第2話 超能力者の最後


9月18日



 次の日池谷さんの事務所に行くとすでに東山が来ていて、池谷さんと大量の書類と対峙していた。


「緒方さん遅いです、先に池谷さんとやってましたよ。」


「ごめんごめん、ちょっと昨日遅かったから寝過ごした。それより原口さんは一緒に来な勝ったんすか?」と言いながらポケットのメモ帳を取り出し二人に見えるように『この部屋は盗聴されていますか?』と書くと。


「大丈夫ですよ、外出するたびに盗聴器が仕掛けられてないか探しますから。」と池谷さんが笑った。


「どうしたんですか緒方さんいきなり。」


「昨日ディープスロートに会った。」


「昨日って私と別れた後ですか。」


「ああ。」


「じゃあ、ここに居た時に来た連絡ってその時の?」


「はい。そこで奴に忠告されたんで、すこの国には危ない連中がいるって。」


「確かに内調とか公安とか有りますからね。」


「はい、自分もちょっと身に覚えがあったんで。東山さんも気おつけてください。」


「あ、よかったら僕の盗聴器調べるやつ貸しましょうか。」と池谷さんが指さした方向に手持のテレビアンテナのようなものが置いてあった。


「あ、じゃあ原口さん家調べてみます。」


「でもあそこって壁が薄いから盗聴も何も耳を壁に付けてれば全部筒抜けですよ。」


「確かに。」


「あれ、てかほんとに原口さんどうしたんですか?」


「ああ、なんか久しぶりに池谷さんに会うから、お土産買ってから行くって言って先家を出たんだけど、何故か私の方が先に着いちゃったんですよ。」


「原口さんボケちゃったんですかね?」と池谷さんが言った。


「池谷さん、そんな事言ってー、原口さん何処で聞いてるか分かりませんよ。」と東山が言った。


「うちの警備は完璧なんで。」と自慢げに話すと、いきなり後ろのドアがギギギ〜っと開いたと思うと。


「だーれがぼけたって?」と低くゆっくりとした原口さんの声がしたので皆んなが一斉に振り向くと、亀甲模様の紙袋を持った原口さんとその後ろで嫌味な笑いを浮かべて声を出さずに笑っている班長がいて、一瞬間が空いたと思うと顔色ひとつ変えずニコニコした表情で池谷さんが「あれ、聞いてました?」と問いかけた。


「どうせ老いぼれだからな、土産買ってきたのに渡す奴の事忘れちまったから持って帰るよ。」


「あー、ちょっとちょっと、原口さんそれ俺の大好物。」


「あんた誰だ〜?」ととぼけたように原口さんが言うと池谷さんが原口さんにすり寄っていき。


「ごめんなさいって、ね、俺と原口さんの仲じゃないですか。」と仲良さそうに喧嘩をしていて、その後ろから班長が。


「本当にお前は年寄りに好かれるな。」


「あれ、雲村さんも来たんですか仕事いいんですか?」


「バカ、今日は土曜日だ、夕方に一回会社に行くからそれまで手伝いに来たんだよ。」


「原口さんも班長もどうやって入ってきたんですか?」と東山が聞くと班長がポケットから鍵を出し私たちに向かって見せつけながら。


「合鍵持ってんだよ。それよりどうだ進んでるか?」


「いや、俺も今来たばっかりなんで。」


「資料は手に入りましたよ。」と原口さんの手から抜き取った紙袋の中を開けながら池谷さんが言った。


「有るには有るんですけど、ちょっと見て下さい。」といって1メートル近い暑さのの紙束の中から2枚抜き取ってみんなに見せた紙はnameとsex, Id、address,と欄付がされたリストと、枠線や見出しがない個人の詳細なデータで顔写真が無かった。


「何だこれ見にくいな。もっと分かり易く一覧にできなかったのかよ。」と班長が言うと

「この中から47人見つけなくちゃいけないんですよ。」と池谷さんが返した。


「そこは大丈夫ですよ、パソコンにデータベースがあるんで。」と池谷さんが言った。


「じゃあ何でこんなにコピーしたんだよ?」


「僕の仕事量を実感してもらいたかったんで。」


「相変わらずバカなことに労力使うなお前は。」と班長が言った。


「そろそろ始めますか。」と言うと池谷さんがいつのも席に座りみんながそのまわりに集まった。


「5年前は子供たち8歳ぐらいでしたよね?」


「ああ、確か取材した時の資料から推測すると8歳だったから、今は13かな。」と言うと池谷さんがキーボードをカタカタ叩き瞬く間み黒い画面に緑色の文字が映し出され、リストの最後に700SEと言う文字が表示された。


「何だこの700って。」と原口さんが言う。


「700件って事ですよ。」


「そんなに居るのか?、他に絞り込める要素は無いのかよ?」キャップが言う。


「緒方、さん男とか女とか、せめて名前だけのリストとかそう言うの無いんですか?」


「研究所に入り込んだ時はそう言った資料は見つからなかったんですよ。」


「まあ、良いじゃねえか全員で700人の資料を手分けして読むめばなんか見つかるかもしれねえしな。それにボケ防止にもなりそうだし。」


「原口さんまだそれ言いますか。」と笑いながら池谷さんが言った。


東山が五十音順に重ねてある書類の束から書類を取り出した。


「じゃあ、これ小形さんの分。」と言って渡されたのは1.5センチほどの束だった。


「俺は、少しでいいからな。」と原口さんが言うと。


「だめ、ボケ防止できないですよと。」と言って容赦無く原口さんにも束を渡した。


「もっと老人に優しくしろよ。」とうでまくりをしながら原口さんは近くの椅子に座り書類と睨み見合っていた。


「池谷、他に椅子ねえのか?」


「ああ、雲村さん外出て右の部屋に何個か入ってるはずなんで持ってきてもらえますか。」


「おう。」


「はい池谷さんの分。」と東山がみんなと同じだけの書類を池谷さんに渡した。」


「えっ?僕もやるんですか?」


「いいじゃねえか池谷乗り掛かった船だ。」と少し離れたとこから原口さんが言う。


「こう見えて、俺昨日徹夜なんですけど。」


「今日の夜はよく寝れそうですね。」と最後に駄目押しをするとがっくり肩を落として束を受け取った。





*   *   *



机の上に最後の一枚の書類を放った原口さんが、つかれたひょうじょうで伸びをしながらしゃがれた声で「終わったーーー。」と言うとそれに釣られるかのように皆んな、皆書類を机に書類を放り出した。


「原口さん早いですね。」とキャップが言った。


「私も終わりましたよ。」


「緒方さんは?」


「俺ももう終わりですよ。池谷さんは。」と聞くと池谷さんが泣きそうな声で、「今終わりました。」と言ってキーボードの上に突っ伏した。


「一応池谷さんのが一番少なかったんですけどね。」


「どうだみんな手がかり見つかったか?」とキャップが言いながら立ち上がった。


「特に見つかりませんね〜大体保護施設での状況とか性格とかでばらばらでした。」と東山が言う。


「緒方は?」


「ちょっと、親の職業が気になったんですけど。」


「職業?」と原口さんが言う。


「はい、確か八王子の事件の父親が公務員だったんで。」


「確かに国の息がかかった里親に預ける可能性は有るな。おい池谷、職業が公務員のをだせ。」


「ちょっと待ってくださいよ、人使い荒いな。」と言いながら池谷さんは体を起こしキーボードを叩いた。


「出ましたよ、237件。」


「結構減ったな。」


「その中に片山敏雄と橋本勘助は居ますか。」と聞くと池谷さんに言うと班長が「片山敏雄は八王子の奴だったか?」と聞いてきた。


「はい橋本勘助は愛知で行方不明の子です。」


「ディープスロートが言うには、鹿児島にも一人いたらしいんですけど色々調べたんですけど記録が残ってなくて。」と言っている間キーボードの音が流れる。


「二人とも居ますよ。」


「良いじゃねえか。他に何かねえか?」


「はい。」と原口さんが皆んなより少し離れた所で手を上げていた。


「原口さん、何か有りましたか?」


「あのよう、皆んなも見てると思うんだけど、定期検査の欄が空白とチェックが打ってる奴って何が違うんだ?」


「ああ、確かに言われてみれば、施設で受けたか受けてないかの事だと思ってたけどよく考えたらちょっと変かも。」


「おい池谷、何か分かるか?」


「そんなの分からないですよ、僕はデータだけ取り出してるだけですから。」


「なんかねえのかよ説明とか。」


「これデータベースのプログラムですよ。注釈なんてついてないですよ。」


「池谷、一応チェックのあるなしでリスト分けてみろ。」


「有るが155です。」


「ってことは、なしがはちじゅう〜。」


「にです、82。」と東山が言う。


「82か、二人はどっちだ?」と言われて、読んでいる時にたまたま見つけて分けておいた資料を見て。「二人ともなしです。」


「タダ、この定期検査が何を指してるのか。」と言いながらキャップは自分の頭をペチンと叩いた。その音を聞いて5年前のある記憶が蘇った。


「そういえば、前の取材の時に調べたんですけど里親制度を使用した家庭とか施設は、定期的に立入検査があるんですけど、特定の条件では検査が免除されるらしいんですよ。前回の事件ではその制度のために問題が表面化しなかったんですけど。その条件っていうのが政府の要請だったり推薦があるってことなんです。ただ、前の時にその事を記事にして制度は無くなったはずなんですが。」


「池谷チェックがないやつだけのリストを印刷しろ、住所も付けろよ。」


「はいはい。」と言った後、業務用プリンタから得てきた一枚のリストにみんなが集まるり喰い入るように覗き込んだ。


「何か何人かが同じ住所で固まってますね。」と言った東山がスマホを取り出し調べ始めた。


「私営の孤児院みたいですね。」と私が言う。


「何箇所かあるみたいだな。」と原口さんも言う。


「あれ、この住所うちの管轄だな、あんまり良い噂は聞かねえとこだ確かそこの餓鬼が悪さしたからうちの少年課が引っ張ってたんだが、理事に政治家がいるってんで揉み消されたって聞いたな。」


「原口さんそんな内部情報話しちゃって良いんですか?」と班長が言った。


「良いんだよ、今は休暇中だから。独り言独り言。」


「原口さんそこって八王子にあるとこですよね?」とスマホをスクロールしながら東山が言った。


「ああ、確か。」


「その理事って前の前の厚生大臣の今井俊樹ですよ。」


「って事はその時の首相は今幹事長の大友熊八か、何だ何だ、急に永田町の中枢が出て来たな。」


「それに、私営の施設が受け入れたのに、親の名前は別でしかも公務員っておかしいですよね。」と思ったことを言った。


「確かにな。」


「どうしますかこっちの方も追います?」


「いやー、こっちも大きい事件だが、俺たちは人手が足りないからな、社会部に調べさせよう。」と班長が言うと東山の顔色が少し硬くなった。


「東山、大丈夫だしっかり調べるように言っとく、それに俺たちが追ってる事件と絡めて報道した方が、効果的だ。」


「わかりました。」


「じゃあ、個人の里親でチェックがないやつを洗い出すぞ。」とキャップが言ったのでリストの同じ住所が複数ある所にペンで色を塗り色が無いところを調べると。


「51件ですか。」と言うと、キャップが


「その中に二人は入ってるんだよな。」


「はいちゃんと居ますよ。」と池谷さんが疲れたように言う。


「おい、緒方どうする。」


「調べるしかないんじゃないですか、直接行って。」


「だよな。なら明日から足で確認してこい。原口さんも手伝ってもらえますか。」


「おう、良いよ。」

「ちょっと班長、このリストだと全部の都道府県に分かれてますよ。原口さんと、東山さんと3人しか居ないんですか?」


「しょうがねえじゃねえか、会社に秘密でやってるんだから。」


「対象の顔もわかんないんですよ。」


「それならちょっと待ってください。」と後ろから東山がスマホの画面を操作しながら割って入る。


「SNSで何人かは判るかも知れなですよ。」


「じゃあ池谷そう言う仕事好きだろ。やっとけ」


「えー俺は部下じゃないんですよ。」


「黙ってやれ、今度飯奢ってやるから。」


「どうせサイゼリアのくせに。」


「おい雲村、でもよ子供達見つけたらどうするんだ?子供達全員にあなたはテレパシー能力者ですかって聞いて回るのか?」


「いえ、それはまずいですね親に政府の息がかかってるんだったら私たちの行動が筒抜けになるんで子供達本人に里親であるかと能力が使えるかのに確認を取らなくちゃならないです。」


「班長、もしかして子供達の情報を公開する可能性ってあるんですか?」


「ああ、出来ればそんな事はしたくない。ただその情報がないと子供達に国が手を出せない状況は作りにくいのも事実だ。」


「でもそれをしたら、子供達の生活はこれまで通りじゃなくなっちゃうんじゃないですか。」


「ああ、報道の方法は状況に応じて選ぶつもりだ。実名の報道は出来る限り避けるようにはする。東山お前が言いたい事はわかる。だが彼らの生活ががかかった選択だどっちをとってもいい方には転ばない可能性もある。その時に俺たちが書く記事をどうするかはまた考えよう。」


「はい。」と東山の声は少し小さかった。


「なら明日から調査するとして、報告はみんな池谷にするように。原口さんもお願いします。」


「おうまかせな。」


「じゃあ方針が決まったとこで俺は帰るわ。」とキャップが話の流れをぶったぎったので皆んなが「はい?」と返して腕時計を見るともう16時を過ぎていた。


「すまんな、仕事だ。」


「ご苦労さん。」と疲れ切った声で原口さんが言う。


「じゃあなんか分かったら報告してくれ。」と言いながら背広を着てキャップは部屋を出て行った。


 静かな時間が数秒流れた後。原口さんがボソリと「休憩するか。」と言いながらタバコを一本口に咥えると池谷さんが。


「原口さんココ禁煙。」と言うとタバコをポケットにいれ立ち上がると扉に向かい始め再び池谷さんが。


「トイレでもダメですよ。」と言われた鬱陶しそうに。


「わーってる。」よと言ってとぼとぼ歩いて行った。


「あ、池谷さんと東山さんに頼みたいことがあるんですけど。」


「緒方さんも僕を馬車馬のように使うんですか?」


「頼みってなんですか。」


「ある研究所に忍び込みたいんですけど。」


「非合法ですか?」


「まあ、それは後で3人になった時に。」と言って私原口さんを追って外にでた。



*    *    *





 建物の屋上に出るとまだ陽は高く、太陽に照らされながら原口さんが壁にもたれかかってタバコを吸っていた。


「来たのか。」


「外の空気吸いたくって。」


「うんっ。」


「「・・・・・」」何も話さない数秒の後、おもむろに原口さんが口を開いた。


「多いな。」


「そうっすねやっと仕分けし終わったとこですもんね。」


「ああ。俺がガキの頃は、まだ国が貧乏だったし戦後で孤児だの何だのがクラスにもちらほらいたんだがな。」


「原口さんが子供の頃はまだ戦争の名残があったんですね?」


「まあな、記憶を美化する訳じゃねえが日本が今より汚くて臭くて田舎だったな。......」


「それ全然思い出が美化されてないですよ。」


「街がきれいになっても、みなし子はまだ多いんだな。」


「そうですね、実際リストだけで6000人以上居ますからね。30年前よりも倍に増えてますよ。」


「格差社会か。」と言っても原口さんは大きくタバコの煙を吐き出した。


「多分。」


「世知辛いね。」と言ってもタバコを字面に落として足でニギニギと火を消した。


「先入ってるからな。暑いからお前も早く入れよ。」


「はい。」と言って少ししてから自分も中に入った。




***



雲村キャップが帰った後皆で51人の子供の写真情報を探し、大方ネットで探し終わったのが21時を過ぎた所だった。


池谷さんの部屋を出て原口さんの赤いロードスターに乗り井の頭公園の方を見ていた。


「東山、どうした大丈夫か?」と原口さんがはなしかけてきたので、平静を装って横を見た。


「え?何がですか?」


「元気がないな。」


「そんなことないですよ。」


「雲村の事信用ならんか?」


「いえ、そう言うわけじゃ。」


「本当か?」


「はい、あんな人ですけどちゃんと筋が通っていて正しい事を言ってると思います。」


「考え方が少し違うか。」


「まあ。」



「東山、長く警察官だった俺が言うのもなんだがな、お前はジャーナリストっぽくないな。」


「私も前から向いてないなって思ってました。」


「いやいや、そうじゃないんだよ、雲村とか、緒方はな少し悪いことやってでも悪事を暴こうとするだろ。」


「はい。」


「奴らはな、それを正義だと信じて疑わねえんだ。だから結果は後から付いてくるって思ってる。悪と戦う正義だ。でもなお前みたいに弱者を第一に考えて報道をする弱者を助ける正義だってジャーナリストに向いてないとは俺は全然思わない。むしろそういう奴は俺が知る中でも少ない。」と言ったところで車はゆっくりと横断歩道で止まった。


「あいつらが行うのは、悪を倒す王道の正義だろ、だがなその正義は時として目的のためなら犠牲を顧みなくなる時がある。言いたいことわかるか。」


「はい。」と言われると何故か目元がムズムズしてきて、とっさに外の方を見た。


「そんな時にお前が奴等の頭を冷やしてやれ。俺はなあ、このメンツの中にお前がいてよかったと思うぜ。なんせ今回の事件の弱者は子供達だ。ただそいつらが加害者にもなるかもしれねえ。」


「はい」と言いながら急いで目元をシャツの襟で拭く。


「俺は未だにどっちが正しいのかはわからねえが。雲村達と意見がぶつかったら俺はお前の側に着くから覚えとけ。ってどうした?泣いてんのか?」


「泣いてません。」とは言ったものの鼻水をすすりながら両腕で目を擦っているのを見おられた。

「おう、すまんすまん、泣くなほら。」と言って原口さんが腕を伸ばして青いチェックのハンカチを差し出してくれたのでうけとった。


「泣いてません。」と言うが原口さんはこう言うことに慣れていないのか急におどおどし始めた。


「おい、腹減ったのか、ああそうだ飯でも食いにいこ久しぶりに外で、な。」


「青です。」とつぶやき窓側を向きながらフロントの方の青い信号を指差すと。


「ああ。」と言って車が走り出す。


「中華。」


「おっ中華か、わかった任せとけ。」と言うと車のスピードがグンと上がった。








***



10月1日



午後6時50分。俺と東山は長野県にある鉄道の駅近くにある駐車場に止めてあるヴィッツの中である人物が駅近くにある立ち飲み居酒屋に入っていくのを待っていた。


「そっちはどうでした?」


「全然ダメ、女の子なら女同士で何とか話が聞けるかなって思ったんだけど全く聞けないんですよ。そっちこそ如何なんですか?」


「全然、1人になった所で会いにいくんだけど、警戒して全く話してくれなくて。」


「原口さんは如何なんですか?」


「何か5人くらいから話を聞けてるらしいです、前の施設の話とかで能力が発現した子は、とかはまだ話してないそうです。」


「さすが原口さんだな。で、結局今会えたのって何人なぐらいなの?」


「確か9人だったかな。」


「2週間で9人って、先、長いな。」と話していると、見張っていた立ち飲み屋の入り口にひとりのグレーのスーツを着た男が入って行った。


「来ましたね。」


「緒方さん、本当にやるんですか?」


「当たり前だろやらなくちゃ。」


「でもこれ犯罪ですよ。」


「ばれなきゃいいんだよばれなきゃ。それよりもっといい服なかったのかよ。」と言って彼女の服を見る黒いパンツスーツだった。


「ひつれいな、このスーツ結構高かったんですから。」と言ってジャケットの下に来ている白いシャツのボタンを一つはずし、胸元の谷間が少し見えるように形を整え終わった後に「こんなんでどうですか。」とこちらに体を向け聞いてきた。


「いい感じ。」と答えながら胸元を脳裏に焼き付けた。


「早く行方不明の子達の行方を見つけないとな。」と言いながらドアを開け外に出ると反対側から東山が出てきて。

 

 立ち飲み居酒屋正面の上には、高さ2メートルは有りそうな天狗の顔面が私達を見下ろしてるようなの看板がついていた。


 この街は駅の周りが住宅地といった感じだがちょっと離れると田んぼと畑ばっかりで、近くに他の居酒屋もないので研究所の職員が飲みに行くところがここしかない為、周りの景色とは裏腹に中はスーツ姿の客が大入り満員だった。


「2時間だ2時間酒の相手してくれ。」


「分かりました、コレも子供達のため。」と東山は自分に言い聞かせていた。


 アルミサッシのガラス戸をスライドすると、大入りの客の奥でカウンターの中に何人もいる店員のいらっしゃいませーと言う大きな声が聞こえてきた。


「なん名様ですか?」と黒いシャツにタオルのバンダナを巻いた店員がいうので。指を一本立てると一緒の客だと思ってたようで「あ、別々ですか?」と聞き返した。


「はい。」


「お好きな席どうぞー」


 中に入ると店は奥が深くカウンターは大きなL字型で壁との間はとても狭く一番奥にあるトイレに行こうとする客はほぼ全員と体が擦れ合って、行ったり来たりおするだけでなん回もすいませんと言わなければならないほどだった。


