第4話 再会……! の巻
—バシャン!
「う……」
そんな音が耳に響く。
呻き声を上げながら、私は目を覚ました。
あれから2日は過ぎただろうか。
私は鎖で両腕を後ろに組まれ、椅子に縛り付けれれていた。そう、尋問されていたのだ。
「けっ、ようやくお目覚めか」
目の前には水滴滴るバケツを持った1人の兵士が、憎まれ口を叩いていた。
「へへ、今日こそ吐かせてやるぜ」
目の前の男の仮面から覗く口元が、下卑た笑いを浮かべる。彼はバケツを置くと、ナイフを腰から引き抜き、見せつける。どうやら、拷問に切り替えていくつもりらしい。
実は今こうして尋問されているのも、私の作戦の一つだった。
※
—3日前—
「少し、いいですか?」
「……何だ」
作戦に用する馬車を調達するべく、とある街に立ち寄ったその夜のことだった。リンが寝静まったことを確認すると、私はあの兵士に、名はブルースと言う—に声をかけた。
彼はぶっきらぼうに返すも、私が同時に差し出した酒を見て、
「……話ぐらいなら聞いてやる」
と返した。私は軽く微笑むと、彼の横に座る。
「それで?」
「実は、君に頼みたいことがあるんだ」
「何で今言う必要が」
「……この話を彼女が聞いたら、泣きつかれてしまうかもしれないからね」
「なるほどな。で、何なんだ」
「それは……」
私が彼に頼んだことは、大きく分けて3つ。
1つは、私はおそらく尋問にかけられるだろうが、手を出さないでいて欲しいということ。
次に、捕まっているであろう亜人達の居場所や状況を全て把握できた時に、合図を送って欲しいということ。
最後に、見張り番がいるならどうにかして「殺さずに」無力化して欲しいということ。
「……しかし、いいのか」
「何がだい?」
「みすみす自分を危機に晒すような真似をして。下手したら……」
彼がそこまで言いかけた時、私は両手を彼の肩にぽん、と置く。
「ありがとう。けど大丈夫さ」
「私は強いからね」
そう言って、私は笑ってみせる。それを見た彼は、
「ふっ、そうかい」
と、口の端を上げて返した。
※
そして現在、私は手筈通り尋問を受けていた。もっとも、そろそろ拷問になるのだが。
「へっへ〜さぁ、どこがいい?」
「腕か、それとも脚か?それとも体かぁ?」
男は何とも嬉しそうに笑いながら、ナイフの先端を私の様々な場所に当てていた。
そんな時だった。
「何だ?」
コンコン、と外からドアを叩く音がしたのだ。男はそれに振り返ると、ドアを開く。
「失礼いたします」
開かれたドアから入ってきたのは、ブルースだった。彼は私を一瞥すると、すぐに目線を戻し、話を続ける。
そして1、2分ほど話をした後、ドアノブに手をかけ、ガチャガチャと3回回してから、部屋を出た。
「へっ、どうでもいい報告なぞよこしおって」
楽しみを邪魔された男はそう吐き捨てると、再び私の前に立つ。
「さぁーて、続きといこうじゃないか?」
「……ちょっと、待ってくれないか?」
「んんー?何だ泣き言かぁ?」
私はわざと、なるべく情けない声を出して彼の油断を誘う。
「もし、もしだ。私が逃げ出したとしたら、どうする?」
私はできるだけ大げさに、かつ怯えた風にそう言って見せた。すると、
「はっはっは、そんなことができる訳ねぇだろ!第一忘れたのか、お前は鎖で縛られて—」
そう言って大笑いし、注意が大きくそれた。
今だ。私が動くときが来た。
「鎖?」
「ああ」
「たった今引きちぎったよ」
「へ?」
私は両手をわざとらしく広げてみせると、男は間抜けた声を上げて固まる。頭の中での処理が追いついていないのだろう。そしてしばし沈黙すると、
