実録!?驚異の魔宮、長野の山奥で悪魔の研究所が作り出した超能者を見た!!
雁鉄岩夫
第1話 事件の始まり
5年前のあの日、それまで過ごしてきた所に知らない大人達が押し寄せて、いきなりみんなと別れることになった。
大人達はみんなの部屋に押し入り何から何まで奪い取って、僕らをどこかに連れて行き、そのままみんなをバラバラにした。そして僕らを知らない家族の中に無理やり放り込んだ。
***
5年前新聞記者をしていた私は一つの真実をスクープした。それはいきなり私に接触してきたディープスロートを名乗る人物から私への告発で内容
は国家による遺伝子改造によってスーパーソルジャーを作る計画だった。
スーパーソルジャーとは、特殊能力を持った兵士のことで、その特殊能力について噂では超能力だの身体能力向上だのとネット上で話題になったが国は国家防衛上の機密として最後まで情報が開示されることはなかった。調査取材の結果、結局は子供達に変わった能力を持った子供達は居なかったと言う国の調査報告書だけが出てきた。
このスクープによって内閣支持率は低下し、最初は強気で知らぬ存ぜぬを貫いていた内閣も総辞職に追い込まれた。国会では野党の追及はなされたが。結局は防衛省と厚生労働省の役人が何人か国会で尋問を受けた後、減給などの軽い罰を受け事件はうやむやになった。
このスクープの結果私は念願だった社会部から調査報道班へ移動となったが5年間それなりの仕事をすることはできたが手応えのある仕事はほとんどなかった。
***
夏からの残暑がずっと続いて先週まで最高気温が35度を超えていたが、やっと涼しくなった9月10日3時過ぎの毎朝新聞社屋。だだっ広くタバコ臭い報道局のオフィスの隅の天井に調査報道班と書いてあるプラスチックの板がぶら下がっていた。
ぐしゃぐしゃに書類が積み重なった机の唯一平らな狭い範囲で、私は少し遅い昼飯のカップのチキンラーメンを食べていた。
周りの机には書類の山ができているが、机に付いて仕事をしてる人は誰もいなく、皆どこかしらの取材に行っていた。
ズルズルとラーメンをすする音が周りに響く中、コクコクと遠くから足音が近付いてくる。
次第に自分の方へ近づく靴音が後ろにくると、私は回転するイスをギギーっと回し後ろを向く。
目の前には、スキンヘッドの中年男が腕をまくった雲村班長、立っていた。
「おい緒方、いま暇か?」
「なんですか?」
「なんですかじゃねえだろ、こんな早くに帰ってきて。良いでもあったか?」
「あんまり、ないっすねー」軽く答えると、キャップは髪のない頭を撫でながら。
「お前なー、もうちょっと真面目に仕事したらどうだ、他のみんなに示しがつかんだろ。」
「しょうがないじゃないっすかマトモなネタがないんだから。」
「だから探して来いって言ってるんだよ。5年前のお前はどこ言っちまったんだ。」
「分かりましたよ、じゃあこれ食べたら外回ってきますから。」と言うとデスクは。
「それなら、ちょっとこれを調べてきてほしいんだ。」と一枚のメモを渡してきた。
「なんですか?」と聞きながらメモを見ると、3件の事件が書いてあった。
「4月17日の川内市の交通事故と7月3日小牧市の水難事故、9月9日八王子の火事ってこれ全部23区外の事件じゃないっすか。この3件がどうしたって言うんですか?」と言うと、毛の無い頭をペチペチたたきながら。
「さっき匿名で垂れ込みが有ってな、どうもこの3件には共通点が有るらしいんだ。どうせ暇ならちょっと調べてこい。」
「共通点ってどんな?」
「知るか、自分で調べろ。」と言って歩き去っていき歩きながら、「給料分は働けー。」と大きなこえで念を押された。
ちょうど昨日起きた事件が八王子だったので向かうことにした。
電車を乗り換え、八王子に着いたのは5時前だった。そこからバスで現場に向かうと、着いたのは5時半で日が少し傾き始めていた。
バス停から少し歩いた先の閑静な住宅街にその現場はあった。
その住宅街には何処の家にも小さな芝生の庭があり、鉢植えや陶器の置物が飾ってある、いかにも夕方の建築屋のコマーシャルに出てきそうな家が並んでいた。
何処の家も駐車場にはそう高くないフォルクスワーゲンなどの外車や国産の高級車が置かれていた。
移動中にスマホで事件の記事を調べるとネットにはウチの新聞の記事だけがヒットして別のし新聞のネット版でどんなに探しても一件もヒットしなかった。
事件内容は家に住む男子中学生がやっていた花火の不始末が原因では無いかと記事に書いてあったので、ちょっとした小火ぐらいだろうと、高をくくっていたがその予想は現場を見た瞬間覆った。
事件現場は、住宅街を歩いていると両隣の家に植えてある木で遠くからは全く見えなかったがその家の前を通ると一本だけ抜けた前歯の様に急に現場が見えた驚いたが、しかし本当に驚かされたのは現場の燃え方だった。
燃えた家は全く跡形もなく、少し燃え残った太い柱は、芯まで黒く焦げて、まるで何日もかけてじっくり焼かれる炭のようになっていた。
そしてこれだけ家が燃えたのに焼けた家の両隣の家は全くなんの損傷もなかったのだ。
普通の火事なら火の粉が飛び火したり熱の影響で窓ガラスが割れたりすのだが、ここの現場には、燃た家の両隣の被害が全くなく、現場の建物だけすっぽり何かのカバーに掛けられてその中だけで燃えた様な感じだった。
事件の詳細によると当時家に居たのは主婦とその息子で、息子が夏に余った花火を使い切ろうとして起きた事件だと書いてあったかがこの燃え方は普通じゃなかった。周りで取材をしようと、現場の北側にある比較的新しい家を訪ねると、30代前半と思われる髪を後ろで纏めた背の低い女性が赤ん坊を抱えながら出てきた。
「昨日の火事についてお聞きしたいんですけどいいですか?」
「いいですけど、お役に立てるかどうか。」
「いえ、何でもいいんですよ。」
「刑事さんにも言ったんですけど、あの時立川さんの家が火事だって全然気づかなかったんですよ。」
「あんなに燃えてたのにですか?」
「はいー。夕飯を作ってたんですけど、消防車のサイレンが近くで止まったと思って外に出たら、凄い勢いで燃えてたんですよー。」
「こちらの建物には被害はなかったんですか?」
「ええ、全く。強いて言うなら庭の芝生が少しだけ燃えちゃったぐらいで。」
「なるほど。そういえば隣の家族ってどんな人かご存じですか?」
「ええ、知ってますよ。私達、2年前に引っ越してきたんですけど、もうその時には隣に住んで居たんです。けどすごく仲の良い家族で、時々敏雄くんとご両親の喧嘩の声が聞こえましたけど、 あの位の子供ってよくある事でしょ。いつもはすっごくいい家族なんですよー。本当によかったですよね、怪我はしてるけど由紀子さんと敏雄くんも命に別状はないって。聞いたし。」
「聞いたと言うと?」
「昨日の夜旦那さんが、見えたんですよ。」
「邦之さんですか?」
「ええ、火事の時はまだ仕事に行ってて無事だったらしいんですよ。」
「仕事っていうと?」
「公務員だって聞きましたけど詳しくは。」
「あの、今皆さんがどこに居るか分かりますか?」
「さーどうですかねー。忙しそうにしてたから聞かなかったんですよ。また改めて挨拶に来るって行ってたんでその時に聞こうと思ってたんですけどねー。」と言い終わる頃に抱えていた赤ん坊が泣き始めた。
「あら、ごめんなさい。」
「いえいえこちらこそお手数かけました。」
「もういいんですか?」
「はい、また何か聞きに来るかもしれないですがいいですか?」
「ええ、構いませんよ。そういえば昨日の火事の時もこの子泣いてたんですよ。もしかしたら火事に気付いてたんですかねー。」
「どうですかねー。」と言ってる間もずっと赤ん坊は泣き続けていた。
その後も周りの住人に話を聞いて回ったがどこもおんなじ様な情報ばかりだった。その後最寄りの警察署に向かい取材をしようとするが何故か担当者が居ないと言われて取材ができなかったので、警察署の記者クラブに向かった。警察署の中にある記者クラブはどこも署内での禁煙が叫ばれてからタバコの匂いはしなくなったが、何年も壁に染み込んだヤニで壁は何処も黄ばんでいた。
学校の教室ぐらいの部屋の記者クラブに入ると数人の記者がパソコンで記事を書いていた。
「毎朝新聞の記者はいますか?」と部屋中に声が響くと皆が一斉にこちらを向き、すぐに視線をパソコンに戻した。
無視かよっ、しけてるなーっと思っていると、部屋の隅の机で記事を書いていた20代ぐらいで眼鏡をかけ目尻が少し吊り上がったキツそうな顔の女の記者が。
「毎朝さんなら3時過ぎぐらいに帰りましたよ。」っと気怠そうに返すと周りで書いていた記者たちが一斉に彼女を見た。
「あ、そうっすか。すんません。」と礼を言った後、警察署の裏口から外へ出ると太陽は沈んでいてその代わりに街灯の光で照らされていた。
敷地の端の方に追いやられた小さなプレハブ小屋の喫煙室へ向かい近くに来ると、中から言い合いが聞こえたので、入り口の裏側で壁に寄って話を盗み聴くと若い男の声で「奴ら誰なんですか‼︎」と言うと歳を重ねた低い声で「わからん。本庁にヤマを取られるのは何回もあるが、あいつらみたいな奴はあんま見ないな。」と言った。
「どういう事ですか?」
「いゃーな、何となくの勘なんだがな、奴ら刑事じゃない様な気がするんだ。」
「刑事じゃない?」
「ああ。」
「じゃあ俺たちは何処の馬の骨ともわかんない奴らにヤマ奪われたんですか?」
「なあ上北、お前もうこのヤマ関わるの止めろ。」
「何でですか原口さん?」
「こんな事件に関わってもロクな事ない。何処の馬の骨か分からない奴らに関わらないほうがいい。」
「そんなの納得できないっすよ。」
「おい上北、関わらないでもいい事に関わると痛い目見るぞ、俺はそんな奴らをこれまで何人も見てきた。な。」と先輩刑事が諭す様にいうと、後輩刑事はいきなり歩き始め、バスッと引き戸を開けて、開けっぱなしでそのまま出て行ってしまった。
一通り聞いた後、何食わぬ顔で喫煙所に入るとブラウンのスラックスに半袖のワイシャツを着た小太りで顔の大きい定年間近な印象の刑事がタバコを吸っていて一瞬私を見ると、窓の外に向き返った。
私は背広のポケットからホープのスーパーライトを取り出し、口に咥え火をつけ深く煙を吸って、体の重荷がドット抜ける感じがした。
「あんた見ない顔だね?」っと声を掛けられたのにはびっくりした。
「エッ?俺ですか?」
「おめえ以外にこの中に誰がいるよ、記者さんかい?」
「あっ、はい毎朝の緒方です。」とタバコを咥えて背広の胸ポケットから名刺を取り出した。
「緒方公一か〜、いい名前だ。調査報道班ってのは警察みたいなことをやってるのか?」
「ええ、まあ名前はかっこいいですがね、やってる事は発表されたのをそのまま垂れ流してるだけですよ。」
「ああ、そうかい。」と言った後一吸いして口に含んだ煙をもわ〜っとはきだして「でその記者さんが、何でこんなところに?今日は大した事件も無かっただろうに。」
「ええ、いっつも居る奴が急用で、ヘルプたのまれちゃいましてね。」
「はっは〜、それはご苦労なこった。」
「いえいえ。」と言った後30秒ほど の沈黙があった。
「緒方さんよ〜。あんたさっきの話聞いてたんだろ。」
「バレました?」
「バカヤロー、俺はこれでも40年でかやってんだ。お前らみたいな若造の嘘なんてすぐ見抜けんだよ。」
「すいません。」
「まあいいやな。それよりあんた、昨日の火事を調べてんだろ?」
「ええ、まあ。」
「さっきの話だが、昨日の夜に何処の誰ともわかんない奴らが、資料全部持ってきやがった。多分警察じゃねえぞ。全身黒ずくめに白いワイシャツ。まるでメンインブラックだ。公安かもっと上か。まあこのヤマ追うんならあんたも気を付けな、ああゆう連中は限度ってものを知らねえ奴らがが多いから。」
「参考にします。」と言うと原口という刑事は喫煙室から出て行ってしまった。
喫煙所の外を歩いていく原口と呼ばれていた刑事の背中を眺めてながら吸い終わったタバコを据置の灰皿に押しつけ火を消す。
警察署を出て駅の方に歩いていく途中に班長に電話を掛けるとプルルルプルルルと鳴ってから直ぐにキャップが出た。
「おう、何かでたか?」無神経に大きな声が聞こえた。
「さっきのき現場に行ってから警察署に行ったんですけどね、あの事件怪しいっすよ。」
「何が?」
「詳しくは、会社に帰ってから話します。」
「おう、わかった。じゃあ待ってるからあ早く戻ってこい。」と話を終わらせようとするので話をつなげる様に、「ああ、あとちょっとキャップに頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」
「おうっ、 なんだ?」
「昨日うちの新聞でこの事件の取材をした記者を探してもらっていいですか?こっちで会えなかったんで。」
「おう、わかった社会部のデスクに話、通しとく。お前この後どうする?」
「一応、この辺りの病院を回って被害者の家族から話を聞きたいと思ってます。」と言い終わるとプチっと通話が切れた。
***
会社に着いたのは9時前で直ぐにオフィス行くとそこは男の汗の匂いが充満していて、3時ごろには考えられないほどの人が溢れかえっていた。皆翌朝の朝刊用の記事を締め切りである夜中の1時までに上げるため記事を書いていた。
班長のオフィスに向かうと扉のガラス越しに、老眼鏡を掛けながら机の端に少し座りながら原稿を読んでいるキャップが見えた。ノックするとこちらに気付き、 持っていた原稿でわたしを入るう様に促した。
「失礼します。」とオフィスに入ると机の前にある 茶色のくたびれたソファーに座る。
「おう、よく戻ったな、で何があったんだ?」と言いながら目の前に座ったキャップに現場に行った時に撮ったスマホの写真を見せると、首に紐で下げていた老眼鏡を掛けた。
「こりゃ凄い燃え方だな〜。これがどうしたんだ?」
「さっき 八王子の現場で撮ってきたんですけど、両隣の家を見て下さい。
「何だこれ、全く燃えとらんな。」
「そうなんですよ。しかも 周りの人で屋内にいた人達は皆、 火事に全く気づかなかったって言うんですよ。」
「何でだよ。」
「今はまだ分かりません。」と言うと班長はスマホを返したあと、自分の頭を摩り出した。
「うーん。でもこんだけだ厳しいなスポーツ新聞じゃねえんだ。」
「でもそれだけじゃないんですよ。」
「さっきちょっと辺りの大きな病院に電話を掛けて調べてたんですけどね、被害者の家族がいないんです、しかもこの事件を記事にしてるのうちの会社以外にないんですよおかしいと思いませんか?」と言うとキャップはソファーから身を乗り出した。
「それでさっきの電話か。」と言われ自分も身を乗り出した。
「はい。さっき現場に行ったあと警察署の記者クラブを見てきたんですけど。うちの記者がいなくて話聞けなかったんですよ。もしかして警察署内部で記者クラブに対して圧力があったんじゃないかなって思って。で、どうでした?」
「記事を書いたやつは東山って女の記者らしいんだがな、さっき社会部のデスクに聞いたんだが今日は休みだって言うんだよ。」
「おかしいっすね、記者クラブで聞いたら3時ぐらいに社に戻ったってどっかの記者が言ってたんですよ。」と聞くとキャップは腕を組んだ。
「そりゃおかしいな。まあこの件は俺が調べといてやる。他にまだあるか?」
「はい。さっきの警察署の喫煙室で聞こえてきたんですけどどうもこの事件、所轄がヤマ横取りされたみたいなんですよ。」
「なんだよお前、そんな面白そうな話最初に言えよ。」と言われたあと、私は小声出「すいません。それでその横取りした奴らってのがどうも警視庁じゃないらしいんですよ。」
「じゃあ何処なんだよ?」
「さあ、なんでも昨日の夜のうちに資料を全部持ってかれたって、ベテラン刑事風の刑事が言ってました。その人が言うにはメンインブラックだって。」
「メンインブラック?映画のか?」
「はい。」
「じゃあ何だ、そいつら宇宙人追ってるってことか?大体何だよ、そのベテラン刑事風の刑事って?」
「よくは知らないんですけど、原口っていう、おじさんの刑事でした。」
「どっかで聞いた気がするな。」と言って班長は少し考えた後「なんか久しぶりにでかい陰謀の匂いがする。」と言い体を起こし嬉しそうに言った。
「真相に近づいたら殺されちゃったりして。」と冗談を言うと。
「大丈夫だ、それを俺が調査して記事にしてやるから。安心して死ね。」と本気か冗談か分からないくらい真剣に私の目を見て言ったあと、大笑いして「久しぶりにいい仕事してこい。」と激励された。
私はキャップに殺されるのじゃないだろうか。
* * *
9月11日
次の日、会社に寄らずそのまま愛知県の小牧市に向かった。
東京から名古屋まで向かう新幹線の中、テーブルを出してパナソニックの業務用ノートpcを開いて電子版の新聞の記事を見ていた。
小牧の事件は八王子の事件とは違い、この時期にある川での遭難事故で中学生の子供達3人が川で遊んで居て一人が溺死した。
1件目の火事2軒目が水難事故を調べて、3件目の事件の資料を探して読み3軒目は鹿児島県川内市の交番に自動車が突っ込んだ交通事故だった。
どの記事も小さな記事だったので、詳細は分からなかった。
一通りの情報を取り込み終わるとパソコンを閉じて車窓を見ると外には大雨が降っていて、ガラスに水が吸い付くように前方から後方に流れていき、景色は全く見ることが出来なかった。
10時59分に新幹線が名古屋に付きホームに降りると8月に戻ったような熱気と湿気だった。スマホの天気予報を見ると最高気温が31度と書いてあったが湿度のせいでそれよりずっと暑く感じた。
タクシーに乗り名古屋本社に向買うと繁華街から少し離れたオフィス街にビルがあった。
エントランスのカウンターで確認をするとエレベーターに乗り社会部のある階に向かう様に言われ言われた通りにするとエレベーターを出てすぐのところに眼鏡を掛けた男性の担当者が立っていて彼にオフィスの端にあるソファーに促される。
担当者の男性は年は30台後半だろうか、痩せていて背が190センチはあろうかという長身だった。
目の前にすわた男は東北訛りで「はじめまして、若竹と言います。」といった。
「はじめまして、緒方です。」
「小牧で起きた事故についてですよね?」
「はい、随分前の話だし小さい記事だった覚えてることだけでいいんですけど。」
「そうですねー、緒方さんはもう現場に行きましたか?」
「いや、これから行こうと思ってました。」
「じゃあひとまず一緒に現場へ向かいましょう。話は車の中ででも。」と言って若竹さんは立ち上がった。
地下の駐車場にあった車はスバルの青いwrxで、後部にはいかにも純正でははなさそうな黒いカーボンのウィングがついていて、若竹さんは自慢するようにリモコンキーで開錠し「どうぞ乗って下さい。」と言った。
wrxに乗って名古屋の繁華街を走りながら「緒方さんは名古屋は初めてですか?」と尋ねてきた。
「生まれが香川なんで新幹線で通ることはあっても降りたことはないんですよ。」
「そうですか。そういえばどうし、こんな前の小牧の事件を調べてるんです?あの記事私が書いたんですけどなんかまずいことでも有りました。」
「いやそういうのじゃないんですよ。ただ、皆んなにはあまり言わないで欲しいんですけど、匿名の垂れ込みがあって、一応調査しないわけにもいかないのでちょっとね。」
「そうですか、そりゃご苦労様です。」
「それでなんですけど、だいぶん前のことなんで覚えてないかもしれませんけど何か思い出すことって有ります?」と聞くとちょうど車が料金所を通り一気に加速するところで座っているレカロシートにぐっと体を押し付けられる感覚がした。
「実は、あの事件の事はよく覚えとるんですよ。」
「はぁ?」
「あの事件は不思議な事件でね、幼なじみの仲がいい男の子二人と女の子の3人組がテスト期間の終わりに家に帰る途中で川辺で遊んでたらしいんですけどね。」
「はあ。」
「亡くなった子は山田裕樹って言う男の子なんですけど警察の発表で、清原由美って言う女の子が言うには男の子が二人川で遊んでいると、いきなり橋本勘助って男の子がすごい剣幕で山田裕樹を睨みはじめたと思ったら、山田裕樹が水の中で転んだように水の中に飲み込まれてしまったらしいんですよ。でそれっきり何処に行ったか分から無くなってしまって橋本勘助はその直後にでいきなり意識を失って倒れてしまったらしいんですよ。で、清水由美が助けを呼びに行って、河原に倒れた山田裕樹は近くの市民病院へ運ばれて、もう一人の男の子は次の日、下流で遺体で見付かりました。」
「そのあと山田裕樹はどうなったんですか?」
「分かりません。」
「分からない?」
「はい、この事件の変なところなんですけどね、病院に担ぎ込まれた次の日に話を聞きに行ったらもう居ませんでした。」
「退院したってことですか?」
「分かりません、でも噂好きの掃除婦が言ってたんですけど私が病院に行く直前にスーツを着た男達が何人も病院に居たって。」