「顔は覚えてるか?」と小さな声で東山に耳打ちすると下を向いて。


「大丈夫です。」と帰ってきた。


ゆっくり店の廊下を歩き目的の男を探すと奥から 4人目の場所で一人でビールを飲みながら焼き鳥を食べていた。


 男は小太りで眼鏡をかけワックスで髪をきれいに整えており見た目はに不快感は全くなかった。


ちょうど両脇に20センチほどの間があったので東山と両側を陣取ると男は自分の目の前の料理をを詰めて両側のカウンターを少し開けた。


「あ、ありがとうございます。」と愛想良さそうに東山が言うと男「いえいえ。」とオーバー気味に返す。


 店員がカウンターの中では背の低い女の店員が奥の方までやってくると先に自分が。


「生中と枝豆。」と私が先に店員に頼んだ後東山の方を少し見た。


「えーっとどうしよう、じゃあハイボールと、あの、コレってなんですか。」と対象の男に話かけた。


「えっ、ああ、焼き鳥の盛り合わせです。」と驚きながら答える。


「私も同じのを」と店員に頼んだ。


「すみません、ここ初めてなんで何があるのか分からなかったんですよ。」


「そうなんですか、メニューは上の木札に書いてあるんですよ。」と言っていたので見てみると黒く、くすんだ木札がなん枚も飾ってあた。


 いつのまにか男は東山の方を向いてカウンターに肘をついていて私は左肩にかけたリュックを床に置くフリをして男のバックを物色しようと下を見ると東山側に置いてあったので男に触らないように腕を伸ばすが指先しか触れることができなかった。


5秒ほど悪戦苦闘していると東山が気付いたのかヒールの先で少しだけ鞄を押してくれたので一気に引き寄せ、バックの一番外にあるポケットに入っている定期と一緒に入構カードが紐で繋がっていて手持ちに縛り付いていたので慎重にほどき、バックを元の位置に戻した。


 起き上がりカウンターから顔を出すと丁度女性の店員がジョッキを持ってきた所だった。


「おまたせしました、生ビールになります。」


「あっ、あの注文キャンセルできますか?」


「はい?」


「のどっかにスマホ無くしてきちゃったきたみたいなんで。」と言うと隣の男に。


「あのコレ、手をつけてないんで飲んでください。」と渡すと店員に向かって。「お会計お願いします。」と言った。すると男はびっくりしながら「あの、いいんですか?」


「はい、ちょっと携帯無くしちゃって。今から出るんで。」


「あっ、じゃあ、ありがとうございます。」と言われてすぐに会計をすませ外へ出て駅前のコインパーキングに停めてあったレンタカーのヴィッツに乗って研究所に向かって猛スピードで走り出した。


 研究所から駅まではバスが結んでいて、研究所の駐車場が少ないためほとんどの職員がそれで移動していた。


 車で田舎の幹線道路を30分ほど進むと車の窓越しに広い田んぼの中に総合病院のような大きな建物が見えてきて、カーナビの画面の目的地はその方向を表示していた。


 研究所から少し離れた幹線道路沿いにあるコインパーキングに車を止める研究所までの、街灯の間隔が長い薄暗い田んぼみちを歩いていると幹線道路の光に慣れた目では全く道が見えなかったが、歩いているうちに次第に目が慣れていった。


 10分ほど歩いて研究所につきくと、研究所は前に潜入した人能研の研究所に比べ警備がそんなに厳し苦なさそうで、外周はフェンスで囲まれていて高さもあまりなかったため街灯がなく暗い場所でフェンスを乗り越え近くのき影にしゃがみ込みリュックからケーブル接続の

インカムを取り出し耳に着け、二つ折りのスパイ御用達ケータイに繋ぎ池谷さんに連絡をした。


「もしもし、池谷さん。」


「もしもしーし。聞こえてますよ。」


「こっちは今フェンスを越えて駐車場の近くに居ます。」


「おお、じゃあ敷地内に居るんですか?」


「はい。」


「緒方さん。」


「何か、メタルギアみたいですね。」


「いやいやミッションインポッシブルでしょ。」


「そっちかー。」


「じゃあサポートお願いします。」


「了解、じゃあ一先ず建物の外にある非常階段のところわかります?」


「ああ、一か所しか外階段がないんで向かいます。」


「気を付けてくださいね、警備員は5人しか居ないんですけど巡回ルートがどうしてもわからなかったんで近付いてないか気を付けてください。一応監視カメラはハッキングしといたんでなんかあったら報告しますけど。」


「はい、お願いします。」


*** 



 目の前にある複数のディスプレイには解像度が荒い廊下と警備員の詰所の映像が映されていて目の前にあるメインディオスプレイにはGoogle マップで研究所と周辺を映し出されその中に研究所の建物に近づく赤いピンが立っていて、そのピンが少しずつ移動して建物の場所に重なると耳につけたインカムから緒方さんの声がした。


「池谷さん。つきましたよ。」


「了解、こっちもgpsで確認出来ました。じゃあ近くに入り口、有りますか。」


「ありますあります。今目の前ですただテンキーがついてるんですけど番号って分かります?」


「ああ、それテンキーの上にカードを重ねてください。」


「カード?あっ!」と言った後、少し間が空いてから小さい音でピーッと遠くから聞こえた後「入れました。」と聞こえてきたので端のほうにあるディスプレイに映し出された建物の3dの見取り図を目の前のディスプレイに持ってきた。


「了解、そこの設計図では地下が3階と地上5階までフロアがあるんですけどどっちに行きます?」


「・・・。」


「緒方さん?」


「何か目の前にカメラが動いてるっぽいんですけど。」


「ああそれなら大丈夫です、こっちで予め取っといた映像をループにして流してるんで。」


「了解じゃ地下から行きます。了解。」


 手元のスマホがブルッとなって見てみると、LINEで東山さんから「後何分?」とメッセージが来ていたので「今潜入したところです。」と送り直ぐに返信が来て「遅い‼️」「あんま話持たないから早く帰ってきて。」と帰ってきた。


「緒方さん。」


「はい?」


「東山さんからメッセージで、早く帰ってきてだそうです。」


「簡単に言ってくれますよ。」


「まあまあ、あっちも結構大変そうなんで、でもこっちも長くて30分位しか無いですから。」


「頑張ります。」




***




 さっき男がトイレに行ってる間に東山さんにラインをしてから20分ほどたち横にいる男(さっきそれとなく名前を聞いたら篠田と名乗っていた)はジョッキに半分ほど残ったビールを一気に飲み切とた。


「篠田さん、お酒強いんですねーすごい。」と小さく手をパタパタすると赤くなった顔でニコッとすると案外可愛く笑い、騙してると思うと胸が痛くなった。


「東山さんは飲まないんですか。」


「え、でも私あんまりお酒飲めないんで、酔っ払っちゃうかも知れないから。」


「えっ。」


「じゃあもし飲めなかったら篠田さん飲んでください。」


「任せてください。」


「僕が飲んであげますから。」と言って篠田さんは店員をよんで「じゃあハイボールと。」と言うと私の方を見て「東山さん何飲みます。」聞いてくるのでメニューを見ながら。


「じゃあこのバクダンってやつお願いします。」と言うと篠田さんは驚いた顔をした。


「かしこまりました。」と元気な声で店員が返事をした。


「大丈夫ですか。結構強いですよコレ。」


「えーっそうなんですか、私あんまりお酒の事分からないから面白い名前で選んじゃって。飲めなかったら飲んでくれます」と上目遣いで頼んでみると篠田さんは漫画のように胸を叩いて。


「任せてください。」と言った。


「おまたせしましたー。ハイボールとバクダンです」と言って店員が持ってきたのはハイボールと、ジョッキに入ったビールとショットグラスに入ったウィスキーだった。


「篠田さん、これってどうするんですか?」


「ああ、そのショットグラスごとビールの中に入れるんですよ。」と言って篠田さんはやってくれたので、一口飲んで。」


「すごい味ですね、甘いと思ってました。」


「飲めそうですか?」


「ちょっときついかも。あ、でもこんな強いお酒もったいないけど無理に飲まなくてもいいですよ。」


「大丈夫ですよ、もったいないし。僕が飲みます。」と言って篠田さんはそれをぐびっと半分ぐらい飲んだ。


「凄ーい。」



***



7時56分


「どうですか?」と緒方さんに聞いた


「地下二階は何も無かったです。」と言ってから、詰所の映像を見るとさっきまで5人歩いたのが今は3人になっていた。


「緒方さん、今警備員が二人、詰所を出ました。」


「どこに行くか分かりますか。」


「ちょっと待ってくださいね。」といいながらディスプレイ群の中から階段の踊り場を探し出すと丁度警備員が上と下に分かれて階段を進んでいった。


「一人は上で一人下です。少し隠れてますか?」


「時間がないんで地下三階に警備員が車で三階を調べてみます。」


「分かりました。そこの階はあまりカメラがないんで状況があまりわかりません。あと当直みたいなのがあっての研究員も居るみたいなんで気を付けてくださいね。」


「了解。」



***




 地下三階にある狭いモニタリングルームの二つの27インチモニターのうちの一つには、小さなウィンドが15個、碁盤の目のように開いていて全て安定した波形を刻んでいてもう一つは5人の子供達の様子がカメラを通して写っていた。


 この研究所では研究員はほぼ残業しないため7時を過ぎると当直の人間と警備員しかおらず無気味な雰囲気になる。


 三年前就職した時には夜勤があるなんて聞いてなかったし、実際今年になるまで無かったのに4月に昏睡状態の女の子が運び込まれてから急に夜勤が始まり、その後4人が相次いで運び込まれた。


 夜勤と言っても俺みたいな下っ端の研究員にはモニターに映されたデータをモニタリングして異常があれば報告と対処するだけだった。


 研究所には夜勤を想定して無かったため当直室がなく仮設のモニタリングルームの壁側に長椅子が一台とキャスターが付いている丸椅子があった。長椅子に寝転びながら、夕方出勤する前に買ってきた週刊モーニングを読んでいたら、子供達を映している画面が一瞬白飛びした。


 起き上がり画面をみていると再び、一瞬白飛びするが横の波形はどれも変わっていなかったので不審に思い懐中電灯を持って治療室に向かった。


 廊下を進むと奥からコツコツと小さな音が聞こえてきたので曲がり角で一旦止まると、何処かからか半自動ドアの引き戸が閉まるドンという音がした。


 曲がり角の影から覗き込み誰もいない事を確認するといゆっくり治療室までの廊下を歩きだし「守衛さんいるんですか。」と何故か小さな声を出したあと今度はもうちょっと大きな声で「守衛さん?」と言うと治療室のドアの細いガラスの部分から一瞬光が見えたので近くにあった扉の横にある機械にカードをかかげて鍵を開け身を隠しながら少し頭を出し治療室を見たらドアがゴロロロと空いて中から懐中電灯のような光を持った人間が現れたが顔は逆光で見えなかった。


 コツコツと次第に近づいてくる光に恐怖を感じていると「先生ですか?」と気の抜けような老人男性の声がしたので「えっ。」と言いながら相手に近づいていくと白髪がボサボサで口髭を蓄えた小柄な老人だった。


「何だ、守衛さんだったんですか。」とほっと胸を撫で下ろす。


「どうかしたんですか?」

「いや、子供達のモニタリングをしてたら映像に光が映り込んで何かあったのかと思ったんですけど、守衛さんだったらいいんですよ。それより守衛さんはなんでこっちに?」


「いやね、ここの部屋から物音がするなって思ったんで入って見たんですよ、どうも子供が寝返りを打っただけみたいですが。」と言われたので治療室の入り口まで行くと寝巻きを着たひとりの男の子の腕が布団から出ていたので近付いてかけ直した。


「大丈夫ですかな?」


「はい、いいみたいです。いやーほんとによかったですよ。誰かが入り込んだかと思いました。」


「今日は1人ですか?」


「そうなんですよ、本当は無かったんですけど友達がどうしても変わってくれって言うんで変わってやりました。」




***




守衛と研究員の話声が遠くに行くのを確認すると小声でマイクに話しかけた。


「池谷さん、どうですか?」


「大丈夫ですよ守衛は帰ったし、もう1人も宿直室の方へ行きました。早くベッドの下から出たほうがいいですよ。」


「え?」


「今確認したんですけど宿直室のモニターにその子たちが映ってるみたいですすいません。」


「了解。」


「外は誰もいないんで直ぐ出れます。」と言われ直ぐに部屋を出て階段に向かった。


「いやーほんと心臓飛び出るかと思いましたよ。カメラのフラッシュ機能の切り忘れてて。」


「ご心配かけました。でも何で2人も来たんですか?」


「ああ、それはどうも子供達の上にあったカメラがそこの防犯設備のネットワークじゃなくて内部で後から作られたネットワークに繋がってたみたいなんですよ。」


「ああ、そうい言う事ですか。」とは返すがなにを言ってるのか全く意味がわからなかった。


「それより、さっきの守衛も詰所に戻ったみたいなんで急いでそこから出ましょう。東山さんからまた催促のラインが来てるんで。」


「了解。」



***




 9時56分、30分前に池谷さんから向かってるって書いたラインが送られてきて30分がたった。


 横にいる男に随分お酒を飲ませてるけど、案外お酒に強くて全然眠そうな気配がないのに、私は付き合って少しだけ飲むだけなのに酔い始めていた。


 赤い顔で少し喋り方が覚束なくなった男がチラッと腕時計を見て。


「ああ、もう9時か、帰らないと。」と言い出した。


「もう帰るんですか?」



「はい、だって明日も仕事があるから。」


「でも私もっと、篠田さんと話したいです。」


「本当ですか?嬉しいな・・・。でもダメです、僕は仕事に生きる男なので。」と下に置いた鞄を取ろうとしゃがみ始めたところで。


「ねえちょっと待って、いっぱいだけあと一杯だけ飲みましょう。」


「でも東山さん、全然飲まないじゃないですか。」と少し悲しそうに男は言った。


「そんな事ないわ。」


「ウソだー。」


「あなたと一緒にゆっくり飲みたいだけ。」


「本当ですか。」と少し考えた後。「でもやっぱり今日は帰ります。僕いつもここで飲んでるんで

また会いましょう。」と言って鞄を取るため屈み数秒そのまま止まってびゅっと立ち上がると

「無い。」と呟きながらカウンターの上にバックを置き中をあさり始め、終いには逆さにして中のものを全部ブチまけた。


「無い無い無い無い。」と呟きながらからのバックを覗いていた。


「どうしたの?」と聞くと泣きそうな声で。


「カードがないんですよ。」と血相をかえながら行った。


「カード?」


「職場に入るカードです。あれがないと無茶苦茶怒られるんです。」


「どこまであったんですか?」


「確かバスに乗るときに定期を使ったんでこの駅のバス停に来た時には有りました。」


「じゃあここからバス停の間を見て来た方が良いんじゃない。」と言うと私は荷物はそのままに、店の入り口に走って行ったのを見送り、店員の女の子に。


「すいませんお冷ください。後お会計。」と注文したあと少ししてから、伝票を持って来て。


「1662円です。」と言った。


「結構安いんですね。」と言いながら二千円を渡すと「ありがとうございます。」と言った後店員は耳元まで顔を近付け「隣のひとがほとんど飲んだのはそっちの伝票にしときました。」と小声で言った。


「ありがと。」と言いながらお金を渡すと。入り口の方から気の抜けた様子でゆっくり篠田さんが歩いて来た。


「有りました?」


「はい、お陰さまで。」


「何処にあったんですか?」


「何か店の看板に掛かってました。入る時に引っ掛かったみたいです。」と言うと店員の方を見

て「お会計お願いします。」と話した。

 

 携帯を開いてラインを見てみると緒方さんから「今外の看板に掛けた。」と書いてあった。しばらくして女の店員が紙とレシートを持ってきて。


「お釣りとレシートです。」と差し出そうとしたので「お釣りは貴方にあげる。」といいレシートだけを受けとり入り口の方に歩きながら後ろ歩いて行くと後ろから「3806円になります。」と言う店員の声と、「結構高いですね。」と言う篠田君の声が聞こえて来た。

 

 店の出入り口の扉を開けると「「ありがとうございました。」」と店員たちの挨拶が聞こえ、それを背に店を出た。


 駅の前のロータリーを見回すと来るときに乗って来たヴィッツが一台止まっていて中には緒方さんが乗っていたのでゆっくり歩いていき、助手席に座った。


「時間内dったでしょ。」


「遅いです。」


「怒った?」


「あのひと案外お酒にけ強かったんです。」


「確かに体デカかったしね。」


「私、あんまり得意じゃないんです。」


「あんまり顔に出ないんだ、全然普通に見えるよ。」


「今凄い気持ち悪くって吐きそうです。」


「えっ?」




***


10月2日



 ピンポーンとインターホンの音がして、横の部屋にある画面をに写っていたのは原口さんだった。


「どうしたんですかこんな朝から?」


「なに寝ぼけてんだ、もう1時だぞ、とっとと開けろ。」


「今開けます。」と言ってボタンを押して外の鍵を開けるといつものパソコンの前へ行き電源をいれてからキッチンに向かい二つのグラスに氷とアイスコーヒーを注いでパソコンがある部屋に戻ると原口さんにコーヒーを渡した。


「おうサンキュー。」


「あれ、原口さん今日来るって言ってましたっけ。」


「いや、昨日の夜こっちに帰ってきてな。ほれ。」とお土産の紙袋を渡された。


「あざっす。」


「で、皆んながどんな感じか見に来たんだ。ほら、緒方が忍び込んだんだろ。」


「ああ、ちゃんと成功しましたよ。」


「で、どうだ?」と言われながらパソコン前の椅子に座った。


「緒方さんが撮った写真には5人の子供は写っていました。」


「5人か、二人多いな、もう事件が起こってたのか。」と言われて昨日徹夜で警察のサーバーをから探し出した報告書のコピーをディスプレイに出した。


「いえ、最初の3件以外は事件になってなかったです。」


「どういう事だ?」


「1人は、町中でなぜか道路に倒れていたのを病院に運び込まれたみたいです、もう1人も同じように町中で倒れてたんですけど、近くに何かが燃えたような痕跡があったようなんです。ただ子供と痕跡に何の接点も見つからなくって事件にはなってません。」


「その2人はリストに載ってたのか?」


「はい。」


「やっぱり石井会が人能研の跡を継いだって事か。」


「そうみたいです。」


「あと38人かまだ先は長いな。東山と緒方は今日はどうした?」


「2人とも今行ってますよ。緒方さんは長野で、東山さんは神戸です。」


「おお、がんばるね。」


「原口さんは今日はどこか行かないんですか?」


「いやな、今日の夕方腰の病院に予約取ってたんでな、それまでここの近くに誰かいないかと思ったんだけどな。」


「ああ、関東は一昨日緒方さんが行った千葉が最後なんで、今日はゆっくり休んでくださいよ。」


「じゃあ、そうさせて貰うわ。」と言ってディスプレイを見ていた原口さんはコップに刺さったストローをチューっとすすった。




***





 朝起きて目を開けると見慣れた白い壁紙の天井だった。サッカーボール型のめざまし時計が7時半の場所に針が指していた。



 10月2日月曜日、の日に目覚まし時計をセットした時間に起きれたのは偶然じゃなく、これから昔いた施設の仲間に会いにいく旅に出て行くためだった。


 別に今の家族に不満が有る訳じゃなく、強いて言うなら少し嫌になるぐらい過保護なのと、友達と県外へ旅行したいときにやたら反対されるぐらいだ。


 起き上がり椅子の上に置いてあるリュックの中を開き教科書やノートの一番奥にキャッシュカードと貯金通帳が入ってるか確認した後、部屋を出た。


 一階の食卓に用意されている目玉焼きと食パンがある所の椅子に座り朝食を食べながらパックのまま置かれている牛乳をコップに注ぎ一口飲むと後ろから庭繋がるガラス戸がガラガラと開き、「ああ、祐太おはよ。今日お母さん早行くから、それ食べたら洗っといて。」とい言いながら空の洗濯かごを小脇に抱えスーツを着た母が入ってきた。


「うん、わかった。おとんは?」と言いながら、フォークで黄身を潰し、出てきた半熟の黄身と細かく割いた白身を混ぜたのをトーストに塗った。


おかんは「もうでてったわよ。」と言いながら洗面所の方へ歩いて行った。


「早ね。」と聞こえるように少し大きい声で言うと。


洗面所から大きな声で「そうなの、6時にいきなり起きて、忘れてたって言うからすぐに朝ご飯作ったの7時ぐらいに出てったよ。あっ、冷めてたらチンしてね」


「うん?いい。」と言いながらリモコンでテレビを付けた。


「それと、今日から衣替えだからえだから学校から冬服で学校行きなよ。」


「わかった。」と言うと玄関の方からバタンと扉が閉まる音がした。


 少し後ろめたい気持ちになりながら今も繋がってるような気がする昔の仲間達の顔を思い出したのは今年に入って何度も見る夢が原因だった。


 その夢は仲間が超能力を制御できずに暴走して倒れる夢だった。


 その夢は妙にリアルで自分が仲間達と魂が入れ替わって超能力を使ってるような感覚になりその後には必ず何処か心の中から仲間との繋がりが消えて無くなったような不安な気持ちと体全体が怠くなるので、仲間が心配になり家族に黙って一人で県外に出ることにした。


 貯金通帳には30万円近くあるため46人を訪ねてるのにどれだけ必要かは分からないけど何とかなるだろうと思っていた。


 もともとの計画は学校へ行くふりをして家を出て何処かで私服に着替える予定だったが、母が先に家を出たのは都合がよかった。


 朝食を食べ終わり食器を片付けテレビを切ると部屋でジーンズとチェックのシャツに着替え鏡で自分を見ると歳の割には身長も170あるし見た目も同年代にしては大人っぽく見えた。


 そしてリュックを背負い部屋を出た時だった、リビングから電話のベルの音がし、急いで電話にでると何も聞こえてこなかった。


「・・・・」


「誰ですか?」受話器に話しかける。


「カット ルーキー カフェ 1121」と女性の自動音で読み上げられたと思ったらガチャっと音がした後通話が切れた音がプープープーと鳴りそれと同時に目の前が真っ白になった。




