第007話 〈死を告げる猛毒蛇〉の討伐 3

『《超速再生》を実行中。只今、完全消失した肉体を再生しています』


 体がない……。《消滅弾》ってやつをもろにくらったのか……。


 さっき死んだ時には意識がなかったみたいだけど、今度ははっきりしてるな。


『意識を保ったまま一瞬で死亡すると、このような状態に陥ることがあります』


 即死したら意識だけ保てるってわけか。


 時間はどのくらいかかる?


『通常であれば一瞬あれば再生できますが、完全に消失した場合は数分を要します』


 完全に消失してたったの数分って……。


 こんな状態でも再生できるってだけですごいのに……。


 けど、これでもう、《超速再生》は二回使ってしまったことになる……。


 もう一回致命傷を負えば、あとはない……。


 ちょうどいい。この時間に作戦でも練ってみるか。


 俺が今持ってるスキルは、《無限複製》、《完全覚醒》、《叡智》、《天啓》、《不老》、《全状態異常耐性》、《剣豪》、《超級鍛冶》、《空間製図》、《精密創造》。


 それから、さっき手に入れたばかりの《超速再生》だ。


《剣豪》と《全状態異常耐性》以外は、どれも戦闘向きのスキルとは言えないな……。


 十人以上のステータス値は獲得してるから、もう少しまともに戦えるかと思ってたけど、肝心の剣の強度が脆弱すぎて敵の鱗を貫けない……。


 けど、猛毒蛇が硬いのは鱗の部分だけ……。歯茎は普通の剣でも容易くダメージを与えることができた。


 だったら……。


 メーティス、ちょっと質問したいんだけどいいか?


『はい』


 もしかして――


 質問を終えると、メーティスは『はい。その通りです』といつも通り簡素に答えた。


 ありがとう。じゃあそれともう一つ、猛毒蛇は連続で《消滅弾》を撃つことは可能か?


『《消滅弾》は一度使用すると、少しの間インターバルを設ける必要があります。ですが、幸太郎様の体が再生する頃には、再び使用することが可能になっていると考えられます』


 わかった。じゃあ、体が再生した瞬間が勝負だな。



     ◇  ◇  ◇



 数分後、《超速再生》でなんとか体はもとに戻ったが、辺り一面毒霧で覆われていて、視界は判然としない。


 向こうは俺が再生したことに気がついたのか、「ギシャアアアアアア!」と威嚇する声だけが聞こえてきた。


 そして、さっきと同じように、毒霧の向こうに黒い落雷のような点滅が走り始めた。


 やばい! またあれがくる! 急げ!


 俺は地面に突っ伏し、自分の体の真上に手を突き出して、


「《無限複製》! 土!」


 手のひらから次々と溢れてきた土が、俺の体を覆い尽くす。


 奴はこの霧の中ではっきりと俺の居場所を把握していた。それは、蛇特有のピット器官、つまり、熱感知能力を使っているからだ。


 こうして体の上に冷えた土をかけることで、俺の存在を見えなくすることができるはず!


 予想通り、猛毒蛇は俺を見失ったのか、《消滅弾》が放たれることはなかった。


 けど、このままだと俺も動けない。


 だからここは――


「《空間製図》、転写!」


 少し離れた場所に、半透明の案山子の図案が浮かび上がる。


「さらに《無限複製》で木材、ロープ、ジャージを複製!」


 案山子の図案のそばに、木材とロープと、それから上下セットのジャージが出現した。


「《精密創造》で木材とロープとジャージを使用し、案山子をクラフト!」


 転がっていた木材が浮かび上がると、瞬時に加工され、十字を描くような形へと変化し、その形を固定するよう、中央にぐるぐるとロープが巻かれた。


 そして最後に、その十字になった木材に、俺がこの世界に来た時、着用していたジャージがふわりと覆いかぶさった。


 俺の《無限複製》は、一度触ったものは二度と複製できない。裏を返せば、最初に触った時の状態のものが、そっくりそのまま複製されるということだ。


 となると、ジャージ以外の服はどれも、店に置かれていた際の状態で複製されてしまっていることになる。


 けれど、《無限複製》を獲得した際に着ていたジャージだけは、俺が着ている状態で複製されている。


 つまり、このジャージだけ唯一が、俺の体温を保持した状態で複製できるってことだ!


 猛毒蛇は、ピット器官で、俺がクラフトした案山子の熱を感知したのか、またも、「ギシャアアアアアア!」と雄叫びを上げた。


 直後、毒霧の向こうに黒い稲妻が走り、そして、それは黒い閃光となって案山子へと降り注いだ。


 案山子が跡形もなく消えたのを見計らい、土の中から這い出して、矢印を頼りに猛毒蛇のもとへ走り出す。


《消滅弾》の連続使用ができないのであれば、今がチャンスだ!


 そして猛毒蛇のもとまでたどり着くと、剣を構えてじりじりと距離を詰めた。


 まだだ……。まだ……。まだ……。


 猛毒蛇は、すでに二度、俺の剣でダメージを受けているためか、警戒してなかなか攻撃してこない。


 待て……。ここで焦ったら全てが台無しだ……。


 ギシャ、ギシャ、と、猛毒蛇が威嚇するように噛みつく動作を見せつけた。


 よし……。そうだ……。来い!


 そして、猛毒蛇が俺に頭を近づけた際、予備動作を見せつけるように、俺はわざと剣を大きく振り上げた。


 その剣を振り抜いた瞬間、猛毒蛇はすかさず頭を引っ込め、俺の剣は空を斬った。


 よし! これでいい! あとはこのまま……。


 直後、態勢を崩したふりをし、体をよろめかせると、猛毒蛇は横からかすめ取るように一気に噛みついてきた。


 猛毒蛇の牙が、深々と俺の腹に突き刺さり、俺の体は猛毒蛇に咥えられながら宙に持ち上げられた。


「ぐはぁっ!」


 く、くそっ! この態勢だと、腕がうまく動かせない……。……《超速再生》が使えるのは残り一回。……耐えろ。……耐えるんだ。


 そして、猛毒蛇は俺を何度も壁にぶつけ、持っていた剣を落下させると、ひょいと俺の体を上に投げ、あんぐりと口を開き、そのまま丸のみにしようとした。


 よし! 今だ! 《超速再生》!


 空中で《超速再生》を使用し、体を瞬時に再生させ、真下で口を開いている猛毒蛇に向かって手を伸ばす。


 そして、猛毒蛇が俺を食べる瞬間を見計らい、大声で叫んだ。



「《無限複製》! 民家!」



 俺が突き出した手のすぐ前方に、小さな青白い光が出現すると、それは瞬く間に、俺が町で触った民家へと様変わりした。


「食えるもんなら食ってみろ! この毒蛇野郎!」


 突如、口の中で民家が出現した猛毒蛇は、顎の端から真っ二つに裂けていき、そのまま民家に押しつぶされるようにして倒れ込んだ。


 その後、俺の体も壊れた民家の上に落下したが、どうにかかすり傷程度で事なきを得た。


「いてて……」


 猛毒蛇にぶつかった衝撃で粉々になった民家と、横に真っ二つに裂けた猛毒蛇が、絡み合うようにして沈黙しており、もうピクリとも動かなかった。


「やっぱり、硬い鱗は外からの攻撃には有効だけど、中からの攻撃にまでは対処できなかったみたいだな」


 頭の中で、メーティスの声が響く。


『〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の討伐を確認。幸太郎様の完全勝利です』



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