第2話

 家に帰り、先ほどのことは一度置いておいて、今日もまた、酒とタバコに溺れることにした。


 そんな生活を一週間ほど続けて、酒に酔った頭で、ふと男からもらったモノのことが気になった。

 そして、どこに置いたか忘れていたものを探し出し、それをよく見ていた。

 すると、不思議なことに、何やらはっきりとそれの形が見えてきた。

 どうやら、何かのスイッチのように見える。何となく押してみるも、特に何か起こるわけもなく、興味を失い、次の酒を飲もうと手を伸ばした時、頭に、そのスイッチのようなものの使い方が浮かんできた。

 それは、過去に戻れるスイッチのようであった。

 戻りたい時を鮮明に思いながら、スイッチを押せば、その時に戻れるらしい。

 それで、まずは失敗してもいいように、つい最近のことにしようと、コレを渡してきた男に話を聞きたいと思い、その日のことを思いながらスイッチを押してみた。



 次の瞬間、目の前にいたのは、あの男だった。そして、男はこちらを見ると、


「ああ、やっぱりね、お兄さんは使うと思った」


 そう言って、にこりと、こちらに微笑みかけてきた。

 まるで、こちらのことを全て見透かしていたかのように、こちらを見ながら、男は話しかけてきた。


「さて、お兄さん。それを使ってくれるのは嬉しいんだけど、こうして会いに来てくれたお礼に、いくつか、使ううえでの注意をしておくよ。まず、それを使うのは、三回までにしたほうがいい、今使ってきたから、あと二回かな。次に、戻れるだけで、どうにか出来るか、ってのは、お兄さん次第だから、そこは自分で頑張ってね。そして、人に貸したり、渡したりすることは厳禁だから、絶対にしちゃだめだよ? 最後に、一番大事なこと。それの中には悪魔がいる。……あ、信じてないね? でも、これはほんとだよ、だからとりあえず、信じて欲しいんだ、そうじゃないと、話しが出来ないからね、それで、続きだけど、実は、これは最初に言ったことに繋がってくるんだけど、その悪魔は、今は封印してるけど、お兄さんがそれを使うごとに、その封印は弱くなる。三回までなら、それでも大丈夫なはずだけど、それ以上使うと、もうわからない、きっと、お兄さんがその悪魔に呑まれてしまう。だからそれ以上は使わないでほしいんだ、絶対だよ?」


 そう言って、男はこちらを見てきた。

 とりあえず頷いて、了承の意を伝えると、男は笑い、


「それじゃあ、精々、頑張ってね。お兄さんのことは見てるから、助けることは出来ないけど、頑張って」


 そう言って、男はまた消えていった。

 それを確認して、一度家に帰ろうと、公園を出ていった。



 -------------------------------


「フフ、フフフ……一体、これからどうなるのか楽しみだなあ、お兄さんが僕を楽しませてくれるといいんだけど」


 その男はそう呟き、姿を消した。誰にも本当に認識されない世界へと……。


 -------------------------------


 家に帰ってきて、男の言っていたことを反芻しながら、目の前にあるソレを見つめていた。


 あの不思議な男はよく分からないが、事実として、日が戻っていることから、おそらく本当に過去に戻れるのだ、ということを認識し、こんなものを持っていたあの男は一体何だというのか、そんなことを考えながら、スイッチを手に取り、もう二度と見ることが出来ないと思っていたあの頃を思いながら、男はスイッチを押した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る