***




 昨日緒方さんが運転する車で吐きそうになり、緒方さんが咄嗟に差し出したゴミ箱に吐きながら、長野駅前のホテルに行き、一泊し二日酔いで頭が痛い中、5時に起きて朝一番のワイドビューしなのに乗って名古屋に着いたのが9時17分、それから新幹線に乗って神戸に着いたのが11時9分、結局今日の目的の市原美香という女の子が住んでいる場所に着いたのは1時前だった。


 10月に入ったのにここの天気は嫌なるほど暑く、いい天気だった。


 目的の場所は起伏の激しい閑静な高級住宅街にある低層マンションで目的の女の子はここの3階に住んでいるはずだったけど、まだ学校から帰ってくる時間までは時間がありそうだったので近くに公園で、駅のキオスクで買っておいたおにぎりを食べようと、来る途中で見た公園に向かった。


 公園に着くと端の方に藤棚がありその下に備え付けのベンチとテーブルがあった。


 そこにはサボりなのか、セーラー服を着た女の子が両肘をついて俯きながら座っていた。


「ここ座っていい?」と確認するように問いかけると彼女は俯いたままどうぞとハリのない声で答えたので机の向かい側に腰をおろし、レジ袋からおにぎりを二つ取り出しながら彼女をチラッと見ると、顔色が悪く額には玉のような汗をかいていた。


「あなた大丈夫?」と聞くと、彼女はこちらを見ることなく俯いたままだったので彼女の後ろへ回り込み彼女の肩に触れた瞬間彼女の体が一瞬びくっと震えた後、頭を上げこちらに顔を向け険しい顔で「私です。」と言いながらた細い手で私の腕を力なく掴んだ。


「えっ?」


「お姉さんが探してる人。」といきなり言われた為状況がはっきりと呑み込めなかった。


「どう言うこと?」


「私はテレパシーが使えるから。」


「美香さん?じゃあなたが?」


「うんん、多分お姉さんが思ってるような事をやってるの私じゃ無い。」と彼女が調子が悪そうにしながら言った時、急に黒電話の着信音がしびっくりした後自分のスマホだと思い出し彼女の手を腕からゆっくり解いて自分のバックへ取りに行った。


 スマホの画面には非通知と書かれていた為緒方さんのガラケーだと思い電話に出ると疲れ切ったような緒方さんの声が聞こえた。


「やばい、ひどい目にあった、こっちの奴が当たりっぽい。」


「えっ、どうしたんですか?」と言うと横から肩をポンポンと叩かれ、振り向くといつの間にか移動していた市川美香が調子悪そうに「祐太くんを助けてあげて。」と言ったのと同時にスマホからは緒方さんの声で。「野上祐太にやられた。」と声がしていた。



***




 昨日の夜、ゲロゲロになった東山をホテルの部屋まで送り届けた後、自分の部屋に戻ってから寝て、次の日朝7時にホテルを出た後、次の対象の住所まで車で向かった。


 30分ほどで着いた場所はど田舎の農村地で、周りを山に囲まれた長野県の集落には棚田と石垣で起伏の激しいところだった。


 対象が住んでいる建物から少し離れた場所に車を止めその中から対象の野上祐太が出て来るのを待った。


 朝食にと、昨日買っておいたシャケのとツナマヨのおにぎりを食べながら待っていると10分ほどしてから家から中年のスーツを着た女性が出てきてそのまま庭に止めてあった軽自動車に乗り込み何処かへ走って行った為来るのが遅すぎたかと心配したが、庭に出るためのガラス戸にテレビの光が反射していた為そのあとも少し待つことにした。それから少しして反射しているテレビの光が消えその後30分ほど待つと玄関から私服の少年がリュックの方側を肩にかけ玄関から出てきて自転車に乗って出て行った。


 平日なのに制服じゃないことに違和感を感じたが、家から離れた人気があまりない場所で声をかけようとを後をつけた。


 暫くすると稲が刈り取られた棚田の脇にある畦道に入ったところで、車の速度を早め、横に来たところでガラス窓を開け話しかけた。


「ねえきみ、ちょっと道を教えて欲しいんだけど。」と言うと少年こちらを向き、その顔はどことなく赤みがかり目がつり上がりこちらを敵視している様に見えた。


 少年は急に自転車を止めたので私も少し進んだところ車を止め、少年に近寄って行った。


 少年は自転車から降りて、そのままの場所にずっと立っていた。


 怯えた野生の生き物のような視線をこちらに向けてくる彼に私は、叙々に近づいていき少年に話しかける。


「君、野上祐太くんだね?」


「何で名前を知ってる?」


「実は、僕は新聞記者だ。」と言うと、彼はおもむろに手を伸ばし私の腕に触れた瞬間、5年前に見た夢の中で、爆発に巻き込まれる場面がふっと現れた。


「そうか、・・あんたが緒方か。」と言いながら私の目をずっと見つめているといきなり私の、みぞおちに右手で掌底をくらわさてたと、思った瞬間その細い体格からは考えられない強い力で押し込まれ体が後方へ飛んでいき、畦道の端にあった、20センチ程の丸っこい岩に頭を打ち付けそのまま畔の横から少し落ちて止まった。


 その後すぐにみぞおちの痛さと頭の痛さを感じたが、次第にうっすらと消えていき一緒に意識を失った。



***



「おぁ〜い、あんちゃ〜ん死んでっか〜。」と耳元で気の抜けた声大きな声が聞こえたの同時に頬をペシペシと叩く感触を感じ、パッと目を開けると皺くちゃで上顎の前歯が二本無い色黒の老人が顔を覗き込んでいたのでとうとう自分は死んだんのだと思い「爺さん、死神か?」と言ってしまった。


「バカ〜、せっかく助けてやったのに何が死神だ。」と言いながら、筋と皮しかないような痩せこけた体に、だらだらに伸びたランニングシャツを着た爺さんが麦わら帽で私を扇ぎながらしゃがんで顔を覗き込んでいた。


「爺さん、今何時だ?」


「どうだべな〜、いえー出たのが昼食ってからだったで、イチジぐらいじゃなかべ。」と言いながら爺さんは私の顔の上から顔をどかした。


「いちじ?」と訛りが激しくついぼそりと呟き、空を真正面に望みながらポケットの中からホープを一本取り出して口に加えたがポケットあるはずのライターが見つからなかった。


「爺さん火あるか?」


「ヒィ?そんならさっきそこいらで拾ったが、オメーさんのかい?」と渡されたライターで火をつけ、そのライターを、良く見ると私の緑色のライターだった。


「おい、あんちゃん、助けてやったんだから俺にもくれんか。」と言われたのでポケットからホープの箱を取り出しライターと一緒に爺さんの方に投げた。


「全部いいかい?」


「ああ、お礼だよ。」


「お礼だったら財布の中のもん何枚かくれてもいいんだぜ。」と言われ車の中に置いたままだと思い出す。」


「悪いけど今、手持ちがなんだ勘弁してくれ。」


「若いくせしてしけてるな。」と言いながら爺さんは肺いっぱいに煙を吸い込み、鼻と口から大量の煙を吐き出した。


「うるせえ。」


「あんちゃんここらへんのもんじゃねえな。ここで何してたんだい?」と言われ。


「俺なんでここにいるんだっけ。」と聞き返してしまった。


「オメー頭からチー出てるけど大丈夫か?」といわれ額を触ると。「もっと後ろ後ろ。」と言われ後頭部を触り傷口に触て痛みを感じた時、野上裕太のことを思い出し、噛み締めるように「あっやられた。」と呟くと。


「ほー。誰にやられた?」


「野上祐太って奴だ。」


「祐太って野上の家の里子か?」


「爺さん知ってるのか?」と言いながら起き上がった。


「そりゃ〜隣にすんどるでな。あいつは最近おかしいんじゃ。」


「おかしい?」


「時たま、その辺を裸足でふらふらしとると思って話しかるとな、すげー剣幕睨んでその後どっかに走ってくんじゃ、そんで別の日に話すと、そん時の事は全く覚えとらん。」


「いつ頃のことだった?」


「そうじゃのー、先月に一回あったかのー?」


「先月のいつ頃か覚えてるか?」


「もう覚えとらんなー。あ、そういや確かトミさんの葬式の帰りだったかな。」と言って履いているステテコのポケットからガラケーを取り出し、どこかへかけ始めた。


「あ、もしもし、みちこちゃん今いいかい?ああ、うんうん。あの〜、先月にトミちゃんの葬式あったろ?うんうん。ああそうそう、でそれっていつだったかな?ああ、いいよ待っとるで。」と電話に話しかけた後こちらに向かって「ちょっと待っとれよ、今調べとろるから。」と言った後再び受話器に耳を付け30秒ほどしてから「ああ、ああそうかわかった、ありがとな。愛してるよー。」と言った後マイクに向かってチュッと音をさせた後携帯を二つに折り畳んだ。


「みちこちゃんって誰よ?店の女の子かなんか?」


「バカ言え、わしの嫁じゃ。そんなことより折角聞いたのに聞かんでいいのか?」


「いや、ごめんごめん、そんでいつだった?」


「9月9日の夕方じゃ。」と言われ、八王子の事件があった火だったのを思い浮かべた。


「マジかよ。で時間とかわかるか?」


「どうだったかな〜、葬式の帰りだで、夕方だったと思うけどなー。」


「夕方か。・・・」と言った後ポケットの中に車のキーがない事に気づき「爺さんここら辺に車の鍵落ちてなかったかい?」と聞く。


「鍵?もしかして、あの車ってお前のか?」と爺さんがレンタカーを指差したので「借りてるレンタカーだ、けど。」と言って車の鍵を刺しっぱなしにしていたのを思い出したのでポケットに手を入れてスマホを探すがそれも無くなっていたので飛び起きて、車に向かうとハンドルの付け根には鍵が刺さっていて、助手席には財布とスマホが置いてあった。


 そこでふと、エンジンを止めてなかったことを思い出しガソリンメーターを見ると針がエンプティーを指していた。


「どうだ、あったか?」と後ろから声がした。


「ジイさん携帯貸してくれ。JAFを呼ばないと。」


「高いぞ。」言いながら爺さんは携帯を渡してくれた。




***




 

 新神戸駅の切符売り場で2人分の指定席の切符を買い、直近で出発する14時26分発の東京行きの新幹線に乗り込んだ。


 車両の中はあまり乗客はおらず、私が座るシートの周りには誰もいなく2人がけのシートの窓際に顔色が悪い市原美香を座らせ、通路側に私が座った。


 私たちが座ると同時に車両がゆっくりと動き始め、外を眺めると太陽が雲に覆われて少し暗くなっていた。


 視線を市原美香に向けると彼女はまた体を丸め俯いていた。


「ねえ美香ちゃん、さっき貴方が言ったとうり東京に向かってるけどこれから何をするか説明をしてくれる。」と話すと彼女はむっくり体を起こしこちらを向くと。


「野上くんを助けて欲しいの。」と力無く話した。


「野上くんっていうのは長野にいる野上祐太くんの事?」


「長野にいるかは知らないけど。多分そう。」


「まって、まず貴方は何で私達の事を知ってるの?」


「最近、昔の友達何人かに会ってるでしょ。」


「えっ、他の皆んなと今も連絡してるの?」


「他の子はラインとかで連絡取り合ってるっぽいけど私はやってない。」と言ってる時に後ろの方から車内販売の声が聞こえたので一瞬そちらを見た後気分が悪そうな彼女の顔を見て「アイスクリームほいし?」と聞くと彼女はコクリと頷いた。


 立体パズルのように綺麗に商品が詰め込まれたワゴンを押した販売員の女性が近くに来てアイスクリームを頼むと、「バニラと抹茶、あとピスタチオが有りますが如何いたしますか?」と聞かれたので、隣に「何がいい?」と聞くとボソリと「バニラ。」と答え、バニラとピスタチオを一つずつ頼んだ。


 私と彼女は目の前のテーブルを出しプラスチックのスプーンで食べようとすると、アイスクリームの表面は傷が付くだけで全く中に入っていかなく逆にスプーンが折れそうになって私は彼女の方を見ると彼女も私の方を見ていた。


 その状況がおかしくて「ちょっと置いてこっか。」と彼女にいうと彼女もコクリと頷いて、その顔はどことなく顔色が少し良くなった気がしたので疑問を聞くことにした。


「ねえ、貴方は何で私達が皆んなと会ってるって知ってたの?」


「よくはわかんないけど、多分私、昔いた施設の皆んなと繋がってるんだと思う。」


「じゃあ何さっき私が、貴方を探してるってわかったの?」


「それは、時々なんだけどなんかに触ったりするとブワーって頭の中に入って来るから。いつもじゃないけど。」と言いながら彼女はスプーンでバニラアイスの表面にばつ印を描きながらスプーンについた少しのアイスを舐めていた。


「入ってくる?」


「そう、映像見たいな写真見たいな、感触とか匂いとかもある気がする。」


「サイコメトリーみたいな?」


「なにそれ。」


「分かんなければ気にしないで、それより皆んなと繋がってるって如何いうこと?」


「ああ、そっちもなんとなくなんだけど、皆んなといつも繋がってる感じがするの。別に会話ができるわけじゃないんだけど。」


「それってテレパシー見たいな?」


「多分そう。」


「じゃあ野上くんを助けてって如何いうこと。」と聞くと彼女はアイスクリームを弄んでいたスプーンを止めた。


「野上くん最近変なの、時々凄い変な感じになって、時々他の子もおんなじ感じになっちゃう時があるし、そうなった子って野上くん以外は皆んなその後は繋がれなくなるの。」


「繋がれない?」


「うん今日も朝から感じないし。」


「でも何で東京なの?」


「何となくいる方向がわかるの。」


「じゃあその野上くんは何で東京に向かってるかわかる?」


「分かんない、でも何でかわからないけど他の子達も東京に向かってるみたい。それに何となくみんなのこと感じにくくなってる。」


「増えてるって如何いう事?」


「分かんない、でも野上くんが変になってから少しずつ増えてる気がする。私皆んなと繋がってるからかもしれないけど気持ち悪くなっちゃって。」


「あなたのその能力っていつからあったの?」


「あんまり覚えてないけど記憶がある時からみんなと一緒にいる感じはずっとあったと思う。」


「前の施設の時から?」


「多分そうだと思う。」と言ってるうちにいつの間にか車内案内が流れていたみたいで新幹線は新大阪に着いていて少ししてから車両の前後から大勢の観光客やビジネス客が入って来て車両は満席になったのでこの事についての会話を辞めた。



***



 色がすえて、まだらに薄まったアール・デコ調の茶色いビードロのソファーに座りテーブルを挟んで向かい側には、元厚生労働大臣が経営する児童養護施設の定期検査控除の資料をマジマジと読み込む田中がいた。


 昼を過ぎたこの時間オフィス街にあるこの喫茶店には私と田中以外に客はおらず店内の天井の隅にあるブラウン管テレビには昼ワイドショーが写っていた。


 机の上に置かれた二つのアイスコーヒーの私のグラスは空になっていてカランッと氷の山の一画が崩れる音が店内に響いた。


 田中は足を組みながらソファーの端に斜めに座り、資料を読み始めてから30分ほどずっと同じ姿勢で、ただホッチキスで端を止められた資料を定期的にめくる行為を数回していた。

 

 私は無くなったコーヒーのお代わりを頼もうとウェートレスに向かって手を挙げようとしたとき田中の方から何枚も紙をめくる音が聞こえてきたので目を向けると丁度読み終えたようで、テーブルにパッと資料を置きその上にかけていた眼鏡を置いて眉間を指でもんだあと、手をつけていなかったアイスコーヒーを半分ほど飲んだ。


「どうだ?」と田中に聞くと。


「確かにいい線いってると思う。」


「じゃあ。」


「でも何でこんなデカイ話をこっちに寄越す?」といった後少しテレビの方を見て考えてから再び口を開き「そうか分かったぞ、何隠してる雲村。」


「バレたか。」といって毛のない頭をコリコリ掻きながら。「前に調べてたのがやっと記事になりそうなんだけどな、社主に止められるかも知れないから。」


「で、社会部を巻き込もうって訳か。」


「恨むな、お前の所の種を育ててやったんだ水まくぐらいしてくれてもいいじゃねえか。それにそっちにもメリットはあるだろう、今井俊樹は大友政権で厚労大臣になったが今の橋爪内閣でも内閣改造前まで留任してた。もし俺達のが駄目になっても、そっちの記事だけで首相の任命責任は十分追求できる筈だ。」と聞いた田中は腕を組みじっとコーヒーを見つめ少しの間考え、こちらを見て口を開いた。


「この資料を作ったのは東山か?」と田中は静かに聴いた?


「ああ。」


「いつから?」


「俺たちと一緒にやりはじめたのは前にお前とあった2、3日前からだ。お前原口さんって覚えてるか?」


「原口って、警視庁に居た?」


「ああ、あの時は定年間際で八王子にいて、丁度東山と知り合いだったからかくまって貰ってたらしい。」


「東山は無事なのか。」と自分で理解するように呟いた。


「よく、東山が書いたって分かったな。」


「目を掛けてたからな。」


「過保護になり過ぎて嫌われたか。」と聞くと田中はふっと笑って何も言わなかった。

 

 そこに私のジャケットの内ポケットから黒電話の音がなったので取りだしてみると緒方と表示されていたので田中にことわって店の外で電話に出た。


「おう、どうした?」


「キャップ、東山が見つけました。」


「犯人をか?」


「すいません、犯人かもしれない子を見つけたんですけど逃げられました。」


「逃げられた?」


「はい、何があったのかはいきなりのことだったんでよく分かんないんですど、何故か何メートルか吹っ飛ばされてさっきまで気絶してました。」


「気絶ってお前は大丈夫かよ?」


「怪我は無いんで大丈夫です、それよりも東山の方で、鍵になりそうな子を見つけて新幹線で東京に向かってるそうなんでキャップ東京駅まで迎えにいってもらえませんか。」


「おお、分かった何とかする。」


「後原口さんと池谷さんにも連絡して貰っていいですか、車の中に鍵と携帯を閉じ込められちゃって、電話番号分からなかったんで。」


「それは良いんだけどお前の方は大丈夫か?」


「はい、今JAF呼んでるんで解決したらボクも東京に戻ります。」


「おう、分かった、気をつけろよ。」といって電話を切って、原口さんに掛けようとしたとき店の中から、田中が慌てたように出て来て。


「おい、テレビを見てみろ。」と言うので急いで店内に駆け込みテレビを見ると、画面には東京駅の煉瓦造の丸の内口をヘリから撮影した映像が写っていたが、その駅舎は私が知っている形ではなく、正面から見て左側の駅舎の屋根が吹き飛んで灰色の煙や土埃が舞っていて横にある高層ビルの低層階の窓ガラスが割れ、破片が地面に散らばっていた。


 駅では所々から何本もの煙が立ち昇っていて駅内部での火災が想像できた

 

 映像に呆気にとられたわたしは「何だこれ。」と呟いてしまった。

 

 テレビのスピーカーからははワイドショーの司会者が何が起こったかは分からなく警察がテロや事故などの理由を含め捜査をしてるといった事を反復して話すばかりだったが、次の瞬間ピロピロピロと字幕速報の音が鳴り大阪駅で爆発が起きたという情報が流れワイドショーの司会者は数秒間言葉をなくしていた。


「田中。」と声を掛け、会社に帰ろうとした時にスマホから音がした。画面には原口さんと表 示され電話に出ようとすると、テレビから再び字幕速報が流れ福岡駅で駅舎が火事になったと表示され、田中の方を見ると手帳を見ながら誰かと連絡をとっていて、私は原口さんからの電話にでる。


「雲村、ニュース見てるか?」


「はい、原口さんは大丈夫ですか?」


「ああ、今は池谷のとこにいる。」


「良かった。ちょっと頼みたいことがあるんですけど東山がこっちに向かってるんで迎えにいってくれませんか、誰か連れて来るみたいなんで。」


「おう分かった、どこの駅だ?」


「まだ連絡取ってないんで、直接おねがいします。」

「分かった。お前は今から東京駅か?」


「はいちょっと忙しくなりそうなんでそっちの方任せることになりそうです。」


「わかった、こっちは何とかするからお前もきいつけろよ。」


「はい。」といって通話を切った。


  テレビ画面には再び字幕速報が流れ名古屋、福岡でも同様の爆発や駅舎の倒壊が起きていると映し出された。



***



 同時多発的に起きたターミナル駅の爆破事件のため東京駅が4時から封鎖されたので、北陸新幹線はくたかは上野までで止まってしまったため仕方なく新宿経由で東山と原口さんとの合流場所である品川駅に着いたのは5時前だった。


 無数に並ぶ改札口を出ると人混みの中三角柱の時計の根本に原口さんと東山その横に具合悪そうにしゃがんでいる電話で名前を聞いた市川美香がいて、2人はその横で何かにのぞきこんでいたので小走りで近づき「お待たせしました。」というとこちらに振り向いた東山は心配そうな顔で。


「緒方さん。」


「すいません、時間かかって。」


「いえ私達も、結構新幹線の中で待たされたから今来たとこです。」


「良かった。俺も上野で降りられたから新宿経由で来ようとしたら電車は遅れるし人で混んでて結局1時間半ぐらいかかりましたよ。」


「それより緒方これ見たか。」と原口さんが差し出したスマホの画面にはツイッターに投稿された動画だった。

 

 動画は東京駅でカップルが撮ったもののようで女性がカメラを撮っている男性に話かけている映像が数秒間つづきいきなりバックで火柱が起こる映像だった。

 

 私は二人の方を向き「これは。」と聞く?