「スーツを着た男ですか?」
「はい、それ以来清原由美以外の関係者が誰もいなかったのっでその事件からは手を引きました。」
それからしばらくの間車に揺られ随分周りの車を追い越すなと思って運転席の速度計を見ると120キロオーバーで高速道路を走行していた。
「若竹さん、オービスとか大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、場所は全部覚えてますから。」と言って若竹さんは右手の人差し指で自分の頭指し少しこちらを向いたのを見て私は頼むから前を見て運転してくださいと心の中で祈った。
その後30分ほどで現場に着いた。
現場は川岸の周りに鬱蒼とした雑木林がありその中を通る獣道のような無整備の道を通りそこを抜けると眩しい太陽の光が私を照らした。
川は私が思っていたよりずっと小さく小川と呼んで差し支えない大きさだった。
「ここで起こったんですか?」
「はい、意外と小さいでしょ。」
「小川じゃないですか、ここって深さどれ位ですか?」
「深さですか?そうだなー、深いところでも1メートルないんじゃないかな。」と言いながらこの綺麗な川を見て、こんな浅い川で中学生が溺れて下流まで流されるものかと考えていた。
「緒方さんもおかしいと思いますか?」と後ろから声が掛かった。
「えっ、ああはいまあ。でもどんなに浅くても川は油断できませんから。…そういえば、その日って上流の方で雨とかは降ってなかったんですか?」
「いやー、あの日はこの辺りは雲ひとつない、ぴーかん照りでした。」と聞いたあと、おもむろに私は靴と靴下を脱ぎスラックスをまくって、行けるとこまで川に入った。
気温の高さとは裏腹に川の水は冷たかったが、流れは穏やかでとても人が流されるとは思えなかった。
しばらく川の中で足元を確かめるよに歩き回ると岸辺から若竹さんが「緒方さん、清原由美の方に行ってみますかー?」と叫んだので「今日平日ですけど取材大丈夫ですかねー。」と叫び返す。
「昨日、連絡したんで大丈夫だと思いますけどー。あの子今不登校みたいになってるんで。」と聞くと私は川から上がりポケットのハンカチタオルですね毛の生えた足を拭いた。
川から車で5分程の所に清原由美の家がある団地に着くと階段で3階まで登り家の前で呼鈴のボタンを押すと出てきたのは大きめのTシャツにアディダスのジャージを着た長い髪の女の子だった。
「はい。」と女の子が言うと、若竹さんが「昨日電話した毎朝新聞の若竹というものです。親御さんは居ますか?」と言うと少女は私たち二人を警戒するようにをジロリと見廻した。
「今いませんけど。」
「じゃあちょっと、喫茶店でも行きませんか?」若竹さんが少し笑いながら言うと、 かのじょはいきなりがちゃんとドアを閉めたので私達はびっくりして顔を見合い。
「何か悪いことでも言いましたっけね?」と若竹さんが気まずそうに言った。
「いや、悪い事は言ってないと思いますけど。」
「良かった。」
「昨日電話した時に出たのって彼女ですか?」
「いえ母親の方です。両親は仕事でいないから直接聞いてくれって。」
「じゃあ待ちましょう。」と言っていると、ガチャっとドアが開いた。
中から出てきた女の子はグレーの薄いパーカーを着ていて、玄関の鍵を閉めると小さな声で「行ける。」と言い階段の方へ歩いて行った。
私達おじさん二人が彼女の方を見て呆気に取られながら、私が「最近の子ってみんなあんな感じでなんすか?」
「僕は子供いないんで分からないですけど、多分違うと思いますよ。」と言って彼女について行った。
彼女について行くと団地の近くにある昭和の雰囲気を醸し出す古い喫茶店があり中に入ると夫婦なのか老人二人で営業していていた。
席に着くと、彼女はメロンソーダを頼み、私たちはアイスコーヒーを頼んで待っていると若竹さんが先に口を開いた。
「昨日電話でお母さんとはなしたんだけど、聞いてるかな?」優しく聞くと彼女は小さな声で。
「はい。」と答えたので私が次は質問した。
「2ヶ月前の7月3日のことについて聞きたいんだけどいいかな?」と聞くと彼女は何も言わずに頷いた。
「あの時何があったか、出来れば正確に教えて欲しいんだ。」と言うと彼女は小さい声を出した。
「あの日は期末テストの最終日で、 午前中に帰れたから私達3人で川に遊びに行こってなってコンビニでお菓子とか買って川に行ったんです。勘助と裕樹は二人で川に入って遊んでて、私はずっと川岸から見てたんです。そしたらいきなり勘助の様子がおかしくなっていきなり凄い怒ったみたいな顔になって。」と言ってる途中で飲み物が運ばれて来た。彼女の頼んだメロンソーダにはバニラアイスが乗っていて、彼女はそのアイスを一緒に運ばれて来たマドラースプーンで器用に一口食べた後話を続けた。
「でいきなり裕樹が水の中に連れ込まれてびっくりしてたら勘助がこっちに向かって歩いて来て、もう勘助の顔は普通に戻ってたけどすごく怖かったから逃げようとしたら、河岸で勘助が頭を抱えて崩れ落ちたんです。それでそのまま倒れたから何とか岸まで引っ張ってきて、そのままスマホで警察に電話して待ってました。」
「その時なんか変わったこととか不思議なことなかった?」と私が聞いた。
「どうだったかな、その時パニクっててあんまり覚えてないけど勘助は息はしてました。あっ、でも裕樹が水の中に沈んだあとその場所に渦ができてました。」
「「渦?」」とおじさん二人で声がハモってしまった。
「はい。」と言いながら彼女は両手で50センチほどの大きさを示す。
「かおじさん達仲良いですね。」
「「ハハハ」」おじさん二人で苦々しく笑った。
その後彼女と別れ、若竹さんに名古屋駅まで車で送ってもらい18時の新幹線に乗って薩摩川内に向かった。
* * *
緒方に頼まれて、昨日の記事について聞くために昼休みの後、社会部のに会いに来た。
開けっ放しのトビラから同期入社で社会部の部長になった田中のオフィスに向かうと、天然パーマなのかモジャモジャの頭に老眼鏡をかけ難しそうな顔をして他社の新聞を読んでいる田中が見えた。扉に寄りかかり空いてる扉のガラスをコンコンと叩くと田中がこちらに気付き「よう。」と話しかけた。
「例のは東山は今日来たか?」と言いながら扉を閉めてソファーに座り、胸の内ポケットからオレンジ色のパッケージのエコーを取り出し、机に置いてある、大理石でできた置物のような大きなライターで火をつけた。
「それが連絡がつかないんだよ。」
「大丈夫なのか?」
「分からんが今まで無断欠勤なんて全くない奴だったからな。」
「記事を書いてから、消えたか?」
「ああ。」と言いながら椅子から立ち上がると、胸の内ポケットから銀色のシガーケースを取り出し中から茶色いバニラの香りがするアークロイヤルを取り出して私の目の前に座って火をつけた。
「何だお前そんなの吸ってるのか?」
「いいだろ別に、お前と違って俺は出世頭だからな、そんな安いやつ吸わなくてもいいんだよ。」
「自分で言うか。大学時代は、若葉のフィルターに爪楊枝指して根元まで吸ってたくせに。気取りやがって。」
「やだね、貧乏人のひがみは見苦しいぞ。」と言われて冗談のように答えた後本題に入った。
「それでよう、あの記事の件なんだけどな、よそじゃ全く書かれてなかったよな。どうしてお前は載せたんだ?」
「ああ、実はなあの事件は警察から、報道規制はされてなかったんだが何故か記者クラブに報道しないように圧力が掛かったらしいんだよ。でそれに反発して、東山が小さな記事を書いて来たんだ。まだ分からないけどこの裏には何かあるから絶対に載せてくださいって言うもんだからな。ちょうど紙面に小さな空きがあったから構成に頼んで入れ込んだんだよ。」
「で、大丈夫だったのか?」
「ああ、昨日のお前の電話の後、社主に呼ばれて歯切れが悪そうに苦情が来たって小言を言われたよ。」
「主筆飛ばして?」と言った時に田中が深く煙を吐き出した。
「いや一緒に居た、まあその記事のおかげかお前の部署が調べてるんだから小言を言われた甲斐があったんじゃないのか。」
「まあな、それよりその東山って奴、心配だな。」
「ああ、今日部下に言って家を見にいかせたんだが、誰もいなかったらしいんだ。一応今日、警察に届けは出したんだけどな。」
「そうか・・・、じゃあなんか分かったらまた連絡くれよ。」と言いながら机の上の灰皿でタバコの火を消し、部屋を出た。
***
23時38分に川内市のビジネスホテルにチェックインをした後ホテル近くのコンビニで350ミリの缶ビールを二本と唐揚げやチーズなどのつまみになりそうなものをいくつか買い込んで部屋戻った。
椅子に座りながらビールをプシュっと開け一口呑むと、体の隅々にアルコールが浸透する感じがした。
昨日班長に頼んでおいた事を聞こうとスマホを見ると0時を回っていたので、一瞬躊躇ったが、明日の取材で役に立つかもしれないと思い電話を掛けると夜も遅いと言うのにワンコールで電話に出た。
「おう、どうした。」といつも通りの大きな声だった。
「夜遅くにすいません。緒方です。」
「おうまだ会社にいるから気にするな。それよりそっちはどうだった?」
「はい、一応小牧の現場を見て来て、一緒にいた女の子に話を聞いて来たんですけど、そこでも生き残った男の子が行方不明になってました。」
「そっちもか。」
「はい。それで生き残った女の子にも話を聞いたんですけどね。被害者が消えた後水面に渦ができてたらしいんですよ。けどその川が凄い浅くて穏やかな小川なんです。」
「ふ〜ん、でも川は小さくても何があるか分からないからな〜。」
「はい、そうなんです、ただそれ以外にここでも謎の奴らが現れてたみたいなんですよ。」
「謎の奴らって誰だ?」
「ほら例のメンインブラックです。」
「ああ八王子の事件を横取りした奴らか?」
「確証はないですけどそうだと思います。」
「確かに怪しいな。」
「そういいえば、社会部の件どうでした?」
「ああ、ちょっと社会部の部長に聞いてみたんだけど、やっぱりお前の言った通り警察から圧力が掛かってたらしい。」
「やっぱりですか。」
「ああ、どうも社主を通して社会部に非公式の抗議が来たみたいだ。」
「社主っていう事は警察の上層部が絡んでるって事ですか。」
「ああ多分。それでな、あの東山って記者は今日もきてないみたいだ、社会部のデスクが家に人を寄越したら家に居なくてな。流石におかしいってことになって。警察に届け出を出したらしい。」
「そっちも行方不明ですか。」と言うと班長は急に声のトーンを落とし。
「ああ、なあ緒方この事件もしかしたら相当危ないかもしれないぞ。お前、まだこのヤマ追いたいか?」
「キャップ、急に何言ってんですか。俺久しぶりに社会正義に燃えてるのに。」言うとキャップは直ぐにいつもの調子に戻り。
「そうだな、今まで5年間もただ飯食らってたようなものだからな。全力でやってこい。だがな、無理はするな。」
「ただ飯って酷いですよ。これでも一応頑張ってやってるんですから。」
「それとな、これからお前がこのヤマを追ってるのは社内でもトップシークレットにする。」
「了解。」
「後でメールで連絡先を送るからこれから、それに連絡してこい。俺のプライベートのプリペイドケータイだ。とりあえず何処かから抗議が来るまでは取材を続けろ。」
「分かりました。」
「あとお前今、貯金どれだけ残ってる?」
「俺あんまり貯金しないんで確か、20万ぐらいだと思いますけど。」
「じゃあお前、今からインフルエンザになれ。」
「へっぶふぉ!!」と聞いた途端呑もうとしていたビールを吹き出した。
「どう言う意味ですか?」
「それか家族の誰か殺せ。取り敢えず有給で取材してこい、手続きはこっちでやっておく。
心配するな全部が終わったら総務部に事情を説明しといてやるから。」
「大丈夫ですか。戻ったら有給全部なくて。無断欠勤になって減給とか嫌ですよ。」
「は〜。お前ね〜もうちょっと上司を信用してもいいんじゃないの?まあ安心して取材をしてこい。」
「わかりましたよ。でもほんっとに頼みますよ。」
「ああ、任せとけ。それじゃあ気を付けろよ。何かあったら直ぐ連絡しろよな。」
「了解です。それじゃあ切りますよ。」
「ああ。」
電話を切ってから、飲みかけのビールを一気に呑み干した私は内心とても興奮していた。
冷蔵庫からもう一本のビールを取り出し開けてからスマホを見ると、メールが届いていて中身はさっきのキャップのアドレスと電話番号だった。それを見てふと思い出したように、東山という記者の顔写真を送ってもらう様に頼むメールを送りビールを一口飲もうとすると、直ぐに返信が返って来た。メールに添付された画像を開くと、30代ぐらいで眼鏡をかけたじょせいんおの顔が写っていて。その顔は、八王子警察署の記者クラブで自分のことをさっき帰ったと言った記者その人だった。
***
9月12日
昨日は1時過ぎに寝たため、いつもより遅い8時半に起きた。
ホテルの朝食バイキングに向かうと、フロントのカウンターには新聞が何紙も置いてあり、地元の地方紙を取り、朝食を食べながら読んだ。
内容は特に気になることは特になく強いて言うなら桜島が噴火した事ぐらいしか気になった記事は無かった。朝食を食べ終わり、フロントに新聞を返しに行くとふと4月の事件の事を思い出したので丁度フロントに居た感じの良さそうな20代ぐらいの女性従業員に事件の事を覚えているか尋ねる事にした。
その事件は地方の交通事故だったため、地元の地方紙にしか記事が載ってなく、記事自体もとても小さく、簡潔に短い文が載っていただけで、軽トラックが建物に突っ込んだと書いてあったが余り状況が分からなかった。
「すいません、ちょっと聞きたいことが有るんですけど。」と言うと彼女は私に笑顔を向けた。
「はい、なんでしょうか?」
「だいぶん前のことなんでけど、この辺りで4月に交通事故があったの知ってる?」
「4月ですか?」
「はい、なんかこの辺りのビルに突っ込んだって新聞に書いてあったんだけどわからないかな?」
「建物にですか。どうだったかな。」と彼女が思い出そうと頑張っていると、フロントの裏から男性従業員が出てきて、彼女の後ろを通る時、彼女が「ねえねえ。」と呼び止め事情を話した。
「4月の交通事故で建物に突っ込むか。」と言ったあと。「あっ。」っと思い出したように言った。
「思い出した?」と聞くと。
「ハイハイ、思い出した。」と言ったあと、女性に向かって「あれだよあれ。交番の二階。」と言うと彼女も「ああ。」と目を見開いて思い出したようだ。
「交番の二階って?」と聞くと男性の方が言った。
「交番の二階に軽トラックが突っ込んでたんですよ。」
「軽トラックが交番の二階に?」と信じられない様に言うと男性が。ポケットからスマホを取りがした。
「いやいや、本当なんですって、丁度通勤中に見たんで、写真に撮りましたもん。」と取り出したスマホを操作してこちらに見せた。
そこには本当に、鉄筋コンクリートの交番の2階の大きなガラス窓があった部分に軽トラックのキャビンの部分がすっぽりと埋まっている写真があった。
「うわ、まじか。この写真貰っても良い?」
「ええ、良いですよ。LINEでも良いですか?」
「ああ、良いよ。後さあ、この場所ってどこか教えてくれる?」と聞くと男性従業員はきょとんとした顔をして「場所ってここの隣の交番ですよ。」
「へっ?」と驚いた後、彼から送られてきた画像を見ると交番の奥に確かにここの建物が写っていた。
例の交番は一旦ホテルを出て左に歩いて30秒ほど行った大きな交差点の角に有った。
交番は流石に5ヶ月も経っている為、軽自動車は撤去され窓ガラスも綺麗に修復されていた。
しばらく交番の前に立っていると中にいた小太りの警官が不審に思ったのかアルミ冊子の引き戸をシャーっと開けて出て来た。
警官はホテルの従業員と違い鹿児島弁なのだろうか、とても訛った話かたで声を掛けてきた。
「どうかされましたかね〜。」
「あ、いやここが4月に凄い事故があったって聞いたもんだからちょっと見にきたんですよ。」
「ああ〜。ありゃ凄かったですよあの日は大変だった。何たって二階の窓に車が突っ込んだしその後別の所で中学生が倒れたとかで救急車もきたからね。」と言って警官は交番の中に促してくれた。
「中学生ですか。」
「あんたどこからきたんですか?」
「東京からです。」
「ほー、そりゃ随分遠くから。この街は新幹線の駅が出来ても全く観光客が増えんで、何も無いのによくきましたなー。今時シャツとスラックスで旅行なんて珍しい。」
「丁度法事だったんですよ、親がこっちの出身なんで。初めて来てみたんですけど本当に何もなくてびっくりしました、って地元の人にこんな事言ってすいません。」
「いーやー、良いんですよ本当のことだから。」
「それより二階に車が突っ込んだって、大丈夫だったんですか?」
「ああ私丁度その時この交番にいたんですけどね、びっくりしましたよ。私は丁度トイレ行ってたもんだから、その時の事は観てないんですけどね。」
「そうですか、で何で二階までも車が飛んで来たんですか?」
「それがね、そこの交差点の真ん中あたりにマンホールがあるでしょ。どうもその時に山の方で雨が降ったみたいなんですよ。えっと何てったっけな?凄い雨が降るの。」
「ゲリラ豪雨ですか?」
「あー!そうそれ、ゲリラ豪雨。それが局地的に降って下水が鉄砲水みたいになってたまたまあそこの下水道の圧力が上がったとかで、丁度そこの上にいた車にマンホールが当たってここまで飛んで来たって事らしいけどね。」
「そんな漫画みたいなことって有るんですか?」
「いや〜直接観てないもんで私にはどうとも言えませんがね、事故が起こって直ぐに外に出たけど、マンホールが空いてたり、はしとらんかったんですよね〜。私はどうも怪しいと思ってるんですけどね。」
「映像とかには写って無かったんですか?」
「いやねそこがもっと変なとこなんですけどね。この交番にも防犯カメラが付いてて、映像データが警察署に直接行ってるんですけどね。ちょっと警察署が行く用事があって、ついでにちょっと映像でも観てみようと思ったんだけど、何故かその日付のデータだけ削除されてるみたいでねって。こんな事部外者に言っちゃダメだった。今言った事聞かなかた事にしといてくれんかね。」といきなり不味そうな顔をして忘れる様言われたので、苦笑いしながら「はははっ。」と適当に返した。
「そう言えばあんた仕事は何してるね?」
「あ、公務員です。」
「何ね、あんた同業者かね、それじゃあよかった。お互い最近コンプライアンスとかうるさいでしょ。」
「ええ。お互い様です。」
「いやーよかったよかった。ここは田舎で暇だからついつい話し込んじゃうんだよね。」と笑いながら言う警察官を見て、良い人なのは分かるけどこれで良いのかと、警察組織のコンプライアンス教育を心配してしまった。
その後交番を出てから暫く交差点の周りを歩き事故現場が映りそうな場所にカメラが設置してあるお店や建物を回ってみたが、何処の店も映像を5ヶ月も保存してないか、事故当時警察に提出したまま帰ってきていないという回答だった。
日が傾き始めた頃、私は交差点を少し離れた、住宅街にいきなり見えてくる古びた喫茶店に野前を歩くと洋食の良い匂いにが漂ってきて、調査に夢中で昼食を食べていないのを思い出し吸い込まれるようにドアの取手に手を掛けた。ドアを開けると内側の上のところについたベルがカランカランと鳴り、中に入ると少しレトロな感じの木製の机やカウンターが置かれていてほのかにタバコの香りがした。
少し高いカウンターの席に座るとすぐにカウンターの奥から眼鏡をかけた30代ぐらいの綺麗な女性が出てきた。
褪せたデニムのシャツにブラウンのスカートを履いたどことなくレトロな姿はこの店にあっていて、何処か店が昭和レトロな雰囲気が漂っていた。
「いらっしゃい。」と言って彼女はラミネート加工された一枚のメニューと布のおしぼりを私の前に置いてカウンターの奥に戻っていくと。
私はメニューに一通り目を通して、書いてあったナポリタンスパゲティとアイスコーヒーを大声で頼ん無と奥から「はい。」と返事が返ってきてそれから数十秒後にアイスコーヒーが直ぐにが出きた。
「ナポリタンちょっと待ってくださいね」と何処か色っぽい声で言った後彼女は再びカウンターの奥に入って行った。
奥にある厨房からは包丁の音は聞いているといつの間にかフライパンが何かを焼いている音も聞こえてきて、その後ケチャップの焼ける匂い漂ってくる。
こんなに食事が我慢できそうにないのはいつぶりだろうかと考えていると5分ほどしてから彼女がナポリタンを持って出てきた。
「お待たせしました、ナポリタンスパゲティーです。」と言って出てきたナポリタンは麺が太くて鮮やかなオレンジ色の昔ながらと言ったものだった。
「頂きます。」と手を合わせてナポリタンを食べると懐かしい味がしてフォークが止まらなくなり5分ほどで食べてしまった。
