ほ
「先輩。やはり、どこの者か分かる物は身につけていません」
「だろうな。問題は、こいつが先の襲撃犯と同じ所の者なのか、我らが襲撃されたという情報を正確に捉えるために放たれた、別の所からの
別の所から
ただ、同じ所の忍びであれば。
戻らぬ忍びが死んだか捕えられたか、
死んだのならば、そこから情報が
どんなに鍛えられた忍びとて、薬を盛られ、幻覚を見せられ、味方を敵だと信じ込まされれば、そこから後、情報を得るのは赤子の手をひねるよりも
どちらにせよ、近いうちにまた新たな斥候が寄越されることになる。
「狼達に
「伊織。どう考える?」
「そう、ですね。まずはどの方角から侵入してきたかだけでも情報を集めましょう。あえて本拠地とは別の方角から侵入した可能性もありますが、侵入できると判断しただけの道筋を確認する必要もあるかと」
「確かに」
「その言葉、一理あるな」
「よし。追跡の件は伊織、お前に一任する。ここまでは俺から翁に報告しておこう」
「はい。よろしくお願いします。……ということで、隼人。ひとまず、里、もしくは学び舎がある山を出る所まででいい。辿れるか?」
「おう、任せとけ。お前達、行くぞ」
隼人は骸が
そして、一度侵入を許した道というのは、また使われないとも限らない。
「じゃあ、僕はその方角に新たな罠を仕掛けてきます。先輩、いいですよね?」
「……あぁ。ただし、目印は作っておけよ!」
「分かってます。じゃあ、とりあえずアレ、また再利用するので直してきますね」
賊が一度落ちたということは、次も罠として期待ができる。それなのに、一度使ったら
左近は腕を交差し、身体を
「僕も手伝おーっとー」
いつの間にか来ていた与一も左近の背を追いかけるべく、しゃがませていた身体を起こす。熱心に骸を観察していたかと思えば、どうやら興味が失せたらしい。まだ息があれば違っただろうが、すでに事切れた者にそれ以上の関心を持つ気は
その隣には愛用の火縄銃を抱え、骸を無表情で見下ろす慎太郎の姿もあった。
「与一、待て」
膝についた土を手で軽く払い、
「お前も行くなら慎太郎、見張り役として一緒に行ってくれ。こいつらだけだと、本当にえげつないものだけを作るに決まってるからな」
「やだなぁー。伊織。そんなこと」
与一は左近の隣に行き、左近の肩に自分の片腕を乗せてしなだれかかった。二人が顔を見合わせ、同時に伊織の方へ顔を向ける。
「するに決まってるじゃあないかぁー」
「ねー」
その顔は新しい
その笑みについては、伊織ももう何かを言う気が失せている。頭が痛くなることだが、これが二人が楽しんでいるときの笑みなのだと、半ば現実逃避、否、
ただ。
「お前ら、いい歳した男が語尾を伸ばすな! そんでもって、ねーとか言うな!」
二人はからからと笑い、隼人の後を追って穴の方へ向かった。その後ろには、くれぐれも目印をつけさせるのを忘れないようにと頼まれた慎太郎も続く。
はぁっと溜息が深く漏れる伊織に、他の代からは同情の視線がいくつも投げられた。
ここをこうして、そこをああして。おまけにこれもつけといて。
せっかく与一が一緒にいるのだからと、左近は嬉々として考えてあった仕掛けを作っていく。
一つの糸を切っただけで連鎖的に発動し、上手く
最初、慎太郎が持っていた火縄銃用の火薬を分けろと半ば
土砂崩れの原因が自分が分けた火薬なんてことになれば、それこそ目も当てられない。ケチだの少しくらいいいじゃないかだの文句を言われようと、駄目なものは駄目、ならんものはならんのだと、見張り役の役目を正しくきちんと果たした。
だがしかし、罠に使いたかった火薬がないからといって、左近の手が止まろうはずもなく。
結果、また至るところに仕掛け罠が増えていった。
どうせなら次、次、と少々背の高い草をかき分けながら道なき道を進んでいると、
「あ、正蔵」
聞けば、今日の
ご機嫌な左近の様子に、何故なのかピンと来たらしく、同じ代の中で一番の童顔の顔に苦笑いを浮かべている。
「仕掛け、新しく作ってたの?」
「うん。与一との合作」
「うわぁー。……
「大丈夫。敵以外はかからないように目印もつけてるし」
「そっか」
左近は至極当たり前のように言うが、本当はいくつか目印を付け忘れそうになっていた
だが、それぞれ慎太郎が代わりに石を並べたり、木の幹に印をつけたりと目印をつけて回っていたから大丈夫になっただけで。本当はちぃっとも大丈夫じゃなかった所もあったのだ。しかも、そういうところに限って念の入れよう。いっそわざとなのではないかと、傍で見ていた慎太郎が疑ったくらいである。
「さて、と。ちょっときゅうけーい」
「ふふっ。久しぶりに合作したけど、やっぱり幅が広がって楽しいな」
「あははっ。僕もー」
地面に座り込んで小休止していると、後ろから草を
「おい、お前達。……なんだ、正蔵もいたのか」
伊織が予想外にこの場に居合わせていた人物に目を
慎太郎一人では大変そうだったからと、苦笑する正蔵が伊織にそう告げる。伊織は満足そうにしている与一と左近を見て
「ほら、
「あ、そういえば、読み物をさせてたんだった」
「えぇっ。それは……早く戻ってあげないと」
「大丈夫、大丈夫」
なにせ、この陽気。きっと今頃起きている子はいないだろう。
手持
哨戒任務に戻るという正蔵とはそこで別れ、四人で学び舎へと戻る長い石段を登っていく。
「隼人、どれくらいで戻ってくるかなぁ」
「左近の補佐役なんだっけ?」
「それもあるんだけど。仕掛けを作る場所の下見もしたいから早めがいいなぁ、なんて」
「あ、そっちかー」
にたりと笑う左近と与一。
左近が作る仕掛け罠が、与一が持つ薬の知識が、里や学び舎を護る一端となっていることは疑いようがない事実。ただ、その
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