第3話
男が次に気付いた時、目の前にあったのは見慣れない、いや、久しぶりすぎて忘れていた光景だった。
そこは、学生時代に自分の部屋として使っていた部屋だった。
とりあえず、今はいつなのかを確認しようと、枕元に置いてある自分の携帯を手に取り、電源を入れ確認すると、そこには高校二年生の、冬に差し掛かり始めているころで、当時の彼女と付き合っていて一番楽しかった時期であった。
そして、高校時代ということは、まだ家族が生きているということで、階下から料理をする音が聞こえており、母が、おそらく父もいるのだろうと、そろそろ夕飯時なこともあり、一度下に降りようとしていた時だった。
まだ手に持っていた携帯から、メッセージの届いた音が響き、携帯を起動すると、彼女からメッセージが来ていた。
〈明日楽しみだね! 10時に駅前だよね?〉
いきなりで何のことかわからず、一度彼女とのメッセージを見返していると、確かに明日、デートする約束をしていた。
どこに行くのかは、決めていなかったようだが、明日のデートについては印象深かったのか、何年もたっているというのに、どこにいったのか覚えていた。
それというのも、明日は付き合って一年になる日だったのだ、印象深くても当然と言えよう。
そして、明日行くのは、いや行ったのは、アイスアリーナへとスケートをしようと言って向かったはずだった。
とりあえず、まだ頭が働いていなかったのか、頭に浮かんだまま、スケートに行こうとそのまま誘って、少し話をしていると、階下から母に飯だと呼ばれたので彼女に、
〈夕ご飯食べてくる、また後でね〉
とメッセージを送り、下へと降りて行った。
そこには、料理を準備している母、それを手伝っている妹と、テレビを見て笑っている父がいた。
そんな父を見て、手伝え、と声を上げている光景を見て、もう二度と見られなくなっていた光景を見て、視界が滲むのを感じていた。
そんな様子に不審に思ったのか、母が心配してきて、体調が悪いのか、どこか痛いのか、と聞いてくるが、あくびをしただけだと誤魔化し、久しぶりの日常を懐かしんで、家族で食卓を囲んで食事をとった。
久しぶりに食べるまともな食事は、母親の手料理は、懐かしく、とても美味しく感じられ、
「美味しい」
と、自然と口からこぼれていた。
それを耳にした母が、いきなり言われて驚いたのか、それでも口にされて嬉しそうに、
「いきなり言うなんて、どうしたの、そんなことしばらく言ってないのに」
そういうので、確かに料理を美味しいなんて言うのは、それどころか親に感謝の言葉もしばらく言ってなかったな、と思い、少し恥ずかしくなったが、今言わないといつ言えるのかとも思ったので、日ごろからのの感謝を告げた。
すると、今度は何か変なものでも食べたのか、頭でも打ったのか、と心配してきたので、なんでもない、と誤魔化した。
「おかしな子だね、それとも彼女の影響かねえ」
そう言われて、実際には違うけれども恥ずかしくなったので、食事を食べて、部屋に戻ることにした。
部屋に戻り、携帯を開いて、メッセージアプリを開いて彼女に、
〈ご飯食べ終わったよ〉
と送ると、彼女も食べ終わっていたようで、すぐに返事が来て、そのまま取り留めも無いことを寝るまで話して、布団に入った。
すると、今日の出来事が頭をよぎり、少し泣きそうになったので、布団を頭までかぶり、目を瞑って夢の中へと入っていった。
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