幸不幸

 ご主人様は夜にだけやってくる。

 首輪にはギリギリ扉に手の届かない長さのチェーンが繋がっていて、ご主人様が部屋に居ない時は鍵がかかっている。別にこんなものを付けなくても逃げ出したりしないけど、ご主人様がそうする事で安心するなら僕はそれでも良いと思っている。

 僕の見るご主人様は、大体酷く疲れていた。隣でポツポツと話をしているだけの時もあれば、気の済むまで僕を殴る時もある。奉仕をさせることもあるし、ご主人様が僕に触れる時もある。最近は扉に近付いてくる足音だけでご主人様の状態が分かるようになったけど、最初は想像も出来なかったからとても怖かった。ペットとして生まれたからご主人様に与えられるものに異論はないけど、痛いものも怖いものも好きな訳では無い。それでも僕を殴った後にとても悲しそうに泣いたり、すっきりとした顔で僕を見下ろすご主人様を見れば、自分がここに居る意味を感じられた。

 小さな明かり取りを見上げる。最近は暗い時間が短くなってきた。時計もない部屋だから時間感覚はないけど、ペットである僕に時間なんて必要ないのだろう。僕に求められているのはきっと、そういうものではない。

 ペットである自分が幸せかどうかは分からない。でもご主人様を見ていると、なんて人間は不幸なのだろうと思うのだ。

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