「ご馳走さん」と手を合わせると彼女は私をチラッと見て少し笑った。
「何ですか?」
「ゴメンなさい、口の周りに着いてるから、ケチャップ。」と彼女は新しいおしぼりを出してくれた。
「いやー、ありがとうございます。うまかったですこのナポリタン。」
「こちらこそありがとうございます。あなたこの店は初めて?」
「はい、ちょっと法事で東京から来てて。」
「やっぱり。訛ってないからそうなんじゃないかなって思ったのよ。」
「お姉さんも訛ってないかないね?」
「実は私も東京から来たの。」と言うと、彼女はステンレスのポットを持って近くに来て少し減っていたアイスコーヒーをなみなみ注いでくれた。
「いいの?」
「いいのよ、どうせ置いといたって悪くなっちゃうんだから。」
「じゃあ遠慮無く。」
「平日ってあんまり人が来ないのよ。」
「へー。」と言いながら私はバックからホープを取り出し一本口に咥えると彼女はどこからか取り出したライターをタバコの前に出し火を付けた。
「ねえ、私も一本もらっていい?」
「ああ全然いいよ。」と箱を開けて彼女に差し出すと彼女は目の前に座り一本取って口に咥えたのですかさず私もライターを取り出し火をつけてやった。
「ありがとう。」と言った彼女は長い髪を後ろで一つに束ね始めた。
「産まれはここなの?」と彼女に聞くと。
「うん高校卒業までずっとここで大学から東京。元々このお店はおばあちゃんのお店でね、5年前におばあちゃんが亡くなって以来ずっと閉めてたんだけど、1年前にこっち帰って来て貯金をはたいて綺麗にして今は私が店主をしてるの。」
「へー。」と相槌をしながら煙を吐く。
「見た感じそんなに新しそうじゃないのに、結構お金かかったの?」
「見た目はねあんまり綺麗じゃないって言うかレトロな感じが好きだったから極力そのままにしたのよ。でも厨房とかトイレとか防犯カメラとか色々変えたわ。」と聞いて耳を疑った。店内を見渡すと店の奥から大きなガラス窓の方に向かって店内を一望出来る位置にカメラがあった。この店の大きなガラスの窓から事故現場の交差点まで50メートル以上はあるが写りはするかも知れなかった。
「もしかして、4月のカメラのデータって残ってる?」とダメ元で聞いてみる。
「たぶんあると思うけどどうしたのそんな血相変えて?」
「交差点ですごい事故があったって聞いてちょっと興味が有ったんだよ。」
「事故って交番に突っ込んだ?」
「そうそれ。」と言うと彼女は少し不審そうな顔をしながら奥のパソコンまで案内してくれた。
パソコンの前に彼女が座り事故があった日の映像データを調べる。
「事故があったのって朝だったわよね?」
「確か朝の8字半過ぎごろだったはずだ。」と言うとデータの時間を動かすバーのカーソルを動かす。
「じゃあこの辺りかなっと。」と言って再生された画面の中央に映るガラス窓の奥に確かに交差点を通る車が見えた。
「ちょっと早めるわね。」と彼女は映像速度を1.5倍に上げそのまま数十秒映像を見た時、確かに交差点の中央で車が宙に浮く映像があった。
彼女は「驚いた、車ってこんなに飛ぶのね。」とびっくりした様子で一時停止した画面を見ていた。
「この映像、少し貸してくれないか?」と言うと彼女は少し疑う様な顔をして。
「いいけどこんなの何に使うの。」と言った。
「出来ればあまり聞かないで欲しいし絶対誰にも言わないで欲しいんだけど、俺は記者なんだ。」と言いながら財布から名刺を取り出して彼女に渡した。
「あ〜、そう言うわけね。でもこんな映像がそんなに必要なの?」
「この事件だけだとローカルニュースでやってるびっくりニュースかも知れないけど別の事件の鍵になるかも知れないんだ。」
「USBメモリー持ってる?」と言われてバッグまで取りに行ってから彼女に渡すとそれをパソコンに差し込み、データをコピーし、それを私に渡し「タバコのお礼にあげるわ。」言った。
彼女から受け取ったUSBメモリー手に、店お出ようとお勘定を頼むと。
「あら、もう帰るの?」
「ああ、本当はもっと居たいんだけど、早く出ないと東京に帰れないから。」
「今日中に、東京に帰るつもなの?」と言いながら伝票をレジに打ち込み「660円お願い。」と言うのでつい。
「安っ!と言ってしまった。」
「ここら辺物価安いから。」
「ああ、そうだお姉さん名前なんて言うの?」
「私!?、私は白鳥絵理子。」
「白鳥絵理子か。データありがとな。またこっちに来たら今度は何か奢るよ。」
「もしかしたらこっちが東京にいくかもしれないからその時にお願い。」と彼女は言った。
「必ず電話して。」
店を出ると絵理子は店の外まで見送ってくれて、私が見えなくなるまで彼女はそこに居たので、私は何度も後ろを振り返り恥ずかしがりながら何回も手を振ったら彼女も振り返してくれた。
こうやって見送ってもらうのっていつぶりだろうか、こう言うのも昔の映画みたいで良いなと思った。
彼女が見えなくなる頃、ケータイがなり画面には公衆電話と書かれていたので通話ボタンを押すのを躊躇ったが、一応画面をタッチし耳に当てると聞き覚えのある中年男性の声だった。
「お前さん、緒方か?」
「はい。」
「俺が分かるか?」
「もしかして原口さんですか?」
「ああ、警察署ぶりだなあ。元気か?」
「はい、それよりどうしたんですか公衆電話からなんて?」
「いやな、お前さんと別れてから、ちょっとお前さんのこと調べさしてもらったんだよ。」
「はい。」
「でな、驚いたよあんた5年前の超能力の事件スクープした奴だったんだってな。」
「昔の話ですけどね。」
「まあ、そんな謙遜するなや。ところでな、お前まだ火事の事件追ってるか?」
「ええ、一応。」
「今日の夜、会えるか?」
「えっ、今日ですか?」
「欲しくねえか、情報。」
「いやいやいや、欲しいです欲しいんですけど今せんだいに居るんですよ。」
「はあー、せんだい?そんなの新幹線で2時間も掛からないで来れるだろ。」
「ああ、そっちのせんだいじゃなくて、鹿児島の方なんですよ。」
「鹿児島?」
「そうです、一応新幹線で帰るんですけど、今から駅に行くんで今日中に帰れるか分からないんですよ。」
「そうか、そりゃダメだな。」
「あ、そうだ原口さんに会うの自分が信頼してる人でも良いいですか?」
「できれば本人がいいんだがなあ、じゃあ明日にするか。」
「ちょっと待ってください。その人私の上司でこの調査を命令した人なんですよ。」
「上司?」
「はい。雲村って言う人です」
「雲村?」
***
緒方から電話があったのは17時過ぎの事だったで原口と言う刑事が情報をくれるかも知れないから、会いに行ってもらっても良いですかと言うことだったので23時を過ぎた頃、緒方に教えられた八王子駅から少し離れた商店街にある焼き鳥屋に向かった。
外観はいかにも昔からありそうな小汚い感じで若者は入り難い雰囲気を出していて、出入り口のガラス越しに中を見ると想像通りで梁や天井には厨房の換気扇が吸い切れなかった煙のせいでススや埃で真っ黒になっていた。
席は厨房の前にカウンターで数席あり入り口から見て一番奥の席に半袖のカッターシャツを着た、見覚えの有る中年男性が一人タバコを吸いながら、一合サイズのKIRINと書いてあるコップでビールを飲んでいてた。
入り口の引き戸をガラガラと開けると奥の席にいた中年男性はちらを向き私と目があって片手でこっちに促した。
「やっぱり原口さんでしたか。」と恐る恐る話掛ける。
「おお、緒方に雲村って効いたときはまさかって思ったけどやっぱりお前か。」と嬉しそうに背中をぱんぱん叩かれる。
「久しぶりだな。」と言いながらポケットからタバコを取り出すしながら店の親父に瓶ビール を頼んだ。
「お前、まだエコーなんか吸ってんのか?」
「原口さんだって昔はわかば吸ってたじゃないですか。」と言うとカウンターに置いてある普通より縦に縦に長いタバコの箱を見て「パーラメント吸うなんて、出世してブルジョワジーに染まったんじゃ無いですか。」と反撃した。
「馬鹿、警察は年功序列で給料が上がってくんだよ。おめえらみたいな貧乏人と一緒にするな。」
「何ですかそれ?」懐かしみながら冗談を言い合った後「それにしても本当に久しぶりですね。」と話を変えた。
「ああ、そうだな、お前が上司と喧嘩して文化部に飛ばされて以来だろ。」
「じゃあ、10年前だ。」
「そうか、どうりでお前の頭も殺風景になるわけだな。」
「うるさいですよ。でそのあと文化部でも上司と喧嘩して、直ぐに今いる、調査報道班に入ったんです。」
「ほー、じゃああの緒方って奴もそこの奴か?」
「はい、カワイイ部下です。」
「にしちゃあ、ずいぶんおっさんだな。」
「見た目はね。でも中身はまだ新卒の新人みたいに青いですよ。」と言うとカウンターの中から瓶ビールと冷えたコップがき他ので置いてあった飲みかけの瓶ビールを自分で入れようとするが原口さんが先に取って、注ぎながら「昔のお前みたいだな。」と返事をした後軽く乾杯をし。
「あいつね5年前におっきいスクープとったの知ってます?」
「ああ、ちょっと調べた。」
「で、内閣が解散して、普通の記者ならちょっとぐらい嬉しくなって天狗になるじゃないですか。」
「ああ。」
「でも、当時の総理大臣だった大友熊八が何の罪にも問われなく、そのまま議員を続けて3年前には与党の幹事長にまでなったのを見て、ふて腐れちゃったんですよ。」
「昔のお前よりもガキだな。」
「はい。」
「まあ一応はちゃんと仕事やってるんでいいんですけどね。昔より勢いがなくて。でそんなあいつが珍しく今回やる気になってて、もしかしたらあいつが一皮剥けるんじゃないかと思ってるんですよ。」
「スランプか。」
「はい。」
その後二人で酒を飲みながら思い出話に花を咲かせた後本題を切り出した。
「ところで原口さん、緒方に用事って何だったんですか?」
「ああ、そうだったな、懐かしくて忘れてた。」と隣の椅子の上に置いてあったバックから取り出したのはA3サイズで紐で綴じてある封筒だった。それをそのまま私に渡し、私は周りをキョロッと見回し誰もいないことを確認すると、捜査資料のコピーが薄い冊子になって入っていた。
「これって。」
「ああ、捜査資料のコピーだ。って言っても現場の写真とか消防の報告書とか大したものはないがな。」
「どうしてコレを?」
「いやなあ、この事件は現場を一目見た時引っかかるところがあったんでたまたま横取りされる前にコピーしてたんだよ。」と言い終わる頃に、入口から引き戸が開く音がした。
私と原口さんは一斉に入り口の方を向くと、暖簾をかき分け入ってきたのは疲れた顔をした緒方だった。
「緒方。お前間に合ったのか?」
「はい、キャップは会えましたかって、原口さんじゃないですか。会えたんですね。」
「おう。」と原口さんは緒方の方にコップを軽く持ち上げて挨拶をした。
「原口さんすいません。」
「いや気にすんな、久しぶりに顔なじみ会って楽しいかったよ。」と原口さんは嬉しそうに言った。」
「緒方よく来れたな。」と私が聞くと、緒方は俺の横に座ろうとするので、横の席に置いていたバックを素早く持ってもう一つ横の席に置き「あ、すいません。」と言いながら座って、「いや〜大変でしたよ、一本遅れてたら姫路で一泊でした。あ、そうだコレお土産です。」とミニボトルの焼酎を二本取り出して私たちに渡した後にマスターに生中を頼んだ。
「それより、何か2人共ずいぶん仲がいいみたいですけど、もしかして知り合いですか?」
「ああ、昔雲村が社会部にいて警視庁に張り付いてた頃にこいつが新人で入ってきた時からだ。」
「最初に緒方から名前を聞いた時から何か聞き覚えがあると思って会ってびっくりしたよ。」
「え、ていうことは原口さんって警視庁に居たんですか?」
「おう、自慢じゃないが高卒から40年間現場一筋よ。」
「警視総監賞も何回か貰ってましたよね。」
「まあ昔の話だ。」
「じゃあ何で今はこんな田舎の警察署に居るんですか。」と緒方が聞くと「おう、随分卒直に行ってくれるじゃねえか。」とにやにやしながら原口さんが答えた。
「そうだぞ、緒方はっきり言うな、年下でエリートの上司を殴ったら飛ばされたんだから。」
「うわって事は二人とも似たもの同士って事ですか。」
「うるせえ。」私が言うと緒方は私が持っている封筒を見つけた。
「それが、原口さんが言ってた奴ですか?」と言うので、「ああ。」と言いながら封筒を緒方に渡した。
「コレって、捜査資料じゃないですか。こんなの良いんですか。」
「そりゃばれたら良くないだろうがこれはコピーだから大丈夫だろ。」と何ともなさそうに原口さんが言った。
「そう言えば二人に見せたい物が有るんですよ。」
「おいおいそれは俺が見ても良いのかよ。」
「原口さんも見ておいたほうがいいかも知れません。」と緒方が言う。
「どう言う事だよ?」
「それと言うのも私達がこの事件を調べ出したのは垂れ込みなんですよ。」と緒方が言った。
「垂れ込み?」と聞き返す原口さんに私が答えたえる。
「そうなんです、匿名の垂れ込みだったんですけどね、八王子の事件と、7月に小牧で起きた水難事件、それと4月に鹿児島の川内で起きた交通事故は繋がりがあるって物だったんです。」
「ほー、それで緒方は川内に居たのか。」
「はい。それで小牧と川内の事件を調査したんですけど。どの事件も不自然なんですよ。小牧の事件は水難事故が起こりそうもないほど小さな小川だし、川内では軽トラックが交番の二階に突っ込んでたんです。それに八王子と小牧の事件は両方共事件後に行方不明になってる人が居るし。それで見てもらいたいのがやっとの思いで探して出したのが川内の事件発生時の動画データです。何故かどこのお店や建物のカメラのデータがなくって苦労しました。」
「ほう、じゃあ見せてくれ。」と言われた緒方はバッグの中からパナソニックの小さなパソコンを取り出し原口さんと私の間に置きUSBメモリーを出して映像を再生し出した。映像はどこかのお店の防犯カメラの様で、画面の奥にある大きなガラス窓がありそこから見える外の道路は少し光が強くなっていて不鮮明でかろうじて車通りが見えた。
すると次の瞬間、動路の上辺りに空中を進む一台の何かが見えた。
「どうですか?見えたでしょ。あれこれ回ってコレが限界でした。」
「何かが飛んでるのは分かるんだが何が写ってるのは解く分からんな。」と原口さんがいつの間にか掛けていた老眼鏡を外しながら言った。
「やっぱりですか。」
「大体映像が粗いからなあ。」と原口さんが言った後私は「緒方、明日ちょっとここに行ってこい。」と言いながら紙ナプキンにある住所を書いた。
「何処ですかここ?」
「知り合いのパソコンオタクだ。この映像をなんとかしてくれるかもしれない。」
「分かりました。」
「おい、結局この三軒の事件の共通点ってなんだ?」と原口さんが言った。
「全部の事件でおかしな事象が起こっている事ですかね。」緒方が言った。
「おかしな事象か。」と原口さんは少し考えた後緒方に向かって「超能力みたいだな。」
「「超能力?」」と私と緒方は2人で聞き返した。
「ああ前に緒方がスクープした時雑誌とかで眉唾な記事がいくつも上がってただろ。スーパーソルジャーは超能力者だったてな。」
「確かにそんな話がネットとか週刊誌とかでもありましたけどほんとにあるわけないじゃないですか。」と緒方が言うと原口さんはニコッとして「じつはなおれ、そう言うオカルト話好きなんだよ。」と言って、私は昔原口さんとオカルト雑誌の話をした事を思い出した。
「そういえば原口さん昔そう言う雑誌買ってましたよね。」
「そういえば、お前ともそんな話したな。」
「まあ緒方、今回の事件は不思議な現象が起きてるのは事実なんだから、先入観なく取材しろよ。どっちみち今ある証拠だけで記事には出来んしな。」
「班長酔ってます?」と呆れた顔で答えた。
「緒方、困ったときに俺にも言え、もうすぐ定年でいつも暇だからいつでも連絡してこい。」と原口さんが激励すると緒方は「あの〜、他に金銭的な援助とかって無いんですか。」と恐る恐る確認する。
「俺は上司として応援はするぞ。金はない」と言い横の原口さんを見て「そうだ緒方原口さんは定年マジかの天下の公務員だから原口さんに頼め。」
「班長、バカにしてるんですか。」
「すまんすまんそんなに怒るなよ。記事になるまではお前は休暇扱いだからその間は俺が建て替えてやるよ。お前もちょっとは貯金しろよ。」
「お前ら、餓鬼みたいだなはっはっはっは。」と原口さんが笑いながら言った。
その日は気付いたら1時を過ぎるまで呑んでいた
***
9月13日
次の日キャップに渡されたメモに書いてあった場所に向かった。
その場所は三鷹の幹線道路から一本奥に入った所にある何年も前に潰れたらしきパチンコ屋だった。
パチンコ屋だった頃の入り口にあるガラスの自動ドアは動いておらず、そこから覗き込むと中は荒らされており至る所にパチンコ玉が散乱していてパチンコ台も何台か地面に散らばっていた。
メモに書いてあった住所を改めて検索してみるがやっぱりこの場所だった。どうにか建物の内部に入れないかと周囲を回ると裏口がありドアノブを回すと鍵がかかっていたが一応ドアの横にあるインターホンを押してみると、意外にも呼び鈴がなりスピーカーから男の声がした。
「あなた誰ですか?」と愛想のない声がした。
「あの〜雲村に紹介されて伺わせて貰ったんですが。」
「ああ、じゃあ緒方さん?」
「はい。」と言うとドアの鍵からカチャっという音がした。
「入ってください。」と言われてたあとスピーカーからプツっと通話が切れる音がした。
ドアノブを回すと今度はちゃんと回りゆっくりドアを開け中を覗くと、段ボールなどがいくつも積まれて置いてあるが、外観ほど汚くは無く中小企業の事務所といった感じでだった。
建物の中に入り目的地もわからず歩いているといくつもある箱の一つが蓋が開けっぱなしのまま置かれており中にはパチンコ屋さんの制服や景品ポスターなどが入っていた。
電気のスイッチを見つけ付けてみるがブレーカーが落ちているのか何も起こらく昼だというのに薄暗い部屋を覗くがさっきインターフォンに出た人の姿はどこにもなく、仕方なくあたりを行ったり来たりすると上と下に行く階段を見つけた。
上に行く階段は何処からか外の光が差し込んでいて明るかったが地下へ行く階段は真っ暗で踊り場より先は暗闇になって全く先が見えなかった。
出来れば地下には行きたくなかったので先に二階に上がってみるが一階と同じ様に大したものは無くダンボールや折り畳み机やパイプ椅子が有るだけだったので、なくなく地下の階段を降りることにした。
一階まで降り、スマホをライトをつけ恐る恐る一歩一歩と降りていき踊り場までつきUターンして降りようと一歩踏み下ろした瞬間、ぱっ天井の伝統がついた。
それと同時に驚いて、階段を踏み外し右足がジーンなりいきなり頭が動いた為だガンガンとした感じがした。
階段を降りると目の前に、コンクリートが打ちっぱなしの長方形の4メートルほどの短い廊下がありその突き当たりに鉄でできた頑丈そうな扉とその横にカメラ付きのインターホンがあった。
インターホンのボタンを押そうとするとするとスピーカーから先程の声がし「カメラに目を向けて。」と言われたので言われるがままにカメラを見ると、ガチャリと扉から音がした。
「入ってきてください。」と言われ扉を開けて入ると、同じようにコンクリート打ちっぱなしの廊下が7メートルほどあり左右に2個ずつと突き当たりに一つの扉があり左右の扉を一つずつ開けていくと 二つはトイレと風呂でそれ以外には鍵が掛かっていた。
最後に突き当たりの扉を開けると20畳ほどの1dkのマンションの様な部屋で中に入っていくと一番奥に一人の男がいくつもディスプレイがあるパソコンに向かって座っていた。椅子がくるっと周りこちらを向く男はお洒落な顎髭に横長の四角いメガネをかけた意識が高そうな男だった。
「遅かったですね。」
「いや、出来れば此処までの来方を教えて欲しかったです。」
「あれ、雲村さんに聴いてないんですか?」と相手は驚いたように言った。
「え、いやここの住所だけ教えられただけですけど。」
「あれ〜おかしいな、昨日雲村さんが貴方に伝えておくって言ってたから。・・・そうか、じゃあちゃんと僕が出てけばよかったですね。すいません。」
「いやいや、こちらこそうちの雲村がすいません。」
「いえ、大丈夫ですよ。それより貴方は?」
「雲村さんに聴いてないですか?僕は池谷と言います。デイトレーダーをやってて、ちょっとパソコンに詳しいんで雲村さんに頼まれごとをされるんで手伝ってるんですよ。」
「あ、そうなんですか、いやなんか妙な所に住んでるから、やばいハッカーか何かかと思いましたよ。」
「ああ、でも雲村さんに言われてハッカーみたいなこともやってますよ、捕まるようなこと無いと思いますけどね。」とニコニコしてその男は言った。
「キャップってどんな事を池谷さんに頼んでるんですか?」
