かった。では、その叛逆に、我らも加わろう」
バグのその言葉はカシオンにとって驚天動地であっただろう。なにせ敗戦濃厚な負け戦である。好き好んで首を突っ込む馬鹿はそうはいまい。
「いや、バグ様。お気を確かに。勝っても負けても、そちらに理がありません。どうぞ、戯れにそのような事を口に出さぬよう……」
「戯れなものか。言っただろう。俺達は大陸で貴様の世話になると。そのためには必要な協力だと、俺は思うが」
「しかし……」
「それにただとは言わん。俺達は他に一般市民を連れてきていて、これを大陸の集落へ住まわせたい。貴様に協力してもらうぞ」
「……それは喜んでお力になりましょう。しかし、わざわざ反乱に参加するというのは……」
「俺は用意された飯をただ食うだけというのは好かん。勝ち取ってこそ意味がある。貴様が拒むというのであれば、我ら単独でホルストへ挑み国家転覆のために戦うだけだ。斯様な現状を見ては黙っておれんからな」
「……」
カシオンは大きく溜息を吐き、結局バグの申し出を受け入れる。それからフェースの難民の半分を第一、第二サテライトへ、もう半分は、人は住んでいないが隠れ住むに十分な土地のある場所へ案内すると誓った。また、後者においてはそこをバグ達が発見したと言った方がいいとの助言を行い、バグもこれに賛成した。与えられた物には不満が出るが、自らが得た物であればそうではないからだ。もっとも、市民にしてみればすべてバグに従った結果に過ぎず、自分達で手に入れたものなど、何もないのだが。
ともかく、バグ達はこうして反ホルストの組織に加わり、勝ち目の薄い戦いをする事となったのだった。その判断が、歴史を血で
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