第5話⑥ サブリミナルでハゲモテドン! それは人を救うおまじない?

「ひとつだけ…それは、なんだい? 」

「サブミナルカラオケよ」

「サブミナルカラオケ? 」

「潜在意識どころか人格そのものさえも変えてしまう、恐ろしい技よ」

「それは、いったい、どんな技なんだ」

 アキは恭平から離れると、床に置いてあったカラオケマイクスピーカーを手に取った。

「たとえば、ペットボトルの麦茶を飲んでいるとき、アルファー波を人間の脳に起こさせる音楽をきかせながら…」

 と言いながら、カラオケマイクプレヤーのカセットテープを、アキは逆向きにして入れ直し、ボタンを押した。スピーカーから、揺らぎがある不思議な音楽が流れ始めた。

「このカラオケマイクに十分に気を送り込んで…」

アキが声色を変えた甲高い声を出しながら叫んだ。

『このように、人間の耳では聞こえない、二万ヘルツ以上の高い声で、メッセージをおくると…』

「ちょっと、すいません! 」

恭平が手を上げながらアキの言葉を遮り、アキに近づいた。

「なに? 」

「いま、人間の耳には聞こえない…と聞こえたような気がしたんですが、いったいどのように考えればよろしいのでしょうか? 」

 アキが恭平に耳打ちした。

「2万ヘルツ以上の声って誰にも聞こえてないんやろう」

「うん、そうや」

「じゃあ、それを小説に書くと『    』て、空白になってしまうやん」

「うーん、そう、聞こえへんのやから…空白が正解かな」

「それやったら、小説読んでる読者が、ウチが何を言ったのかは分からんようになるやろう」

「そうか! 」

「だから仕方なく文字に書くけど、登場人物は、あくまで聞こえないフリをしてくれ…て作者からの要望やねん」

「作者からの要望…なるほど、了解です」

 恭平、アキから離れ、壁に向かって声を出した。

「というわけで読者の皆様、文字にしているけど、本当は聞こえない…ですよ」

 アキも壁に向かって笑顔を振り向いた。

「みなさま、よろしく…ね」

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