「興味あります?」
「ちょっと。」
「雲村さんにはお世話になってるんで秘密です。」と丁重に断られた。
池谷さんに映像データが入ったUSBメモリーを渡すと金属のラックに置いてある大きく黒光する据置のパソコンケースに差し込むと、ディスプレイの前に座りキーボードをカタカタ打ちはじめ、画面の一つに映像が映し出され私はそれを後ろから見ていた。
「この映像ですか?」
「はい、この奥の大きなガラス窓にの奥をよく見えるようにしたいんです。」
「わっかりました。」と何かを考えるように言った池谷さんはコレまで以上の勢いでキーボードを打ち始め、ディスプレイに映し出された映像が何枚ものフィルターを通したように、、少しずつ暗くなっていき奥の白くぼやけていた所が見る見る見やすくなっていった。しかしよく見えるようになってくるのと同時に車通りが激しい所が画像が荒く見にくくなってきた。
「これ以上は綺麗にならないですかねえ?」
「え?、出来ます。」と池谷さんはさも当然のように言った。
「え、そうなんですか、よく最近の映画とかでそう言ったのは出来ないって言ってたからできないと思ってましたよ。」
「ああ、最近よく聞くようになりましたね。でも本当はできるんですよ、ただそういう技術はトップレベルの組織しか使ってないしトップシークレットなんですよ。」
「じゃあなんで池谷さんが使えるんですか?もしかしてスパイ?」
「いやいや違いますよ、こう言った技術ってその組織のエージェントなら結構誰でも使えるんですよ。でそんな人たちの中には時々おっちょこちょいの人が居たりして、居酒屋で気持ちよくなるとポロッとアカウントのIDとかパスワードとか簡単に喋っちゃう人が居るらしいんですよ。」
「居るらしいって、もしかしてそのIDとパスワード?」
「いや〜、いいお酒飲ませたら簡単に教えてくれました。」
「それバレてないんですか?」
「まあ大丈夫だと思いますよ。その人と時々呑んでるし、その時はちゃんと奢ってます。」と池谷さんはけろっとした顔で言った。
「そういう技術って他にもあったりするんですか?」
「色々有りますよ、どんなことでも分かってしまう検索エンジンとか、全世界の電話の通話を傍受して何を話しているか調べる物とか。」
「それって高いんですか?」
「大丈夫1万円でなんとかしますよ。」と人差し指を一本たてる池谷さんを見て、世界の諜報機関のコンプライアンスは大丈夫なのだろうかと心配になった。
次第に映像が拡大され、画像の荒ささがに綺麗になっていき事件の様子がよくわかるようになってきた。
「こんなもんでどうでしょうか?」と言われ映像を再生すると見たかった場所がはっきりと写っていた。
警官の話では下水管の圧力が上がりマンホールの上にいた軽トラックがその圧力で吹き飛ばされたと言っていたが、その瞬間の映像にはマンホールが飛んだ様子も圧力が上がった原因の下水が飛び散った様子も写っていなかった。
「凄いですね、この車どうしちゃったんですか?」と池谷さんは驚いた様子で言った。
「超能力なんですかねえ。」と映像を見ながら私は呟いた。
「超能力ですか〜。そういえば冷戦中アメリカとソ連では超能力の研究がされてたらしいですよ、知ってました?」
「胡散臭い年末の番組とかで見た気がします。」
「まあ、噂なんですけどね。どうも昔有名になったユリゲラーもCIAの超能力スパイだとか。」と言われずっと胡散臭くなった。
「そう言うのって何処に取材にしに行けば良いんですかねえ?」
「えっ、取材ですか?アトランティスですかねえ。」
「アトランティスって沈んだ大陸の?」
「よく知ってますねえ、でも違います月刊の方です。」
「月刊アトランティス?ディアゴスティーニとかアシェットですか?」
「違いますよ。同じ雑誌ですけどこっちは、オカルト専門誌です。」
「オカルトですか?」
「そう、川口浩探検隊とか。」
「ああ、藤岡弘探検隊とか矢追純一とかですね。」
「そうそう水曜スペシャルみたいな企画です。」
「大丈夫ですかね?そういうとこで取材して。」
「緒方さん、メンインブラックって知ってます?」
「宇宙人が出てくる映画ですよね?知ってますよ。」と言われ例の黒尽くめの男たちを一瞬思い浮かべた。
「あの映画でトミーリージョーンズがゴシップ誌から情報を探すでしょ。アレですよ。」
「アレは映画でしょ。」
「蛇の道は蛇ですよ。」
「はあ。」探すあてもなかったので月刊アトランティスの編集部にアポを取って行ってみることにした。
***
9月14日
月間アトランティスは大学館という大手の出版社が発行していた。
電話で連絡をすると思いの外、早く次の日には大丈夫だと言う事だったので次の日に編集部に向かった。
大学館のビルは千代田区一橋にある10階建てのビルで受付で待っていると身長が高くて体重も100キロは超えてそうな巨漢の男性が迎えにきた男はサスペンダーでベージュのチノパンを止めて、クリーム色のシャツに蝶ネクタイをしていた。
「いやいや、遅くなってすいませね。」と言いながらその人物は持っていたハンカチタオルで汗を拭っていた。
「いえいえ、こっちの方こそ昨日いきなり連絡したのに予定を空けてもらってすいません。」
「いや〜、毎朝新聞みたいな真面目なマスメディアに取材されるなんて初めてだからお役に立てればいいんですけどね。」と言われ4階の編集部に向かった。
編集部の机はどこも汚く通路にもアフリカや南米のお面や楽器、何に使うか分からない棒や置物が所狭しと置いてあり、その沖にあるオフィスの端の小さな会議室に案内されるとその中にも何かの動物の骨や壺や置物が置いてあり、ここも半分物置みたいになっていた。置いてある机の周りにある椅子に座り太った男は正面に座った。
「改めて、私は月刊アトランティスの岡部鉄夫と言います。」と言いながら渡された名刺には副編集長とかいてあり、岡部鉄夫はこちらから渡した名刺を見田あと机に丁寧においた。
「それで今日はどういった事を話せばいいでしょう?」
「あの、まず見てもらいたいものがあるんですけどよ。」
「見てもらいたいものですか?」と言われながら私はバックからパソコンを取り出し、池谷さんに処理して貰った映像をモニターに映し、映像を一通り見せた後私は岡部さんに尋ねた。
「この映像どう思いますか?」
「どうって言われもすち。この映像って本物ですか?」
「一応。この吹き飛んだ車は近くにあった交番の2階に突っ込んでいました。」と言いながらスマホの中に入っている事故現場の写真を岡部に見せた。
「うわ本当だ、ニュースとかになりました?」
「いえ。事故現場が鹿児島の川内で起こったんですけど、地方紙が小さく取り上げただけで大した記事にはならなかったんですよ。」
「警察のはどう言ってたんですか?」
「ちょうど山で雨が降って下水管の圧力が急に上がった所でタイミングよくマンホールの上に丁度いた車に当たって飛んだとか言ってました。」
「でもこれマンホール飛んで無いですよね。」
「はい。」
「マンホールが当たって2階まで飛ぶ事なんて有るんですか?」
「どうなんでしょう。この原因を調べるためにここに来たんですよ。」
「ということは、超常現象関係?」と言った岡部は目を丸くして、身を乗り出した。
「そういった可能性も含めて自由な視野でいろいろ調べてるんですけど。そもそもこう言った現象起こり得るんですか?」と聞くと岡部さんは饒舌に話しはじめた。
「車が2階まで飛び上がるのにはいろんな原因が考えられると思います。例えば旋風や竜巻などの風による自然災害が有りますけ。でもこの映像を見る限りそんな気配はない、次に警察が言ったように下水管の圧力が上がるってのもそもそもマンホールには穴が空いてますからねえ、相当の圧力がないと飛ばないと思います。あと珍しいんですけど車とマンホールの間が極端に気圧が下がるとマンホールが空いたりしますけど、そんな状況を作り出せる車は現時点でF1カー位しか有りません。で、ここからが僕らの専門分野なんですけど。」と含むように言ったあと語気が強まり。
「超能力があるんじゃないかと思います。」
「超能力?」
「はいその中でも、サイコキネシスとか念力とか言われたりするものです。」
「念力ですか。」
「そうです、緒方さんはポルターガイストって知ってますか?」
「まあ、聞いたことはあります、確か子供が起こすとかでしたよね。」
「はい特殊な磁場が思春期の子供たちの脳に作用し無意識的に起こると言われています。」
「子供ですか?」
「いやいや、大人でも十分に考えられますけどね。でも子供の方が多いんですよ。どうも不安定
な思春期の精神に地球の磁場が作用するとかで。」
「はあ。」あまりにも突飛で突っ込みどころはあるが一応聞く。
「緒方さんあれ覚えてます?政府が人体実験をしてたって言う事件。」
「はい。」あれ俺が書いた記事だけどと思いながら聞く。
「あれ当時は政治的な問題と倫理的な問題が論点になってネットとか週刊誌では超能力じゃないかとか言われてましたよね。」
「そうでしたね。」
「でも海外の記事を見ると結構この説って真面目に語られたりしたこともあったんですよ。どうしてかわかります?」
「どうしてですか?」
「アメリカもロシアもずっと研究してたからですよ。」
「噂では。」
「特に盛んだったのが冷戦の時です。まあその頃は、サイコキネシスじゃなくてテレキネシスの方が研究っされてたみたいですけど。」
「テレキネシス?」
「ああ、テレキネシスって言うのは例えば〜。ああ緒方さんサイコメトラーエイジって知ってますか。」
「だいぶ前にやってたドラマですよね、少し見たことなら。。」
「アレですよアレ、触った物の残留思念を読み取るやつ。あとテレパシーとか。当時は冷戦だったでしょ、だから超能力スパイを造ろうとしたみたいなんですよ。僕は専門外だからそんなに詳しく知らないけど。」
「こんなに話して専門外なんですか。」
「いや〜そうなんですよ、僕の専門は未確認飛行物体、UFOです。なんなら超能力の研究者紹介しましょうか?」
「専門家ですか?」
「はい、僕らよりずっと真面目にやってる人が居るんですよ。」
「その方はどこにいらっしゃるんですか?」
「えっと何処だったかな、ちょっと待っててもらえますか。」と言って岡部さんは会議室から出て行ったので出されていたコーヒーを一口飲むとすぐに戻ってきて手には名刺を入れて置くた為の物か掌サイズのファイルを持ってきてパラパラめくっていた。
「えーっと、あったあったこれだ。」と言って手渡された名刺には『超能力研究所所長芹沢四朗』と書かれていた。
「冗談みたいな名前ですね。」
「そうなんですよ、本物の芹沢博士です。怪獣でも殺せる兵器作っちゃいそうですよね。」と言われた後名刺の裏を見ると、北海道の聞いた事のない地名が書かれていた。
「遠いですね。」
「はい、本人も滅多にそこから出てこないので、ほとんど会ったことがある人もいないと思いますよ。」
「岡部さんは何処で?」
「全日本PSI学会ってのがありましてね。その取材の時にたまたま会ったんですよ。年に一回開かれてるんですけど、芹沢博士はその時だけは自分の研究所から東京から出てくるみたいなんですよ。」
「その学会って今年はいつですか?」
「えっと、確か先月に終わったんじゃないかな。」と宙を見上げた岡部はさらっと言った。
「行くしかないですかね、北海道に。」
「じゃないですかね。行って損は無いと思いますよ。こちらから、連絡を入れておきましょうか?」
「それは助かります、お願いしていいですか。」
「分かりました。」
「じゃあ一応こちらからも連絡させて貰います。」
「多分連絡とれないと思いますよ。電話に出ないみたいですから。」
「じゃあどうやって連絡するんですか?」と聞くとニコニコして「手紙です。」と言った。
* * *
9月15日
PSI研究所は北海道の中央部に位置する町の外れにあった。
金が無かったので、月刊アトランティスへ取材に行った次の日にキャップと会社近くの公園で会い現金5万円を借りるとその足で羽田空港に向かいそこから飛行機で14時に帯広空港着いた。空港の外に出ると昼だと言うのに随分と肌寒くスマホで気温を調べてみると20度だったで急いで荷物をまとめて出てきたので着るものは夏服だけしか持って来なかったことを後悔した。
そこから電車に3時間揺られその間に2回ほど乗り換えてやっと着いたのがPSI研究所の最寄り駅の街にで、スマホを見ると19時を過ぎていた。
スマホの転機アプリを見ると気温は13度で、半袖のシャツでは寒過ぎたので、商店を探して下着を重ね着するために買おうと思ったが、駅の周りには全くお店がなく、飲食店がチラホラあるのとコンビニが一軒あるだけだった。
ひとまず予約をしていたおホテルに行きチェックインして荷物のキャリーバッグを部屋に置いたあとホテルのカウンターでこの近くにユニクロみたいな店はないかと聞いてみると、衣料品の店は近くになくこの辺りの人は、だいたい電車で2つ目の大きな街にあるお店に車で行くということらしいので諦め、なくなく近くのコンビニへ行きその日の夕食と缶ビールを買って部屋へ戻った。
部屋でシャワーを浴び、ホテルの寝巻きに着替え、ベッドの端に座り目の前に、部屋に備え付けの小さなテーブルに弁当を置きながらテレビを見ていて、日本めの缶ビールをプシュっと開けた時電話が掛かって来た。
この状況、前にもあったなと思いながら、電話をみると班長からだった。
「なんですかキャップ。」
「何ですかは無いだろ、一応心配して電話してやったのに。」
「そりゃすいません。」
「それでどうだ、研究所には行けたか?」
「いや、最寄の町には着いたんですけど、もう遅かったので、明日行く事にしました。」
「そうか、結構遠いのか?」
「どうもここから車で1時間ほど掛かるみたいです。」
「随分遠そうだな。」
「はい、この街来た時寒かったんで下着でも買おうと思ってお店を探したらこの辺りそういうの全く無いんですよ。こことんでもない田舎ですよ。」
「まあ頑張れよ。」
「それより、東山って記者見つかったんですか?」
「いやまだ見つかってない。」
「何処行ったんですかね?」
「暗殺されてたりしな。」
「誰にですか?」
「警察に。」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ。俺も殺されるかも知れないじゃないですか!!」
「ああ、そう言えば原口さんがお前に、人手が足りなかったらいつでも言えって言ってたぞ。」
「原口さんが?」
「今日ちょっと電話したら、(俺はもう退職だから有給消化しなくちゃならないからいつでも休んでやる)だと。老人の暇つぶしだろ。」
「いいんですかそんなこと言って。」
「本人に言うなよ。」
「分かりました。」
「まあ、気を付けて取材しろや、じゃあな。」と言って一方的に切られたので、ビールを一口飲んだ。
***
9月16日
朝の10時にホテルを出ると空が曇っていて、周りの建物が低いため空が異様に低く見えた。
ホテルの玄関には最近では見ないタイプの角張った古いセドリックの個人タクシーが待っていて横にはオデコから頭頂部にかけて剥げた運転手が立っていた。
見るからに70歳を超えてる様に見え身長は低く、ブレザーを着る老人は私を見るなり「緒方様でしょうか?」と気の抜けたの様な声で勢い良く言ったので「はい。」と答えると後部座席のドアを開けてくれて私が座るとドアをバンッと閉める懐かしい音がした。
そのあと車の後ろから回り運転席に着くとエンジンを入れ一度車が動き出すとブルルーンとすごい勢いの排気音がして体がビクッとなったあとゆっくり車が動き出した。
「あれ、お客さん驚きました?この車ちょっとイジッてあるんですよ。」と言われ、人は見かけによらないなと思いながら運転席のバックミラーを覗くとニコニコしていて確信犯だと感じた。
「ちょっとだけ。」
「いやね、外から来る人はみんな驚かれるんですよ、ははっ。」
「何で改造したんですか?」
「そうだな〜、何でだったっけかなあ。あっそうだクマ除けです。」
「あー、すずの代わりですか。」
「いや、嘘です。」
「え?」
「いや、本当はね暇だったからなんですよ。」
「暇?」
「そう暇。いやね、この街でタクシーやってるのって僕とあと一人だけなんですよ。でどうせクルマを改造しても仕事に食いっぱぐれること無いだろうと思ってやっちゃったんですけどね。」
「けど?」
「みんなもう一台のタクシーにばっかり予約する様になっちゃったんですよ。」
「でしょうね。」
「はい。でもその話には続きがあるんですよ。」
「続き?」
「ええ。それでこっちの売り上げが減っちゃったから私、値下げしたんですよ。そしたら売り上げばんばん上がって仕事しっぱなしで忙しくなっちゃったんですよ。」
「良かったじゃないですか。」
「いや〜、それはそうなんですけどね、私仕事がそんなに好きじゃないんですよ。」
「え?」
「だからもう一人の奴と居酒屋に飲みに行った時に、もう平等にしようって言ったんですよ。」
「お二人は仲良いんですか?」
「え!私ですか?」
「はい。」
「一緒に住んでますよ。あれ、言ってなかったでしたっけ?」
「えっ!?言ってないです。」
「嫌ですねー年取るのは。今流行りのルームシェアですよ。」
「はー。でもまだこのクルマすごい音するじゃ無いですか。」
「ああ、それは、奴の車にもマフラー付けたんですよ。」
「えーーー!?じゃあ問題解決するどころか悪化してるじゃないですか。」
「いやね、それがこの街、老人ばっかでしょタクシーが近くに来たのがすぐに分かるからいいって言われる様になったんですよ。人間万事塞翁が馬ってやつですな、昔の人はよく言ったもんだ。ははは。」
「はー?」と言いながら田舎の特殊な社会問題を垣間見た様で変な気分になった。
「そういえば、PSI研究所って所はどんな所ですか?」
「ああPSI研究所ね、私は前を通った事はあるけど入った事ないんですよ、住んでる奴は知ってますけどね。」
「芹沢四郎さんをですか?」
「はい、私小中高と同級生ですよ。」
「そうなんですか。どんな人ですか?」
「最近は会ってないけど時々街まで買い物に来てるみたいですよ、ガキの頃はいい奴でした、勉強ができて運動もできて顔もいいそれに家がお金持ち。学校に1人はいる。優等生ですよ。この辺りも昔は人が一杯いて学校の生徒数も凄かったんですよ。その中でいっつも学年トップでした。」
「へー。」
「で大学進学の時だったかなこの街出て東京に行ったのが。それから全く帰って来なくってね、東京の同窓会にも一回も来なかったですよ。」
「東京に居たんですか?」
「そうそう、東京の東京大学。」
「へー、専攻とかって何だったんですかね?」
「えーっと何だったかな確か理学部とかじゃなかったっけ。」と言われ想像する芹沢博士の想像図は眼帯をした男になっていた。
走り始めて10分もすると窓の外は深い森に包まれ、道路の両側を5メートルほど入れば木が鬱蒼と茂っていた。それから20分は殆ど同じ風景で、時々道路標識がある位だったので、ホテルでよく眠ったにもかかわらず、再び寝てしまった。
「お客さん着きましたよ。」と言われ、外を見ると霧が立ち込めていて、お金を払い外に出ると目の前に大きく立派な二本の岩の柱が出できた門があり、その奥には手入れがされてない為か草木が伸び放題の庭がありその一番奥に古い豪邸があった。
玄関に行くと表札の下に『PSI研究所』と書いてあるプラスチックの板が貼られていて呼び鈴を鳴らすと家の中でジジジジと音がしたあとトントントンと近付いてくる音がした。
音は近くで止まり鍵穴からガチャっと音がして少しだけ扉が開て間から何者かの目がこちらを覗いていた。
「どなたですか。」と年配の男性の声がした。
「毎朝新聞の緒方と言います。」
「毎朝新聞ならもう取っとるけどねえ。」
「いや、販売店じゃなくて記者をしてるものです。」
「記者ですか。」と男性が言った後扉が閉まり、中でガチャガチャ音がした後再び扉が開いて「どうぞ入って下さい。」と言われ中にはシャツにネクタイを締め茶色のベストを着た男性が立っていて中に通された。
中は天井が高く吹き抜けの階段があったりと豪華な内装だが、どこも古くなっているようでどこか色褪せていて廊下やちょっとした台の上など色々な場所には書類の束や資料などが置かれて繁雑な印象がした。
応接間の様な所に通され、ソファーに座るとベストを着た男は目の前に座っていて、よく顔を見ると若い頃はモテただろうと思うダンディーな見た目の男だった。
「はじめまして芹沢です。よくこの研究所のことを知りましたね。」
「月刊アトランティスの岡部さんから。」
「岡部、ああ彼ですか。先月東京で会いましたが、元気ですか?」
「はいおととい初めてあったんですけど元気そうでしたよ。手紙で連絡するって言ってましたけど来てませんでした?」
「いえまだ来てないと思いますけど。」と芹沢博士は書類が大量に置かれた机の上を見た。
