ヤツベ文明・グラマ文明4

 チェーンはカリムとしばし言葉を交わした後、カリムの投降と随伴を認めた。チェーン本人にしてみれば罠の可能性を考慮し拒否したほうが無難だと思ったが、ここで降伏した相手を斬って捨ててしまうと船員の心証が揺らぐ。彼が理由を述べれば納得はするだろうがしかし、内に生まれる不安は、いつか自分も謀反ありと処断されるのではないかという疑念は絶対に晴れない。一から国をたてるのではあれば人心掌握は必須であるため、ここは確証がない限り向入れるしかないのである。


「それでは、かつての仲間を撃つのは気が引けるとは思うが、戦闘に参加してもらう」


 そこでチェーンは、半ば卑劣と感じながらもカリムに元同胞との戦闘を命じた。しかし、カリムの方は意にも返さず不敵に微笑む。


「あいつらも私も仲間意識なんか持っちゃいないさ。喜んでやらせてもらう。ただ、あっちはじきに撤退していくよ。深追いする事はないと思うがかぬ」


「今更退くかな。奴ら、賢士がいる手前簡単には逃げれんだろ。」


「時化が来るからね。敗走の理由にはちょうどいい」


「時化? くるのが分かるのか?」


「そりゃ分かるさ。風が湿ってきたし、波が重くなってきてる。あと一時間もすれば荒れるよ。そんな事も分からず海に出たのかい」


 カリムの言う通りチェーン達には航海の経験が不足していた。個人としてではなく、組織として不成熟なのである。船員の中に漁業関係者がいなくもなかったが皆血の臭いに酔い、戦闘中に察知できたものは誰一人としていなかったのだ。


「……知識不足だったな。いいだろう。今後、貴様の意見を聞きたい。しばらくこの船に同乗していただきたいが、かまわないかな?」


「いいさ。せっかく寝返ったんだ。新しい寝床がなくならないよう自衛はしないとね。ただ私の部下も同乗させてもらうよ。あの漁船じゃ時化で沈みかねない」


「許可しよう。準備をさせる」


 こうしてチェーンはカリム達を同船させ、彼女の示す方角へと舵を切った。それはバグ達の辿った海路とは逆方向であったが、「すぐ近くに島がある」との言を信じ従ったのだ。すぐに時化がくるのであれば、陸に向かった方が賢明である。

 それでも到着までにはそれなりの時間を要するとの事であり荒波に揉まれる事は必須であったが、気抜かりさえなければ新型船での航行は問題はないと判明。程なくしてカリムの予告通りに暴風に呑まれるも、五隻の船は損傷なく荒波を進んだ。すると、これもカリムの言う通り小さな島が現れたのでしばし停泊し、海が凪となり安定すると、再び出航したのであった。


「このまま南下すればまた島がある。シャボテン島といって、なんでも、人類の先祖が住んでいたところだそうだ」


「ほぉ。博識だな。なぜ、そんな事を知っている」


「城の倉庫に入る機会があってね。ちょいと物色してたら、その島からホルストまでの行程を書いた航海日誌の解読書が出てきたんだ。いかんせん古代の記録だから全部が全部正しいとは思わないが、ホルスト周りの海域は正確に書いてあったから、それなりに信用できると思うよ」


「……なるほど。アテがあるだけましか。よし。船はこのまま南に進む。我らが故郷に、帰参するとしよう」


 その後、彼らは無事にムリランド改めシャボテン島に到着。その独自な生態系、自然体系と、アミストラルピテクスの痕跡に驚嘆するも、すぐに整地と開発を敢行。拠点として十分な機能を果たすまでに至る。また、彼らはムリランドよりさらに南下した場所に大陸を見つける。後に、古代遺跡に記された名に倣い、ヤツベと呼ばれる。


 チェーンはシャボテン島を防衛基地として、本陣を大陸に移し、これをドーガ国と名付けた。後に誕生する列強。バーツバ、ツィカスの祖となる国の始まりである。

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