殺処分まであと三日

子供がガラスケースにべったり顔をつけ、中に居る僕を見ている。手を振ると顔を赤くし、傍に立つ母親の後ろに隠れてしまった。それでも気になるのか、母親の腰にぎゅっとしがみついたままこっちを見ては恥ずかしそうにはにかむ。

「今後を考えると知能レベルが高いペットがいいわね」

「どうせなら女の子のタイプがいいんじゃないか?」

「いやよ私。そういうので、ほら。お向かいの息子さんなんか……」

 両親は先程から熱心に話していて、子供と僕の静かな交流に気付かない。僕がガラスに掌をくっつけると、子供は様子を伺いながらそろそろとガラスケース越しに僕の手に触れた。熱が伝わる訳もないのに温もりを感じる。

「君は幸せな子供だね」

指先をふいっと上にやると、子供は引っ張られるかのように僕の指先を追いかけた。

「君はまだ知らないかもしれない。これからも知る事はないかもしれない。でも僕らを飼える環境に生きている君はとても幸せな子供だ。そんな幸せな君が選ぶペットはきっと幸せなペットだろう」

手を止めると、子供は訝しげに僕を見た。あるいはもっと遊んでよというように。

「なぁ君、僕の事を飼っておくれよ」

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