「それじゃあいきなり来てすいませんでした。一応電話をさせて貰ったんですが繋がらなくて。」
「ああ、それはこちらこそ、この家はでかいのに私1人しか住んでないし未だに黒電話を使ってるのでなかなか受話器を取ることができないんですよ。」
「はあ。」
「それで毎朝新聞の方がどういった用でしょう?」
「超能力について意見を聞きたくて来ました。」
「本州の新聞社が珍しいですね。」
「今、ある事件を追いかけていて、ちょっと映像を見てもらえませんか?」
「映像ですか?」
「はい。」といって私は三軒の事件をまとめた資料を芹沢教授に渡し数分軽く読んだ。
「火事に水難事故と交通事故ですか。確かに文字だけ見ればこれらの事件は普通の事件じゃないですね。」
「そえれと、これもと言って」といってバックからパソコンを取り出し、映像を見せた。
「この映像が超能力者の仕業じゃないかと言うことですか。」
「いや、まだ超能力と断定したわけじゃありませんが、可能性の一つとしてはして調査してる所でして。」
「大手の新聞社にしては随分柔軟な考え方をしますね。手の込んだ冷やかしなら丁重にお引き取り願おうと思ったんですが。わかりました力になりましょう。」
「ありがとうございます。それで単刀直入に聞きますが超能力は本当に有るんですか?」
「はい、超能力は実在します。20年以上前の冷戦の頃は、どこの国も多かれ少なかれ超能力研究をされてました。緒方さん、ちょっと来てもらいたいんですけど良いですか?」といわれ案内されたのは、屋敷の二階にある芹沢教授の研究室だった。研究室は足の踏み場もないほどの書類や書籍、証拠物件や写真などが山積みになっていて、壁には世界地図が貼ってあり何枚もの写真が画鋲で留められていた。
研究室の一番奥に大木で出来た大きな机がありその上も資料で埋もれていたが、唯一天板が見える所に一台のノートパソコンが置かれていて芹沢博士はパソコンの前の古い木製の回転椅子に座り、横にあるスツールに勧められた。
教授はある映像ファイルを開きはじめ、そこには広いコンクリート張りの窓のない体育館みたいな場所の真ん中に一台の古いセダンの車が映っていて暫くすると、1人の髪の長く若い女性が車まで近付いて車に触れ、暫くするといきなり彼女と反対側に車が吹き飛び画面に揺れとノイズが入って映像は止まった。
その車の吹き飛び方は川内の事故の映像を連想するものだった。
「この映像は?」いうと教授が椅子をくるりとこっちに向けた。
「私がある筋から入手した実験映像です。」
「実験ですか?」
「はい、今から20年以上前にソ連で行われた、超能力者の能力実験です。ソ連崩壊時のごたごたで流出したものです。」
「ソ連ですか?」
「はい、他にもアメリカや中国の計画や実験の資料も多少あります。」
「そもそもこの研究所はどういったことを行っているんですか?」
「一応、PSIつまり超心理学の中でも超能力のサイコキネシスとテレキネシスの研究を行なっていますが、どうしても日本じゃ研究対象が居なくて、今はもっぱら海外の論文研究と、非正規ルートで資料などを集めています。」
「非正規ですか?」
「はい、特に多いのは旧ソ連の研究資料です。さっきも言った様に崩壊時に大量に世界に流出した事もありますがソ連は特に規模が大きくかったですから、今世界中で取引されているもののほとんどはソ連のものです。」
「当時西側陣営ではどうだったんですか?」
「勿論行ってました。というより今も行われているでしょうね。それ以外にイギリス、フランス、イスラエルなど色々な国で行われていますが特に研究されているのがロシア、アメリカ、そして日本です。日本のは5年前に事件が有りましたからご存知でしょう。あの事件は確か毎朝新聞さんのスクープですたね。」
「はい。」
「あの事件は惜しかったですね。」
「惜しかった?」
「不謹慎と思われるかも知れませんが、あの計画で被験者達に能力が発現していたら、世界的に超能力が実在することが証明され、一層研究が進んだでしょう。」
「教授はあの実験は超能力者を作り出す実験だと思ってるんですか?」
「はい、その可能性は十分にあると思っています。」
「失礼ですが、教授は超能力者にあった事は?」
「あります。」
「その方は今どこに?」
「亡くなりました20年前の事です。それは私の娘でした。」
「すいません。」
「いや良いんですよ、昔の話です。クロイツフェルトヤコブ病という治療不可能な病気でした。それ以来、医師として務めていた私は病院を辞め、ここで研究をしています。と言っても全く金にならないので親の遺産を食い潰している所ですよ。」と言って教授は少し窓の外を見ていた。
「すいません、話が逸れましたね、それで何でしたっけ?」
「ああ、じゃあ先程ロシア、アメリカ、日本が研究されていると言っていましたがなぜ日本なんです?」
「元々超能力の研究を最初に行ったのは日本だからですよ。」
「日本がですか?」
「はい。事の始まりは第二次大戦中のフィリピンでした。その頃日本軍はフィリピンを占領していて、その過程である孤島にたどり着いたんです。」
「フィリピンの島ですか。」
「はい。その島には二つの部族がいて部族の中には1人ずつ祈祷師というかシャーマンが居たらしいんですが、調査をするうちにそのシャーマンにはある種のテレパシー能力があるこことが分かったんです。」
「テレパシー能力?」
「そうです、まあどうも大まかに相手の気持ちが分かる程度のものだったみたいですがね。そして陸軍がその能力に目を付け研究をし始めたんです。でそれを研究していたのが731部隊です。」
「731部隊って関東軍のですか?」
「はい。」
「でも731部隊って生物兵器とか細菌兵器の研究部隊でしたよね。」
「確かにそうです。そもそも最初に調査をしていたのは陸軍の軍医学校でした。しかしより詳しく人体実験をする為に、当時大規模に捕虜を使って人体実験をしていた関東軍の731部隊の管轄になったんです。731部隊は当時陸軍軍医学校と頻繁に人材交流をしていましたし、731部隊自体が拡大指向でしたからそういった経緯もあるんでしょう。」
「人体実験とは主にどう言った事が行われていたんですか?」
「そうですね、単刀直入に言うと一般人を超能力者にするって言う事です。」と言われて耳を疑った。
「ちょっと待って下さい、私は岡部さんから子供が思春期にポルターガイストを起こす事がある聞きましたが子供を人体実験に使ってたってことですか?」
「いえ、子供だけじゃありません。大人でも成れる可能性があります。ポルターガイストは元々素質がある子供しか起こせません。」
「ちょっと難しいですね、つまりポルターガイストを起こす子供達は生まれながらに素質があるが人間は全員人工的に超能力者になれる可能性があるってことですか?」
「そう言うことになります、少し長くなりますが仕組みを説明しましょうか?」
「お願いします。」
「分かりました。最初に超能力が発見された部族のシャーマンにはある習慣がありました。何か分かりますか?」
「習慣ですか?」
「カニバリズムです。」
「食人ですか。」
「はい、そもそもその島のシャーマンはシャーマンの一族しか成れなかったんですが、その一族の中に生まれるテレパシー能力がある者がシャーマンになる権利が有るのです、そしてその者がシャーマンになる時、老衰で死ぬ直前のシャーマンの首を切りとり脳味噌を取り出し食べるのが習慣でした。」
「なかなかグロテスクですね。」
「はい、もう今は行われていない様ですが。そして陸軍はその習慣に目を付け、人体実験をしたんです。戦後それらの資料はソ連の中立条約破棄によって満州に侵攻して来た時に押収されました。そのためソ連の当時の資料が多く残っています。アメリカはソ連に資料を押収される前に本国に戻って来ていた資料などを731部隊将校の戦争責任を免除の代わりの司法取引に使われました。」
「その実験ってまさか。」
「はい、そうです人間に特殊能力がある人間の脳組織を摂取させるんです。」
「やっぱり。」
「単刀直入に言うと超能力者を作るにはプリオンが重要な役割りを担ってたんです。」
「プリオンって昔問題になった奴ですよね。確か狂牛病の原因だとか。」
「はいそうです、ただ戦争当時はまだプリオンが原因だとまでは判っていなかったみたいですがね。」
「じゃあそれでプリオンと超能力はどの様に繋がるんですか?」
「それはですね、緒方さんそもそもプリオンとはなにか知ってますか?」
「何なんですか。」
「まあ、問題になったのは20年近く前ですから無理もないですよ。プリオンというのはタンパク質の一種で私たちも持っている物です。」
「肉とか大豆とかのですか?」
「はい、そもそもタンパク質とはアミノ酸が鎖状に連結したものがいろいろな形に織り込まれた様なものなんです。そしてプリオンが原因で起こる病気や超能力は異常な状態で折り畳まれたプリオンが全ての原因です。」
「ちょっと待ってください、では超能力は病気の一種の様なものってことですか?」
「そういうことになります。過程が一緒で結果が違うだけです。ただ超能力を得るための織り込まれ方をしたプリオンを摂取したからと言って必ず超能力者になれるというわけじゃなく途中でクロイツフェルトヤコブ病などのプリオン病になることもあるんです。」
「タンパク質を摂取しただけで感染みたいなことが起こるんですか?」
「プリオンタンパク質には原因はまだはっきりしていませんが感染作用があるんです。そして私の娘もそのクロイツフェルトヤコブ病になって死にました、プリオン病と呼ばれる病気は全て現代医学では治療する事は出来ません。緒方さん私がずっと超能力を研究しているのは何故娘が死んでしまったのか知りたいからです。そしてここからは私の仮説ですからオフレコでお願いたいんですが。」
「はい。」
「この国は国民を使ってこのプリオンの研究をしていたんじゃないかと思うんです。」
「どういうことですか?」
「例えばある一定の基準を満たしている者は検査や治療のついでにプリオンを何らかの方法で摂取させられていたのではないかということです。」
「まさか、そんなことが行われていたら国民はみんな超能力者かクロイツフェルトヤコブ病にかかってることになっちゃうじゃないですか。」
「しかし現に娘はその病気になって死にました。」と急に強い口調になってと言われ私は何も言い返せなかった。
「すいませんつい熱くなってしまいました。」
「いやこちらこそ。」
「私が今言ったことは憶測の域を出ません、しかし5年前の事件の後も日本や世界では超能力の研究は行われています。今回緒方さんが持ってきてくれた映像も超能力の可能性は十分あります。特に1件目と2件目の事件は共に中学生が消息不明になってます。緒方さん、それにちょっと思ったんですけどこの子供たちって5年前のあの事件の時の子供達と年齢が一致しませんか?」
「それって、まさか。」
「緒方さんあの時の子供達ってあの事件の後どうなったか知ってますか?」
「その辺りは公表されていませんが噂ではみんな里親に出されているはずです。」
「そうです。そして当時は能力が発現していなかった子供たちが今になって発現し始めたとは考えられないでしょうか。」
***
芹沢教授と話をした後タクシーを呼んでもらい数十分してから芹沢博士と玄関へ向かうと外はまだ霧が立ち込めていて、反対車線の路肩に止まっているタクシーが何とか見える程度だった。
「ああもうきてますね。」と芹沢博士が言うと、街の方向からブーっとバイクのエンジン音が遠くに聞こえ道路の街の方向を見ると霧の中に小さな日からが現れその光はエンジン音が大きくなるのと同時に光の強さを強めていった。
すると霧の中から郵便局の赤いスーパーカブが目の目の前でブレーキを鳴らして止まり、降りてきた若い男の郵便局員は私たちの方を見て。「芹沢さんは?」と尋ねると芹沢博士は「私ですが。」と右手を少し上げた。それを見て局員は「郵便です。」と言って一枚の葉書を渡した。芹沢博士は葉書を見るなり「ははは」と笑い出した。
「どうかしたんですか?」
「え、ああこれ見て下さいよ岡部さんが、あなたが来るって連絡をよこしてくれたんですよ。」その手紙はアメリカのお土産なのか荒野に一本の道が通っていてその横の立て看板にエリア51と書かれている写真に、あの見た目から想像が出来ないような達筆な字で挨拶が書いてあった。
「3時間おそかったですね。」と芹沢博士を見ると少し頭を掻きながら「やっぱり子機のある電話に変えないといけないですね。ははは。」と笑って言った。
「お客さんのらないんですか〜?」と止まってるタクシーの方からさっき聞いた、気の抜けた感じの声が聞こえて来たので、芹沢博士が。「おう、小太郎かちょっとだけまてよ。」と慣れた返事をした。
「芹沢お前も居たのか。霧で気付かなかったよ、久しぶりだな。」
「最近元気か?」
「まあボチボチだ、お前は?」
「最近太ったよ。」
「外に出たほうがいいぞ、こんな家に引きこもってたらすぐ歳を取るから。」とタクシーの運転手の話を聞いて私は、あんたが言うかと心の中で思った
「そうするよ。」と言うと芹沢博士はこちらを見て「まだ色々話したいですが小太郎もああ言ってるんで、そろそろ行ってやってください。」といわれ私はタクシーに乗った。
タクシーが走り出すと再びマフラーの凄い音がした。
***
研究所へ行った日の夜20時に私は空港に停まっているこの日最後の東京行き便の一番前の座席に座っていた。
前を見ると女性の客室乗務員が扉を閉め枠をなぞる様にチェックをした後、壁に着いている簡素な座席を倒し座った。
次第にエンジン音が大きくなり滑走路に向かって暫く地面を動いて行くと滑走路の端に止まりエンジンの音がさらに大きくなると短距離走の様にいきなり凄い勢いで座席に押し付けられると、次第に前方が上がった様な感覚がし機体は空中にいた。
窓から外を覗くと空は暗く下には街の夜景がよく見え、機体が上昇していくと同時に街の明かりは小さくなっていき、私は外を見るのをやめた。
機体が水平飛行になるとベルトを外し飲み物を配る客室乗務員にビールを一杯貰い胸ポケットに入ったオレンジ色の取材手帳を取り出し教授の話を思い出す。
5年前の子供達が今回の事件に関係してるかも知れない、と思うとこの仕事の限界を思い知らされながら私は5年前の事件を思い出す。
***
5年前、あの事件は夏に見たある夢から始まったんだと思う。
その夢は5年前の8月、随分暑い夏で全国でゲリラ豪雨と観測史上最高気温が連発された丁度真っ只中、大学卒業とともに希望していなかった文化部へ配属され3年、理想と違う職務に不満を持ちながらもマイペースに仕事をしていた時のことだった。
仕事終わりに久しぶりに大学の同級生と飲みに行った後の金曜日の夜に新橋で呑んだ後終電を逃し、なくなくタクシーに乗って帰って来た私はマンションの6階にある1ldkの我が家に帰ってきた。
ほろ酔いで足元も覚束なかった私は夜風に当たりたいとガラスの引き戸を開け、ベランダに出ると目の前には無数のビルやマンションがありすぐ下には一方通行の細い道路があった。
生温い夜風に当たりながらペットボトルの冷えた水を一口飲みながら所々に見える部屋の灯りを見て少しセンチメンタルな気分になった後ソファーに寝転がり薄暗い部屋で天井の壁紙を見ていたらいつのまにか眠っていた。
気が付くと目の前は見知らぬ木の節模様の天井だった。
「緒方さん、朝食が出来ましたよー。」と何処かから年配女性の声が聞こえて来て周りを見渡すと6畳ほどの古くて小綺麗な旅館の部屋だった。
「分かりましたー。」と大きな声で返し立ち上がると慣れないためか浴衣がはだけていたので腰紐を締め直した後、なぜか壁にかかっいるガラスで自分の顔を見ると髪の毛が寝癖でボサボサになっていたので洗面所にいき顔を洗った後頭を濡らし寝癖を整えた後、外の光を遮る障子を開けると縁側のガラス窓越しに暑い陽射しが体を照らした。
部屋の縁側にある木枠のガラス戸を開けると太陽の光とともに朝の少し涼しい風が顔に吹きかかりそれと同時にセミのなき声が部屋の隅々までを満たした。
外を見ると3階建の最上階にあるこの部屋から旅館の周りにある新緑の山々や谷間が、いつも東京で暮らす私にとってとても美しく見えた。
その後、浴衣を整え何故か場所を知っている旅館の一階にある食堂に向かうと食堂は少し大きな広間でいくつも座卓が置いてあり既に数組の客が和食の朝食を摂っていた。
空いている座卓の前に座ると何処からともなく薄い紫色の着物を来た年輩の中居さんがお盆に朝食を乗せて持ってきて目の前におき「よく眠れましたか?」と言うので、朝声をかけに来た人がこの人だと気付いた。
「はい、ぐっすり眠れました。」
「それは良かったですね、そう言えば昨日行っていたバスターミナルまで旅館の車で送って行きましょうか?」
「いえ、歩いて行きますよ、この周りの地図とか有りますか?」
「地図ですか、確かあったと思うので後でコピーしておきますね。」
「助かります。」
朝食を終えて、部屋で半袖のシャツにネクタイを締めていると中居さんが地図のコピーを持って来てくれた。
「さっきおっしゃられた場所、結構遠いみたいですけどここの車で送っていきましょうか?」
「大丈夫です行けそうですから。」
その後旅館を出て炎天下の中山道を歩き始めて数分経つといつのまにかバスターミナルに着いていた。
バスターミナルにはクリーム色に赤いラインが入った、丸っこい印象の古いバスが6台停まっていてどのバスにも運転手はいない様に見えた。
並ぶバスの奥には古いプレハブで出来た平家の大きな待合所があり、外には近くの旅館や商店のボロボロの看板が貼ってあり、中に入ると広い待合室にはパイプとプラスチックでできた青い長椅子が無数に並んでいたが誰もいなかった。
壁にはやはりこの辺りの商店の看板が所狭しと掲げてあったがこの中で今も残っているみせはいくつぐらいあるのか少し気になった。
待合室の奥の隅には一軒の立ち食い蕎麦屋があり暖簾越しのカウンターの中にいる店員はこの待合所で、私を除いてこの中で唯一の人だった。ちょうどお腹が空いたので藍色の「蕎麦処」と書いてある暖簾を潜り店に入ると「冷たい狐そばください。」と言うと「あいよ。」と力の無いおじさんの返事が返ってくる。
カウンターに置いてあったお品書きを見ながら待っていると、背中越しに白い調理服を着たおじさんから話し掛けられた。
「お兄さんあんま見ない顔だね。」
「ええ、観光で来たんですよ。」
「へー、こんなところ何も無いだろうに。」
「このバスターミナルってこんな所にあってお客とか来るんですか?」
「ああ、ここは近くに研究所があってねそこの職員が一杯くるんだよ。」
「へー、なんの研究所なんですか?」
「そりゃ、ちょうno…」と言ってる途中から目の前が陽炎の様に歪んできて、おじさんの喋る声がエコーが掛かった様になり足元がぐらぐらして来たかと思うと、いつのまにか夜になっていてさっきまで有ったバスターミナルも立ち食い蕎麦屋も店員のおじさんも居なくなっていた。
目の前には広い芝生が有りその奥には煉瓦造りの4階建ての大きな建物があった。
私は何故か入り口の位置を知っていてそこまで歩いて行くと、入り口に入ってすぐゲート型の金属探知機があり周りにはやはり誰も居なくそのままゲートを通るが何も起こらず進み続けると何故か知らない場所のはずなのに最初から場所を知っていたかの様に目的地へと向かって行った。
エレベーターに乗り二階に行き、廊下を歩いていくと、いきなり壁がガラス張りになり中を見ると広い部屋がありそこには碁盤の目のように均一に並べられたベットがありそこには小学校の高学年か中学生になりたての年頃の少年少女達が眠っていた。
ベットの横には心電図のモニターの様なものに定期的に波を打つ線が写っていて、どのベッドにも天井から出ている赤いチューブが子供達の腕に繋がっていて私は驚きつつも、ポケットに入っているスマホで出来る限り写真を撮っていると、モニター越しに1人の子供がゆっくり起き上がった。
その動きは不自然で、地面に落ちてるぼうが棒の中央がスーッと90度曲がり垂直に起き上がる様な感じだった。
その子供はベッドの上に立ち、足を動かしてないのに私のほうに体を向け正面から見るとその子は男の子で彼は私を見て口をぱくぱく動かし私は彼が何を言ってるのかを理解しようと見つめていると、気付くと他のベッドに寝ていた子供達が最初の男の子の様に立ち上がりこちらを見つめていた。
するとその瞬間子供達のいる部屋の至るところから炎が湧き起こり、ベッドや壁紙やチューブなど部屋にあるもの全てが燃えているのに子供達は一切日が移らなかった。建物内には警報が鳴り響き、ガラス越しに部屋にはスプリンクラーが作動し水が撒かれるが、火の勢いは一向に収まる気配がないと思った瞬間、室内に大きな炎の爆発が起こり目の前のガラスにヒビが入り粉々に割れ吹きつけられるのがスローモーションで感じ取れ、その奥からくる炎の暑さまでもを感じ炎に包まれたところで意識が覚醒した。
