タイトルからして、某『エンドレス8』が頭に浮かんでしまうのは仕方がないと思いますが、中身は全然違います。
同じ8月をループしていることに違いはないのですが……、まあ、読み始めればすぐに分かるので、ここでは紹介を控えます。
設定自体は特別斬新、というほどでもないのですが、提示された物語舞台に対し、作者様がどのように筆を振るっているのか、お手並み拝見という感じで読み進め(偉そうに)、数時間後には爽やかな読後感に浸っておりました。
気取らず読み易くされている文章表現にも好感が持てますし、自分がカクヨムで読んだ中では間違いなく屈指の良作です。
なにより、最初からしっかりプロットを練って書き上げたであろうインテリジェンスが垣間見えるところが自分好みでした。
「この町は8月を繰り返しているの」。クラスメイトの少女からそう告げられた男子高校生のヤカモト。非常識な事実を話す彼女の言葉をヤカモトは信じる。何故ならこの世界は、開発中のVR恋愛シミュレーションゲームで、彼はテストプレイヤーだったからだ。
ゲーム世界は8月1日から始まり、31日にすべてリセットされる。NPCでありながらループを認識した彼女は繰り返される8月を抜け出す研究を始める。街中を歩き回りプレイヤーに代わってゲーム内に用意されたシナリオを進め、さらにはバグまで見つけ出して無自覚に世界を壊しかける彼女の行動にハラハラします。
正しい世界を取り戻そうと努力する彼女だが、その本人こそが間違っている矛盾。数十回、数百回のループに閉じ込められて次第に奇行に走りはじめる彼女を見守るしかないヤカモトの姿にやりきれない無力感でいっぱいになりました。
そして彼女はヤカモトや開発陣の想定を超える存在へと進化する。衝撃の結末に言葉を失います。
(「あの娘と過ごした夏」4選/文=愛咲優詩)