「ツイッターで今大量にリツイートされてました。」と言われもう一度映像をみると、最後のところで火柱にズームするするところで録画が切れていた。


「あ、ちょっと最後の所コマ送りで再生してもらえませんか。」と東山が言うので少し前にもどしコマ送りで動かすとズームされた火柱の根本に中心に逆光の人の影が一瞬写って映像が止まった。


「これは。」と聴くと東山は座っている具合の悪そうな女の子の方をちらりと見て小さな声で。


「わかりませんけどなんかありそうじゃ無いですか。」


「この子具合悪そうだけど大丈夫?」


「なんか東京に近づくにつれて、ひどくなってきてたんですよ。」と聴くと東山は市川美香の前でしゃがみ込み「どこに居るかわかるの?」と聴くと彼女はおもむろにみどりの窓口を指差し「あっち側」と言った。


「緑の窓口か?」と原口さんが言う


「違いますよ、大体北西の方です。」と東山がスマホの画面を見ながら言った。


「向こうにあるっていやあ田町に新橋、有楽町って繁華街ばっかだな。」


「何言ってるんですかその先には東京駅ですよ。」と東山は私の持っているスマホを見詰める。


「多分東京駅だと思う。」と市川美香はポツリと言うと。


「じゃあこの事件っはこれまでの事件の続き?」とふっと頭に浮かんだことを呟くと原口さんが。「でもよう、規模が違うだろ?」と言うと東山が「もしかしてこれまでは練習で今回が本番だったんじゃ。」と、一つの仮説を話した。


「今回って大阪、名古屋、福岡も?」と東山に聞き返すと彼女は市原美香に「一度に何人も操れると思う?」と聞きく。


「私は出来ないけど野上くんならできるかも。」


「まあ、ここで話するのもあれだしそろそろ車に行こうぜ。この話はそこで。」と原口さんが言うと市原美香はゆっくりと立ち上がり歩き出した。


「おい、嬢ちゃんどこ行くんだ?」と聞かれると彼女はポツリと「くるま。」と言って。出口の方へヨタヨタと歩き出した。


「車って、誰の?」と自分と東山さんを見渡した。


「「さあ?」」


「あの嬢ちゃんに車の置き場教えたか?」


「いいえ、私も知らないですから。」といってみんなで彼女を追いかけた。


「ったく最近の若い奴は。」と原口さんは小さく呟いた。



***


 8階建ての毎朝新聞社屋の8階に社主の執務室があった。


 室内には壁掛けのテレビから流れて来る全国で起こった爆発事件の報道特番のキャスターの声が流れていて、どの局も情報がまだ少ない為、東京駅から半径2キロ圏内に居る人は指定の待避エリアに移動してくださいと、同じ原稿を繰り返し読むだけだった。


 さっきまでは映像に各社報道ヘリからの中継映像が流れていたが警察からの要請でヘリでの飛行を止めるように通告され午後3時を過ぎるとどこのチャンネルでもそのような映像は無くなり封鎖エリア外の街の様子を流すようになっていた。


 執務室の一番奥にある大きく威圧感のあるデスクの前の皮張り椅子に座りながら、夕刊の締め切りギリギリに起きた事件のため内容が浅くなった夕刊を読んでいると、重厚な雰囲気の家具が集められたこの部屋の中で一番チープな感じを覚えるプラスチックの白い電話機の呼び出し音がなったので受話器を取ると秘書の竹下美智子だった。


「社主、大友幹事長からお電話です。」


「うん、繋げてくれ。」と言うとすぐに通話が切り替わった。


「忙しい所すまんね。」大きく凄みの効いた声がした。


「いえ、幹事長こそあんな事件の後で。」


「ああ、それなんだがな毎度で悪いんだが頼みがあるんだ。」


「頼みですか。何でしょう?」


「単刀直入に言うと今回の事件についてあまり詮索せんで欲しいんだ。」とバツが悪そうに言うので少し呆れたように。


「あのですね幹事長、20年ぶりに起きた同時多発テロなんですよ。今だってどのテレビ局も特番を組んでるあのテレビ東京だってやってるんです。」



「それはわかってる、ちゃんと記者会見もやるし政府見解もしっかり出す。だが衆議院の選挙が来年の春だということもある。君も知っている様に首相は平時の国政運営には強いがこう言った緊急時のやり方を知らない。それに我が国民のいい所はすぐ忘れてくれる事だ。」


「国民をばかにしてるんですか。」


「それを君が言えるのか?」


「しかし!」


「くどい。君は私が思っている以上に自分の立場がわかっていない様だな。文屋は新聞に私たちの言う事を書くだけでいいんだ。社会正義なんて迷惑なもん振りかざすな。自分だってそれで甘い蜜を吸って来なかったなんて言えんだろ。」


「・・・・。」と答えに詰まっていると相手は再び落ち着いた声で「よろしく頼む。」と言った後プツっと通話が切れたので投げる様に受話器を置いた。



***




 原口さんが雲村さんに頼まれ、皆んなを迎えに行き私は一人になってから、雲村さんに東京駅など全国で起こってる事件の情報を集めるように電話で頼まれた為ディスプレイの横に置いてある無線機で警察無線を傍受したり携帯のハッキング、ツイッターのなどで東京駅の情報収集をして居ると、パソコンのスピーカーからチャランっという音と共にスパイケータイの暗号解読が完了したとウィンドが画面出てきたので、キーボードを別のパソコンに合うように接続を切り替え、暗号化されているデータをいくつかのフィルターにかけるとプログレスバーが表示された。


 無線機からは定期的に通信が流れてくる音を聞きながら、壁にかかっている時計を見るともう5時40分をこえていた。


 原口さんが私のグレーのランドクルザー70に乗って品川に向かってから3時間ぶっとうしで仕事をしていて一息つこうとキッチンに向かい湯を沸かしていると、デスクに置いてあるスマホが鳴った。


 火を消してスマホを取りに行くと画面に緒方さんの名前が表示されていたので出て見ると緒方さんが出た。


「緒方さん、怪我大丈夫ですか?」と聴くと忙しそうに早口で「大丈夫です。それより今から東京駅に行くんですけどどこも渋滞してるんでいいルートパソコンで調べられませんか。こっち、なんかネットが遅くて。」


「ああ、丁度よかった雲村さんに全国の爆破事件について頼まれてて調べてたんですよ。政府も警察もいまだに会見してないし全く情報が出て来ていないんで。其れより東京駅に何しに行くんですか?」と言いながらデスクに向かいたったままネットを開く。


「東山が連れてきた子が言うには野上裕太が東京駅に居るみたいなんですよ。」


「本当ですか!て事は今回の事件も?」


「そうかもしらません。まだわかりません。」


「雲村さんは知ってるんですか?」


「それがキャップに何回も掛けてるんですけど出ないんですよ、どこにいるか知ってます?」


「さあ、1時過ぎにかかってきたときは会社にいたみたいですけど。それより東京駅なんですけど事件が起きてすぐ東京駅から6キロ圏内は緊急配備になって2キロ圏内は封鎖されたみたいです。多分車では近付けないと思うんで歩いて行ったほうがいいかもしれないですよ。多分一般人は2キロ圏内には入れないと思います。テレビの中継もどこもできてないみたいなんで。」と言うとシステムチェアに座りデスクトップに貼ってある連続爆破と書いてあるフォルダからデータをいくつもの画面に素早く表示した。


「封鎖って、どうにか中に入る経路とか見つけれないですか?」


「ちょっと難しそうですねー、軍事衛星がハッキング出来ればいいんですけど。どうも警察はG事案で捜査してるみたいです。」と言いながらキーボードを打ちハッキングした警察関係者のパソコンのデータを漁っていると緒方さんは何かを考えていたのか少ししてからこう言った。


「g事案ってテロとかゲリラですか?」


「同時多発テロを疑ってるみたいです。」と言うと少しの沈黙の後。


「池谷さん、どうにか東京駅に向かうルートって探せますか?」


「いやーちょっと難しいですね今監視カメラとかみてるんですけど、多分地上は厳しいです。」


「ですよね。」


「たださっきから、無線聞いてると地下鉄が止まってから、そこら辺の情報が少ないんで、地下からなら行けるかも。」


「線路をですか?」


「そうです、丸の内線の。でも赤坂見附から淡路町まで封鎖されてるんで距離的に見てお茶の水から忍び込むのがいいんじゃないですかね大体2、3キロぐらい。」


「地上じゃ無理そうですか?」


「いけない事は無いと思いますけど行くなら停電とかで完全に暗くしてからじゃ無いとダメでしょうね。」


「そうですか。」


「もし地上から行くんなら原口さんについてもらったらいいじゃ無いですか。辞めたの最近だからもしかしたら間違えて中に入れてくれるかもしれませんよ。」


「ちょっと考えときます。」


「まあでも、ほんとに行くんならこっちで警官のスマホのGPSを見てサポートしますよ。」


「ありがとうございます。ひとまずこっちでどう行くか考えてみます。」


「すいませんあんまり役に立てなくて。あ、もし地下から行くなら丸の内線は第三軌条でレールの横に電気が通るレールがあるんで触らないように気を付けて下さい。」と言って通を終えた。





***




 緊急の編集会議の為、社会部のフロアの端にある会議室へ向かう為エレベーターにに乗っているとチーンと言って扉が開き外に出ると同じタイミングで別のエレベーターから出てきた田中と会う。


「よく会うな。」


「ああ。」田中が答えながら一緒に会議室の方に歩いて行く。


「何か掴んだか?」


「いや、どの道もグリッドロックで東京駅に繋がる鉄道はどこも運行中止だ、しかも東京駅の周りは封鎖されてるから情報を手に入れようにもな。それに警察も政府もまだ会見を開いてない。それにどの情報源もみんな一斉にダンマリかましてるから多分上も情報を出しあぐねて箝口令を敷いてるんだろ。一体あそこで何が起こってるんだか。悲しいのは今の情報源がSNSだけだって事だな。そっちは」


「こっちも似たようなもんさ、うちは少人数だから一人居ないだけでも大変だ。」と話しながら会議室の前に差し掛かると田中のジャケットから黒電話の音が鳴ったのでスマホを取り出すのを見て自分がオフィスにスマホを忘れていたの思い出すが、開けっ放しの扉の中に社主の姿を見つけたので取りに行くのを諦め、社主に一礼して中に入る。


 中には小さな部屋のの真ん中長テーブルが並行に二つ繋げられていてその周りに15人ほどの各部署の部長クラスの人間が集められていて、私たちが最後のようだった。


 社主の横には黒いスーツに黒縁メガネで30代前半ぐらいの綺麗な社主の秘書が立っていたて席に着くと秘書が会議室の外に出て扉を閉めた。


 社主はずんぐり小さな体をムックリ起き上がらせ、いつものようにゆっくりとした話し方で話し始めた。


「みんな、時間がない中私もこんなとこに来てしまってやりにくいだろうから、ちょっと喋ったらすぐに帰ので少し聞いてくれ。皆も知ってる通り私はもともと政治記者で今でも、時の政権とも懇意にしていた。それについては皆にも意見はあると思うが私はそれが報道の一つの側面だと思っていたし、会社や社員の為だとも思っていたがその為に苦労した者もいるだろう。だが皆も知ってるようにここ数時間の間の政府の対応はお粗末だ。東京、名古屋、大阪、福岡で多発テロが起きてるのに会見もしない、関係者に箝口令を敷いてると言う噂もある。しかもいまだに死傷者の報告もなしだ。民衆が不安な時にこの対応は憂慮すべき事だし、私は政府に失望している。そこで皆、我が社は今日この時間から書かれる記事の一文字までを民衆の知る権利の為とする。皆、自分の良心に乗っ取って責任有る記事を書いてくれ、責任は全て私が取る。政府の利益に沿わない事だろうと民衆の為であれば書きなさい。以上。」と熱く熱弁し尽くした社主は全てを出し尽くしたかのように飄々とした感じで扉のほうを向きそのまま直ぐに扉を空けて外に出て行った。



***


 社主の秘書として、会議が始まる前にそとへ出た私はエレベーターが来るのを待っていると、背が低いキッシンジャーのようなが見た目の社主がとぼとぼ地面を見ながら何かを考えているかのように歩いて来た。


「社主、早かったんですね。」


「ああ。」と気が抜けたような疲れたようなように社主は答え、エレベーターが来るまで何も話さなかった。


 チーンとエレベーターが到着すると社主に先に入ってもらおうと待っていると彼はボタンを押して「どうぞ。」と促した。


 社長室がある11階のボタンを押して上に向かっていると彼はいきなり。


「言っちゃった。」


「何がですか?」と聞くと。


「自由に記事を書いていいって。」といったので。


「かっこいいですね。」と言うと少し嬉しそうに。


「本当?」と聞き返して来たので私は「はい。」と答えた。


「これから、忙しくなりそうだ。君にも頑張ってもらうからね。」と自信を取り戻したように言うので、男って幾つになっても単純なのかと思いながら「はい」っと答えると少ししてから。


「じゃあ今度食事に行かない?」


「セクハラですよ。」


「そうか。」と少し落ち込んだように声が小さくなったので「考えておきます。」と答えるとチーンと目の前の扉が開いた。

 



***




 太陽が落ち、車のまわりは何処までも続く渋滞で車のライトが道の果てまで等間隔で列を作っていた。池谷さんとの通話を切ると、横にいた原口さんが。


「どうだ?」


「ダメです。東京駅は2キロ圏内が封鎖されてて、東京駅には近づけないです。ただ、地下が手薄になっているみたいで、御茶ノ水から線路に沿って歩いたらもしかしたらってとこみたいです。それか原口さんが行けばもしかしたらいけるかもって。」


「俺は一週間前に定年だぞそんなに警察は馬鹿じゃねえよ。それより御茶ノ水までだと封鎖って事は皇居の西側から行かなくちゃならんな。」


「はい、でもそっちの方も渋滞してるみたいで。池谷さんは歩いたほうがいいんじゃ無いかって。」と言うと、後ろの座席から東山が身を乗り出して「ダメですよ。」と言ったあと壁にもたれ掛け俯く彼女の方をチラッと見た。


「美香ちゃんがこんな状態でそんな距離歩けませんよ。」と言うと、市川美香がゆっくりと身体を出し、「大丈夫、それより裕太君を助けて。」


「野上裕太は無事なのか?」と聞くと彼女はコクリと首を縦に振り「多分。」と言った。


「だがな、助けてって、その野上裕太が、あの爆発を起こしたんだろ。俺たちが行ってどうにかなるのかよ。」と原口さんが言うと、東山が「裕太くんは、誰かに操られているみたいなんですよ。」


「操られてるって洗脳かなんかか?」


「それは、わからないですけど。でも美香ちゃんが今こんな状態なのは裕太くんと無意識下で交信してるからみたいなんです。」と彼女の代わりに東山が言う。


「どういうことですか?」と聞くと、市川美香再び話し始める。


「多分、裕太くんがみんなを操ってる。でも、いつもの裕太くんはそんな事する人じゃ無い。」


「でもよう、前の施設から出てからはみんな顔を合わせて無いんだろ、嬢ちゃんはそんなことまでわかるのかい。」と原口さんがバックミラー越しに彼女を見ると彼女は首を縦に振った。


「多分私はみんなの中でも結構能力は高いと思う。いっつもみんなのことが何となくわかってたから。それと裕太君は私よりも強い。」


「ならそれが本当だとして、誰が何の為にその野上裕太って奴を操るんだ。」


「分からない。でも今年に入って、何回か同じような感覚になった。」


「同じような感覚って?」と俺が聴く。


「頭の中のに何かヌメっとしたした感覚そのものが入り込んでくる感じ、私の中の全てを覗いて私を塗り替えようとする感じ。」


「塗り替える感じ?」と聞くと。


「うん今日も朝からそんな感じだった。」


「その前はいつその感覚になったか覚えてるかい?」と聞くと彼女は少し考えた後。


「9月の最初の方だったと思う。確か雨が降ってた。」と言われたので、スマホを取り出し9月の神戸の天気を調べると、九月前半に神戸で雨が降ったのは九日から十一日までの3日間だけだった。


「それって、九日かい?」


「はっきり覚えてないけど、確かその日から何日か雨が降ってたと思う。」と聞くと東山が、こちらを見た。


「緒方さん、その日って。」と言うので私は頷いた。


「八王子の事件。」と言った後、市原美香の方を向いて「片山敏雄君のことは知ってる

 ?」と聞くと彼女は縦にうなずく。


「今はどうなってるかわかる?」と聞くと首を横にふる。


「九月くらいから敏雄君の感じがしなくなった。」と言うので足元に置いてあったバックから手帳を取り出した続けて「橋本勘助君は?」と聞いた。


「前は感じてたけど今は分からない。」と言う。


「感じなくなった時も気分が悪くなったの?」


「あんまり覚えてないけどそのぐらいにもあったと思う。」と言った後原口さんが。


「なら、本当に野上裕太がみんなを操ってたのかよ?」


「時期はあってます。」


「でその野上裕太も誰かに操られてるってのか?」


「彼女が言う通りなら。」


「じゃあ、そいつは誰なんだろうな。」


「わかりません。ただ、裕太君に話を聴ければ何か分かるかもしれません。」


「どっちにしろ、今はその野上って奴に合わないかんのか。だがなあ俺たちだけでそいつを止めることが出来るのか、あんな事起こす奴を。」と原口さんがいうと、市川美香が「私が説得してみたい。裕太君多分相当力使っててこのままだと体が持たないと思う。」と言った後私が「それに警察に捕まったら、黒幕の事も聞けなくなるし、そのままこの事件が国に揉み消されるかもしれないです。」と言う。


「緒方さん、まずは野上君を助けることが先決です。」


「そうだな、嬢ちゃんが言うことを信じるんなら、先に俺たちで見つけねえとな。とりあえず、御茶ノ水だ。」と言うと、原口さんは裏道の方へハンドルを切った。



***



 社主が会議室から出て行った後室内は静まり返っていて、その張り詰めた空気を壊したのはさっきまで社主が座ってた席の横に座って居た、背が高く小太りの主筆だった。


「ありゃ、なんか言われたな。」と呆れたように言うと主筆以外の全員が一様に吹き出すように笑いだし、それを見回した彼は周りを諫めるように「不謹慎だぞ、時間がもったいないからそろそろ始めよう。」と言いながらまるメガネを掛けた。


「誰か、今回の事件についての情報はあるか。まず田中。」と言われた田中は胸ポケットから安っぽい透明なボールペン新聞と毎朝新聞と書かれた縦開きのメモ帳を取り出した、読み上げ始めると、周りの人間はペンを使って話すことを皆各々のメモ用紙に殴り書きし始めた。


「今のところ、めぼしい情報が不自然なほど情報が出てきてなくて、ただ、たまたま警察無線が混線してたのを聞いた人が、g事案と言っているのを聞いたそうです。」


「g事案。」


「はい、それと警視庁術科センターから人員輸送用のトラックと立川の訓練所からヘリが共に東京駅に入ったそうです。」


「サットか?」


「もしくはシット。」


「テロか・・・。目ぼしい、グループから犯行声明は?」


「今のところどこからも出てません。」


「被害者の数は分かったか。」


「辺りの大きな病院に何人か張り込ませてますがなったく中の様子がわかりません。ただ車の入り方からして最低でも死傷者100人は軽く超えそうです。」


「多いな。他には?」


「いくつかありますが、どれも裏付けかできてません。」


「わかった。それじゃあ政治部は。」と言われ喋り始めたのはネクタイを崩しシャツの一番上のボタンを外し、長袖をぐしゃぐしゃに捲った50代くらいの細身の伊藤と言う男だった。


「はい。警察がこの後7時ごろに会見を開くそうです。後、口の緩い議員の何人かにあたってはいるんですけど、誰もかれも、この件になると口をつぐみます、しかも警察族の野党議員まで。もしかしたら今回のはテロじゃ無いかもしれませんよ。」


「テロじゃなきゃ何だ。」


「それはまだわかりませんが、先月あたりから防衛省界隈で変な動きがあるみたいで。」


「もったえぶるな。」


「ここ二週間ほど防衛省と厚生省の間で何かの責任の押し付けあいしてるみたいで、詳しいことはまだ分からないんですが厚生大臣と防衛大臣の総理との面会が七月の2倍になってます。ただ、今回の事件と直接関係が有るか分からないのでひとまず、今回の事件と政府の関係を重点的に野党にあたってみます。」と言っているのを聞いて田中が私の方を見たので目で軽く頷いて「ちょっといいですか。」軽く手をあげた。


「雲村、なんか有るのか?」


「今の話なんですけど、もしかしたら今うちで追ってる件と関係が有りそうで。」


「今追ってる件?」


「5年前の事件と関係ありまして。」と私が言うと主筆はメガネを外した。


「5年前?」


「スーパーソルジャーの。」


「子供達か。」


「はい、その子供達が原因で全国で事件が起きてるみたいなんですよ。」


「事件?」


「今のところ火事とか水難事故、交通事故なんですが。」


「バラバラだな。」


「ただどの事件でも当時の子供が中心にいるんです。それに絡んで前の厚生大臣の汚職疑惑が浮き上がって来たんでそっちの方を田中に頼んだところです。」


「そんなの聞いてないぞ。」


「最初、田中に圧力がかかったので。」


「八王子か?」


「はい。」と主筆が聞くと深く椅子に座り少しの間中を見て少し考えた後、口を開いた。


「会議の後雲村、田中、伊藤はここに残れ、この問題は危険だ、今回の非常時にこの話を記事にするには時期がよく無い。国民の不安感を煽りすぎる。今は今回の事件に集中しよう。ここにいる全員この話は他言無用で頼む。」と言うと、主筆は別のものに質問を振り会議を進めた。



***




 御茶ノ水に到着したのは8時を過ぎた頃だった。


 その頃にはもう車の渋滞は解消していて、車は少なくなったが街中の通行人はいつも通りいて、鉄道の駅の周りやタクシー乗り場には交通手段がなく帰ることが出来ない人達が、最後尾が見えないほど長い列になって並んでいた。