目の前には見覚えのある天井があり、開けっ放しの窓からは太陽の光が私の体を照らした。
***
変な夢を見た3日後、暑い中地下鉄を乗り継いで出社をするとデスクに私宛の郵便の茶封筒が置かれていた。裏を見ても差出人が書いておらず、宛先は印刷で書かれていた。
封筒を開けると一枚の便箋が入っていて、そこには携帯電話の電話番号と「その場所から遠くの公衆電話からかけろ。」とだけ書かれていた。不審に思いながら私は勤怠ボードに取材と書いて会社を後にし、地下鉄の最寄り駅から2回乗り換え大きな新宿駅に設置してある公衆電話から電話を掛けた。「ピピピ」っと言った後呼び出し音が2回して相手が受けた。
「…」相手が何も言ってこないのでこちらから声をかける。
「手紙を貰ったものですが。」と喋りかけると、落ち着かない様子の男の声がした。
「ああ、電話を掛けてくれてありがとう。済まないね公衆電話から掛けろなんて注文してしまって。」
「いや大丈夫です、それより用件は何ですか?」というと相手の男は、言いにくいのか少し間を置いてから話し出した。
「実は、内部告発をしたいんだ。」と聞いて私は驚いた。
「どういった告発ですか?」と言いながら急いで片手でバックを開き取材用のメモ帳をバックを落としながら取り出した。
「いや、それはまだ言えない、出来れば君と直接会って話したい。」
「分かりました、それじゃあいつがいいですか?」
「今からじゃダメか?」
「大丈夫ですよ。何処に行けばいいですか?」
「君が居る駅の近くに高速バスのターミナルがあるだろ、そこの三階にある観光案内所の隣のトイレに来てくれ。」と言われたことを殴り書きでメモに取りながら場所を確認した後電話は切れた。」
電話を切った後、迷宮の様なこの駅を出てバスターミナルへ向かった。
このバスターミナルは四階建てで三階が発車するバス、四階が到着するバスが停まる事になっていて、三階はバスの発車を待つ旅行客や学生で溢れていた。
私は指定されたトイレに向かうと建物の大きさに対してずいぶん小さいトイレで2つの小便器には誰もおらず二つある個室はうち一つが埋まっていた。
そのまま何もせず待っているのも不自然なので小便をしていると個室が開き男が開き大学生風の若者が出て来てきた。
要を足し終わりハンカチのはしを口で咥えながら手を洗い、顔を上げると後ろにグレーのスーツを着て黒縁のメガネを掛けた細身の中年男性が立っていて「うわ」といって驚きハンカチを洗面器に落とし濡らしてしまった。
「緒方さんですね。」と男は無表情に声色を変えることなく話しかけてきた。
「はい。あなたがさっきの?」
「はい。ここで話すのも何なので、歩きながら話しましょう。」と言う男について行き炎天下の町を歩きながら話始めた。
「貴方の名前を聞いてもいいですか?」
「本名は言えないのでディープスロートとでも呼んでください。」
「ディープスロート、ウォーターゲートですか。」
「便宜上です。嫌ならどう読んでもらっても構いません。」
「まず話を聞く前に聞きたいんですけど、何で私なんですか?内部告発ならうちの会社には調査報道班があるのでそっちに行ったほうがよかったのに。」
「ああ、今回私が告発するに当たって若く、政府と関係がなくやる気がある人間を探してもらったんです。」
「で私が選ばれたんですか?」
「ええ。」
「どうも。それで何を告発するんですか?」
「その前に。」とディープスロート は私が着ている服のポケットをチェックするように触った。
「ちょ、ちょっと。」とされるがままに体をチェックし終わった。
「すいません、用心のためです。」
「メモはしても良いですか?」
「はいメモだけです。」と言われ胸ポケットからペンとメモ帳を取り出した。
ディープスロート に付いて歩いてると次第に大通りから外れ、一軒の古臭いパチンコ屋の前で停まった。
「ここに入りませんか。」と男は指を刺すとパチンコ屋の入り口の横に細いエスカレーターがありそれを登るとまたレトロな喫茶店の入り口と横には色褪せた食品サンプルがいくつも並んでいた。
中に入ると店内は広く微かにタバコの匂いがしていて、スエード張りの椅子や机が並んでおりほとんどいなかった。
入り口近くで待っているとすぐに若いウェートレスが来て窓際のボックス席にで案内されその場でウェートレスにアイスコーヒーを2つ注文した。
「それで、何を告発するんですか?」
「緒方さんは国が主導して子供を使った人体実験をしていたら信じますか?」
「子供で人体実験?そんなことあるんですか?」取材メモになぐり書きで書き留めていく。
「はい、私は職務上この国の研究機関について知ることがあるんですがその内のある施設がどうも非人道的な人体実験をやってるんです。」
「それはいわゆる治験とかではないんですか?」
「役所にはその様な申請は出ていません。」
「で、ある研究機関とは?」
「防衛装備庁の出先機関で人材能力開発研究所という所で『人能研』と言われています。」
「その人材能力開発研究所ではどんな研究を行っているんですか?」
「手広くやってます、自衛隊での障害者の雇用創出のための特殊義肢の開発とか、兵士への思想教育や洗脳についてなどの研究を行っている、いわゆる国の暗部の研究を行っている場所です。」
「そこで非人道的実験とはどんな研究を行っているんですか?」
「わかりません。」
「わからない?」
「あまり詳しい事はわからないんですが私が触れられる資料には特殊用途用強化工作員と書かれていました。」
「何ですか、その強化工作員って。」
「詳しくはわかりません。」
「その子供たちはどのくらいの子供達ですか?」
「年齢ですか?」
「はい。」
「だいたい8歳から9歳の子供です。」
「子供達は何処から連れてこられていたんですか?」
「親がいない子達です。」
「この告発をした事によって貴方に利益になる事は有りますか?」
「私はもう仕事を辞めました。」と言って失業認定証のコピーを私に見せたが名前の欄には黒ペンで塗り潰されていた。
「このコピーでは証拠にもならないってわかってますか?」
「それは分かっていますがこちらにも都合があるので。」
「それで特殊工作員の研究っとはおもに何のための研究なんですか?」
「さあ、それは何もわかりません。」
「何か人体実験の証拠になるものとか持っていないんですか?」
「今は持っていません。」と聞きメモ帳を閉じた。
「何か人体実験が行われていることがわかる資料とか書類とかないんですか?これじゃあ記事にできませんよ。」
「私は証拠を持っていませんがきっかけだけは貴方に託そうと思います。」とテーブルの上に少し膨らんだ茶封筒を置くと、前触れもなくウェートレスが「お待たせしました」と言ってアイスコーヒーを持ってきてテーブルに置いた。
ウェートレスが去っていくのを確認して封筒を手に取り中を覗くと、磁気カードと折り畳みの携帯電話が出てきた。
「これは?」
「私はキッカケを作るだけです行動するのは貴方だ。」
「行動?」
「すべてを言わせないでください。貴方には貴方なりの真実を見つけて欲しい。これから私が言うのは独り言です。」
「独り言?」
「山梨県○○市××町にある研究所の職員が今日から2日ほど休むみたいです。名前は斎藤とか言ったかな、どうも彼はカードをなくしていることを気づいてないみたいだ。」と言われメモを書こうとすると「それはメモには残さないで下さい。」と言われた。
男はひと通り言い終わるとアイスコーヒーをストローで一口だけ吸い透明な筒に入った伝票を取ると立ち上がり「何か必要なときはその電話で呼んで下さい。」と言って去っていった。
私はアイスコーヒーを飲んでからその店を出た。
男と会った後すぐに有給を取り、言われた街に向かった。研究所の近くの旅館をネットで予約しその日に出発し近くのターミナル駅からけっこうな距離をタクシーに乗って旅館に着いたのは6時過ぎだった。
〇〇市は面積のほとんどが森林で中央部にある△△町に人口7割が住んでいてそこから北に12キロほど言ったところにある××町は人口の2割が住んでいるいわゆるど田舎だった。
来てみて驚いたのが3日前に見た夢に出てきた木造3階建ての旅館だった。その旅館から研究所まで1キロほどの距離だった。8時前、
日が落ちた頃に旅館を出て、歩いて研究施設まで向かった。
研究所の敷地の入口には学校の校門の様な門があり車両用の門は閉められておりその横にステンレスのパイプでできた回転ゲートがあった。
門の柱には『独立行政法人人材能力開発研究所』と書いてあり奥には守衛の詰所もあり中に二人待機しているのがガラス窓越しに確認できた。
守衛は出入りする人間を全員確認することはなく詰所の中で談笑していた為、読み取り機にカードキーをかざして回転ドアを通るとなんなく入ることができ、建物内も同じようにあっけなく研究所内に入れてしまった。
研究所の建物を外から見るとやはり夢と同じ建物に思え窓には灯りが所々に灯っていた。建物の中に入ると広いエントランスがあり幾つか診察室の様なところもあり何処かの大学病院の様な印象だった。
ひとまず近くのトイレの個室に入り時計を見ると8時56分だったので10時までそのまま待機することにした。待機中に、ドンキホーテで買っておいたコスプレ用の白衣に着替え暇つぶしにスマホをいじると何故かインターネットが繋がらなかった為、メモ帳に原稿を書きながら時間を潰した。
集中して原稿を描いていると、いきなりトイレの電気が消えて時間を見たら10時になったので恐る恐るトイレを出てみると建物内はどこも電気が消え、地面に埋め込んである緑の非常灯だけが妖しく光っていた。
建物内の部屋の入り口には何処もカードキーで鍵が掛かっていて、所々入れない部屋もあったが入れた部屋にある資料などを見るとディープスロートが言ってた通りに電動の義肢の資料やカルテの様なものがあり、カルテには個人の精神状態や精神疾患、障害などが細かく書かれていたがそこには8歳から9歳の子供のものは無かった。
建物の中をくまなく見回りながら上がって行くと3階に建物の奥にある別の棟へ繋がる連絡橋がありその中間にガラスの自動ドアがあって横にはカードをかざす端末が付いていたのでカードをかざすと両側のガラス戸が奥に開いた。
この棟でも部屋に入ろうとするが殆どの扉は貰ったカードでは入れなかったく資料を求め廊下を歩き回っていると廊下の片側に大きなガラス窓があり、そこからは広い部屋には幾つものベッドが置かれその上には子供達が眠っていた。
この光景もやっぱり見たことがあるような気がした。不気味な気分になった私は撮れるだけの写真をスマホで撮り直ぐに建物から出た。
守衛の詰所の横を通る時緊張して通ると詰所の中から中年男性が「あれ、まだ誰か残ってたんですね。」と声を掛けてきた。
「みんな帰ったと思って電気消して来たんですけど大丈夫でした?」と言われ強張った顔をどうにか緩め「ええ、トイレに行ってたらいきなり消えちゃったんでびっくりしました。」と言った。
「そうでしたかそりゃすいませんでした、まだ他に誰かいましたか?」
「いやもういないと思いますよ。」気まずさを押し殺して言った後足早に立ち去った。
次の日旅館をチェックアウトして、バスでターミナル駅まで帰ろうと旅館で教わったバスターミナルに向かうとそのバスターミナルはやはり夢で見たバスターミナルで、夢と違うのは立ち食い蕎麦屋が無いことと、乗客が何人もいて運転手がちゃんといる事だった。
その日の夕方、東京に帰ってきた私は渡された携帯電話を使ってディープスロートと連絡を取ろうとしたが電話に充電がなく電源が付かなかったところで充電器をもらってなかったことに気付き家電量販店に向かったが、携帯の端子が海外の企画らしく、に合う充電器ががないとのことだったので、急いで地下鉄に乗って秋葉原に向かいジャンクショップで充電器を買いカフェでスパゲッティーを食べながら充電をした。
丁度食べ終わった頃に携帯の電源が着いたがもう少しコーヒーを飲んで19時になってからカフェを出て路地裏に入って電話帳を見るとカタカナで『ディープスロート』と書かれた連絡先だけ入っていて、カーソルを合わせ決定を押すと電話番号が画面に映らない細工が施されていた。
コール音は聞こえるがなかなか相手は電話に出ないので2回掛けた後どうしたものかと少し考えているとcメールを着信した。内容は21時にある廃工場に来いとの事だった。
メールに書いてあった廃工場は町工場が多くある地域にあり中に入るいと電気が止まっていて、横を通る道路の街頭の明かりとスマホのライトで辺りを見渡すと天井は高く工作機械が一つも置いてなく、天井にはいくつも穴が開いていて窓ガラスは全て割られていて、誰かが侵入したのかジュースや酎ハイの缶がおもむろに転がっていた。
見晴らしの良い工場内の何処を見ても誰もいなく、スマホを見ると20時59分で時計アプリの秒針が丁度12を示した時、工場内に響く聞き覚えのある声がした。
「君は真面目だな時間よりも前に来て。」辺りを見渡すと私が入ってきた入り口にスーツを着たディープスロートが立っていた。
「行ってきましたよ、研究所に。」と言うと男はコンコンと足音を工場内に怪しく響かせながら、私の方に歩き始めた。
「仕事が早いね期待した通りだ。」
「どうせ貴方は私がこの提案を断らないって分かって情報を流したでしょ。」と言う頃には男は私の前まで来てピタっと足音が止んだ。
「この前も言っただろ、やる気がある人を選んだって。で如何だった?」と冗談をいう様な微笑を浮かべる男に、私は手の中で踊らされている気分がして苛立っていた。
「文書としての資料は全く手に入りませんでした、でも子供達がいるのは確認出来たので写真を撮ってきました。ただこれだけじゃ記事は書けない事は貴方だって分かるでしょう。病気の治療だって言われたら終わりですからね。それに法を犯して撮っているからこの写真は載せれません。貴方は情報を知る立場にあったんだから何か証拠になる様な物は持って無いんですか?」と問い詰めると男は一瞬宙を見た後、持っていた茶色革の手提げバックからA4サイズの厚い紐閉じ封筒を取り出した。
「これは厚労省と人能研の連絡書類の一部です。」と言って私に差し出した。
差し出された封筒を受け取り中身を見ると一枚目は資材の要望仕様が書いてありその要望欄には『被検体47体(生後102ヶ月前後6ヶ月)』と書かれていた。
「これは。」読んだ瞬間無意識に言葉が出た
「装備庁と厚労省間でのやり取りの資料です。」
「この被検体って。」と言いながら怒りが湧いてきた。
「子供達のことです。」
「実験動物じゃないか。」と私は声を荒げた。
「資料をめくって下さい。」男は落ち着いた様子で言った。
言われるままに資料をめくると、公益財団法人里親会という字が書かれていた。
「それは、装備庁の要望を厚労省が、何処から調達するかが書かれた書類です。」
「こんなことがあって良いんですか。これが本当なら里親制度を使って国が人体実験の被検体を集めてる事になりますよ!」
「事実ですこの国は国民を使って人体実験をしているんです。そして貴方が人能研で見た子供達がその被検体です。」
「今貴方に渡せる資料はコレだけです。あとは貴方に任せます。」と言って男は踵を返し入り口に歩いて行った。
私は大きな声で男に向かって「絶対コレを記事にしてやりますよ。」と言うと男は歩みを止めこちらを向か「何かあったら連絡して下さい。」
男が出ていくのを見送るといきなり肩をポンポンと叩かれたので、驚いて振り返ると、そこには髪が長いメガネを掛けた、丸の内OLといった感じの女性が立っていて「何ですか?」と言うと女性は「お客様は知りすぎたので到着地点よ」言うといつの間にか女性の右手には拳銃が握られていて、銃口を私に向けたと思った瞬間パンっと乾いた発砲音が聞こえたのと同時に目が覚めた。
「お客様、お客様。」と軽く肩を叩く綺麗な女性のキャビンアテンダントがいた。
「お客様、羽田に到着しましたよ。」と言われ眩しさで薄く開いた目で周りを見廻すと客席には誰もいなかった。
「自分が最後ですか?」と女性に聞くと。ニコニコした表情で「ハイ」と返されたので、急いで手荷物を取って飛行機を降りた。
* * *
羽田空港に降り立ち荷物のキャリーバッグを受け取ったあと国内線到着ロビーの壁際でスマホの機内モードを解除し22時53分と時間を確認し暫くするとポケットの中でブルブルと振動が伝わってくる、取り出して見てみると1時間ほど前に5件の不在者着信で連絡先は原口さんだった。
急いで連絡し返すと原口さんはすぐに出た。
「原口さん?」
「おう緒方か今どこだ?」
「どこだって、羽田空港ですけど。」
「そんなこと聞いてねえよ、空港のどこだってことだ。」と急に怒鳴るので「到着ロビーですけ
ど。」状況を飲み込めずぼそぼそ喋ると。
「ちょっとそこで待ってろ。」と言ってすぐに通話を切ってしまった。
しょうがなくその場で10分ほど待っていると。半袖のシャツにスラックスを履いた原口さんが出入り口の方からやって来た。
「おう、待たせたな。」といいながら横に引っ張っていたキャリーバックを奪い取り出口の方に歩いて行った。
「ちょっと原口さんどうしたんですか急に?」
「お前が今日北海道から帰ってくるって雲村から聞いたんで迎えに来てやった。」
「本当ですか?」
「あとちょっと合わせたいやつがいてな。」
「合わせたい人?」
「まあ着いてきな。」
原口さんについて行った先の第一駐車場には赤いロードスターが止まっていた。
ロードスターに乗りこみ「原口さんオープンカーなんか乗るんですね。」と言うと。
「どうだい、かっこいいだろ?」
「いいじゃないですか、でも意外ですね。」
「なんだよ、カローラにでも乗ってるかと思ったか?」
「そんなことないですけど。」
「屋根開けてみるか。」
「いいですよ〜、男二人だし。」と断るった。
「まあそう言うなって、春に買ってまだ一回も開けたまま乗ったことないんだ。」
「なんでですか?」
「そりゃ、男1人で乗るのはこっぱずかしいじゃねーか。」というと天井の幌を開けおれを乗せて出発した。
* * *
緒方が羽田空港に着く予定の10時間前、昼過ぎに会社の食堂で昼食を食べていると原口さんから突然連絡があった。
「はいもしもし?」
「おう、雲村?ちょっと今夜空いてないか?」と内容も言わずにいきなり答えさせられた。
「8時以降なら出られますよ。」
「それじゃあな、今日の、うーん。じゃあ11時に時におれの家に来てくれないか。」
「大丈夫ですけど、なんなんですか?」
「イヤな、ちょっと合わせたい奴がいるんだよ。」
「誰ですか?」
「まあまあ、そりゃ来てからのお楽しみだ。ああ、あとこのことは誰にもいうなよ。」
「分かりました。」
「ああ、あと緒方は今日帰ってくるんだったよな。」
「はい、確か8時の便に乗るって言ってたから、羽田に10時頃着くんじゃないですかね。」
「そうか、・・・わかった、じゃあちゃんと来いよ、鍋用意してくれるみたいだから。」
「鍋って誰が用意してくれるんですか?。」と言い終わる前電話が切れた。
思った以上に仕事が長引いて何とか10時までに仕事をひと段落させ、電車に乗って原口さんの家がある吉祥寺に向かった。
原口さんの家には前に一度お行ったことがあったが、何せ前回行ったのが7年も前の事。日進月歩で新しいビルが立つこの東京で昔の面影を探すのも難しく、久しぶりに降りた駅の改札を出るとどこへ向かっていいのか分からず、立ち尽くしているといきなり携帯が鳴り画面を見ると原口さんからだった。
「おうもう駅に着く頃か?」
「駅にはついたんですけど原口さんの家って何処でしたっけ?」
「あれお前、おれん家来た事なかったっけか?」
「前いっかいだけ行ったんですけど、もうだいぶん前の事だし、駅の周りが変わり過ぎてて、何処がどこだか。」
「ああ、そうかそんな前か、じゃあ、メールで地図送っとくわ、ああそれと悪いんだけどなあ、こっちくる途中のコンビニかスーパーで豆腐買って来てくれねえか。豆腐。」
「分かりました。」
「じゃあたのむわ、俺も今、羽田で緒方を拾ってそっちに向かってるからよ。」
「向かってるって、じゃあ家に入れないじゃないですか。」
「大丈夫でだよ、ちゃんと人は居るから家には入れる。」というと再び通話を切られた。しばらくすると、メールが届き地図が添付されていた。
地図を頼りに途中にあるコンビニで豆腐と手土産に一升瓶の日本酒を買って原口さんの家に向かった。
そこは古い二階建ての長屋の一角で台所に面しているであろうすりガラスの窓には灯りが灯っていて、少し空いた隙間からかすかにニンニクやキムチのようないい匂いが漂ってきた。
時計を見ると時刻は夜の10時56分だった。もう原口さんが帰って来たのだろうと思い玄関脇にある古い呼び鈴を鳴らすと家の中からどんどんと小気味いい足音がした、引き戸の鍵がガチャっと空き、扉が開くと、目の前に現れたのは定年間近の刑事ではなく、メガネをかけたキツそうな顔の30手前っぽい女だった。
