第7話 ショーゴとサナ
――ガシャアアアン!!――
「何この煙……っ! ゴホッ…! 」
女の子4人の姿がたちまち煙に巻かれる。
強い刺激に慌てて顔をおおうけど、それさえ抜けて私を襲う。
強烈な目の痛みに涙が止まらない。
「やだっ……! 」
壁だったはずの後ろから羽交い締め。
心の底からの恐怖がよみがえる。
ここで私死んじゃうの……!?
カケル君とミツハちゃんに謝れないまま。
もう一度だけ。
逢ってお礼を言いたかったのに。
悲しい思いが溢れてくる。
あの時の、夕陽に照らされた金髪、
綺麗だったな……。
もう一目だけでも、見たかった。
誰かが私の顔を布でおおう。
「息吸うなよ」
耳元で
くぐもった声は逢いたいと望んだ少年。
私を抱えてその場からどこかへと走りぬけていく。
――――パァン!!――――
「きゃあぁあぁ!!」
「痛い! 何か刺さったっ!?」
「目がっ……ああぁ!」
「なによもぅっ!」
遥か後ろの方で悲鳴が次々あがっていた。
走りながら口を覆う布を取って、カケルが不敵に笑う。
「時間差の
顔をおおっていた布を取ってもらっても、私の視界はまだ
私は下ろされて、初めてあった時のように、手を引かれて走っていた。
たとえ視界が
繋いだ
暗く狭い、
目が痛くてまわりがぼやけてしまうけど。カケル君は濡らしたタオルで私の顔を拭いてくれてる。
顔をぬぐう手付きは優しいのに。
物凄く怒ってくれている。
それは心配の裏返し。
「手で
彼の顔の近くに、光がぼやけて見えていた。
ミツハちゃんの焦ったような声が微かに漏れている。
会話が終わったのだろう。光が消えて、静かになる。それを見計らい、私はカケル君に謝った。
「……カケル君、ごめんなさい」
カケル君の手をつかみ、私は正面から見えない目で顔辺りを見つめる。
「……夢であってほしかったのに、そうじゃなかった。お母さん達、食べ……っ! 」
言っているそばから、
また、涙が溢れてくる。
沢山の思い出が涙と一緒にこぼれ落ちる。
もう、帰る場所も無い。
待っててくれる人もいない。
「私……、一人に、なっちゃった……」
俯いて、涙を落とす。
少しの沈黙が訪れる。
「……オレが……」
そう言いかけたカケル君が、ばっと振り代えったようで、その続きは聞けなかった。
手に彼のスマホを渡されて、動くなよと
耳打ちされる。
炎の舞
「ヤベェ。さすがに4人はキッツいな」
私の前に立ち上がったようだ。
狭いと思い込んでいたのは、どうやら暗がりにいただけで、実際は広い空き地の一角だった。
彼の目の前には、ぼろぼろの制服に身を包む4人。
その目は怒りに燃えていて異様に光っている。
口々に、呪いの言葉を吐き出しながら。
「よくもやってくれたわね!」
「あんたを殺して食べてやるから!」
カケル君が動くたびに、紅い光が舞っていた。
空気が暑い。
焼けるような熱波が襲う。
血の臭いも混じり始める。
カケル君の必死な声しか聞こえない。
どうしよう。私のせいだ。
私のせいで、カケル君が怪我をしていく。
段々とはっきりと見えてくる視界の中に私を庇う背中が映る。
その瞬間、カケル君はどこかに向かって吠えていた。
「……おせーぞ! ショーゴ!!」
その声と共に風が熱波を突き抜ける。
つむじ風が連れてきたのは、大人しそうなサラリーマン。
風の囁き
「モスバーガーなら、おごってあげるよ」
笑みは見せずに、落ち着いた声でカケル君の怒りを流す。
風が砂ぼこりを巻き上げる。
次の瞬間には。
スーツを着た社会人はその手に
「今日は直帰だね。会社に連絡しなきゃな」
そう言って、カケル君の隣で加勢に入った。
柳を守るだけでも精一杯だった。
2対1でも手に余るほど、
飛んでくる石矢を叩き落とす音が絶えずビルに
「ミツハが来るまで耐えろ!」
傷だらけで、息があがってきているカケル君がショーゴに叫ぶ。
しかしショーゴはちら、と冷静に見返しながら、手を止めずに女子高生の後を見る。
「ミキママからLINEがあったんだ。サナも今トウキョウに来てるってさ」
その言葉を合図として。
辺りに木の葉が舞い上がる。
木の葉のざわめき
「サーナちゃん登場っ!」
その幼い声にショーゴを除く全員が動きを止めた。
濃い緑の
小さな影が4人の後ろから躍り出て、蒼玉の瞳の女の子を重力に任せて背中から
中学生でも通る女の子。
ポニーテールが良く似合う。
にや、と不敵に笑って小さく体を
森の香りが辺りに広がり、そのまま蛍石の女の子に切りかかって行く。
背の低さを利用した低めの攻撃体勢に、蛍石の
カケルは力業で藍玉の
ショーゴも正確な優れた
「大丈夫!? 柳様! とっても心配したのよ!?」
勝敗は、あっけなくついていた。
「ま……待って、殺さないで!」
足の
蛍石の女の子が、胸の谷間から
ピタリの自分の喉元に刀の切先が張り付いていたからだ。
いくら人を喰らって回復するとはいえ、痛いものは痛い。
誰が
それを聞いて、冷たい目で見下ろしていたスーツの男性が、刀の刃先を喉の皮ふに食い込ませてきた。
「んー。じゃあ、双子の片割れの居場所教えてくれる? 」
にこやかに笑うこの社会人は、今まで翠の日本刀で彼女を傷付けていた奴だ。
それも、笑いながら。
その笑みに、恐怖を感じながらも抵抗する。
「知らないわよ! いつも指示は
睨みながら、時間稼ぎのために天藍石は話を伸ばす。
切断された腱がなおるまで。
そしたら逃げて食べればいい。
でも、その思いも虚しく流れ、ショーゴは最後通告をした。
「あっそ。知らないならいいや。お前はヨウナシだ」
その言葉と共に、刀の刃先が胸元に向かった。
「何よ! 人間じゃなきゃ生きてちゃイケナイの!? 好きで
悔し紛れに言った言葉に、天藍石の瞳からは、一筋の涙が滑り落ちる。
しかし。
翠の刀が彼女の胸に突き立っていた。
胸の中で硬い物が砕ける音がする。
「フツー、は人間を食べないんだな」
やはり笑って彼は言った。
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