 車で地下鉄の御茶ノ水駅周辺を走り、どうにか侵入出来ないか確認するがどの出口にも制服を着た景観が貼り付いていてたので再び池谷さんに連絡を取ると、封鎖圏内に住んでいる人は検問で本人確認してから入っていて、検問がないところはどこも通行止めされてるとの事だった。


「今、いろんな所の防犯カメラを見てんですけど、どこも封鎖されてます。どうします、やっぱり地下ですか。」


「そうしたいんですけど、どの入り口にも警官が貼り付いてて。」


「そうですか、一応御茶ノ水駅と淡路町駅のカメラはなんとかしとくんで。行くときに連絡ください。」


「わかりました。」


「ああ、あと東京駅に向かうなら携帯は緒方さんのスパイ携帯だけってってください。それ以外のは多分gpsで全員居場所がバレると思います。」


「わかりました。」と会話した後通話を切った。


 一旦車を湯島聖堂の近くに止め、原口さんが話し始めた。


「で、どうする?」


「どの通路も封鎖されてるみたいです。」


「だが全部ってこたーないだろ。路地裏とか探せば。」


「原口さん、探してる暇ないかも。」と言われ後部座席を見ると、市原美香がさっきよりも衰弱したようすで顔色が白くなり額に汗をかいていて、東山がハンカチで汗を拭いてやっていると彼女がさっきよりもしんどそうな声で「まだ大丈夫、でも皆んなの気配が少なくなってる。」と言った。


「少なくなってるって。野上ってのは大丈夫なのか?」と原口さんが聞くと彼女はうなずき「でも、人が減った分私がきついかも。」と聞くと原口さんは「やっぱり、地下で行くか。」と言った。


「どうするんですか、あの警官は。」


「東京駅はお前ら3人でいけ、警官は俺がなんとかするから。」と言うと東山が座席の間から身体を出し心配そうな顔で原口さんを見て「危ない事はダメですよ。若くないんだから。」


「なんだよ、心配してくれんのか。」


「当たり前じゃないですか、定年退職した元刑事が捕まったなんて記事書きたくないですから。」


「大丈夫、ちょっと声掛けるだけだ。少し遅れるからお前ら先に行っててくれ、後から追い付くから。」と言われた東山は原口さんのじっと見て「分かりました。」と言って後ろの席に戻った。

 

 池谷さんに地下から行くと連絡した後、全員が車に携帯を置いてそとんいでた。


 丸の内線の御茶ノ水駅は入り口が道路を挟んで向かい合わせに地下へ繋がる入り口があり池袋方面の入口はシャッターが閉められており荻窪方面の入り口には立ち入り禁止と書いてあるテープが貼られにその前に制服を着た警官が一人立っていた。  


 私と原口さん、東山、市原は近くにある大学の門の死角から入り口の方を見ていると、原口さんがおもむろに駅の方に歩いて行き、警察官に話しかけると警官は持っていた手持の無線機で何かを話した後原口さんを連れて、駅の中に降りて行った。


 しばらく待った後、信号待ちで人通が少なくなるのを見計らいながら素早く駅の中に入っていった。


 階段を降りきると構内には電気がついていたが誰も居なかったので慎重に事務所から見えないように改札へ向かうと事務所の方に人の気配があるのを感じながら体をちじめ窓口がある改札を通りプラットホームから線路に降りた。


 明るい駅から暗い線路の方を見ると、等間隔で長細いライトが点っているが先が曲がっている為か奥を見通すことが出来ないためとても不気味に思た。



***



 会議が終わり主筆、社会部の田中、政治部の伊藤と俺だけが会議室にの残っていた。我々3人は主筆が喋りだすのを待っていたが、主筆は何かを考えているのか椅子に深く座り眉間に深いしわを作りながら目をつむったまま数十秒の静寂が続いた。


 そしておもむろにメガネを外し眉間を親指と人差し指げもにながら。


「雲村、お前のとこはいつから取材してた?」


「9月10日の八王子の事件があった次の日です。」


「どうりで最近ネタの掘り下げが浅いと思ったら。…で誰が追ってる?」


「うちの緒方と社会部の東山です。」


「東山って捜索願いでてただろ。」


「身を隠してたのをなり行きで見つけたんで一緒にやってもらいました。」と言ったら再び主筆は黙り込んだ。後田中に向かって。


「お前はいつから知ってた?」


「最初の頃に雲村から。」と言った後主筆は再び私の方を見て。


「この後はどうするつもりだったんだ?」


「先に汚職疑惑を記事にして外堀を埋めた後こっちのを出そうと。黙ってた事は謝りませんよ。」


「わかっとる。」


「主筆、今回の件に圧力をかけて来たのって内調ですか?」


「ああ。」と主筆が言った後、伊藤が。


「内調って内閣情報調査室か?危ないな。」


「ああ、で色々調べたら5年前の子供たちが最近になっていきなり能力に目覚めて暴走した後、昏睡状態のまま病院から行方不明になってる。」


「政府が連れ去ってるって事か?5年前の子供達はそんな能力なかっただろ。」


「ああ、ただ居なくなったときに、どの事件でも怪しい奴らが居たって情報もある。」と言った後主筆が口を開いた。


「雲村、この件を調査してるのは政府は知ってるのか?」


「はい、今回の調査では前回の提供者からも情報を引っ張ってきてるんですけど、緒方が会った時にどこかの実行部隊が突入して来て接触して来たそうです。」と言うと伊藤が「それも内調?」と聴く。


「多分な、全員スーツの男でリーダーだけ若い女だっららしい。緒方が言うにはおっとりした丸の内OL風らしい。」と言うと、伊藤は「ったく、ふざけてやがる。」と吐き捨てた。


「一先ず3人とも、さっき社主が言ってた事もあるから、この件は記事にしてしっかり追求していくが、如何せん今は時期が悪い。緒方いつ頃記事に出来そうだ。」


「連載で記事にしようと思えば明日からでも行けますただ、後二週間もあれば確実な記事にできると思います。」


「他がスクープ狙ってる痕跡は?」


「どうとも言えませんけど、こんなネタ相当調査してないと、どこの新聞も記事にできませんよ。ただ汚職は調べればなんとかわかりそうなんで。」


「そうか、なら明日から汚職の記事を出そう。今回の事件が落ちついたら子供達の記事も出す。そうだな、二週間後だ、社会部と政治部はきついと思うが人を割けるなら調査報道班と連絡し合って取材してくれ。くれぐれも他の会社に情報が漏れないように。」と言って会議は終わった。


 自分のオフィスに帰って来てスマホを確認すると緒方と東山から連絡が来ていたので二人と原口さんに連絡すると全て電源が入ってなかったのでタバコに火を付けながら池谷に通話をした。


「雲村さんみんな心配してましたよ。」


「会議しててな。すまん、なんかあったか?」


「緒方さんたちと市原美香が今東京駅に向かってるんです。」


「何、今どこだ?」と話しながら驚きで口に加えたていたタバコを床に落としてしまい、屈んで拾いながら。


「さっき御茶ノ水から丸の内線の線路から東京駅に向かったんでもうすぐ大手町駅に着くと思います。」


「なんでそんなとこにいるんだよ、今封鎖されてるはずだろ。」


「しょうがないですよ。市原美香が野上裕太は東京駅にいるって言ってるんですから。しかも、もしかしたら追ってた事件の一つかもって。」


「確実か?」


「いやまだ確実とは、ただTwitterでバズってる動画を見る限りだともしかしたら。」と言われ目の前に置いてあるノートパソコンで東京駅、爆破と検索するが会議の間前まで見ることが出来た動画は、検索結果のどこにも見当たらなかった。


「その動画って駅舎で炎の中に人が写ってるやつだろ。」


「はい。」


「今ネットで探してるんだが何処にも無いんだ。もしかしたら削除されてるかもしれないからもし保存してたら送ってくれないか?」


「いいですけど、そう言うのって新聞社でも保存とかしてるんじゃないんですか?」


「オフィスから出てくのが面倒だからな。」


「太りますよ。」


「うるせえ。」


「今そっちの携帯に送ったんで確認して下さい。」と池谷が言うとすぐにスマホの画面にメールの受信画面が映り、受診一件と表示がされた。


「おお、きた。それよりなあ緒方たちは今大丈夫か全く電話に出ないんだ。」


「GPSで追跡されたくないんで、みんな今携帯持ってないんですよ。」


「じゃあ。どうやって連絡取るんだよ?」


「緒方さんがスパイ携帯を持ってます。ただあの携帯の解析が終わってなくて電話番号が分かんないんで向こうからの連絡待ちです。多分もう直ぐ淡路町に着くんですぐ電話かかってくると思いますよ。」


「なら緒方から連絡が来たらこっちに連絡する様に伝えてくれ。」と言ったあと通話を終え

机の上の電話で主筆に内線を飛ばした。




***




 真っ暗なトンネルに等間隔で灯る明かりを頼りに数分歩くと、思ったよりもすぐに目当ての大手町駅の光が見えて来たので後ろから付いて来ているはずの二人を見ると、市原美香はさっきと変わらず辛そうだで東山が腕を支えながら歩いていたので私も少し戻り手を貸しながら駅の手前の影に隠れた。


 息を潜めプラットホームの方から聞こえてくる音に耳をそばだてると遠くからコツコツと靴の踵が地面を鳴らす音が聴こえた。


 二人の方を向き闇の中に微かに浮かび上がる二人の顔を見て動かないようにと目で合図を送りながら音が遠くに消えて行くのを確認するとポケットから携帯を取り出し池谷」さんに連絡する。


 コールが2回鳴ったあと受話器の向こうからといつも通りあっけらかんとした話し方で池谷さんが出た。


「もしもし、どうかしました?」というので今の状況を伝え駅のカメラを使って誘導してもらうように伝えると「了解。」と言ったあと受話器の奥からキーボードが鳴る音が聴こえ、その間、池谷さんは話を続けた。


「あ、そうだ、さっき雲村さんから電話が来てこっちに電話してくれって言ってましたよ。」


「連絡ついたんですか?」


「はい、会議してたみたいです。」


「怒ってました?」



「驚いてましたけど怒ってはいないと思いますよ。」と言ったあと奥から聞こえるキーボードの音がやみ「緒方さん、ゴメンなさいどうも大手町は地上への出口が全部閉められちゃったみたいで、そのまま東京駅まで地下道を通って下さい。」


「えっ、さっきまでは空いてたんですか?」


「はい、ちょうどそっちが地下に入る時には開いてたんですけど今確認すると閉まってて。とにかくまだホームに警官がいるんで気をつけて駅を抜けて下さい。後、今東京駅の監視カメラを見てるんですけど地下のカメラは写ってるんですけど地上は何処のカメラも動いてません。地下も非常灯以外ほとんど明かりがなくて全く状況はわかりません、さっき丸ビルのカメラをハッキングして、駅も見てるんですけど真っ暗です。途中で警察と会うと厄介なんで注意して行って下さい。」


「警察居るんですか?」


「いるにいるんですけど丸ビルの間の広い道で、随分遠くに装甲車とかトラックが停めてあります。タクシー乗り場にもパトカーが何台か居るんですけどそっちのは全く動いてないです。何台かはパトランプが割れたのもあるんで何かあったのかも知れません。」


「なんかって?」


「爆発とかですかね?どっちみち最初の爆発が起きてから新しい情報はないから何が起きてるかわからないです。」


「わかりました。」と言いい通和を切った。


 班長に連絡をしようと携帯の時計見ると画面の時計が9時12分と表示していて、呼び出し音が一回鳴っただけで直ぐに出た。


「緒方か?今何処にいる?」と言う班長からいつのより真面目な声をがしていた。


「ちょうど大手町に入る途中でこのまま地下を通って東京駅に行きます。」


「そっちは誰がいるんだ?」


「今は東山とさっき言った市原美香が一緒です。」


「そうか、そっちは今危ないから警察に見つかるなよ。」


「了解。」


「ああ、あとな明日の朝刊の一面に場所を取っとくから午前1時までに雑感記事を書け。」


「俺がですか?」


「ああ、今唯一うちの記者で現場にいるのがお前だけだ。今から構成と主筆に話してくるから貼ってでも原稿上げろ。いいな。」


「わかりました。」


「あとな、俺たちの追ってる事件を記事にする許可を取った。」


「本当ですか?」


「ああ、しっかり取材して来い。」班長の声には少し気合が入っていたので釣られて少し声が大きくなって「わかりました。絶対にあげます。」と答えた。


 通話が終わり市原美香の身体を支える東山に記事になると伝えると、彼女は一瞬、驚いたような信じられ無いような微妙な顔をした。


「本当ですか。」


「ああ、キャップが主筆に許可とったって。これから忙しくなるぞ。」と言った後状況を理解したのか東山は少し嬉しそうな顔をしたのを見た市原美香は状況が理解できないようで少し戸惑っていた。





***



 社会部と同じ階にある主筆の部屋で目の前には主筆が机の端に尻を掛けてタバコにジッポにライターで火を付けながら険しい顔をしていた。


「は本当か?」


「はい、さっき連絡があって今大手町の駅を越えた所です。」と聞くと主筆は煙をひと吐きし他あと。


「なんでそこに居る?」


「私たちが探していた子供があそこに居るんです。」


「子ども?それこそなんでそこに居る、あそこは封鎖されてるだろ。」

「つまり、今回の事件の犯人がその子供じゃないかと。」と言うと主筆は語気を強め煙草を挟む二本の指をこちらに向け「本当か。」


「まだ確実には。」


「今緒方は一人か?」


「いえ、東山と5年前の事件の子どもの一人が一緒にいるみたいで、さっきまでは原口と言う今年退職した刑事が一緒に居たそうですが封鎖区域に入る時に別れたそうです。」ときくと主筆は天井を見つめ何かを考えた後煙を一息吹いた後。


「わかった、とりあえず1時までに一面が来たら緒方の雑感記事でいく、もし来なかったら会見と汚職の記事だ。ただし超能力の事は記事に書くな、成り行きにもよるがこれまで通り二週間後だ。いいな?」


「わかりました。」と言った後直ぐに部屋を出た




***




 長大に思えた東京駅までの道のりは時計を見ると20分ほどで着いていた。手負いの市原美香を連れてこの時間なのだから随分近いなと思い頭の中の地図を思い描き大手町と東京駅の位置を思い出しながら今居る暗闇の中の丸の内線東京駅の改札を見回すと一緒にいる市川美香はホームへ続く階段に腰を下ろし休憩していた。


 非常灯の周囲以外は何も見えなかった為辺りに懐中電灯が無いかと思い、私と東山は二手に別れ、私は携帯の画面を頼りに近くを探し回り、改札の横にある事務所の前から改札の外に出ようとしたその時。


「よいしょっ、と。」と聞き覚えのある声がしたと思うと目の前を大きな何かがシュッと鼻先を掠めた。私は驚き「うわっ!」と言って後ろに尻餅をつくと、目の前をパッと強烈な光が照らしされ咄嗟に両腕で顔面を隠すと。


「あっ、緒方さん、どうしたんですか?」と聞き覚えのある声がしてので腕の隙間から覗くと、自分の顔を下からヒカリを当てた女の姿があり。


「うわーー!!」叫ぶが腰が抜けて体がうまく動かなく辺りを見ないで目の前に腕をバタバタさせた。数秒たち辺りが静かなことに気付き強く瞑った目をゆっくり開けると、強烈な光がこちらに向けられていた。


「まぶしっ。」と言うと光の向こうから。


「なんだ緒方さんか、びっくりした。」


「なんだって、東山か〜。驚かせるなよ。」と言いながら立ち上がろうとすると東山が腕を出して引っ張りながら


「あ、ごめんなさい。」と言われたので尻の辺りをはたきながら「なんでこんなとこから出てくるんだよ。」


「入り口に鍵がかかってたから。でもこのライト見つけましたよ。ほら」と言いながら


「随分身軽だな。」と皮肉気味に言った。


「はいはい、そういえば池谷さんに電話しました?」


「いや、さっきしようとしたんだけど、圏外でできなかった。」


「おっかしいな、地下だからですかねー?」


「さあ、とにかくここからJRの改札までの状況が何も分からないから用心しよう。」と言うと抜けたように小さく驚いた顔で。


「でも、この近くにはいないみたいですよ。」と言われ「えっなんで?」とすっとんきょな声で言うと「だってあんなに騒いだのに誰も来ないですよ。」と言われ、自分のこれまでの行動を思い出して情けなくなった。


 再び市原美香を連れてJRの東京駅に向かう途中の通路はとても広くて柱も多くライトで遠くまで照らすとエジプトやギリシャの大きな岩を使った神殿を想像させた。


 地上へ続く階段までは何事もなく進むことができ階段を上るにつれ地上の方から何か焦げたような匂いを感じ、ここが爆発の現場であることを再認識したあと、上り切る前で一旦歩みを止め体をかがめライトを切ると最初は真っ暗で何も見えなかったが次第に周囲の濃淡がはっきりし、地上出口からの灯りが壁に反射しているのがわかった。


 私はやっと東京駅に着いたのだと思いゲームのセーブをすり気分で深呼吸をしたあと低く抑えた声で近くにいる市原美香に向かって「野上裕太は何処にいる?」と聞くが、その後数秒間なんの返答もないので再び「何処に行けばいい?」と聞くと私の右ろから私よりも小さな声で「近くに誰かいる。」と一言った。



 その言葉聞いた瞬間、川を水が逆流するように背筋が冷たくなり、場の空気が凍り付いたように体を止めた。

 体の中で動いているのは眼球と心臓だけで両横に微かに見える市原と東山も同じように動かなかった。

 

 呼吸が騒音に思えるほど当たりが静まり返る中、近付いてくる足音が大きくなるのを感じ、感覚であと10メートルのほどのところまで近付いてくると、目の前の外の光が微かに当たる壁に人影が写った。


 それは足音と共にだんだん大きくなりながら右から左へ動いて行き、大きくなるにつれ私の感覚は張り詰め鋭敏になっていくように感じられた。


 目で大きくなっていく影を追っていくと、ある所で影と足音がシンクロしてピタリと停まった。バレたのでは、と頭を巡った後どう掻い潜るかを頭の中の目まぐるしく思索していると足音と影が再び動き出し次第に音は遠ざかり影は小さくなっていき音が聞こえなくなるまで体はそのまま動かさずまった。


 音が聞こえなくなると、固まった筋肉をほぐすようにゆっくり首を市原のほうにむけ、「野上?」と声を潜めて聴くと、彼女は首を横にふったように見えた。


「多分違う。」


「誰だかわかる?」


「うん、雄介くん。」


「昔一緒にいた子?」


「うん。」


「やっぱり一人じゃ無いみたいですね。」と東山が私に言った後。市原に向かって「彼が爆発を起こしたの?」


「分かんない。」


「あいつも、野上に操られてるのか?」


「たぶん。」


「じゃあ野上をなんとか出来ればみんな止まるってことか。でも野上も誰かに操られてんだろ市原がどうにかできるのか?」


「うん、でもとにかく話したい。」しっかりとした口調ではなした。


「わかった。で野上はどこにいるんだ?」

「多分向こう。」と言って指さしたのは八重洲中央口、つまり真正面の方角だった。


 市原のさした方角へ進むと時には見つからない為に懐中電灯を使わず、記憶をたよりに壁を探していると足元の靴に砂利や厚紙の箱のようなものが当たったりするので携帯電話の画面の光を他の方に漏れないように当てると、割れたガラスやお土産の包装箱屋、上着や靴などがそこら中に散乱していた。


 灯がついていたらいつもなら入り口から30秒ほどで駅の中央部まで行ける道のりだが、前が全く見えない所を歩いているとその先が何処までも永遠に続いているように感じられ、歩いて来た方向に振り向くと地上の中央口から入って来る微かな光が入り口付近を小さく照らしているのが見えて今いる位置とそこの距離が全然離れていないことを確認するとその先の近くて遠い道のりに安堵と緊張が入り混じった複雑な気分になった。


 ホームに続く階段の前をを2つほど過ぎた頃、先頭をいく私はに大きく重く柔らかい物体につまずいてそれの上に覆い被さるように倒れた。


 地面に手を突き起き上がり携帯の画面で照らすと紺色の制服に腕や胴体、足にプロテクターをつけた機動隊員がうつ伏せで倒れていた。


 体を軽く揺さぶってもなんの反応もなかったので体を仰向けにひっくり返すし顔に携帯の画面を近付けると、画面の光が照らした瞬間東山と市原も驚いて短く小さく悲鳴をあげ、その声にビックリした私は携帯の画面側を機動隊員の顔に落とした。


 携帯を取るとなぜかねっちょりと音がしスライムのように画面に張り付く感触がし、画面の光で顔を照らしよく見るとその顔右半分が焼け焦げその表面をコーティングする様にテカテカの体液が染み出しており眼球が何処かに抜け落ち皮膚や肉は所々無くなっていて、そういった場所には白い骨が見えていた。


 私は驚き悲鳴を上げる代わりに咄嗟に息をのみ一瞬体が強張った。


 その後二人の様子を見るために周りに携帯の画面を向け様子を見ると二人は地面に座り込んで何かを考え込んでいるかのように地面をボッと見つめていた。


「二人とも大丈夫か?」と尋ねると東山は「大丈夫です。」と力なく答えたが、市原の方は私の言葉を聞いた途端地面に嘔吐したがだしたものの中には固形物は無くただ白く濁った液体が床に吐き出された。


 それを見ていた東山は市原の背中を包み込み優しく背中をさすったが市原の横隔膜や腹筋はまだ痙攣してるようで何度も吐き出すような声を出しながら、えずいていたので東山は着ていたジャケットを脱ぎそのジャケットを丸め市原にわたし顔を拭うように促され市原は「汚れちゃう」とか細い声で言うと「いいのよ安いから。」となんでも無いように言った。