その女にはどこかで見覚えがあると思って、ハッと思い出した。
「お前、東山か。」目の前に居たのは消えた社会部の記者の東山で、一瞬驚きで固まっていると、後ろの方から車が来る音がして後ろを向くと赤いロードスターが止まって、中から原口さんと緒方が降りてきた。
「おう雲村着いとったか。」というと後ろの緒方が。
「あれ、キャップも呼ばれてたんですか?ってその女って東山じゃないですか。」
「ああ、原口さんお帰りなさい。」と東山は見かけよりも可愛い声で言った。
「原口さん、もしかして俺に合わせたい人って、東山の事だったんですか?」と驚いたように緒方
が言った。
* * *
空港に着いてから、合わせたい人がいると言われて着いて行った原口さんの家には消えたはずの、毎朝新聞社会部記者の東山がいた。
促されるままに原口さんの家の居間に通されると。真四角の座卓の上には季節外れのキムチ鍋が用意されていた。
「おう、二人とも気楽にしな。」と何ともないように言う原口さんに、冗談めかした様に班長が詰め寄る。
「原口さん、独り暮らしだからって子供ほどもある女連れ込んで、案外元気なんですね。」と班長はお土産に買ってきたであろうレジ袋に入った一升瓶の日本酒を渡しながら言った。
「馬鹿野郎、なんもしてねえよ。」
「いやいやいや、突っ込むところそこじゃないでしょ。どうして行方不明になってるはずの東山がここで鍋の用意してるんですか?」と聞くと丁度、後ろの台所の入口から藍染の暖簾をくぐって鍋の具材を運んできた東山座卓に鍋の具材をおきながら話の輪に入ってきた。
「私が困ってるところを原口さんが助けてくれたのよ。」
デニムを履いている東山は座卓の前に腰を下ろしながら鍋の下のカセットコンロに火をつけた。
「この東山はよお、最近のフニャフニャした記者ばっかの中で久しぶりに、手応えのある奴だったからな、仲良くしてたんだよ。」
「そう、で火事の生地が新聞に載ったのを見て、少し身を隠そうと思ってた所を原口さんにかくまってもらったんです。」
「そうなんだよ、俺もかみさんが逝ってからは全部も部屋使ってなかったから貸してやったんだよ。そしたらよう。かくまってもらってるからって、家事のこと全部やってくれて、朝晩の飯まで作って貰っちゃってなあ、それがまた美味えんだ。こいつぁあいつでもいい嫁になれるぜ。」
「原口さん、それセクハラですよ。」と満更ないようで、照れを隠すように言った。
「原口さんなんか楽しそうですね。」と能天気に班長が返す。
「うるせえ。で一応前お前らと飲んだ時に東山の話も聞いて、お前らに合わそうと想ったんだ。」
「へー。それより東山さん、なんで俺が記者クラブで探してた時嘘言ったんだよ、それに身を隠すって誰から?」と聞くと「貴方が部長の回し者か何かになると思ったからに決まってるじゃない。」と答えた。
「デスクって社会部の田中か?」と急に班長が真面目に話した。
「はい。」
「なんで社会部の部長が部下を追い回さなきゃいけないんですか?大体、東山さんが書いた記事は新聞に乗ったんでしょ。」
「あの記事は私が書いた記事じゃないわ。」と言って部屋の隅に置いてあった皮のハンドバックからタブレットを取り出し、少し操作をしてからこちらに渡した。
画面には火事の状況が詳細に書かれていて、普通の火事ではないことが強調されていて新聞に乗っていた簡素な記事とは全く異なる記事だった。
キャップと二人で見終わったあとキャップがタブレットを返しながら「つまり、警察の圧力で田中に記事を改変されて、危ないんじゃないかって思ったわけか。」
「はい。前から時々記者が変死するなんてネットとかの噂で知ってましたから。」と東山の話を聞くとキャップは大きく腕を組み俯き少し考えたあと。
「東山さんよ、田中のことについては少し俺に預けてくれねえか。」
「雲村班長にですか?」と少し訝しんだ。
「俺と田中は大学の同期で入社も同期だったんだ。いや、だからと言って今回の件をもみ消そうとかそんな事は全く想ってない。だがアイツがそう言う事をしたってんなら、俺がアイツに聞かなくちゃいけねえ気がしてな。だからと言って俺を信用できる証拠なんか無いが、どうだ俺を信じてくれないか。」
目の前の鍋蓋の穴から蒸気が立ち始めていた。
「わかりました、私もそれなりに良くして貰った上司の悪事を暴いて手柄をあげたいわけでもないですから。」と言って、東山は鍋の蓋を上げて菜箸で鍋の中を少し突いた。
「おう、ちょうどできたんじゃねえのか。」だんだん堅くなっていた空気を壊すように気の抜けた声を出したのは原口さんだった。
「もうよさそうですね。」とお玉をとった東山はお椀に鍋を取り分け始めたていた。
いつの間にかキャップが持って来た酒の栓を開けていた原口さん座卓の上を見渡すと。
「おい、東山ちょっとみんなの徳利を持って来てくれねえか。」と言い東山が取りに行った。
「それよりもおまえ、北海道には何しに行ったんだ?」と原口さんが私を見て言う。
「そりゃ部外者には言えませんよ。」と冗談めかして班長が答えると。
「ばか!一番最初に捜査したのは俺だ。」と言いながら原口さんは、我慢ができなかったのか、湯呑みに自分の分だけ酒を並々注いだ
「北海道には超能力研究者が居たんで。ちょっと話を聞いて来ました。」
「超能力?」と台所から徳利を3つ持って出て来た東山が驚いて言った。
「おう東山には言ってなかったか。こいつら、火事以外の3つの事件も調べてるって言ったろ。
その共通点が変な事件だって事で超能力を調べてるんだよ。」と言いながら原口さんはみんなの徳利に酒を注ぎ始めた。
「超能力なんて本当に有るんですか?」
「まだ確証も何もないですけど、5年前の事件と関係あるかもしれないんですよ。」
「こいつ5年前の事件スクープした奴なんだよ。」とキャップが私に指を刺しながら言うと。
東山は少し驚いた。
「そうなんですか。確かにあの事件最初にスクープしたのウチですからね。私、その事件を見てこの会社に入ったんです。」
「まあ、あの事件以来スランプ5年も続いたからな。」
「ながっ。」と言いながら東山は皆んなに鍋を取り分け終えた。
「で5年前の事件と関係あるかもってどう言う事だ?」と話を割いて原口さんが言った。
「芹沢って言う超能力研究者に話を聞いたんです。今回の事件で行方不明になった子達の年齢覚えてますか?」
「中学2年だから12、3ってところか?」と言いながらキャップは少し上を見ながら暗算していた。
「そうです。そのぐらいだったでしょ、で5年前の事件で実験体にされてた子供達の年齢って当時7歳から8歳でしたよね。」
「まあ、年だけで言ったら繋がるがな、そんだけか?」と原口さんが呆れたように言った。
「それ以外の話も聞いてきましたけど、でもその説明だと3件の事件の辻褄が会うんですよ。芹沢博士が言うには。人工的に超能力を使えるようにするには、時間かかるケースが多いらしいんです。
「じゃあ緒方さんは超能力が本当にあると思ってるんですか?」
「いや、そんな手放しでは信じてはないけど。でも東山さんだって、八王子の事件が普通じゃないって思ったから記事にしようと思ったんだろ。」と言いながら取り分けた鍋を受け取った。
「まあまあ、話はゆっくりできるんだから先に乾杯しようぜ。」と言うと原口さんは自分の湯呑みを少し持ち上げたので皆んな自分の徳利を持ち上げ「「「「乾杯」」」」と徳利を当てあった。
「まあ、超能力のある無しは置いといて、緒方おまえは取材で全国を取材してどう思ったんだ?」と箸で豆腐を二つに割りながら班長が話す横では「東山この鍋旨いな。」と原口さんが言うと「夏に辛いな鍋もいいでしょ。」と東山との気の抜ける会話をしていた。
「自分は、超能力が有る無しはまだ分からないけど、起こった事件の結果だけは紛れも無い事実ですからね。可能性の一つとして調査するべきだと思います。」
「でもようわかんねえのが、5年前に子供達が超能力を持ってたんならもっと前から今回見たいな事件があったんじゃねえのか?」
「そうなんですけど、5年前は子供達に特殊な能力はなかったって、国の調査委員会の報告書に書いてあったんですよ。で芹沢博士が言うには短期間の間に多人数が能力を一斉に開花て、しかも全くバラバラの土地っていうのが今まで記録になないわけではないらしくって。もし47人が超能力を使えるようになる可能性があるなら。」
「まだこの手の事件が続くってことか。」
「はい。そもそも超能力者って最初の一人が能力を発現すると、周りに影響を与えて発現しやすい特徴があるらしいんですよ。昔あったユリゲラーの映像見てスプーンを曲げれる子供が増えたみたいに。」
「じゃあなんだ、3人の周りに別の超能力者がいるってことか。」と原口さんが言った。
「でも今現在全世界いる超能力者の推定人数が世界で58人ほどと言われてるらしいんですけど。状況から考えて現実的じゃないんです。」
「じゃあどうやって能力を発現させたんですか?」と東山が聞く。
「芹沢博士の仮説では強いテレパシー能力を使える能力者がいればできるんじゃないかということです。」
「テレパシー。」と班長が言う。
「もともと子供たちは同じ場所で育ったので、テレパシー能力を開花させた子供が他の子供達にコンタクトを取ったとして、それに感応して能力を開花するかもしれないらしいんですよ。」
「で、八王子と小牧の事件の時にいた黒尽くめの男達が能力を開花させた子供達を連れ去ってるってわけですか?」
「はい。」
「で緒方は最終的にどうするつもりなんだ?」と班長が私に問いかける。
「今分かってるだけでも子供達が二人行方不明になってるんですどうにかしたいじゃないですか。」と言い終わると原口さんが話始めた。
「つまり、緒方は子供達皆んなが能力を開花し切る前に記事にして、謎の男達に秘密裏に処理されるのを防ぎたいってことか?」
「はい。それにこの事件は最初に俺が始めた事件です、最後までやりたいんです。」と返すと、いつもは何事も冗談めかして話す班長が急に真面目な顔になって話始めた。
「確かにこれは、俺たちがおうべき山かもしれん。だがな緒方、俺たちはオカルト雑誌を作ってるわけじゃないんだ、しっかり取材をしろよ。適当な事言ってる政治評論家や頭の硬い奴らがぐうの音も出ないほど裏をとって外堀を埋めろ。この記事は危険だ、わかったな。」
「はい。」
「あと、危険な真似はするな。部下が怪我すると俺の出世する道が消えるからな。」
「キャップ、まだ出世なんかに未練が有ったんですか?」
「ばか、俺だって給料は高いほうがいいんだ。」と言いながら徳利の酒を一気に飲んだ。」
「ところでよう、明日からなにするか決まってんのか?」とそれまで横で班長との話を聞いていた原口さんが言った。
「一応、5年前の子供達全員をあたってみたいと思います。」と言うと小皿を持った原口さんが箸を私に向けフイフイ振りながら。
「おまえ、子供達って言やあ全員里子に出されてるんだろ居場所わかってんのか?」
「まだ全く分かりません。」
「じゃあ、どうすんだよ。」とキャップが言う。
「班長ちょっとお金貸してくれませんか?」
「ああ、池谷か。お前お金貸すって言っても、俺にも限界ってもんが有るんだから、足使えよ。」
「誰ですか?」と東山が小皿と端を持ちながら聞く。
「俺の情報屋。」と班長が言う。
「えっ、情報屋って本当に居るんですか。」
「まあな、昔ちょっとあって知り合ったんだけど、そいつが地味に厳しい値段するんだ。パソコンでかちゃかちゃやるだけなのによう。」
「おう、池谷ってもしかして三沢組の事件か?」
「あれ原口さん知ってるんですか?」
「そりゃ一応、俺も刑事だからなここいらのヤクザの状況は嫌でも耳に入ってくるよ。」
「何ですか?三沢組のって?」
「だいぶん前そうだな10年ぐらいか、三沢組の金融関係のデータが流出して組が解散させられた事件あったの覚えてないか?」と班長が話始める。
「ああ、なんか有りましたね。確か組で使ってたパソコンがマルウェアに感染したとか。」と俺は昔の事件を思い出した。
「そうそれだ、何故か各マスコミにデータがメールで送られてきて。どこのメディアも一時期そのニュースで持ちきりだっただろ。」
「確か幹部たちは、金融証券取引法で全員しょっ引かれてあの後、組が解散したんだよなあ。」と原口さんが湯呑みに少し残ってた酒をグイッと飲み干した。
「はい、それやったのが池谷なの。」
「ヘー。すごい人ですね、でもなんでキャップがそんなこと知ってるんですか?」と感心したよう
に東山が言った。
「実はあいつ俺の遠い親戚でな、その事件までそんな親戚が居るなんて知らなかったんだけどな、いきなり電話がかかってきて、2人で会うと情報持ってるんで記事にしてくださいって言って来てよ。あとで知った話だと、親族の中でマスコミの人間を探したら俺がいたから連絡とって来たんだとよ。」
「でもなんでうちの独占スクープにならなかったんですか?」と疑問をぶつけてみると。
「そんなの決まってるだろ、相手はヤクザだよ。ウチだけでスクープしたらうちの会社にヤクザがカチコミに来るだろ、そんな危ないの嫌だから池谷に主要なマスコミ全部にメール送らせたんだよ。一応世間的には匿名の垂れ込みってことになってるが、メールを送る代わりに結構な小金稼いだみたいだ。」
「でも、そもそもなんで池谷さんはデータ盗んだんですか?」と東山が聞く?
「なんでも居酒屋で飲んでる時に間違えてぼったくりバーに入っちゃって、仕返ししたかったんだとよ。」
「じゃあ、なんで原口さんもそれ知ってるんですか?」と、ふと気づいたことを聞いてみた。
「それが、メール送って数日してからよう、何故か池谷の事がヤクザにバレて、原口さんにかくまってもらったんだ。あとでわかったんだけどな、池谷の事漏らしたのは、マスコミ関係者でな、案外安くないかね払わされた仕返しだそうだ。別の所が一斉報道するのにそこだけ金渋って出遅れるなんて、絶対に出来ねえからな。まあ身から出たサビて奴だ。」
「池谷さんってそんなにヤンチャだったんですか、あんまり想像できないっすね。」
「奴も若かったんだよ、あの時は25ぐらいだったからな。」
「で、緒方さんは明日その池谷さんのところに行くんですか?」
「一応そのつもりです、里親制度を運営してる公益法人の中から情報を手に入れるってそれくらいしか思いつかなくて。」
「雲村さん、私もその池谷さんの所に一緒に行ってもいいですか?」
「そうかお前も行くか、じゃあ俺から話し通しとくから緒方、一緒に行ってやれ。」
「おお、じゃあこれから東山も調査に手伝えばいいじゃねえか。」と、少し頬が赤らんできた原口さんが大きな声で言った。
「こっちとしちゃ人手が増えるに越したことはないが、東山は警察に捜索願出てるからな。見つかったら面倒じゃねえか?」
「大丈夫ですよ気を付けるんで。それにこの事件一番初めに手出したの私ですよ。」
「それに俺も忘れるなよ、有給消化中とはいえまだ刑事だからな。知恵貸すぜ。」
「そう言えば、雲村さん達が3つの事件を関連付けた理由ってなんだったんですか?」
「ああ、サイトのフォームからのメールだったんだけどな、匿名の垂れ込みだったから誰かはわかんねえんだ。」
「じゃあ告発人って、内部の人なんですかね?」
「だろうな。」
「そうですよ、八王子以外の事件も、ほとんど報道されてなかったし、愛知県の事件は、そんな気配すらない。結局わかったのは、男の子が行方不明になってるって事だけ。事情に詳しい人間しか見つける事はできないと思いますよ。」
「まあ、そこら辺も込みで池谷に話聞いてこいよ。あいつは俺に恩があるからな、値切るときに俺の名前出せ。」
「やってみます。」
「じゃあ、そろそろ仕事の話はやめて、ちゃんと飯食おうぜ。」と原口さんは何処かから取り出した飲みかけの一升瓶の酒をみんなの徳利に注ぎ、再び勝手に乾杯を始めた。
* * *
原口さんの家で季節外れのチゲ鍋を食べ終わったのが午前1時過ぎの事だった。
原口さんからは「部屋はあるんだから止まってけよ」と言われたが、さすがにここ数日全国を飛び回って疲れたので、タクシーで家に帰ることにした。
原口さんの家から自分の家がある中野までは意外に近く30分ほどで帰ってくることができ、料金も五千円を少し超えるぐらいだった。
狭い通りに面した5回建てのアパートを見るとやっと帰ってきたのだと、そんなに長く出ていたわけでもないのにここ最近のドタバタが原因なのか何処か懐かしく感じた。
エレベーターで3階まで行き自分の部屋の玄関も前に立つとポケットから取り出した鍵で錠を開け玄関の扉を開いて部屋に入り電気を付ける。
部屋中を見ると、出て行った時と全く同じ部屋がそこにあった。配置の家具、同じ量のDMやチラシ、新聞の束、シンクに置いて洗い忘れた食器、掃除されないで埃が溜まった部屋の隅や床の上、すべてが元の部屋なのに何とは具体的に説明ができない違和感があった。
玄関に荷物を置いて台所で手を洗うと、横みある冷蔵庫と壁の間に溜まっていた筈の埃が何故かなくなっているのに気がつく。
ハッと思い家中の埃が溜まっていた場所を考える限り全て見て回ると、所々埃が溜まっているところに擦ったような跡があったので携帯電話で実家に電話してみるが、家に誰かが来た事実は無かった。
私は近くにあった椅子を持ってトイレに向かい、椅子の上ににり天井に設置してある換気扇の穴いついた網状のカバーにが付いてそこには綺麗に万遍なく埃がついていた。
埃だらけのカバーに手をかけ、剥がれた埃をパラパラ顔に受けながら外し、穴の中に手を入れ中を探ると手にビニール袋に入った塊の感触を見つけ、取り出した。
出て来たものは折りたたみの携帯電話で5年前ディープスロートに渡された物だった。
袋の中から携帯電話と一緒に入った充電器を取り出し充電を始め三十分程で電源が入りナンバーロックを解除した後ディープスロートに連絡しようとしたが、部屋の違和感から盗聴を恐れて、一旦部屋を出て仄暗い道路を歩きながら電話をかける。
受話器の向こうではコールが2回鳴ったがすぐに出なかったので、しばらく散歩がてら家の周りを歩いていると携帯電話からコール音がなった。
ワンコールで電話に出ると相手はなにも話さなかった。
「おい、聞こえてるか?おい。」
「久しぶりだな。掛けてくるのが随分遅かったじゃ無いか。」
「垂れ込みはあんたか?」
「さあ、どうかな。それより用件はなんだ?」
「今回の事件と、5年前の事件には共通点はあるのか?」
「君は3件の事件についてどう思っているんだ?」
「全部の事件に不可解な現象があった。」
「そうだ、それ以外に共通点は?」
「誰かが失踪しているか、不自然の男達がいると思ったが、川内の事件はそれがなかった。」
「いや違う。君は現場でなにを見ていたんだ。川内でも消えた子供はいる、事件と繋がっていないだけだ。」
「それって、同じ日に起こった中学生が倒れた?」
「そうだ。まあいい明日会おう。」と言われ一方的に連絡が切られた。
* * *
9月17日
「ここですか?」とぼろぼろのパチンコ屋だった建物を前にして東山が言った。
「こっちだ。」と東山と裏へ回ってインターフォンを押すと、ガチャっと鍵が開く音がしたので中に入った。
「案外こっちは綺麗なんですね。」とかつて事務所だった場所を見回しながら東山が言う。
「多分カモフラージュしてるだけだろ。」と言いながら暗い階段まで来た。
「緒方さん本当にここ降りるんですか?」
「大丈夫だよ。降りたらもう直ぐだから。」と言いながらスマホのライトをつけると肩に東山が手を乗っけて来た。
『なんだよ。」
「いや、私マジで暗いとこ苦手なんで。」
「大丈夫だって、直ぐ電気つくから。」
「まあまあ、女の子が頼ってんだから。」といわれ、たしかに嫌な気はしないなと思うが女の子って歳でも無いよなと考えながら階段を一歩ずつ降りていく。踊り場までゆっくり降りた時前回と同じように明かりがぱっと点きそれと共に肩爪が食い込む感覚を感じた。
「痛て。」
「あっ、ごめんなさい。いきなり点くからびっくりしちゃって。」
階段を降りて扉に向かっていると、扉の鍵穴からガチャっと音がして扉が開いたと思ったら中から池谷さんが出て来た。
「緒方さん久しぶりですねー」
「どうも。」
「あなたが東山さんですね?」
「はじめまして。」
「雲村さんから聞いてますよ。」
「ああ、そう言えば朝、原口さんがよろしくって言ってました。」
「ああ、東山さん原口さんとこに居るんですよね。僕も久しぶりに原口さんに会いに行こうかな。」
「池谷さん昔の話聞きましたよ、案外昔は血気盛んだったんですね。」と言うと。
「いやいや、緒方さんにそう言われると恥ずかしいですね。」と少し照れながら部屋の中に案内された。
池谷さんがチャチな丸椅子を何処かから2つ持ってきて幾つもあるモニターの前に置き自分はキーボードの前のゲーミングチェアに座った。
