第一次世界大戦

久我我聞のヒストリーナイト 第4回 書き起こし

 第一次大戦を経験したスミッツォ氏はかく語る。


「地獄というのはあぁいうものかと。鼓膜が破れているのに轟音が頭を掻き回し、血の滴る音が聞こえる。自分の血じゃない。周りにいる味方なり敵なりが撃たれたり刺されたり爆発したりして流れる血の音だ。自分の身体から聞こえるのは破裂しそうな心臓の鼓動と、金具や銃がが触れる音くらいで、何か言っていたかもしれないが、ちっとも覚えてない。ただ、一旦戦闘が終わると、誰かが何かを叫んだり、悲鳴や呻き声といったものがちゃんと聞こえたのは不思議だった。右を見ても左を見ても負傷者と死体ばかりで、自分が生きているのか死んでいるのかも朧げだった。でも、ふと冷静になると喉が焼けるように熱くて、血溜まりを啜って渇きを癒したんだけれど、苦しいとか辛いとかじゃなく、本当に、地獄としか言えないような思いがした」



 フェースとドーガの争いから端を発した争いの戦火は瞬く間に広がり、多くの独立していた集落が巻き込まれていった。ホルストの介入が、二国間の戦争から半球規模の巨大な大戦へと変質させたのである。


 当初ホルストはドーガと同盟を結び果断にフェースへの攻勢を目論んだが慎重論を唱える者もおり、一旦はドーガへの兵器と物資の援助のみを行い静観とした。しかし大陸においてフェースが扇動した独立部族がホルストの領内で破壊工作とゲリラ戦を行った事で方針は一変し、大部隊を率いてフェースの占領に乗り出す案が可決される。また、陸戦に関してはフェースの息が掛かっていない独立集落に対して自治権を認める代わりに戦争への参加を要求したのだが、これは半ば脅しであり、拒否すれば暴力による制裁が暗に示されていた。手綱を握られたも同然の各集落は戦う他なく、事態は泥沼式に深みへと嵌っていったのである。


 ホルストの攻勢を察知したフェースの国主たるバグは大陸に侵入し間隙を縫って首都の奪取を目論み、大規模な陸上戦を展開。この戦闘においては先に紹介したスミッツォ氏もホルスト側として参加しており、氏の言う通り、筆舌に尽くしがたい惨状が繰り広げられたのは言うに及ばぬところであろう。


 また、このとき、スミッツォ氏を始めとして多くの者が「神の声を聞いた」と証言している。雷鳴や地殻変動などの説が挙げられているが、未だに解明はされていない。

 



 死に物狂いで戦いったフェースであったが、本国はドーガによって陥落し、上陸した部隊もホルストによって与した部落諸共殲滅させられた。戦後、フェースはドーガの植民地となり、現在においても主権は与えられていない。


 また、ホルストはこの戦争の保障をフェースではなくドーガに求め地域を一部接収し国家として承認させた。これらはツィカス国、バーツバ国と名付けられ、奴隷となっていたホルスト民とバーツィットの農奴が定住するようになる。



 こうして長く続いた戦争は一国の敗北と、無数の犠牲により終結したが、残った爪痕は余りに深く、癒えるまでには、膨大な時間が必要であった。

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