もう一度、あの時を

かんた

第1話

 彼女に振られた。

 高校の頃から付き合っていて、このまま、将来もずっと一緒に居たいと密かに思っていた。本当に愛していた、いや、未だ愛している人だった。


 つい、2週間前の事だった。

 仕事をクビになって、これからどうしようか、早く次の仕事を探さなければ、と考えていた時だった。

 彼女に呼び出され、婚約者が出来た、もうあなたとはいられない、と言われた。

 話を聞くと、彼女の親に、クビになった事が伝わっていたようで、そんな将来性のない男とは一緒にいさせられない、見合いをさせる、という事で、実家に連れ帰られるとの事だった。

 意味も分からず混乱しているうちに、彼女は居なくなっていて、電話をかけても繋がらなくなっていた。


 それから2日間、彼女を探し続け色々なところを回った。

 そして、知らない男と歩いている彼女を見て、ああ、終わってしまったのだな、と実感した、いや、させられてしまった。

 絶望とともに、コンビニでタバコと酒を買い、その日は浴びるように、タバコを吸って、浴びるように酒を飲みながら、泣いていた。



 翌日、夕方まで寝て、頭痛で目が覚め、前日のこと、それまでの彼女との事を思い出し、胸が痛み、涙が滲んできたが、それをどうにか抑えて、外に出た。

 しかし、特にすることも無く、とりあえずコンビニに寄り、何も食わずに酒だけ飲んだことを思い出して、タバコと肉まんを買って出た。

 ふと、辺りを見回し、誰もいない公園を見つけて、ベンチに座り、タバコを吸おうと口に咥えた。

 すると横に、高校生くらいの男が座っていた。

 直前まで誰もいなかったことに驚きつつ、ベンチを離れて別のところに座ろうとした時、男が声をかけてきた。


「ねえお兄さん、僕にもそれ、ちょーだい」


 と、タバコを指差しながら言ってきた。

 未成年に、とか、他人にものを、とか、そんな事が頭に浮かんだが、もう、どうでもいい、何でもいい、という気持ちがふつふつと湧いてきて、タバコを渡した。

 二人でタバコに火をつけ、吸い、煙を吐き出した。


「お兄さん、変な人だね?」


 男はそう言った。そう言われ、そちらを向くと、


「見るからに未成年なのに、そんな相手にタバコを渡すなんて、変な人だよ」


 笑いながら、そう言われた。


「まあ、そうは言っても未成年じゃないんだけどね。でも、見た目が幼いせいか、よく間違われるんだ」


「それにしても、お兄さん、こんな時間にこんな所で何してるの?」


「帰らないの?」


「仕事は?」


 男は、色々と話しかけてきたが、応える気力もなかったので、無視をしていた。

 すると、横に座っていた男がいきなり、じっと見つめてきた。

 そのまま、しばらくして、タバコを吸い終わると同時に、男が声を出した。


「なるほどね、お兄さん、大変だったね」


 そう言われ、俺の何を知っているんだ、とイラついたが、子供の言うことだ、と無視をして、もう一本吸い始めた。


 すると、男は何かを探し始め、見つけ出したそれをズボンのポケットから出すと、


「そんなお兄さんにはこれをあげるよ、自由に使っていいよ」


 そう言われ、渡されたものは、黒いナニカだった。

 既存の物に例えようにも、何も思い浮かばないそれは、まさに、ナニカ、といったものだった。

 一体これは何なのか、男に聞こうとすると、男は、


「あ、僕にそれを聞かないでよ、僕にもよくは分からないんだ」


「きっと、そのうち何なのかは分かると思うよ」


「悪い事にはならないはずだよ」


「きっと、何か起こるはずさ、何が起こるかは、お兄さん次第だけど」


 そんなことを言うと、男はソレを押し付けてきた。


 つい、受け取ってしまい、男の方を向くと、既に姿はなかった。

 立ち上がった気配も、どこかへ行く気配もなく消えた男を不思議に思いながら、家に帰ろうとすると、どこからか、


『また今度、会いに行くよ』


 と声をかけられ、不気味な目にあったと思いながら、帰路に着いた。

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