第008話 〈死を告げる猛毒蛇〉の討伐報酬

死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の死体の横で、腰を下ろし、そのまま大の字に寝転がった。


「はぁ~。疲れたぁ~」


『《無限複製》で複製した物体は、突き出した手のひらの前方に出現した光の球体から、前方に向かって扇状に形成されます。今回の作戦は、その特徴を利用した、とてもユニークなものでした』


「あぁ……。けど、この作戦を思いついたのは、メーティスの言葉があったからだ」


『私の言葉?』


「ほら、最初に俺が《無限複製》でキノコを複製した時に、メーティス言ってただろ? 『手のひらを前に突き出し、周囲の安全を確認して、明確な意志を持ち、《無限複製》を行う旨を言葉にする必要がある』って。で、その中の『周囲の安全を確認して』ってのは、裏を返せば、使い方によっては周りに危険が伴うってことだろ?」


『はい。その通りです』


 俺が他人の話をよく聞くタイプでほんとよかったぁ……。


《無限複製》を攻撃に利用することを思いつかなかったら、絶対今頃殺されてたし……。


『ところで幸太郎様、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の死体から、採集できそうな素材がいくつか見受けられます』


「おっ! いいねぇ! モンスターを倒したあとの素材集め!」


 立ち上がり、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の死体を改めて眺めてみた。


 口の端から大きく横に裂けていて、内臓と民家の残骸が混ざり合うようにして山を作っている。


「うわぁ……。スライムの死体はすぐに消えたのに、こいつは消えないんだな……」


『死後に蒸発するか否かは、モンスターの種類や、生息環境によって異なります』


「これもほっといたら勝手に消えたりしないか?」


『しません。腐ります』


「あぁ、そう……」


『なのでそうなる前に、解体して素材を入手することをおすすめします』


「解体か……。結構時間がかかりそうだな……」


『それならば、《空間製図》と《精密創造》を利用した解体方法を提案します』


「《空間製図》と《精密創造》? それを使ってどうするんだ?」


『まず、《空間製図》で、不要な部分を取り除いた解体後の素材の製図を行います。次に、《精密想像》で〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の死体を材料に、製図した素材を作成します』


「おぉ、なるほど」


『〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉すでに死んでいるため、素材扱いとなり、私の能力で精密な鑑定を行えます。そのため、解体後の図案を幸太郎様の頭の中に鮮明に浮かび上がらせることが可能です』


「なるほど。じゃあ、頼む」


『了解しました』


 メーティスが話した通り、頭の中に猛毒蛇の解体後の図案が浮かび上がる。


「《空間製図》、転写! 《精密創造》で素材をクラフト!」


 解体後の素材が、半透明な製図としていくつも出現し、それが《精密創造》の能力で次々と実体を持っていく。


 それに伴い、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の死体は《精密創造》の材料として消費され、ゆっくりと小さくなり、最後にはきれいさっぱりなくなってしまった。


『解体作業、終了しました。価値のない一部の内臓は、民家の残骸で作成した木箱の中に押し込めてあります』


 視界の端の方に、二メートル四方はある正方形の木箱が三つ並んでいる。


 よし! 決めた! あの箱の中は絶対に見ないぞ!