「てっ、てめぇ—」
ようやく状況を理解し、叫び声をあげた。しかし、もう遅い。
「スリャーッ!」
私は素早く立ち上がると、彼の喉元に一撃を入れた。
「ゲェッ!」
そんな声を上げて、男が倒れる。無論、命は奪っていない。外傷を回復させながら衝撃だけを与え、気を失わせただけだ。
その直後、ドアが開く。
「……本当にうまくいくとはな」
「まあね」
入ってきたのは、ブルースだ。彼は少しばかり信じられないという表情を浮かべていたものの、すぐに気を取り直すと、
「お前に言われてたこと、全部終わったぜ」
「まだ無事な亜人達は全員地下牢だ。見張りの差し入れに眠り薬を盛っておいた、今ごろぐっすりだろうぜ」
「そうか、ありがとう」
「これから、どこに向かう?」
「地下牢へ行こう。亜人達をまず助けたい」
「わかった」
そう言って、私達は揃って部屋を出る。異変を嗅ぎつけた兵士達が数人、向かってきていた。
「さて、やろうか」
しかし、慌てはしない。
私は緑色のオーラを噴出させると、構えをとり—
※
要塞の深部、地下牢。そこでは、異様な光景が広がっていた。
「グガァ……」
「ズズ……」
口々にいびきを立てながら、任務も忘れて眠りこける兵士達。
「どうなってるんすか……?」
その様子を牢の中から見つめる、リンをはじめとする捕らえられた亜人達。彼らは両手にかせをはめられ、足を鎖に繋がれてはいたが、今この瞬間だけはすっかり恐怖を忘れ、どよめいていた。
そして。
「こ、今度は何すか!?」
遠くの方から、何やら走ってくる音が聞こえたのだ。それも2人分の音が。
その正体は—
「お待たせ、助けにきたよ」
ラルスとブルースの2人であった。
助けにきた—その一言に、より一層ざわつく亜人達。そんな彼等に構うことなく、ラルスは鉄格子に手をかける。
「みんな、少し下がってて」
そしてそう告げると、全員が鉄格子から離れたことを確認し—
「ムンッ……スリャアアアーッ!!」
何と、掛け声とともに鉄格子を力づくで横に開いてひしゃげさせてしまった。
※
「これでよし……っと」
数分後。全員の手枷と足の鎖を破壊し終えた私は、一息ついていた。
「こっちもオッケーだ」
彼も—ブルースもまた、未だ眠る兵士たちの手足を縛り口に布を巻き終えると、私の元へと駆け寄る。
「それで?この後はどうすりゃいい」
尋ねる彼。
「君は彼等を連れて脱出してくれ」
緊急用の隠し通路があることは、道中彼の口から聞いていた。私は彼にそう告げると、先ほど下ってきた階段の方へと足を向ける。
「よし、わかった。……お前は?」
「私は—」
「いや、いい。みなまで言うな」
「……頼んだよ」
「ああ、任せろ」
私はそれだけ言うと、再び走り出す。
そう。私にはまだ、やるべきことがあるのだ—
※
「グェエッ!?」
「ギェエッ!」
要塞内に、そんな悲鳴が響き渡る。
私は今、要塞の最上階—巨大な扉の前にいた。ゆっくりと持ち手に手をかけ、唾を飲む。
この先に、彼女はいるのだろう。
一層濃い邪悪の気配を感じ取りながら、私は確信した。そして勢い良く戸を開け放つ。
「……ついに、来たみたいだのう」
ステンドグラスと燭台とが輝く、神秘的な部屋の奥から響く、老人めいた喋り方をする女の声。
仮面をつけた巨大な影が、背を向けて立っていた。
喋り方も、体系こそ違えど、私にはその声だけで全てがわかった。
「レイア……っ!」
それがかつての友、『杖』の勇者、レイアの変わり果ててしまった姿なのだと—
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