 暫くの間ジャケットで口を抑えていた市原が唐突に「あっ」っと呟くと四方八方、無数の足音が聞こえ、その音は次第に大きくなり、私たちの周りを取り囲んだと思ったたいきなり私達の上にある照明がパッと灯った。


 真っ暗な中でいきなり照明がついたため一瞬なにも見えなくなり三人とも各々瞳の上にひさしを作ったり目を隠した。


 一瞬のことで殆ど無意識だったが身の安全を守るためになんとか目を薄く開き周りに集まって来た者を見ようとすると、私たちを中心にして十二人程の少年少女が立っていてその中の一人が私達の上の電灯に向かって手を開いた状態で腕を向けていて、私達の上を中心にして電光掲示板や電灯など光を発するものが全て光っていて、中心から遠ざかるほど光源の光は暗くなっていた。


 少し経ってやっと慣れて来た目で周りを見回すと辺りには、焼け焦げた後やボロボロに崩れ鉄筋が見えているはしら、事件発生時に客が落として行ったであろう鞄などの荷物や瓦礫が散らばっていてそんな中にアクセントのようにさっき見たような紺色の制服を着た全く動かない人間が何人も散らばっていた。 


 そして少年少女たちの中には今朝見た野上雄太の姿もあった。

 

 私は野上に向かって「なぜこんなことをする。」と考えなしに思ったことを率直に言った。


「あんた、今朝会った。」と冷たく鋭い視線んで私を一瞥した後市原美香に向けられ「なんで俺を受け入れない。」と言った。


「雄太くん、何やろうとしてるの?」


「俺は俺達を離れ離れにした人間に復讐するだけだ。みんなを取り戻す。」


「なんで、今のままじゃダメなの?」


「美香は誰かが勝手に当てがった血も繋がってない人間を親だって言えるのか?ほんとに信じられるのか?」


「それは。」と言った後少し間が空き「でも家族になろうとしてたし、努力もした。」


「じゃあお前は俺たち仲間を裏切るのか?」


「違う、なんでそんなに割り切っちゃうの。私はずっと一緒にいたみんなも、あの後にできた家族もどっちも大事にしたいの。」と言われると野上は市原とそれを介抱するする東山の方にゆっくり歩き始めたので私は二人を守ろうとして立ち上がると、二人との間にあった機動隊の死体が突然大きな炎をあげ、私の行動を遮ったと思うとその炎は私の周りに直径2メートルの円にを描くように広がっていき炎の柵に閉じ込められ、周りを見ると何人かの少年達が私の方に向かって掌を開いて私の方に向けていた。


「お前、あいつらに何かされたのか?」と言った後私の方を見て「それかこいつらに吹き込まれたのか?」と言いながら市原の目の前に行き右手を頭の前で開いて「もしかせて洗脳されてるんじゃ無いのか?」と言うと市原は「やめて。」と恐怖を押し殺しながら言った。


 野上が市原の頭を触れようとした瞬間東山がその手を叩き、そのまま一瞬静かになったが、そのあとすぐに野上は激昂し再び右手を開き今度は東山の方に向けて、それを見て私は何も考えず「東山逃げろー。」と大声で叫ぶ。


 野上は右手を東山のおでこのあたりを触れようとし「邪魔をするな。」言った瞬間市原が野上に向かって飛びかかって押し倒し倒れ込んで仰向けになった野上に覆いかぶさるように倒れた市原が「操られてるのは雄太くんのほうだよ、目を覚まして。」と言うと野上は少しくるしそうに市原を押し除け起き上がろうとし、そんな中でも足を掴んでくる市原の手を大股で引き離し東山に向かって歩き始はじめ「お前らが、美香をこんなふうにしたのか。」と叫びながら頭に手をようとした瞬間その時だった。


 遠くから風船が割れるような音がしたと同時に立っていた地点から八重洲改札口の方向に扇状に肉片や毛が生えている人間の皮が散らばった。


 東山の額に向かっていた手が突然顔の右側を掠めると、その瞬間野上は糸が切れた操り人形のように体が崩れ落ち、それと同時に頭だったところから大量の血飛沫が吹き出しそれが東山と市原の顔に途切れ途切れの線を描きながら地面に倒れ、次第に血飛沫が弱まり野上の体を見ると首より先が無なかった。


 私たちが野上の遺体に目を奪われていると急に灯が一瞬明るくなり、一拍おいて周りの少年達が一瞬痙攣したかのようにビクッとした後、野上と同じように倒れ込む。


 私を囲むように燃えていた炎はミルミルうちに火力を弱め、終いには地面に焦げ跡だけ残して完全に消えてしまいそれと同時に私たちを照らしていた電灯はシュッと暗くなり消えた。


 その状況が飲み込めない私はその場で立ち尽くしていると「美香ちゃん、美香ちゃん。」と東山の声が聞こえて来たので尻のポケットに入れていた懐中電灯でそちらを照らすと、地面にに座り込んで、市原を抱きかかえていた。


「どうした?」


「美香ちゃんが他の子と一緒に意識をなくて。」と泣きそうな顔をした東山が言ったので腕を持ち上げ脈を測るとしっかりと脈打っていたので「脈はある。」と伝えた後周りの子供達に光を当てて見回すと全員倒れ込んだままでその中の一人の女の子に近より呼吸と脈打っていることを確認していると遠くから再び大群の足音がして、しかもその足音はさっきよりも硬い音がさっきよりも多く聴こえたので周りを見ていると、通路の奥の方からから黒い機動隊の制服を着て手にはケッヘラー&コッホ社のmp5の様なサブマシンガンを持っている多勢の特殊部隊が四眼の暗視ゴーグルを着けてこちらに走って来たのが見えたので、どうにか逃げ場所はないかと周りを見回すが何もすることが出来ず走って来た特殊部隊に銃を突き付けられながら囲まれ、東山の方も同じ様になっていた。


 私は抵抗することはできないと悟り両手を頭の横ぐらいまであげ「なんだよ。悪いことやってねえぞ。」と言うと後ろからガスマスクの様なものを被せられそうになるので暴れながら抵抗するが、多勢に無勢でなす術なく被せられた。


 中は甘い匂いが充満していて訳もわからずそれを外そうと体を暴れさせた瞬間、急に力が入らなくなりなんとか身体を動かそうとするが頭で考える動きに体がついて行かなくなってくる。


 するとどうすることも出来ないような気がして来て、同時に一瞬にして幸福感に満たされた私の意識は深い湖の中にゆっくり沈むように落ちていき、焦点のを合わせることも出来なくなった私の目は黒い残像を作る特殊部隊の隊員とその奥に何処か見覚えのある丸の内OL風の女を捉え、その後意識が無くなった。




***



 緒方達と別れた後なんとか御茶ノ水を抜け丸の内側から東京駅に向かうとマルビルの間にテントでできた対策本部があり、そこでなんらかの情報が手に入らないかと入っていくと本部の中は誰も何も言わないがピリピリした雰囲気が漂っていた。


 この空気は管轄を何者かに奪われ、晴らしようのないフラストレーションが捜査官一人一人から滲み出てる雰囲気だった。


 ここにはなんの情報もないと思い外へ出ようとすると机の上に置いてあった無線機から「状況終了」と音声が聞こえ、急いでテントを出て東京駅が見える方に走っていくと、東京駅の丸の内出口の前にあるタクシー乗り場に黒く塗装された軍用の輸送車や古いランドクルーザーを改造した指揮官車、自衛隊の兵員輸送トラックが何台も止まっているのが見えた。


 東京駅の中は慌しく動く警察官が駅舎に出入りしていたので、どさくさに紛れ現場に入ると工事現場で使われるような大きな風船のようなライトがいくつもありあたりを照らしていて、中はまるで戦争でもあったかのように飛び散った血液が、落ちてる瓦礫に染み込んでおり、至る所に機動隊の遺体が転がっていた。


 死体はどれも普通じゃなく、あるものは焼け焦げポンペイ遺跡から発掘される死体のように手足が不自然に曲がっていたり、またあるものは上半身と下半身が真っ二つに切断されていたり、それ以外にも顔に落雷に打たれた時にできるようなアザがあるもの、顔の一部分が焼け焦げ、眼球が抜け落ちてるものなど、人の手によるものとは思えない死体がゴロゴロしていた。


 その中にさっきまで一緒にいた緒方達が居るのではないかとキモが冷えたが、辺りを歩き回ってもそれに似た服装の死体は転がっていなかったので、現場保存をしている若い警官をちょっと呼び止め状況を確認すると30分前にサットが突入して解決した後、自衛隊が十数体の死体袋の様な物を輸送車車に詰め込み何処かへ運んで行った、カリカリしながら教えてくれたので礼だけ言って、丸の内中央口に向かって歩いていると過去、警視庁にいた時の、少し間の抜けた後輩が背の低い刑事と一緒に入れ違いに入って来た。


「あれ、原口さん、お久し振りです。」


「おお。」


「どうしたんですかこんなとこで。」


「応援だ。」


「お疲れ様です。でも原口さん、そろそろ定年なんだから無理しないで下さいね。」


「使えるもんはなんでも使うってよ。」


「非常事態ですからね〜」


「お前自衛隊が運んでった死体袋どこへ行ったか知ってるか?」


「さーあんまり分かんないですけど、さっき警ら隊の奴が自衛隊の車列が神田橋のインターチェンジで別れたって。首都高に乗った車どこいくんですかね。まあこんな状況だから変な話ってわけでもないんですけどね。ただこっちには生存者がいるかどうかも分かんないであと片付けだけさせられて頭にきますよね。」と聞き終わる前に「ありがとよ。中結構酷いから袋持ってくといいぞ。」といい急いで駅の外へ出て、公衆電話を探し記憶を頼りに070から始まる11桁の番号のボタンを押した。



***


 今日は非番だったが、昼過ぎに上司からの連絡で緊急招集がかかり、警視庁へ行くとなぜか、東京駅の半径2キロ圏内の人払いをするために駆り出され、その後本庁へ戻るとひたすら待機で情報が全く上から降りてこなく、その間にも東京駅にはサットや自衛隊の車が集まったりどこかへ出ていったりしていく中やっと現場に入ったのは全て事件が終わった11時前だった途中で封鎖エリアを警らしていた顔見知りの警官に出ていった車列の中から何台かが首都高に入る前に二手に分かれてどこの所属だよとプンスカ怒っていた聞いてやった。


 後輩の氷川と東京駅に入ろうとすると昔お世話になった大先輩の原口さんがいたの取り留めない話をしていて車が首都高に乗る前に二手に分かれたと伝えると急に話を遮り中が酷いから気をつけろと言った後、走ってどこかへ行ってしまった。


 それを見て居た氷川が「あれが先輩が言ってた原口さんですか?」


「ああ、昔はよく怒られた。今は八王子にいるんじゃなかったかな。」


「僕の同期で今、八王子の刑事をやってる奴がちょっと前にあの人と組んでてそいつから、あの人一週間前に定年退職したって言ったような。」


「そんなのことないだろ、今までいたんだし。多分あれだよ、定年前の有給消化してたら呼び出されたんだよ。」


「そっか。」と引っかかる返事が返って来た。

東京駅の中に入ると工事用のライトがいくつも並んでいてその周りには機動隊員の死体がいくつもあり、しかもそれがどれも普通じゃない死に方をして居たため喉が痙攣し始めたので死体の近くから遠ざかろうとするが我慢することができず、現場で吐いてしまって床に、さっき食べたサンドイッチの残骸をぶちまけ、それを見て再び気持ち悪くなり胃液を吐いた。


「先輩、そろそろ死体見るの慣れた方がいいですよ。」と呆れた話し方で氷川が言った。

 周りを見ると警官や鑑識や刑事が冷ややかな目でこちらを見つめて居たのでストレスがかかり余計気持ち悪くなった。




 

***




 朦朧する意識の中で頭が固くて冷たい板の上にあることを感じた。


 眠さで反抗する目蓋を開くと目の前の焦点が合わず目を細めなんとか焦点をあわせるとそこには灰色のコンクリート打ちっ放しの壁とその手前には白いペンキがん所々剥がれ地肌の灰色の鉄が見えている鉄の柵が見えた。


 意識が戻ってくると同時に頭がガンガンと痛みはじめ意識がハッキリするにつれその痛みもハッキしたものになった。


 何とか、体を起こし地面の上にあぐらを描き座りりこみ背骨をまげうな垂れるように顔をさげてで目の辺りを擦った。


 自分の腕を見ると私服のままで、周りを見るとそこは何処かの監獄であることがわり二日酔のように頭と体が合致しないような感覚に陥りながらも今までにあったことを思い出そうとしていると、どこからとも無く「緒方さんいるんですか。」と東山の声がした。


「東山か?」と聞くと廊下から音がしたので近くの監獄にいるとわかった。


「はい、そっちは大丈夫ですか?」


「ああ、二日酔いみたいに頭が痛いけどなんとか。そっちは?」


「こっちも大丈夫です。それより今って何時だか分かります?私の腕時計壊れちゃって。」


「ちょっと待て。」と言って腕時計を見るて「0時51分。」と言いながら地下でキャップに言われた雑感記事ことを思い出し身に付けている物の全てのポケットに手を突っ込み携帯電話を探すが小銭一枚出てこなかった。


「東山、携帯電話持ってないよな。」


「さっき車に置いて来ちゃったんで。雑感記事ですか?」


「後9分。」と東山に言った後、立ち上がり柵をつかんで腹の底から大きな声で「おーい誰かいないのかー。」と叫んだが監獄の中で響くだけで誰も返事を返してくれなかった。


 その後、誰もこの監獄に訪れるものはなく午前1時を過ぎていった。



***




 午前2時、丁度関東公安調査局の周りには入り口にの詰所の前で守衛が立っている以外は誰も居なく、御茶ノ水から乗って来たランドクルーザーを近くにとめタバコを吸おうと道路に出た。 


 夜に屋外でじっとしていると、昼の暑さが嘘のように少し肌寒くなり今が10月だと言うことを改めて実感しながら衣替えをしなくてわと思いながら居候してる東山に頼もうかと考えて居ながらさっき公衆電話から電話をかけた相手をタバコを吸い待っていると、急に後ろから懐かしさを感じる可愛らしい声で「路上喫煙禁止区域ですよ。」と声をかけられた。


「久しぶりじゃねえか一ノ瀬、元気にやってるか。」といいながら振り向くと何処の街にもいるような、背が低く少し童顔で小綺麗なOL風でニッコリとした女がいて、緒方は彼女を丸の内OL風と言っていた。


「はい、なんとか。でも驚きましたよ、四年ぶりにいきなり連絡がきたんですから。」と言う彼女が実際は全くそんなことを思ってない事を過去の経験で紐解くように思い出していきながら慎重に会話をする。


「何言ってやがる、緒方の前に姿を現しただろ。その時点で俺が関わってることは知ってたんだろ?」


「あれ、気付いてました?まあ、私もプロですから。」


「それでさっき頼んだ事、出来そうか?」


「はい、もう話は付けてあるのでそろそろ出て来ますよ。」


「そうか。すまねえな、こんな事頼んで。大変だったろ。」


「いえ、今回は元々生かして返す予定だったんでそれを早くしただけですよ、流石に締め切り間際に直接記事にされたらウチはどうすることもできませんからね。でも組織が違うので、何もさせないで帰させるのはちょっと大変でした。あ、後これ」と緒方のスパイケータイを渡し「さすがにこれは違法ですからね、捕まったときにこれだけ回収しておきました。」


「ずいぶんな借りが出来ちまったな。」


「大丈夫です、私は借りだなんて思ってないですよ。私が原口さんから受けた恩に比べればなんて事ないですよ、でももし本当に返してくれるなら。」と言った後彼女は少し真面目な顔をして「戻ってくる気はありませんか?ウチならそれ相応のポストが用意できますし。」と言った後再びさっきとおなじニッコリした顔に戻り「なんて。冗談ですよ、本当に気にしないで下さい。」と言われ俺は彼女から視線を逸らし地面を見ながら「すまねえな、今度必ず返す。」とだけ言った後短くなったタバコ人吸いした後地面に落としくたびれた革靴のかかとで必要以上にねじり潰していると「あ、出て来ましたよ。」と急に言われたので公安調査局の玄関から東山と緒方が出て来るの確認した後彼女の方に向き返すとそこには影も形もなかった。


 生垣の切れ目から玄関の方へ歩いて行くと、二人もこちらを見つけたようで走ってこっちに近付いて来た。


「原口さん。無事だったんですね。よかった。」と真っ先に言ったのは東山だった。


「ああ、それより済まなかったな。東京駅までは着いたのが全部終わった後で、現場を見たら焦ったぜお前等も殺されたんじゃないかと思ってな。」と言った後緒方の方を見ると嬉しくないような顔で何も言わなかったため東山に聞くと。


「明日の一面の雑感記事を落としたんです。締め切りが1時までで。」


「なあ、緒方あの現場の状況で怪我しなかったんだからいいじゃねえか、命あっての仕事だぜ。」


「原口さん、自分は人間である前に記者なんです。記者はどこよりも先に記事を書かなくちゃいけないんです。そう言う生き物なんです。」と言うと東山が「いいじゃないですか私たちが追ってた事件も記事になることになったんだから。」と言うのを聞き。申し訳ない気持ちを押し殺した。


「そういえば嬢ちゃんはどうした?」と二人に聞くと東山が「わかりません、特殊部隊が突入して来たとこまでは一緒に居ましたけど、その後私達ガスで眠らされて、気づいたらここに居たんですよ。」と言った後周りを見て「て言うかここ警視庁じゃないんですね。」


「ああ、九段下だ。」と言うと緒方が相変わらずのむすっとした顔で建物の入り口に書いてある名前を読む「合同庁舎って。ここ公安ですか?」


「そうだ、よく分かったな。」


「仕事ですから。それより、なんで原口さんがここに?」


「身柄の引受人としてな、大変だったぜお前たちを見つけるの。まあ話は車の中でじっくり聞くから乗れよ」と右手の親指で指し示した。


「会社まで送ってもらってもいいですか?」


「ああ、何処までも連れてってやるよ。」と言うと東山が「原口さん、なんか胡散臭いですね。」

と目を細めて疑いにお目を向けて来て、自分の腕が落ちた事を実感した。



***



 原口さんに会社まで送ってもらって着いたのが2時半だった。車の中でキャップに連絡を取るとやはり締め切りには間に合わなかったがそのまま会社に来る様に指示された。


 調査報道班のオフィスは班長がいる一番奥の部屋以外の電灯は消えていた。その明かりを頼りにキャップのところまで進み扉を開けると、部屋の中に充満していたタバコの煙が行き場を求めて外にゆらゆら漂って来た。


 中には班長だけではなく主筆と政治部、社会部の部長もいて各々ソファーや机の端に腰掛けながらタバコを吸いよれよれになったカッターシャツを腕まくりしたりネクタイを緩めたりしていて、私が入った瞬間こちらに一斉に視線が集まり最初に口を開いたのは班長だった。


「よく帰ったな原口さんから話は聞いた公安では何もされなかったか?」


「まあ一応。監獄に入れられてただけでしたから。」


「どうやって出て来たんだ?」


「原口さんが色々動いてくれたみたいですけど具体的に何をしたかまではわかりません。」と言うとソファーの上で目を瞑って聞いていた主筆が徐に「その原口さんってのはあの原口さんか?」と班長に聞くと。


「はい前、警視庁にいた人です。最近は八王子にいたんですけど先週ぐらいに定年退職しました。緒方が調査してる時になりいきで手伝ってもらってて今も一緒にやってます。」と言うと主筆は再び黙り込んだ。そして班長は再び私の方を見て。


「東京駅では何があった。」


「野上です。」


「野上裕太か。」とキャップが言うと政治部の伊藤デスクが口を開いた。


「野上ってさっき雲村が説明した?」


「ああそいつだ。」と伊藤デスクに言った後私の方を見て「一人だったか?」


「いえ、十人以上いました。ただその全員が操られてたかどうかはわかりませんでした。」


「客観的に見て今回の爆破は超能力を使ってやった事だったのか?」


「いえそれも、なんとも言えません。実際に火が発生したり電気を発生させると行った事は見られましたが、そのどれもが起こそうと思えばホームセンターで材料を集めればできない事はないと思います。」


「二人ともは今回の件を調査して来た者としてどう報道すべきだと思う?」と問いかけて来たのは社会部の田中デスクだった。


「えっ、自分ですか?」と言った後少し考え「自分は超能力に関しては伏せたほうがいいと思います。政府もこのことについては隠すでしょうし、大体ウチの新聞はスポーツ紙じゃ無いんだからウチの社会的信頼に関わると思います。」と言うと主筆が。


「ならお前はこのことに関して読者を欺けば良いって考えてる訳だな。」


「別に欺くわけじゃありません、ただこのことに関して書かないだけです。この問題はどっちにしろ国が認めなければ誤報扱いにされるし。ウチが矢追純一みたいな扱いされるだけですよ描いても描かなくても負けなら、被害が少ない方を選んで、別の方向から政府に説明責任を要求すべきです。」と言うと後ろにいた東山が私の話にかぶせる形で怒った声で会話に割り込んだ。


「ちょっと待ってください。そんなのただ緒方さんが政府に仕返ししたいだけじゃ無いですか。」その一言に私はカチンとし「何?」と言いながら後ろを振り返った。


「だってそうじゃないですか、あの時東京駅だ緒方さんが一番近くで見ていた真実を隠してまで勝ちとか負けとかわけわかんないこと言って情報操作をして、そんな緒方さんが嫌いな政府と一緒じゃ無いですか。」と言われ言い返そうとした瞬間割って入るように魔をつむっていた主筆が強い語気で「おい、二人とも落ち着け。」と言合いを止めると、部屋中が暫く静かになりその後つむっていた目を開けタバコの灰を灰皿に落としてから口を開いた。