 俺は改めて、価値がある方の素材に目を向けた。


「とりあえずこれから見てみるか……」


 二つ並べて置いてある、三十センチほどの革袋を拾い上げる。



〈[A級]死毒蛇の猛毒袋〉

 この中に液体を入れると、《猛毒》効果が付与される。



〈[A級]死毒蛇の強麻痺袋〉

 この中に液体を入れると、《強麻痺》効果が付与される。



「おぉ! 両方ともA級だ! ……でも、さすがにどっちも使い道がないような……。なぁ、メーティス、これってどのくらいで腐るんだ?」


『通常であれば一カ月ですが、防腐処理を施せば数年は腐りません』


「う~ん……。じゃあ念のため保存しておくか。いつか使うかもしれないし」


 次に、最も量が多く、赤々とした見た目からしてもだいたい何か想像できる素材の前に立った。



〈[A級]死毒蛇の肉繊維〉

《猛毒耐性》、《強麻痺耐性》を持った死毒蛇の肉。ほとんどが筋肉繊維で、食べてもそれほどおいしくはないが、加工すれば滋養強壮に効く漢方になる。



 やっぱり肉かぁ……。


 いやぁ、グロいなぁ……。


 そのとなりには、黒い棘の鱗が、これまた大量に並べてあった。



〈[A級]死毒蛇の硬質棘鱗きょくりん

《物理ダメージ大幅減少》効果を持つ鱗。加工してもその効果が消えることはなく、防具の素材としてとても優秀。



 これはなかなか使えそうだな。鎧は動きにくくなるからつけてなかったけど、加工しても効果が持続するっていうなら、服にして身につけておけばいいわけだし。


 棘鱗の横には、二つの真っ赤な眼球と、壊れた民家の材料で作られたらしい壺が置いてあり、その中に並々と赤い液体が注がれていた。



〈[A級]死毒蛇の赤眼球せきがんきゅう

 特別な効果はないが、装飾品として高値で取引される。



〈[A級]死毒蛇の体液〉

 加工すれば精力剤になる高級品。



 装飾品と精力剤か……。どっちも必要ないし、売って金に換えるか。


 えぇ~っと、あとは……ん? なんだ? 球体の宝石と……それからただの赤い石?



〈[S級]死毒蛇の宝玉〉(複製不可)

 自分が所有する、ゴミに分類できるA級以下の通常アイテムを消滅させることができる。



〈[S級]死毒蛇の魔核〉(複製不可)

 外部エネルギーを魔力に変換し、一定量保存することができる。



 おぉ! とうとうS級!


 魔核の方は、ほんとただの赤い石にしか見えないな……。


 けど、外部エネルギーを魔力に変換して保存……。つまり、なにかの動力源として使えるってことか。これはクラフトの要になりそうだな。


 それでこっちの宝玉の方は……。


「なぁ、メーティス。これ、どうしてこんな変な効果を持ってるんだ? 自分が所有するA級以下のゴミを消すだなんて……」


『〈死毒蛇の宝玉〉は、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉が使用していた、《消滅弾》を生成を担っていた部位にあたります。しかし、それは〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の肉体があって初めて使用でいるスキルです。素材として加工されれば、人間にも使える範囲で効果が変質します』


「へぇ。そういうもんなのかぁ。にしても、なんでゴミだけなんだ……?」


『それはおそらく、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉自身が、《消滅弾》を使用する際、敵をゴミだと認識していた名残りだと思われます』


「……あぁ、そう」


 つまり、俺は戦闘中にゴミだとみなされてたってことか……。


 知りたくなかった、そんな事実……。


『以上で、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の肉体から採集できた素材は全てです。ただし、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉を討伐した際、頭部から二品ほど、別のアイテムの出現を確認しました』


「別のアイテム?」


 民家の残骸で作られた簡易机の上に、本が二冊並んでいる。



〈[SS級]転移魔方陣の書 著:オリガ・ノイマン〉(複製不可)

 魔導書。転移魔方陣の作成が可能になる。



〈[SS級]魔核人形マナ・オートマタの書 著:オリガ・ノイマン〉(複製不可)

 魔導書。魔核人形マナ・オートマタの作成、改造が可能になる。



「おぉ! 念願の転移系の魔導書! ……と、魔核人形マナ・オートマタ? なんだそりゃ?」

『製作者の命令通りに動く人形のことです。先ほど手に入れた〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の素材を使用すれば作成可能です』


「人形か……。ん? 待てよ? さっきの〈死毒蛇の宝玉〉って、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の肉体がないから、《消滅弾》が撃てなくなったんだよな? だったら、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の肉体で構成した魔核人形(マナ・オートマタ)なら、《消滅弾》が撃てるってことか?」


『生前の性能とは差異は生じますが、理論上は可能です』


「あの凄まじい威力の《消滅弾》を撃てる人形か……。戦力強化には十二分だな。……けど、どうして〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の中に魔導書なんてあったんだ?」


『推測ですが、この二冊の魔導書を書き上げた『オリガ・ノイマン』なる人物が、自分の魔導書を、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉を倒せる誰かに託すため、〈死を告げる猛毒蛇グリム・リーパー・サーペント〉の頭部に、自らの魔導書を封じ込めたのだと考えられます』


「自分でやったってことか? なんでそんなことをする必要があるんだ?」


『魔導書は使い方を誤れば大きな危険を招くことがあります。そのため、それを持つにふさわしい人物かどうか、選定するために試練を課したのだと考えます』


「試練ねぇ……」


 せめて試練があるってことを事前に伝えてほしかったなぁ……。


「とにかく、試練をクリアしたってことは、俺にはこの二冊の魔導書を読む権利があるってことだよな」


 念願だった〈転移魔方陣の書〉と、ついでに手に入った〈魔核人形(マナ・オートマタ)の書〉。


 どちらを先に習得するかなんて、考えるまでもない。


 俺は一切の迷いなく、〈魔核人形マナ・オートマタの書〉を手に取った。



「さぁ、クラフトの時間だ!」

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