「どうぞ、座ってください。で、今回はどんな依頼ですか?」
「五年前の事件で実験台にされた。47人の子供達の居場所を見つけたいんですけど、そんなことできます?」
「うーん、僕はハッキングとかクラッキングは出来るけど、どこに入ればいいかな。」
「子供達は事件の後に里親に出されたハズなんで、そのリストがあればいいんですけど。」と言う先からキーボードを叩いてブラウザで何かを調べはじめた。
「公益財団法人里親会が里親制度の運営をしてるんですね。」
「そこからリストを手に入れることって出来ないですか?」
「手に入れるのはできると思いますけど、絞り込みは難しいですよ。なんせ里親制度に登録されている子供だけで5000人以上いますからね。その中から47人見つけるって結構大変ですよ。」
「それだっら、原口さんにも手伝って貰えばいいんじゃない。」と東山が言った。
「分かりましたじゃあ、明日また来てくださいそれまでに、なんとか用意しておきますよ。」と池谷さんが言った瞬間ピロピロぴろと、着信音がした。自分のスマホの音じゃなかったため、2人の方を見ると2人ともこちらを見つめているので、「ああっ。」と言いながらいつもと違う携帯電話を持ってることを思い出し、背負っていた黒いビジネスバックパックから携帯電話を取り出し電話に出た。
「もしもし。」
「午前2時にあの駐車場で。」
「駐車場?」
「プープー」と通話が切れた音がした。
「緒方さん誰からですか?」東山が言う
「いやちょっとな。」と言っているのいを横から見ていた池谷さんが。
「緒方さんその携帯、どこで手に入れたんですか?」と池谷さんが聞いてきた。
「貰い物ですけど、この携帯がどうしたんですか?」
「珍しいもの持ってますね、そのケータイってスマホが出る前にアメリカの情報機関が使ってたケータイでですよ。」
「これが?」
「はい、当時業界で結構人気の商品だったから各国の情報機関がコピー品とかライオセンス生産品が作られて、今でもダークウェブで時々非合法に取引されてるんですよ。」
「へー、珍しいんですか?」
「闇業界御用達です。」
「どんな機能があるんですか?」と東山が私の携帯電話を取り上げてまじまじと見ながら言った。
「写真撮影で音が出ないとか、バレないように録音するとか色々ありますけど、1番の特徴は逆探知されない事とエシュロンに会話を傍受されないってとこですかね。」
「エシュロン?」と東山が分からなそうに言うので私しがこたえることにした。
「なんだ東山、知らねえのか。」
「はい。」
「ブッシュが大統領の頃9.11が原因でアメリカは対テロ戦争を始めただろ。」
「はい。」
「その時にアメリカ政府は合法的に国民を監視するために、愛国者法ってのを作ってエシュロンで世界の通話を全て盗聴できるようにしたんだよ。」
「でも愛国者法ができる前からNSAによってエシュロンは使われてましたけどね。」と池谷さんが補足を付け足した。
「愛国者法は知ってましたけどそんなことやってたんですか?」
「まあ、アメリカ政府はエシュロンの存在を未だに否定してるけどな。」
「大体アメリカ政府は最近までNSAの存在も否定してましたからね。」再び池谷さんに捕捉される。
「でもそんな携帯電話、誰からもらったんですか?」
「・・・・、あんまり人に言うなよ。・・・ディープスロートだ。」
「五年前の?」と東山が呟く
「ああ。」
「ディープスロートってスパイかなんかだったんですか?」
「わからない。」
「分からないって、よくそんな人間の情報で記事にできましたね。」
「奴からくる情報はどれも正確だったからな。どの記事もダブルチェックで裏付けをした。」というと池谷さんが「緒方さん、今回の調査のお代なんですけど、事件んがひと段落したらその携帯貸してくれませんか?」
「これをですか?」
「はい。」
「これって幾らぐらいなんですか?」と東山が言う。
「大体相場が40万ぐらいですかね。」
「「40万?」」
「出来れば構造を調べたくて。」
「じゃあ、結構サービスしてくださいよ。」
「そりゃもう。奮発しますよ。」
「よっしゃー。」
「それじゃあ、もう一つ依頼してもいいですか?」
「いいですよ?」
「この携帯のアドレス帳の番号と、掛けてくる人が誰か調べてくれませんか?」と言いながら携帯電話を差し出す。
「直ぐにわかるか分かりませんけどちょっと見てみますね」と携帯電話を受け取り隅々まで見た後そのまま持って、「ミニってあったかな?」と独り言を言い部屋を出ていっていった。
暫くして「ありました、ありました。」と言って一本のミニUSBケーブルを持ってきて、パソコンの前に座り近くにあったUSBハブと繋ぎ、幾つもあるモニターの一つを操作しはじめた。
モニターにはさっきまで普通のウィンドウズの画面が写っていたがいつのまにか、黒い画面に白いアルファベットが写っていてぱっと中央に実行状況のバーが現れバーの中を左から少しずつ白が埋めていった。
「緒方さん、ちょっと時間かかりそうですけど時間有りますか。」
「あ、じゃあ、あとで取りにきますよ。」
「じゃあ、それまでに色々やっときますよ。」と言って東山と池谷さんの部屋を後にした。
* * *
昼前、社会部にある田中のオフィスのデスクで田中が他社の新聞を読んでいた。
入り口にもたれかかり暫く見ていると、新聞をめくる時に田中が私に気付いた。
「おい、仕事しろ。」
「バカ、敵情視察も仕事のうちだ。」
タバコを一本口に咥えると、「こっちに入ってから吸えよ。若いのがうるさいから。」と言われたので箱に戻しながら「お前上司だろ。」
「悲しいかな中間管理職。でどうした?」
「昼でも行かんか?」
「もうそんな時間か。」と田中が時計を見ると。「まだ11時半だぞ。お前も仕事しろ。怠慢社員。」
「バカ、早めに飯が食えるから、班長やってんだよ。」
「はっはっは、でどこ行く?」と言いながら田中は椅子から降りた。
「蕎麦がいいな。」
「お前、年取ったな。」と言いながら一緒にオフィスを後にした。
田中と2人で食べに来たのは会社の近くの昔からある「清そば」という蕎麦屋だった。座敷に通されて田中はざるカツ丼セット俺はざるそばを頼んだ。
「それにしてもお前よく食うなー。」
「俺はお前と違って仕事してるからな。それにしてもお前と食うの久しぶりだな。」
「お陰さまで、忙しいからな。そういえば東山は見つかったか?」
「いや、まだ警察からは何も言ってこない。ほんとにどこ行ったんだろな。」
「なんか、いなくなる前になんか無かったのか、書いた記事が変だったとか。」
「へっ?、いやあ、火事の記事はそんなに変じゃなかったしその前の記事も変なとこはなかったなあ。」といって田中は水を一口飲んだ。
「そういえば、あの火事の事件社主はどこまで知ってんだろうな。」
「えっ、そんなのわかるわけないだろ。」
「お前、呼ばれた時なんか言ってなかったか?」
「呼ばれたときは、全く事件の事を直接触れてなかったな。それよりお前の所はどうなんだ?取材してんだろ。」
「ああ、やってはいたんだけどな、垂れ込みを調査したら特に変な所はなくってな、後調査してた奴が季節外れのインフルエンザに罹りやがって進展なしだ。」と田中にあえて嘘をついた。
「そんな事件早く切りつけて、別の山を追ったほうがいいぞ。ただでさえ予算が毎年減ってんだから。」
「そうだな。」
「お待たせしました。」と三角巾をつけた太ったおばちゃんの店員が大きいお盆に品物を持ってきた。
「さ、食おうぜ。」と田中は言った。
食べてる間私たちは不自然なほど沈黙が続いた。
レジで、自分の分を払おうとすると。田中が「おお、ちょっと待てよ、ここは俺が払うよ。」
「え、いいのかよ。」
「いいんだよ。俺の方が出世してるからな。」
「悪いな。」と言って暖簾のかかった出入り口から先に蒸し暑い外へ出た。
「バカに暑いな。」と後ろから上着を脇に挟んだ田中が出てきた。
「ごちそうさん。」
「いや、いんだよ。それよりお前これからどうする?一服するか。」
「いや、すまんこれからちょっと用事でな、季節外れのいんふるえんざになったやつのかわりに仕事に行ってくる。」
「そうか。御苦労さんだな」
「苦労でもないさ、やりたくてやってる仕事だからな。」
「そうだな。お互い様だ。」
「それじゃあな。」と言って、俺は会社と別の方向に歩いき出し、5メートルほどいった時後ろから田中の大きな声がした声がした。
「雲村、お前早く結婚しろよ。」
「いきなりなんだよ。」と少し大きな声で返す。
「結婚するとな、見え方が変わるぞ。」
「なんだよ今更。」
「それだけだ。」と言われた後田中から視線をそらして振り返り右手を少し降りながら。
「ハイハイ。」と答えた。
最初の曲がり角を曲がるとポケットの携帯を取り出し緒方に電話を掛け、直ぐに緒方が出た。
「はいもしもし。」
「緒方、リストは手に入ったか?」
* * *
雲村と蕎麦を食べ別れた後一人で近くの喫茶店に入りタバコを吸って待っていると、若いウェイトレスがアメリカンを運んできた。
タバコをアルミの灰皿で消しコーヒーをすすりながら1週間前のことを思い出した。
その日は目立った事件もなく、夕方に八王子で火事が起こったと連絡が来たため東山を送り込み記事が出来るのを待っていた夜8時前にオフィスの電話がなって表示を見てみると見ると内線だった。
「田中君か?」受話器から聴こえてきた声は、何処か気の抜けた印象の老人の声で何聞き覚えのあった。
「はい。」
「今から社主室まで来れんかな?」と言われた声が頭の中で思い描いた顔と一致した。
「はい、直ぐに向かいます。」
「うむ、ちょっときてくれ。」と言われ電話が切れるのを確認してから受話器を置き社主室に向かった。
社主室の扉の前でノックをすると。「どうぞ。」と社主の声がしたので入ると部屋の中央にある大きなソファーの前に白髪で黒いスーツを着た社主が立っていた。
社主は白いシャツに赤いネクタイを閉め顔には大きな鼻に太い黒縁の眼鏡を掛けていた。
「急に呼んですまんね。こっちに座ってくれ。」
「はい。」と言い社主の向かいにあるソファーの中央に座ると社主は右端に座り腕掛け足を組みう腕掛けに体をもたれ掛けた。
「どうだね、明日の記事は?」
「はい、社会部の皆はよくやってくれてます。」
「それは結構。」と言い社主は足を組み換え、少しの沈黙が流れた。
「あの、どういった用件でしょう?」と意を決して聞くと、社主は眼鏡をくいっと掛け直しさっきより少し低い声で。
「ああ、あのなあ、君は今日八王子で火事があったのを知ってるか。」
「はい、今部下に記事を書かせてるので明日の朝刊に載せるつもりです。」
「ああ、うん、そうか…その記事なあ、朝刊に載せないで欲しいんだ。」
「夕刊にするんですか?」
「いや、そうじゃない。」と呟くように言った。
「どういうことですか。」
「君も馬鹿じゃないんだからわかるだろ。これ以上私から言わせるな。」
「・・・・あの事件に何が有るんですか。」
「・・・・・」
「何処からの圧力ですか?」
「・・・・・」
「社会部部長のわたしにも言えないんですか。」
「ああ、聞かない方が君のためだ。君の家族もな。」
「脅迫ですか。」と語気を強めていった。
「わたしが言ってるんじゃない。私だって、君にこんな事は言いたくない。だがな、新聞社の経営は関係と忖度が絡む。」
「そんな事やってたら、健全な報道なんてできませんよ。」
「報道は持ちつ持たれつだよ。君が怒るのもわかるがね、そこをわかって欲しい。」
「・・・・」何も言い返すことができず、立ち上がって部屋を出ようとすると。
「田中君わかってるな。」
「・・・はい。」と捻り出すのがやっとだった。
オフィスへ帰ってくる間に自分なりに怒りを抑えてオフィスに東山を呼んだ。
「どうだ出来たか。」
「はい、今出来上がりました。」と東山は元気良く言って印刷した記事をデスクに置いたので一通り目を通す。細かな事まで簡潔に書いてありいい記事だった。
「どうだった、現場は。」
「あの火事どっかおかしいです。」と言って横した写真は異様に一軒だけ燃えた写真だった。
「よく出来てるな、御苦労さん。今日はもう上がっていいぞ。」
「本当ですか。」
「ああ、ゆっくり休め。」
「あの、部長大丈夫ですか?」
「何が?」
「なんか怒ってるみたいだから。」
「いや、怒ってないよ。いいから早く帰れ。」
「分かりました。」と言って機嫌良く帰っていった。
東山が帰るのをみるとパソコンを取り出し、東山の記事を要約し一本の短い記事を書くと構成
担当に渡し朝刊に載せるように指示をした。
物思いに耽りいつのまにかコーヒーは冷めていたので飲む気が失せ、再びタバコに火をつけた。
東山には悪いと思うが今でも思うのはあの小さな記事が圧力に俺が抵抗できる唯一の方法だった。
あの記事を出された後、社主に再び呼び出されたが、あまり咎められる事はなかったのは社主もこの現状に満足していない証拠だろう。
社主の気持ちもわからないでもないところが今の俺の悲しい現状だった。
さっき雲村との別れ際に言った言葉にはそんな感情が悔し紛れにこもっていたと思うと言い訳みたいで気恥ずかしくな離、雲村は察したのだろうか考えてしまった。
* * *
東山と図書館で新聞のバックナンバーをみて3件以外にも似たような事件がないか調べていたが、なんの収穫がないまま、閉館時間になってしまったため、東山と別れ携帯を受け取りに池谷さんのところへ行くと、パソコンの前で忙しそうにキーボードを叩きながら顔の向きも変えずに答えた。
「すいません、まだこの電話の解析終わってないんですよ。」
「やっぱり大変ですか?」
「そうですね、元々が国家の情報機関が使ってた物ですからね。結構かかりそうです。」
「そうですかー、困ったなー、携帯今日持って帰っても良いですか。」
「ああ、それは大丈夫ですよ。」
「えっ、良いんですか?」
「はい、データはコピーしてあるんで、後は解読するだけです。」
「あ、そうなんですか、じゃあ。」と言ってもテーブルに置いてある携帯電話を取り上げた。
「ああ、緒方さん。」
「はい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけどい。」
「はい。」
「その携帯のデータ解析にちょっと時間がかかりそうなんですけど、解析より先にリストの方先にやって良いですか。」
「ああ、大丈夫ですよ、どっちかというとリストの方優先で。」
「分かりました。いや、この解析ちょっと時間がかかりそうなんですよ。」
「どのくらいかかりそうですかねえ?」
「もしかしたら一週間ぐらいかかっちゃうかもしれないです。」
「そんなにですか?」と話した後、そこを後にした。
* * *
深夜1時59分、ある広い地下駐車場、5年ぶりに来たここは前も埃っぽく薄暗かったが、その時から時間が止まったかのように何も変わっていなかった。
ディープスロートと名乗る相手との待ち合わせ時間までに少し時間あったので事前にコンビニでコーヒーを買って飲みながら待っていた。
前の時もそうだったが、ディープスローとが時間より早く来たことも遅れたこともなかったので待つ事はわかっていた。
「早かったじゃないか。」と後ろの方からディープスロートの声がしたので。
「まあな。」と言いながら振り返ると、ディープスローの顔がちょうど車の影に入っていてよく見えなかった。
「お前たちはどこまでわかってるんだ?」
「それはこっちのセリフだ。」
「5年前の事件とこの事件は繋がりがあるのか?」と言うと少し時間を開けてから彼は再び口を開いた。
「ああ。」
「じゃあ、超能力は本当に有るのか?」
「事件を見ればわかるだろ。」
「はぐらかすな、はっきりいってくれ。」少し語気を強めて聞くと言いにくそうに「ああ。」と答えた。
「消えた子供たちは何処へ連れて行かれた?病院にいたスーツの男は?奴らは誰だ。」問い詰めると彼は落ち着いて「まあ、落ち着けよ。」と冷静に言った。
「奴らが何処のどいつかは俺にも分からんが、この国にも超法規的措置を行える実行部隊がいくつか有る。あまり目立つとお前も目をつけられるぞ。」と言われ昨日の家の事を思い出した。
「ああ、で子供は?」
「そっちなら幾らか思い当たるところがある。君は医療法人石井会を知ってるか?」
「いや。」
「そうか、なら人能研は覚えているな?」
「ああ。」
「君が5年前にしたスクープのお陰で人能研は解体されて研究資料や資材は類似の国家機関や研究機関に移管された事は知ってるな。」
「ああその事は5年前に調査して記事にしたが詳細は、政府が国防に著しく害する情報が含まれてるとかで情報開示された書類は全部黒く塗りつぶされてて分からなかった。」
「そうか、石井会は以前からプリオン病の研究を積極的に行っていた民間の医療法人だ。人能研との共同研究をしていた事実もある。」
「人能研の研究を石井会が受け継いだ?」
「確証はない、だが石井会は3年前に新しい研究所を長野の山奥に作った。人能研の研究所に似ていると思わんか。」
「山奥の研究所。じゃあそこに子供たちが収容されてるって言うのか?」
「どうだろうな、俺はもう簡単に情報に接触できる立場にない。」
「最後に聞いて良いか?」
「あんたは誰なんだ?」
「ディープスロートだ。」
「ウォーターゲートを暴いた記者も正体を知っていたから記事になった。」
「だが、お前は前に記事にしてるじゃないか。灰色な事をやっているのはお互い様だ。」と言われた時だった。
後ろから車が動き出すエンジン音がしてからコンクリートでタイヤが鳴く音が辺りに響き渡った。
音の方向を向くと、黒いバンがすごいスピードで近づいて来たので考えるまもなく奥にある柱の裏に隠れる。
バンはキキキキーっと音を立てながら止まり勢い良くスライドドアが開くとカツカツカツカツと幾つもの足音がディープスロートのいた方向へ走って行った。
柱の裏でうずくまり足音が聞こえなくなった頃恐る恐る柱越しにバンの方向を見るとディープスロートは見当たらず、バンの中から背の低い女性がスタバのカップを持ちながらちょこんと降りて来た。
この場所には不釣り合いな女性に目を奪われよく見ると一見、丸の内に居そうなOL風でベージュのワンピースに淡いピンクのカーディガンを羽織ってい小さな肩掛けのバックをかけていた。異様な光景に見とれていると、彼女は少し距離がある私の方に向かって。
「あのー。」と可愛く大きな声を出してるように片手を口に添える仕草をして話しかけてきた。
「・・・・」問いかけを無視してみる。
「あのー。緒方さんですよね。」と再び可愛く話しかけられたが自分の名前が出て我に帰って。
「はい。」と返した後柱に持たれながらゆっくり立ち上がり恐る恐る柱の影から出た。
「あ、いたいた。怪我とか有りませんでした?」と聞かれながら捕まったときスパイ携帯を奪われないかと思い近くに止めてあった車の下に素早く滑りいれた。
「大丈夫です。」と訝しむように答える。
「よかったー。ちょっとこっちに来てもらえませんか?」と言われてほんわかした話し方で安心した私は近づき彼女をみると顔が小さく体も細く女優のように可愛かった。
「あ、はい。」
「ほんとにすいませんでしたー。びっくりさせちゃって。」
「いえ。」
「あ、すいません挨拶がまだでした、私政府の職員の者です。」
「なんで僕の名前を?」
「それは話せないんですけど私たち、実は今逃げてった男性を追ってるんですけよー。」
「彼は誰なんですか?」
「すいません。それは言えません。」
「じゃあ、僕になんかようですか?」
「お願いがあるんですけど、彼が接触を取ってきたら連絡をもらいたいんですよ。」
「私がやると思うんですか。」
「出来れば国の安全の為に国民として協力して貰いたいんですけど。」
「貴方とどう接触すれば良いんですか?」と言うと彼女は「あ、すいませんコレを。」と小さなバックから渡してきた名刺には070から始まる11桁の番号だけが書いてあったそれ以外何も書いてなかった。
「どこに繋がるんですか?」
「私につながります。あ、後私達に会った事は記事に書かないでくださいね。貴方の同僚の方を殺さなくちゃいけなくなっちゃいますから。」と言った後どこからともなく黒いスーツとサングラスを嵌めた男が彼女の横にやって来て、近く耳もとで何かを呟いた。
「すいません、緒方さん私たちはもう行きますね。」と彼女は言って男と二人でバンの後部座席に乗り込むみスライド扉が勢い良く閉まり猛スピードで走り去って行き、まるで何もなかったかのよう最初の光景がそこにあった。
夢じゃないかと疑いたくなったが手にはさっき持たされた名刺が確かにあった。
周りを見渡して、誰も居ないのを確認した後名刺を無造作にジャケットのポケットに入れさっきまで隠れていた場所の近くに停めてある車の下を覗き込みスパイ携帯を回収した。
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