私が神様です1
どうしてそうなったかは未だに分からないが何が起きたかは明確に理解できた。
突如として立ち込める暗黒。先まで見ていたモニタは見事に光を失いPCの音が潰えた。停電である。
「
そんな独り言を呟くのも致し方なかろう。何せパロディウスだ! をノーミスクリア目前で発生したでき事である。残すは恒例雑魚ラスボスを撃破するだけ。祝杯秒読みでのアクシデンツ。ネタにはなるが生憎と無駄話をする知り合いなどいやしない。溜息一つで全てを忘れスマフォのライトを頼りにブレーカーを上げに行こうとしたのだったが、一つの歴史が動いたのはまさにその時であった。部屋中に閃光が弾けたと思うと光子のように散り散りと火球が広がっていき、目の前には青き星が浮いていたのだ。
俺はまず卒中を疑った。続く不規則な生活かつ暴飲暴食が災いし脳血が漏れ出したのかと思った。が、これまでそんな予兆はなかったし、なるならまず通風か糖尿である。第一脳に支障がでているのであればあれやこれやと明確に物を考えられるわけはないという結論に至り頭の異常の線は消えた。となれば単なる失神か。電気が回復した際に強い光を取り込んでしまい一時的に麻痺を起こし昏睡。目の前の惑星はパロディウスの情報からアウトプットされたイメージであると考えれば合点がいく。あまりにも府に落ちる答えに拍子抜けするも冷静さを取り戻せた俺はひとまず辺りを見回して見ることにした。ひろがるのは漆黒と綺羅星。まさに
「ねぇ! 誰かいませんか!」
精神崩壊までとはいかぬまでも多少の怖気を覚えた俺は女みたいな名前をした男が吐くような情けない声を出した。自身の空想の産物とはいえ得体の知れないものは怖いのだし、そもそも自分の記憶から引っ張り出したデータを元に作られた世界なのだから恥じる事もないだろうという気持ちもあった。俺はまだこの時、何が起こっているかまるで理解できていなかったのだ。
「こちらにおります」
ギョッとした。勢い余って「わっ」と仰天し肩が跳ねた。突然知らぬ声が聞こえてきたのだ。毛を逆だてぬ方がおかしいだろう。しかしいつまでもビビり散らかし目に蓋をしていてもどうしようもない。見ぬふりをしても黙っていても時は流れるのだから欺瞞的逃避行動を取るよりも現状確認を行うのが正しい選択。それができぬから俺は親の脛を齧り長年ニートなどをやっていたのであるがそれはそれこれはこれ。意気を込めてえいやと恐る恐る声の方を見るとなんとも形容し難い謎の物体。いや生物が宙に浮かびこちらを向いている? のだった。
「どうも石田さん。はじめまして」
「あ、はい。はじめましてどうも」
生来の臆病に加え対人スキルのなさからつい上擦った声で挨拶を返してしまい、更にはハニカミスマイルなどをご披露してしまった。これはいかんと咳払い。俺は襟を正し、威風堂々とした声色を出さんと努めて喉を搾り目の前の不明体に問うた。
「あの、これはなんでしょうか。もしかして夢ですか?」
礼節と慎みは日本人の美徳。混乱に任せて取り乱し乱暴な態度を取るのは美しくない。『声は張っても我は張るな』というのを俺の信条にしようとこの時に思った。すぐに忘れた。
「ここは宇宙。夢ではなく現実です。貴方は私がお連れしました」
予想外のSFチックな急展開に乾いた笑いが出たが、同時に冷や汗が出た。
実はこれが夢ではない事には既に気付いていたし、目の前の何かが幻ではなく実在しているというのも理解できた。超科学的な存在が人類の遺伝子を目覚めさせエモーションを加速させたのだろう。これを夢想と判断するにはいささか規模が桁違いである。
であれば目的を尋ねるのが筋というもの。何かに対しては畏怖はあったが話は通じる様子である。取って食うような事はないだろうし、まずはお伺いを立てるのが常道であるわけだから、とりあえずで質問をしてみる事にした。
「ここはどこですか? 貴方は誰ですか? 何故僕はここにいるのですか?」
少しばかり早口となってしまったが簡潔明瞭シンプルな質問事項である。矢継ぎ早なのはご愛敬だろう。しかし焦る俺とは対照的に落ち着き払っている何かは「まぁ落ち着いて」とどこからかエナジードリンクを取り出して渡してきたものだから少しばかりイラとした。とはいえ出された物はいただくのが俺である。ストロー越しに飲む謎味のエナジードリンクを飲むと不思議と心落ち着き穏やかな気分となり、逆に怖かった。
「落ち着きましたでしょうか」
「まぁ」
「では、これを」
そう言って何かはまたどこからかペラ紙を出す。何かと思ったらどうやら仕様書のようだ。今日日紙媒体とか頭オールドタイプかと思ったが面倒なので口に出す事は控え、俺は仕方がなく書かれた文字を追うのだった。
惑星開拓。今日からあなたも天地創造。
貴方は惑星開拓者に選ばれました。神となり星を創りましょう。
惑星は貴方の自由なイマジネーションとユニークにより素晴らしいクリエイトが可能となっております。地球に住む生物やリアリティに囚われないオリジナリティ溢れる動植物を繁栄させ唯一無二のステキな惑星を創造してください。
システムに関するヘルプはアシスタントがお答えいたします。アシスタントは名前と姿形を自由にカスタマイズ可能となっとおりますので、是非お好みのバディへとチェンジしてください。
なお、終了条件は惑星の死滅となっております。どうぞ、お楽しみください。
海外産ゲームの愉快なジャパニーズ翻訳が如き概要に目眩を覚えた俺は紙を何かに返すと涙が出てきた。そんな俺に何かはハンカチを出して「元気を出してください」とオフィスのイルカのような無用な言葉を投げてきてムカついた。
「お先真っ暗だな」
俺がそう嘆くと何かは発光しだし「明るくなりましたでしょう」とのたまった。殺意がめばえた。
ともかくとして、こうして俺の惑星開拓史がスタートしたのであった。驚天動地。奇々怪々……
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