猿人、大地に立つ10
カイウス達アミークス連合は破竹の勢いでアミストラルピテクスの集落を制圧していった。初陣と同じ方法で他の集落の兵を壊滅させ奪取。迅速に展開された電撃作戦は奇跡的に敵本陣へと伝わる前に完遂。周囲を固め、プルガトリウムと同一の焼夷兵器を搭載した要塞を建築し防衛ラインが完成した。そこに神の恩寵があったのは言うまでもない。
それに気付いたアミストラルピテクスは集落奪回のために出陣するも幾度となく煉獄に焼かれ敗走を余儀なくされる。そのため、アミストラルピテクス達は連日、打開のための議論を重ねるのであった。
「猿が知恵をつけて調子に乗って小賢しい真似しよる」
「どうしたもんかのぉ。このままやったらジリ貧の目ぇ引きかねん。かといってゴリ押しっちゅうのも被害がなぁ……」
「睨んどるだけならまだええけれども、あいつらたまに攻撃してくるし、作物やらを駄目にして嫌がらせしてくるさかいに、とりあえずとして防御を固めへんか? 食いもん
「……せやな。猿共に防戦せにゃならんのは腹立つが、しゃあない。切り替えていく」
こうして誕生したのが都市国家『シャーグウ』である。シャーグウはアミストラルピテクスの持てる技術全てを持って作られ、その堅牢さは時代を一歩も二歩も先どりしたものであった。アミークスとの前線に防衛拠点を置いて小競り合いをしながら僅かな期間で着工を完工。城とまではいえないまでも、粋を集結させ構築された防衛機能は驚嘆の一言に尽きる。矢を弾く防壁に侵入を阻む外堀。監視塔の設置。避難用路など、明らかなオーバーテクノロジー、オーバーアイデアの数々が採用され、正攻法においてアミークスに攻略はまず不可能となり、アミストラルピテクスはひとまずは安心といった風に胸を撫で下した。
「守りはできたさかい。次は攻めや。ライン上の拠点を各個撃破してもええが、奴ら、いざとなりゃ全部投げ出してまたゲリラ戦を仕掛けてくるようになるやもしれん。叩くなら一網打尽。一刀に乱麻を断たにゃラチないで」
「とはいえどないしよか。奴ら、多分誘いにも乗ってこんやろ。攻めと逃げの切り替えに迷いも隙もあらせん。完全に長期戦の構えや。それも、目的はワイらを倒す事やらあらへんような気がする。いやがらせ。おちょくりの類。勝ちへの望みを捨てとる」
「気に入らんのはそこよ。考え方に甘えやがないのが癪に障る。可愛げがないのぉ」
「……奴ら、なんでそんな開き直れるや?」
「あ?」
「考えともみぃ。確かに、奴らは攻め手に欠く。決定打があらへん。にも関わらず、なんでちょっかいをかけてくるんや?」
「そらお前、決定打がないからこそこっちの消耗を狙っとるんやろ」
「貴重な戦略を削りながらか? アホくさい。そんな理に合わん事するかいな。どこぞに逃げ込んだ方がまだ楽に暮らせる可能性高いで」
「ほだら、奴らはなんぞ意味あってやっとるって事かい。そらなんや」
「だからそれが気になっとるっちゅー話や」
「……考え過ぎやあらへんか? 奴らは所詮猿。ともかく気に入らんもんを、ない知恵絞って叩きたいだけやろ」
「……それやったらええんやけどな」
アミストラルピテクスの一体が口にした憂慮は当たっていた。実はアミークスの要塞は移動式で、日毎に少しずつ、だが確実に前線を押し上げていたのである。その進みは日進月歩で亀の如き遅速さであるが、それはあくまで気取られぬように極々微小に詰めているからであり、本気を出したプルガトリウム級要塞は内燃機関の燃焼爆破により
そうとも知らずアミストラルピテクス達は半ば惰性的にアミークス達の攻撃に対応し、敵の心理に及ぼうとはしなかった。散発するおざなりな攻防は非日常から日常となり、アミストラルピテクスから緊張感と集中力を奪ったのである。こうなると前線に出る下級個体ほど戦いという意識を持たなくなり、半ばルーティンと化した小競り合いを意味もなく続けるようになる。その間に要塞はどんどん距離を詰め、やがて、シャーグウ中心部からでもその姿を捉えられる距離まで接近を許してしまっていたのであった。
「なんやあれ!」
それにとうとう気付き警鐘が叩かれた。だが時既に遅し。鳴り響く鐘の音は戦闘体制へ移る合図というより、弾丸突撃のスタートを告げる号砲であった。急加速するプルガトリウム級移動要塞。疾風怒涛の加速にアミストラルピテクス達は度肝を抜かれ腰を抜かし、ある者は轢死体となり、ある者は跳ねられ肢体が分断され、ある者は立ち竦み戦意喪失。まさに縦横無尽。移動要塞は混乱に陥ったアミストラルピテクスに構わず土煙を上げ激走爆速。気が付けば完全に本陣を包囲。上級個体集まる大本営を囲む。アミストラルピテクスは袋の鼠と相成った。
「アホかいな! こんな滅茶苦茶な負け方してたまるかい! なんぞ手はないんか!」
死を目前に焦るアミストラルピテクス。それは船の上で嵐に遭遇した以来の感覚であった。彼らは久しく死を忘れていた。他者を使役し、一と時とはいえ安泰と平穏に浸かってしまった。勝負に対する必死さを、懸命さを忘れ、のうのうと生きてきた結果、思いがけぬ一撃を受けたのだ。また、彼らが弱肉強食の理を礎にしていた事も足元を救われた要因であろう。己を強者であると過信し、敵の執念を侮った。ジョセフジョースター曰く。「相手が勝利を確信した時。すでにそいつは敗北している」である。
窮地に追いやられたアミストラルピテクスの負けは時間の問題だった。カイウスをはじめとしたアミークス達は手心を加える気など更々ない。煉獄の炎はまさに罪を浄めんと砲身を赤化させる。待ち受けるは灼熱の地獄。風とともにやってきた民は、風とともに滅する。
はずであった。
「まったらんきゃい! おんどれら、雌と
現れたのは、最初に上陸したアミストラルピテクス。そして、手枷足枷を嵌められた、アミークスの雌と幼体であった。
「……落ちるとこまで落ちりゃーしたな」
要塞から顔を出したカイウスが睨み、重い声を絞る。
「関係あるかいや! こちとら命かかっとりまんがな! ここでワイらを見逃すのであれば雌と
「……」
膠着した戦場。張り詰める感情。睨み合う二種の生物。存亡をかけた戦いの結末はどちらに傾くのか。星は、生物に選択を迫る。
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