「お前らの言いたい事はわかった。緒方、明日の夕刊に雑感記事を載せるから記事を書いとけ。それと二週間後にお前等の記事を特集で出すから一週間後、だから来週の月曜までに東山と一緒に二人で記事を上げろ。」と言うと主筆はキャップに向かって「おい雲村、どこから情報が漏れるかわからんからどっか安全なところで書かせてやれ。」


「はい、それなら今使ってる場所があるんでそこで書かせます。」とキャップは主筆に言った後私たちの方を見て「二人とも明日から池谷のとこで記事かけ、社内では他言無用だ。いいな?」


「「はい。」」


「後なんか聞きたいことはあるか?」と言われたので主筆に向かって「雑感と特集で超能力についてなんて書けばいいんですか?」と聞くと小さく溜息を吐き呆れたように。


「あぁ?雑感は書くな、特集は二人で仲良く考えろ。お前らも曲がりなりにも文屋なら行間を読んで察しろ。馬鹿野郎。」としまいには軽く怒鳴られた。



 ***


 


 「絶対にダメです。そんなの許しません。」と怒って反論をしている声が池谷さんのコンクリート打ちっぱなしの事務所の中に反響した。主筆から記事を書くように言われて三日目、あの爆破事件の後警察や政府は犯人についての情報は全く出て来ず、事件の顛末を知っている私と東山は記事の内容に対してことごとく怒鳴り合い何とか進めて行った。


「何でだよ、実名を公開しないと、この記事の根拠が薄いだろ。」


「そんな事したら、美香ちゃん達は一生普通の生活を送る事はできないじゃ無いですか。」と東山が言い終わるといつもの場所で黒い画面に白い文字が映し出されたディスプレイの前で座っていた池谷さんが割って入り「ちょっと静かにしてくださいよ、こっちも忙しいんだから。」と言うが、そんな話は無視をして東山との怒鳴り合いを続けた。


「そもそもこんなことが起こった後のあいつらにそんな普通の生活なんかくるわけないだろ、それよりも、どこに捕まってるかも分からないあいつらを外の世界に引っ張り出すために載せるべきだ。」


「緒方さん本当にバカですよ、こんなデリケートな問題をそんなふうに思ってたんですか?こんなの頭のおかしい人たちに優生学を肯定させる事にも繋がります、そしたら第二のナチスがこの国にも出てくるかも知れないんですよ。」


「何でお前はそんなに話しが飛躍するんだよ。感情で物を言うな。」


「緒方さんこそ感情で動いてるじゃないですか。」


「はー?いつ俺が感情で動いた。」


「今ですよ今!昔の事があったからって子供たちのことは全く考えないで、政府を叩ければいいんじゃないですか。」


「おい!お前言っていいことと悪い事があるぞ。」と言った途端、出入り口の方から原口さんの落ち着いた声がしたので振り向くといつもと違ってグレーのジャケットを着ていた。


「おい、途中から話は聞いたがな、緒方お前暑くなりすぎとらんか?」


「いつもと同じですよ。!」


「本当か?ならあんまり大きな声出すなよ、な。」


「……………」


「なあ緒方、お前は何の為に新聞記者やってる?」と言われ握り締めていた両手の親指を居心地悪気にそわそわ動かす。


「……世の中のためですよ。」


「だろ、考え直してみろ今のお前がやろうとしてるのは本当にその為の事なのか?俺はよ、四十年以上警察しかやって来なかったからよ、新聞記者のことはわかんねえけど、今のお前が本当に何の遺恨もなくこの件に向き合ってるとは思えねえんだよ。な。」と言われ、私は全てを見抜かれているような恥ずかしさや今行っている事の矛盾を突かれた様な気がして無性に自分に腹が立ち、気づいた時には近くに置いてあった金属メッシュのゴミ箱をコンクリートの壁に向かって蹴っ飛ばしそのまま、走る様な早足で部屋をだていくと扉を開けた瞬間目の前にキャップがいてそのままぶつかり相手の方はの体がよろめき、持っていたレジ袋に入っていた飲み物の缶をぶち撒けたがそのまま階段の方へ歩いていくと。


「なんか言う事ねえのかよ。」と後ろから聞こえたが振り返らずに階段を上った。



***



 緒方さんが部屋をさった後、池谷さんが。


「あーあ、ゴミ箱ぐにゃぐにゃにして。」と言いながら凹んだゴミ籠を腕力で直すが一度ついた凹みは後となってそのまま残った。


 原口さんに向かって「さっきはありがとうございます。」と言うと何でもないかの様に

「まあ気にすんな、俺はお前が言ってる事の方が正しいと思ったから、思ったことを言ったまでだ。それに前にも言っただろ、お前はやっぱり記者に向いてるって。」と言うと開きっぱなしのドアから缶コーヒーが入ったビニール袋を持ったキャップが入って来た。


「おい、なんかあったのか?緒方のやつ俺にぶつかったのにすごい剣幕だ上に行ったけど。」とみんなに言うと原口さんが。


「大きい子供が駄々こねてんだよ。」


「何だ東村と喧嘩して負けたんですか。あいつも餓鬼ですよね、五年前の事まだ悔しがってるんでだから。」とビニール袋を置きながら言い、中にある何種類かの缶コーヒーをみんなに配った。

「なあ、雲村、そもそも何で緒方はあんなにムキになるんだ?子供たちのためってわけでもなさそうだが。」


「あいつ案外完璧主義だから、悔しいんじゃねえの。結局前の時に解放した子供達がまた国にもってかれちまったんだから。」


「あいつの気持ちも分からんでもないがな。まあ、外で頭を冷やしたら戻ってくるだろ。」と言うと原口さんはUCCコーヒーの缶をプシュっと開いた。


 緒方さんが部屋を出て行って30分経っても全く戻ってこなかったので机に残っていた青い缶のエメラルドマウンテンブレンドを持って喫煙所がある屋上を訪ねると、手摺りに両肘を掛け晴れ渡る空の元遠くにある高層ビル群を眺めながらタバコを吸う緒方さんの姿があった。


 近付くと足音が聞こえたのか、こちらの方をチラリと見た後再び遠くの方に目線を戻した。彼の右側に行き持って来たエメラルドマウンテンブレンドを手摺りに置き私も同じ様に両肘を掛けて街並みを眺めた。


「何だよ。」と緒方さんがボソリと呟く。


「キャップからの差し入れです。」と右手に持っていたタバコを左手に持ち替え右手で器用に缶をプシュっと開けチビチビと飲みながら数十秒の時が流れた後再び緒方さんがボソリと口を開いた。


「さっきは悪かった。」


「えっ?」


「言い過ぎた。」


「それ本心で言ってます?」


「茶化すな、バカ。」と言われ私は両肘を伸ばし手摺の底辺のパイプに両足を乗せ体を伸ばしながらカラッとした表情で。


「別にいいですよ緒方さんの言いたい事も、賛成する訳じゃないけど分からない事もないですからでも美香ちゃんたちの実名報道は絶対に反対ですよ。」


「ああ、ただ俺も超能力に関してはもうちょっとした様子を見たい。言いたいことはわかるだろ。」


「でも、もし政府がそれを認める事があったらスクープじゃなくなっちゃいますよ。」


「ああ、どっちにしろ、先に言った方が負けだ、悔しいけど今回はあっちが上手だったってことだ。」


「緒方さんは本当にそれで納得してるんですか?」


「納得するもしないも会社にとってもみんなにとっても最善だと思う。それにまだ俺は記者を続けたいしな。」


「妥協ですか?」


「処世術だよ。ってかお前怒らせようとしてるだろ。」


「違いますよ。ただ不器用だなって思って。」


「お前が言うか。」と話していると緒方さんのスマホの着信音が鳴った。


「誰からですか?」と聞くと。


「池谷さん。」と答えた。


***



「もしもし?」


「緒方さん、もう仲直りしました。」


「小学生じゃねないんだから変な電話しんといて下さいよ。」


「はいはい。でもゴミ箱ちゃんと弁償してもらいますよ。」


「ゴミ箱でも屑籠でも何でも買って来ますよ。いくらですか?」


「1万5千円です。」


「へっ?そんな高いんですか?」


「デザイナーズですよ。」


「領収書書いて下さい、宛名は雲村で。」


「今の会話スピーカーなんで丸聞こえですよ。」


「まじっすか。」と聞くとスマホから耳にキャップの声が聞こえて来た。


「緒方、ゴミ箱は経費は落とさせんぞ。それより早く戻ってこい。」


「どうしたんですか?」


「お前の携帯の解析が終わったんだ。今池谷が、かけた人間を探してる。」


「わかりました直ぐ行きます。」と言って通話を切り東山と一緒に地下の事務所へ向かう途中に急に東山が私のスーツのジャケットをクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「緒方さん、このスーツ洗ってます?」


「え?最近いつ洗ったかな、でも毎日ファブリーズしてるけど、もしかして臭い?」


「はい。ってか、私今気付いたんですけど緒方さんのスーツってそのスーツしか見たことないんですけど。」と言われ思い浮かべるとこれともう1着しか持ってない事を思い出す。


 事務所に着くと池谷さんがパソコンディスプレイの前でキーボードをとてつもないスピードでカタカタ打ち込んでいて、その周りにキャップと原口さんがディスプレイをのぞいていた。キャップに「今どんな感じですか?」と尋ねると池谷さんを指差し。


「こいつが何やってるのか全くわからん。」と全く何も考えてなさそうな顔をして言うと池谷さんがディスプレイから目線をはずさず指をカタカタさせながら。


「さっき、スパイ携帯に入っていっていた携帯番号を解読したんで、その番号の使用履歴のログを漁ってるところです。」と言った池谷さんが見ている黒いディスプレイには白い文字列が無数に上へと流れて行きその文字列で理解できるのは日にちと時間を表すであろう数字だけでそれ以外はほとんど理解できないアルファベットの羅列だった。


「あった、あった。」と突然池谷さんが口を開いた。


「何かあるのか?」と原口さんが聞く。


「今相手のスマホの中に入って通話しているときのGPSの情報を探してたんですけどっと。」と言いながら強くエンターキーを叩くとディスプレイの右上にある別のディスプレイにどこかの駅構内に大勢の人が動いている場面を天井近くから捉えている監視カメラの映像がうつされた。


 映像は昔のブラウン管のように解像度が低い為、小さく写る人の顔は大まかにしか判別できなかったがそれでも雰囲気でどんな人かは何とかわかるような気がした。


「これどこですか?」と聞くと。


「9月16日の午前11頃の御茶ノ水の映像をハッキングしました。携帯番号が使われたときの時間帯です。この中で電話している人を探して下さい。」と言って周りのディスプレイにも別のアングルの映像がいくつも映し出された。すべての映像が同時進行でスローで進む中ディスプレイ群の右下を見ていた東山が。


「ストップしてスローで戻って下さい。」と言うと池谷さんがマウスを動かしキーボードを少しカタカタとした後、巻き戻されて行きこの場にいる全員がそのディスプレイに集中した。


 そこには出入り口からカメラがある方向に歩きながら電話をしているスーツの男が写っていて、東山がストップと言うと顔がぼやけているが先日見たディープスロートと同じ雰囲気の男だった。



「なんかよく見えないな。」とキャップが言ったのを聞いてか「ちょっと待って下さいよ。」と前に動画の画像処理を頼んだ時と同じようにフィルターを掛けたり色々な操作をしていくうちに顔が識別できるぐらいまでに見えやすくなったその人物は紛れもなくディープスロートその人だった。


「こいつ。こいつですよ。」


「わかりましたちょっと待って下さいね。」と池谷さんは言うと再びキーボードを叩きディープスロートの顔の部分だけトリミングしそれを元に3Dデータに変換した後、見たこともないブラウザのようなものを使い背景にNational Security Agencyと大きく書かれたサイトの中央にある検索欄に3Dデータにコピーアンドペーストをした。


「NSAか。本当にこんなもん使って大丈夫なのか?」とキャップが聞くと。


「大丈夫ですよ、見つかるようなヘマはしませんから。雲村さんからの頼まれごとにもつかってるんで今更です。」

 

 検索は普通のウェブの検索と違って時間がかかルようでディスプレイの中央に彗星のような白いものが小さく円を描いていた。


 池谷さん以外はそんなことを知らないのでその後数十秒間ディスプレイを見つめ続けていたら池谷さんが「これ結構かかるから楽にしてていいですよ。」と言うと一斉に池谷さんを見て。


「「早く言えよ。」「先に行って下さいよ。」「早く言って下さいよ。」「早く言え馬鹿。」」と皆が一斉に言った。それから数秒経った時、急に外画面に文字とディープスロートの顔写真が映し出され、その内容はアメリカの資料のためかすべて英語で書かれていたが、写真の下に(Amamoto Takesi)と書いてありその後ろに漢字で天本武と書いてあった。


「何だよ全部英語じゃねーか。誰かわからねえのかよ。」と原口さんが言うと、横にいたキャップが。


「多分研究者みたいだな。」と言いそれを聞いた原口さんが「雲村わかるのか?」と聞く。


「受験の時に使って以来なんであてにしされると困るんですけど。」と二人で話していると東山が。


「何ですかねヒューマンリソースデベロップメントインスティチュートって。」と言うので。


「直訳で人間資源開発研究所か。」と言いながら頭の中で漢字に置き換えるのと同時に池谷さんが。


「それって人能研の事じゃないですか。」


「「「「ああっ!」」」」とみんなが同時に言った。


「てか、僕英語わかるんで見るからちょっと待ってて下さい。」と言って数分間読んだ後、「なんかこの人、人能研でプロジェクトリーダーとして人間の精神構造の研究してたみたいですけど、五年前の春に辞めてるみたいですね。」


「じゃあ研究者が仕事を辞めて内部告発したって事ですかね。」と東山が言うと。


「研究所を辞めさせられての仕返しってことも考えられる。池谷こいつが何で辞めたか書いてあるか?」


「ちょっと待って下さい、詳しくは書いてないんですけどマインドコントロールの研究をするプロジェクトを別の分野のチームと一緒にやってたみたいなんですけどそのプロジェクトが始まったのがやめる半年前みたいです。」


「マインドコントロールって。」と東山が私に向かって言った。


「ああ、この人前から精神支配とか洗脳とか人格支配とかオカルトチックな研究の論文を書いてたみたいです。」


「前から専門分野だったってわけか。」と原口さんが言うと。


「あとなんか最後の方に書いてあるんですけど。どうも被験者にプロジェクトとは別に独断で自分の研究の実証実験をしてたのが見つかって辞職勧告を受けてたみたいです。」


「うわーこりゃ復讐で決まりだな。」とキャップが言った。


 後も皆が答え合わせのように話をすると同時に私の頭の中でも全ての抜けている所ににこの天本というピースがぴったりとはまって行くにつれ私は一つの自分はいいように使われたと言う答えに近づいて行き。


 その現実が自分の中で確定的になった時、今回の事件が五年前からの計画の中で本当はあのスクープで誰一人助けることができていなかった事に怒りを通り越して脱力が襲って来て私の周りが闇で覆われたような感覚に陥っていたその最中「たさん。がたさん。おがたさん。」と遠くから近づいてくるように女の声がしてそれが次第に東山の声だと分かってくる。


 気が付くと「緒方さん。大丈夫ですか?」と私に声をかけながら肩を揺する東山の姿が目の前にあった。


「本当に大丈夫ですか?緒方さん。」


「うん。大丈夫」と力の入らない口で返す。


「どうかしたんですか?」



「なんでもない。ちょっとタバコ吸ってくる。」と言ってジャケットのポケットからホープとライターを取り出しみんなに見せてからよろよろと歩き部屋を出て力の加減に違和感を感じながら一歩一歩階段を上がりさっきまでいた屋上に再び戻った。



***


 緒方が事務所でポケットからタバコを取り出す時こぼれ落ちるように一枚の名刺が図面に落ちた。


 緒方はその名刺を落としたことに気付かずに部屋を出たので俺が拾ったのを見ていた東山が。


「原口さんそれなんですか?」


「今緒方が落としたんだよ。ただの名刺だ。慰めがてら届けに行ってくるわ。」と言って小形の後を追った。


 屋上へつながるドアを開けると錆びているのかヒンジからギギギーっと音がして外に出ると壁を背にして体育座りの緒方がぽけーっとタバコを一本吹かしていた。


「おめえは怒ったり落ち込んだり忙しいな。」と言うと角という角が全て削り落とされたかのように気の抜けた声で。


「いやーもうびっくりですよ、なんか全部天本ってやつの手の上で踊らされてたなんてねー。しかも5年間も。」


「まあよー、人生そんなこともあるさ。あんまり落ち込むな。」


「別に落ち込んでませんよ。ただびっくりしてるだけです。」


「まあよ、五年前のことだってなんかしら意味があったんだろうし。今回だって本当の真実ってのが分かったんだからいいじゃねえか。」


「まあそうですけど。」と納得してないように返して来た。


「でもよう、なんで天本が前の事件から五年も経って今回の東京駅みたいな事件起こしたんだ?」


「それは子供たちの能力が発現するのを待ってたからでしょ。」


「でもよ、復讐なら、内部告発だけでも十分じゃねえか?人能研は無事解体されたんだしよ。」と言う緒方の目に少し盛期が戻った気がした。


「確かにそうですね。」


「原口さん天本って今って何やってるんですかね?」


「え?さっき池谷が最近まで行方不明だったって言ってたがここ最近日本にいるのを確認されたって言ってただろ聞いてなかったのか?」


「あ、そうでしたっけちょっと聞いてなかったです。でも5年経ってまた日本に現れたって事は今回の事故を起こさなくちゃならない理由があったって事ですよね。」


「確かにな。でもその理由ってなんだ。」


「なんで犯行声明も要求もないテロを起こしたか。事件そのものが目的?」


「事件そのものって。でかい駅を4つも壊すのがか?」


「はい、もしくは駅を壊すんじゃなくて大きい事件を起こす事とか。劇場型みたいな。」


「だけどよ、劇場型は観客は民衆で犯人が主役だろ、今回は犯人の天本は全く出てこねえじゃねえか。」というと緒方は何かを閃いたような顔をした。


「ああ、そうかやっぱり劇場型ですよ、ただ観客が違うんだ。会員制ですよ。天本を知ってるやつに向けたメッセージです。」


「天本を知ってる奴にはどんなメッセージが届くんだよ。」


「いいですか、今回の事件で野上にかけたマインドコントロールは天本が前からずっと研究していたものです。」


「ああ。」


「で天本が研究所を追われた原因も天本独自の方法のマインドコントロールですよね。」


「もったいぶらねえで早く言えよ。」


「はいはい、つまり天本は自分の研究成果を証明したかったんですよ。」


「って事はお前が言ってる観客ってのに成果を見てもらいたかったってことか?なんのために?」


「研究費のためですよ、つまりパトロン探しです。だから五年前も今回も俺の所に話を持ちかけて来たんですよ。政府は絶対に隠す真実を新聞に載せたかったから。」と力強く話し終えると立ち上がり「みんなに伝えないと。」と言って扉をギギギーっと力強く開けて中に入っていった。ポケットの中ある渡すはずだった名刺をてで弄んだ。




***



 会社の中にある社主の執務室に窓からの朝日に照らされる中、今日のわが新聞社が刷った新聞を隅から隅までよむ日課の途中で、いきなり重厚な趣の家具が並ぶ室内で唯一軽薄で安っぽい印象を受ける白い電話機が鳴った。


 受話器を取ると秘書から、大友熊八からの電話である事を伝えられこちらに回すように言うと。すぐに電話の相手が切り替わりしゃがれた老人の声が聞こえて来た。


「朝早くてすまんね。」


「いえ、私たち平民は朝早くから仕事をしないと明日も飯にも困りますからな。」と先日の電話をの皮肉を言ったが相手はそれを憶えているのかいないのか、若者が祖父母の頭がおかしくなったか心配するかのように「なんだね君?」と不思議そうに答えた。


「いえ、それで今日はなんのようで?」


「いやね、君のとこの、なんだっけな、えーっと、調査課だったかな?」


「調査報道班ですかな?」


「そう、それだ。そこが明後日に出す記事をなちょっと辞めてもらいたいんだよ。」


「圧力ですかな?」


「そんな物騒な事じゃ無いんだ、ただその記事を落として欲しいと言ってるんだ。」


「なぜです?」と聞くと空いては答えにくそうに答えた。


「君も分かっているだろ、政治には知っている人だけが知っていればいい情報もある。」


「ほー、じゃあもし私がそれを断ったらどうなりますかな?」


「君ねえ今日はずいぶん突っかかるじゃ無いかね。」と少し機嫌が悪くなり「私はね、善意で言ってあげてるんだよ、もし私が何も君に伝えなかったら君んとこの社員が墓の中に入ってたかも知れんのだよ。」と言われた後、少し間を開けて返事をした。


「わかりました。努力します。」



「そうか、それならいいんだ頼むよ高橋くん。だが努力だけじゃなくて確実にやってくれよ借りは返すから。」と言って相手は上機嫌で電話を切ったので私もゆっくり受話器を戻した回転椅子をぐるっと窓の方に回し外の景色を1分ほど見てから再び椅子を回転させ受話器をとり秘書の竹下くんに掛けると彼女はすぐに受話器を取った。


