味噌汁の科学

林海

第1話 〜発酵〜


 味噌汁の味噌は何からできているでしょうか。

 材料は、大豆、小麦または米の麹、塩が基本的な材料です。麹とは、米、麦などに「コウジカビ」という「微生物」を繁殖させたものです。

 コウジカビの働きによって、大豆に含まれる「タンパク質」が、「アミノ酸」に分解されています。アミノ酸は「うま味」のもととなる成分ですので、大豆を味噌にすることによって、より美味しくなるのです。


 大豆は、節分の時に投げる豆です。その時に食べて、大豆そのものの味は皆さん知っているでしょう。

 それが、コウジカビによって分解されると味噌の味に、「納豆菌」によって分解されると納豆の味に変わるのです。それぞれの菌の力によって、味も香りも複雑に変化します。

 また、塩の働きは、味噌に塩味をつけることだけが目的ではありません。塩が、コウジカビの生育を助け、有害な菌が増えることを防いでいます。すなわち、塩がなかったら、他の菌が増殖し、大豆は味噌にならずに「腐敗」してしまうのです。

 したがって、味噌を作るということは、コウジカビの生育環境を整えてあげるという側面があります。


 その一方で、納豆は、そのまま食べても塩気を感じませんね。これは、納豆菌の生育を助けるための条件が塩ではなく、高い温度だからです。他の菌が死んでしまうほどの高温で大豆を処理したあと、人間の体温よりも高い温度を維持することで、納豆菌の生育環境を整えてあげるのです。


 日本という高温多湿の国では、食べ物は腐ってしまいやすく、長く保存することは難しいのです。しかし、良い働きをする微生物の力を活用することで、味を良くしながら保存が可能となります。

 科学の言葉では、人間にとって微生物が行う良い働きを、「発酵」と言います。

 逆に、人間にとって悪い働きを「腐敗」と言います。

 これは微生物のあずかり知るところではありません。あくまで人間の価値観なのです。


 この二つの差は、極めてわずかです。味噌では有用なコウジカビが、パンにつけば捨ててしまうしかありません。また、日本ではミカンやパンについて嫌われる青カビも、ヨーロッパではチーズを美味しくしているだけでなく、ぺニシリンという薬になるのです*。



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 ※青カビは学名ではペニシリウムといいますが、カマンベールチーズにつく青カビは、ペニシリウム・カマンベルチ(Penicillium camamberti)、ロックフォールチーズにつく青カビはペニシリウム・ロックフォルチ(Penicillium roqueforti)といいます。学名というと難しいイメージですが、案外身近なものなんですよ。

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