「君、さっきの話聞いてた?」と聞くと彼女は鋭い言葉で使いで「はい。」と答えた。


「君は私を軽蔑するかね?」と聞くと彼女は少し優しく「いえ、社員の為ならなんでも出来る人はかっこいいと思います。」と言った


「ほー。」


「失礼します。」と再び鋭い口調に戻って通話が切れ私はゆっくり受話器を戻した後再びクルリと椅子を回しにやけが治らない顔で外の景色を眺めた。




***

10月16日



 私達の記事は今日の朝刊の一面で特集が始まるはずだったが、今日の一面には与党の国会議員政治資金規制法に抵触した国会議員に対して幹事長の離党勧告の意向だとの発言がうちのスクープとして乗っていた。


 あんなに酷かった残暑が昨日から急に肌寒くなり秋本番といった、空気が澄み切った朝、私はいつものパチンコ屋の屋上で手摺にもたれ掛かりタバコをくわえながら今日の朝刊を読んでいると、出入り口から扉が開くギギギーと音がした。


 新聞を少し下げて見るとやはりいつもの通り原口さんがいつもと違い黒いトレンチコートと黒いハット帽でいつもよりお洒落をしていた。


「おはようございます。」


「おう。」


「どうしたんですかそんな格好して。」と言うと少し気恥ずかしそうな顔をした。


「東山がくれたんだよ、うちに泊まらせてやってたお礼だと。ここんとこ寒くなったからな。」


「似合ってますよ。」



「ありがとよ。それよりお前今日はずいぶん落ち着いてるな。落ち込んでたら慰めてやろうと思ったのによ。」


「何言ってんですか二日まえに伝えられたら頭も冷えますよ。まだ頭に来てますけどね。」と言っていると原口さんもコートの内ポケットからオレンジ色のエコーを取り出して火を付けた。


「今回は負けっぱなしだな。」


「今回じゃなくて五年前からずっと負けっぱなしですよ。」


「お前新聞記者辞めたりしないよな。」


「辞めませんよ俺だって飯食っていかないといけないですからね。」


「お前は記者ってより警官向きだと思うんだけどなー。なんとなんく。」


「警官だってやりたいことができるわけじゃ無いでしょ。原口さんと最初に会った時みたいにヤマ横取りされるかも知れないし。」


「まあ確かにな、でも悪い奴は捕まえられるぜ。今回の天本って奴だって捜査会議に名前も上がってないらしいからな。」


「そうなんですか?」


「ああ前の同僚が探りを入れてみたんだ、まあ下っ端の情報だから本当かは怪しいがな。子供達も所沢の自衛隊医科大学に運ばれたって話だ。」


「それも同僚の情報ですか?」


「ああ、そいつが知り合いの警ら隊員から、入っていくのを見たって聞いたらしい。」


「へー。」


「結局真相は闇の中だ。」と言うと原口さんはポケットから携帯灰皿を取り出してタバコの火を消してその中に入れる。


「じゃあ俺はそろそろ行くな。」


「もう行くんですか?俺まだ朝食ってないんで喫茶店でも行こうかと思ったのに。」


「いいな。俺も行きたいのは山々なんだけどよこれから世話になった所に退職の挨拶回りするんだ。あんな事件の後だからよなかなか行きにくかったんだけど、やっと落ち着いて来たみたいだからよ。で夜は追い出し会やってくれるんだとよ。」


「いいっすね、でももう若く無いんだから飲み過ぎちゃダメですよ。」


「うるせえ、お前まで東山みたいなこと言うなよ。」と言って扉の方へ行こうとすると思い出したかのようにこちらに戻って来た。


「そう言えばお前に渡すものがあった。」と言ってポケットから一枚の名刺のような紙切れを取り出し「この前タバコ出す時に一緒に落としてたぞ。なんだこの番号。」と言いながら差し出したそれは丸の内OL風の女から渡されたものだった。


 その名刺を受け取った瞬間天本を追っていた時の事を頭の片隅で蘇った。


「ああ、ありがとうございます。前にキャバクラで女の子にもらったんですよ。なんか印刷ミスみたいで誰からもらったか分からなくなっちゃってて。」


「ふーん、お前もそう言うとこいくんだな。今度俺も連れてけよ。」


「原口さんの奢りなら行きますよ、なんせ金無いんで。」


「しけてるな。まあいいか、じゃあいくわ。」と言って扉から降りていった。


その後手摺にもたれ掛かれながら渡された名刺をもてあそびながら少し考えた後、ポケットに入っていたスパイ携帯を取り出しその中に唯一入っているアドレスに電話をかけた。



***


 相手が指定した場所は大きな倉庫や荷物を貨物船に積む為のクレーンがいくつもある普通なら一般人があまり来ないような埠頭だった。


 僅かにある街灯や倉庫の壁に着いている灯の周り以外の場所はまるで何も見えなく辺りには海の波の音と遠くに聞こえる車やヘリコプターの音走行音が微かに聞こえた。


 いくつかあるうちの一つの倉庫にもたれかかりながら腕時計を見ると時刻は午前2時10分でいつもならとっくに相手が現れる筈だの時間だったが天本と連絡を取り始めて初めて相手が遅れた為周りを見回しながらドギマギしていると影になっている暗闇から声がした。


「久しぶりだな。」


「遅かったな。」



「ああ今は用心に越したことがないからな。それにしてもあんなにヒントを与えたのにまだ記事にならないのか?」と天本は落ち着いて話した。


「ああ、裏付けのダブルチェックを徹底されてるからな。それであんたに最終の確認をしてもらいたいんだ。」と言って昨日の朝刊の一面に載るはずだった原稿を闇の中に差し出すと相手が受け取った。


 暗闇ではやはり見えなかったのか天本は少しだけ歩きちょうど顔より上には光が当たらないところで立ち止まった。


 天本はいつも通りのスーツ姿で数枚の原稿に光に当て何も言わずに黙読し始めたのを確認しジャケットのポケットに入っているBluetooth接続のリモコンのあるボタンを押した後タバコを取り出した。


 二枚目のめくる音が聞こえしばらくすると天本はおもむろには話掛けて来た。


「これは。」


「間違っているか?」


「裏切る気か?」と言う天本の口調はさっきと全く変わらなかった。


「裏切る?何を今更。あんただって5年間も俺を利用したじゃないか。でどうなんだ?そこに書いてある事は合ってるのか?」と問いかけると天本は何も答えなかった。


 すると、パッと海から大口径のスポットライトの光が私たち二人に向かって放たれ私たちは

とっさに腕で目の前を覆うと周りから何台もの車の走行音が聞こえて来て、近くから革靴が地面を駆け足で蹴る音がしたが、車の音が近付くに連れその音も消え私たちを取り囲むように集まって来てそこからも光に照らされ、いつの間にか上空からはヘリコプターの音がしたかと思うとものすごい風を上から吹きかけながらライトを当てた。


 次第に目が慣れて来て周りを見ると黒塗りのセダンが私たちを取り囲むように止まっていてその中から黒スーツの男達がゾロゾロ出て来て天本をの回りを取り囲んだ。


 その間も天本は顔色一つ変える事なく手錠をされ車の中へ入れられようとした瞬間動きを止め、私の方を見て話しかけた。


「君はよくやったよ、だがこれで君も私と同じだ。」と言って天本は黒いセダンに押し込まれた。


 天本が車に乗り込むと直ぐに発車してその周りの車やヘリ、モーターボートも瞬く間にどこかへ走り去って行き最後に一台の黒いSUVだけが止まっていて、後部座席の扉が開き、中から前に見たゆるふわ系丸の内OL風の女が「よいしょっと。」と言いながら可愛く降りて来て「緒方さん、ご協力ありがとうございました。」


「早かったですね。」


「そう言う組織ですから。」


「あの後子供達はどうなったんですか?」


「いえません。」


「生きてるんですか?」


「それも言えません。」


「天本はこの後どうなる?」


「あなたは知らない方がいいです。世の中には知るべき人が知っているだけでいい情報もあるんです。」


「何?」


「それじゃあ。」と頭をぺこりとお辞儀し再び車の中に乗り込みそのまま走り去っていった。


 辺りは再び闇の中にまばらな灯が灯りさっきよりも激しい波の音が聞こえた。


 ポケットからスマホを取り出すと画面に通話が終了した時の画面が表示されていた。




***



 ロードスターを降りると、そこは港の埠頭だった。


 緒方と知り合った頃より随分肌寒くなった秋の夜長に東山がくれたコートの暖かさが身に染みた。


 遠くの方から微かにヘリの音が聞こえ、車の中から船舶で使う様な大きな増眼鏡を取り出し音のする方へ向けて覗き込むと無数に留まっている車のヘッドライトの光が塊となってそこに大きな眉の様に見えたがその光の塊は次第に大きさを減らし、最後には一台だけになって、やっとその中心に話し合っている緒方と一ノ瀬が確認できた。 


 その内に話しが終わったのか一ノ瀬は車に乗り込み走り去って行き緒方の周りが真っ暗になったので車の中に戻りエンジンを掛けようとすると、コートの胸ポケットにある携帯電話が鳴り出てみると女っぽい一ノ瀬の声だった。


「如何した?」


「ありがとうございます。」


「借りを返しただけだよ。」


「・・・」


「どうしたんだよ?他に用があるのか?」


「なんで彼らにここまでするんですか?」


「・・・今まで30年間仲間欺いてきたんだ、定年になったし今度の仲間は裏切りたくねえからよ。」と言うと、一ノ瀬は急に落ち着いた声色になり。「この業界にはセカンドライフなんてありませんよ。あるのは汚れきったこれまでの人生だけです。その上に水性のペンキを塗って今は綺麗に見えてもいつかはペンキがはげ、下地に染み込んだ汚れが見えてくるんです。」


「お前、俺と合わないうちにずいぶん叙情的になったな。」と言うと彼女はこれまでの声色に戻った。」


「でもまたなんかあったら連絡してください。できることなら協力しますから。」


「お前なあ、その俺への変な恩義、早く忘れろ。でとっととそんな仕事辞めちまえ後は俺がいい様にやってやるから。」


「ありがとうございます。いつかそんな事があればその時はお願いします。」と彼女が言い終わると通話は切れた。




***



 11月も半ばになり秋の空気はいつの間にか冬の気配を纏い始めているのを感じながら吉祥寺駅で出くわした池谷さんと原口さんの家へ火が沈みかけた道を一緒に歩いて向かった。


「なんか池谷さんと外で会うと違和感ありますね。」


「いやー実際自分でも違和感ありますよ。なんたって家から出たの4ヶ月ぶりぐらいですもん。原口さんが打ち上げやるって言わなけりゃ当分うちから出なかったですよ。」


「まじっすか。」



「デイトレーダーって仕事柄あんまり外出したくないんですよ、特に平日は。それより緒方さん案外元気そうですね。1ヶ月前より顔いろいいですよ。女でも出来ました?」


「それが前んい鹿児島行った時にあった子が今度東京に行くから合わないかってメールが来て。」と言うと池谷さんは恨めしそうな顔をした。


「いいですねー、外で仕事してる人は出会いがあって。」とまるで一昔前の専業主婦の様な恨み節を聞きながら歩いているといつの間にか原口さんの家に着き、玄関の近くには前にも嗅いだことのある良い匂いが漂っていた。


 玄関の前でインターフォンを鳴らそうとすると池谷さんは慣れたように玄関の引き戸を開け中に入りまるで自分の家の様に中へ上がっていったので私もそのまま入り、居間へ向かうと中では、班長と原口さんが瓶ビールとスルメが置いてある座卓を囲み一足先に飲み交わしていた。


「おお、お前ら遅かったな二人できたのか?」とすでに顔が赤くなっている原口さんが言った。


「いや俺は駅で池谷さんに会ったんで一緒にきたんですよ。てかもう二人で始めてるんですね。」


「ああ、なんかもう直ぐ鍋も出来るってさっき東山が言ってたな。」と言われ台所の方から良い匂いがするのを感じた。


「へー東山さんが料理してるんだ。」と池谷さんも座卓の周りに座って空のコップを取ると原口さんが近くにあった瓶を持ちそのコップに注いだ後「ああ、あいつ料理好きみたいでな、今回も店でやろうって言ったんだけど、私が作った方が安いからってうちでやることになったんだよ。」と言った。


 私は匂いに誘われる様に暖簾の奥の台所に向かうと白いタートルネックのセーターの上に紺色のエプロンをつけた東山が鍋の梅雨の味見をする為か醤油皿を持っていた。


「よっ。」


「ああ、緒方さんお疲れ様です。」


「なんか手伝う事あるか?」と言うと東山はコンロに掛けてあった土鍋の蓋を閉じた。


「大丈夫ですもうちょっと火を通せば大丈夫だから。」と言ったので「最近どうだ?」と聞くとこちらの方に顔を向けた。


「最近って、まあ今までどうりやってますよ。てか如何したんですか急に。」


「いや、なんもないんなら良いんだ、ただあんなにやったのに掲載日の二日前にな。」


「ああその事ですか、別に気にしてないって言ったら嘘になりますけど、でも今は如何しようもないですし。そういえば緒方さん、あの後天本と連絡取れました?」


「え!?いや全く。相手の電源が入ってないらしい。」と言うのを聞くと東山は腰をシンクの縁に持たれ掛けた。


「結局本当のとこ何が真実だったんでしょうね。」と天井を見る。


「子供達、心配か?」


「まあ、私たちが連れて来て、目の前であんなことがあれば心配にもなりますよ。原口さんが言うには自衛隊医科大学に運ばれたから一応生きてるだろうって言ってましたけど、結局五年前の状況に戻っただけじゃないですか。緒方さんこそ大丈夫ですか?なんか最近会社で見るといっつもすっきりした顔しちゃって。なんか色々諦めてないですよね。」と言いながら私の顔を直視する東山の疑問の目を真っすぐに見つめるのに心苦しさを感じ彼女の横のコンロにある土鍋を見ると中から赤いつゆが吹きこぼれんばかりに沸騰してい他ので東山に向かって「それ大丈夫か?」と聞くと急いで今をの火を消し蓋をすると「はい完成。これ向こうまで持ってってもらってもいいですか?」とのれんの奥を目配せする。


 私は「ああ。」と言って近くにあった付近と鍋つかみを持って土鍋を持ち今へ運び、いつの間にか座卓の真ん中に用意されたカセットコンロの上においた。


「お来たな。」と原口さんが言うと後ろののれんから鍋の具が乗った大皿を持った東山が出て来て座卓に置きその前に座った。


「はい、完成。じゃあ誰か乾杯します?」と東山が言うと班長が口を開いた。


「ああ。じゃあちょっと報告しなくちゃならん事があるから俺から。」と言うと原口さんが妙にニヤニヤしていた。


「なんですか?」と聞くと。


「まあ、あれだ。俺、今年一杯でうちの会社を辞めることにした。」と寝耳に水な事を平然と言った。


「へ?何言ってんですか。冗談でしょ。」


「いや、冗談じゃない。俺は本気だ。」


「なんで辞めるんですか?今回のことが原因ですか?」と東山が聞く。


「いやまあ、それもあるんだがな。」


「はいはい。」と言って手をあげた池谷さんに全員の目線が集まり「やめた後何するんですか。」と聞きキャップは諌める様に「まあちょっと落ちついて最後めできけ。おめえらにも伝えることがある。」と言い周りが静かになった。


「今回辞めるのは会社を立ち上げる為だ、資金の工面はもう終わってるんだ。」


「会社?」と私が繰り返す。


「ああ、ネットで記事を書く。」


「一人でですか?後に残された私達は如何すればいいんですか?」と東山が聞く。


「いやそこでだ。緒方と東山俺と一緒にサイトの立ち上げに参加してくれないか?」


「俺たちにですか?」


「ああまあ最初のうちは厳しいところもあるかも知れないがさっきも言ったが当面の資金は確保してある。如何だ?」


「その資金ってどこから出てるんですか?」と池谷さんが聞く。


「この前辞任した社主だ。」


「狸親父のことですか。そんな奴の金でやったら結局前と一緒じゃないですか。」


「いや待て待て、今回は俺がトップだ。そんなことは絶対させない。って言うより今回の会社は社主自身がしがらみのない自由な報道をしたいからって始めたんだ。だから社主もこの前辞めたし。」


「あのおっさんが本当にそんなこと思ってんですか。」


「正直それはわからん。だがな俺はその先に自分のやりたい事ができるかも知れないならってことで編集長として参加する事にした。俺の上には社主しかいない。で原口さんには調査員として参加してもらう事になった。」とキャップが言うと原口さんは恥ずかしそうに「よろしくな。」とビールが入ったコップを少し上げた。


「まあ、今すぐに判断しろって話じゃない、まだ事務所も用意出来てないからな俺は先に辞めて一月くらいまで開業の準備をするから1月いっぱいまでの2ヶ月間のうちに決めてくれ。」と言った後原口さんが「まあよ、難しい話も終わったって事で今は忘れて乾杯しようぜ。」と言

終わる前に「俺は行きますよ。」と私は答えた。


「緒方。」



「今のままこの会社言いてもしょうがないし。もう未練もありません。」と言った後東山の方を見ると東山ははっきりした口調で「私は。ちょっと待ってください。もう少し考えたいです。」と言うと班長が止める様に。


「緒方まあまて。会社を辞めるのは強制する事じゃないしあそこに居たってやれることはある。まあ今日は打ち上げなんだから酒でも飲んで楽しくやろうぜ。」と言ってコップを持ち上げた。


「お前らも持て。」と言うといつの間にか私たちの分も目の前に置かれていた。


「「「「「乾杯」」」」」



***



 とある時、とある仄暗く広い部屋に46床の簡素な医療用ベッドが碁盤の目の様に等間隔で置かれていてどのベッドにも枕元に小型のモニターが置かれていてそこには定期的に山を作りだす緑色の線が横向きに五本映し出され定期的にピッと音を立てていた。


 そのモニターが映し出す線の光と、二箇所ある出入り口扉の上の非常灯の緑色が間接照明の様にベッドに寝かされている子どもの顔と枕元の手摺に掛けてある札に書かれたに光を当てる。


どのモニターからも映し出される線の山と連動したかの様に規則的に音が出ていたがその音が46重なると無秩序な音の集合となった。


 市原美香、と書かれた女の子が眠るベットは部屋の隅の近くに置かれていた。


 モニターに映し出された彼女の線の波形は他の子供達と同じ様に定期的な山を作っていたが一瞬、それまでとは違う形の山ができた後再び元の山の形を定期的に作り出した。


 すると彼女の周りの子供たちの波形が同じ様に一瞬変わった形を作り出しその後モニターから出ていた音が彼女のモニターから出ている音と同じタイミングで鳴り出しその現象は、凪いだ水面に石を落とした時の如く放射線状に緩やかに伝播して行き、最終的に部屋の音は全て彼女の音と合わされ増幅されていた部屋一面に響いていた。


 

 すると仰向けに寝ていたはずの市原美香の体がその状態のまま白い掛け布団がかかったままスーッと浮き上がり1メートルほど浮き上がると頭が上になる様に90度体が回転し掛け布団がするりと落ちると白い布を体の前後に二枚重ねて両サイドの3箇所のボタンがそれを止めている。


 いわば患者がきる手術着の様な服を着た市原美香が直立不動で浮いていてその顔は目は開かれていたが感情などは全くこもってなかった。


 そしてそれを真似するかの様に周りの子供達も同じ様に直立不動になり浮き上がりはじめると突然出入り口の一つの扉が開き灰色の防護服に顔面を追うガスマスクをつけた人間が89式自動小銃を持って八人ほど入ってくると、彼らは目の前で起こっている異様な状況に一旦立ち止まり各々周りを見回していると、離れたところにいた市原美香が顔色一つ変えずその人間たちに向かって掌を向ける様に腕を上げ周り子供たちも同じ様に掌を向けると、防護服を着た人間の一人が突然火に包まれもがき苦しむ様に動いているとすぐ横の者も同じ様に炎を上げ、遂に全員がほのうに包まれた。


 防護服の人間たちは次第に動かなくなっていきついに全員が地面に倒れたが、炎は勢いを増し続け、部屋の中は炎に包まれ次の瞬間、大爆発を起こした。


 その瞬間ふっと頭を上げると目の前には書きかけの記事がエディターにうちし出されていた。


 周りからはテレビのニュースの音が聞こえてきて、体を起こすと身体中に汗をシャツの下に汗をかいているのがわかった。


「緒方さん、寝てないでちゃんとかいてください。」と声の方を見ると斜め向かいの机にいる東山だった。


 周りを見渡すとまだしっくり来ていない、狭く綺麗なマンションの一室の様な事務所でそこは班長が作った新しい会社だった。


「どうかしたんですか?狐でもつままれた様な顔して。」


「いや、なんか変な夢を見た気がしたんだけど。」


「夢、どんな夢ですか?」


「なんか、思い出せなくて。」


「緒方さん、そんな寝言言ってないで早くこの記事完成させましょうよ。うちが初めて出す記事なんだから。」


「ああ。」と答えながら周りを見渡すが東山以外の人間はいなかった。


「みんなは?」


「雲村さんは銀行に行ってくるとか言ってました。原口さんはまだ子供たちの里親を当たってるみたいです。さっき電話がきて今回のところも居なくなってるって。」


「やっぱりか。」


「で今日はそのまま帰るって言ってました。病院があるとかで。」と言われ時計を見ると15時27分だった。


 私は再び記事を書き始め事務所の中には東山とを私が打つキーボードの音と、付けっぱなしになっているテレビのキャスターがニュースを読み上げる音だけがBGMの様に流れていた。


「次のニュースです今日昼過ぎ所沢にある自衛隊医科大学でガス管の工事中にガス爆発事故が起こりました。この事故による死者はないとの・・・・・。」



終わり

 



 

 



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実録!?驚異の魔宮、長野の山奥で悪魔の研究所が作り出した超能者を見た!! 雁鉄岩夫 @gantetsuiwao

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