教祖様の苦悩 躍進②

「一体、誰がこんな事を……」


 震える手でタブレットを持っていると、財前友則が険しい表情を浮かべながら話始める。


「教祖様のご自宅は既に引越しの手続きを済ませております。教祖様の旦那様とお子様にも引越す旨を伝えてありますので、その点はご心配なく……」

「……えっ? 私、また引越すの?」


 タブレットを見ると、そこには前の前の住所が記載されている。

 先日引越したばかりだし、引越す必要ないと思うのだけれども、どうかしら?


 チラリと財前友則に視線を向けるも、その表情は硬いまま。

 全然、話を聞いてくれる風ではない。


「……はい。これは確定事項です。それと、教主様には今後、ボディーガードを付けさせて頂きます」

「ボ、ボディーガードを?」


 お、大げさじゃない??

 私、そんな大層な人間じゃないわよ??


「……はい。それでは、ワシ自ら選定したボディーガードを紹介致します。入ってきてくれ」


 財前友則がそう手を叩くと、部屋に初老の男性が入ってくる。


「お初にお目にかかります。財前様より教祖様のボディーガードを拝命致しました屋敷神と申します。どうぞ、よろしくお願い致します」

「え、ええ……。よろしく……」


 な、何、この人?

 本当に人間??

 なんだかよく分からないけど、ほんの少しだけ神々しい何かを感じる。


 椅子から立ち上がり、握手をすると屋敷神と名乗る初老の男性は笑みを浮かべた。


 それにしても、屋敷神という名前。コードネームか何かかしら??

 一瞬、名前について聞いて見ようかと思ったけど、止めておいた。

 万が一、それが本名ですと言われた場合、対応に困るからだ。


「屋敷神さんには、二十四時間、常に教祖様について頂きます。暫くの間、窮屈な思いをさせてしまいますが、これも教祖様を護る為です。どうか御容赦下さい」


 マジですか……。

 二十四時間って、全然、自由時間がないじゃない……。


「え、ええ、仕方がない事ですものね?」


 今の私、顔が引き攣っている気がする。


「ええ、こんな不確かな情報を流した輩を排除し、教祖様の立ち位置が確立するまでの辛抱です。情報面については、この私が統制し、荒事については、この屋敷神さんが担当します。信者の皆様の中にも、類い稀なる能力を持った方々が多く存在し、その殆どが教祖様の為に立ち上がりたいと言って下さっています。神興会の総力を持って、教祖様を貶めようとする愚か者に鉄槌を下しますので、もう少々、お待ち下さい」

「え、ええっ、わかりました。や、やり過ぎない様に気を付けて下さいね?」


 お願いだから大事にしないでね?

 実際に神興会は詐欺集団の様なもので、私は普通の人だから!

 ネットに流れている情報。ほぼ真実だから!


「はい。社会的な制裁を課すだけに留めます。それでは、私はこれで……。屋敷神さん。教祖様の事は頼みましたよ?」

「ええ、お任せ下さい」


 そう言うと、私に一礼し、財前友則が部屋から出て行く。


「そ、それじゃあ、私達もそろそろおいとましようかしら? ねえ、紗良さん?」

「そ、そうですね。私達が教祖様のお部屋にいてもできる事は少ないでしょうし、今日はおいとま致しましょうか。ねえ、佳代子さん?」

「えっ、ちょっと待って……!」


 それに続いて、佳代子さんと紗良さんも部屋から出て行ってしまった。

 佳代子さんと紗良さんめ……。

 あの二人。財前さんと屋敷神さんを見て逃げやがった。


 ま、まあ、寄付金を碌でもない事に使おうとしていたみたいだし……。

 一旦、頭を冷やして貰う機会を得たと思えばいいか……。


 テーブルに置かれた煎茶を啜ると、一息入れる。


 はあ、煎茶が美味しい。

 温かい煎茶を飲んでいる時と、夜、酒を呑んでいる時だけが唯一の癒しの時間だわ。

 まあ、今日からその細やかな楽しみすらなくなってしまいそうな勢いではあるのだけれども……。


「……それで、今日の予定は何だったかしら?」

「はい。本日、午前十時より国民政党の絵空代表との会談、正午、昼食を挟み、午後十三時より東京国際フォーラムにて年に四回ある『御神体供養』の儀を行います」

「そ、そういえば、そうだったわね」


 国民政党の絵空代表!??

 野党の大物議員じゃない!?

 そんな予定聞いていないわよ!?

 それに、御神体供養の儀、四回に増えたの!?


 拙い。拙いわ。神棚に置いてあるのは、超有名漫画のウイルスやビールが名前の由来となった破壊神様のフィギュア。あんなのが財前さんに見られたらどうなる事か……。


「はい。こちらが原稿となります。財前様が書かれたものですが、基本的にはこの原稿に沿って絵空代表と話を進めて頂きます」

「そ、そう? わかりました。それでは、時間も迫っている事ですし、早速、参りましょう」

「はい。神興会館の目の前にハイヤーを手配してあります。原稿は、移動中に覚える様にして下さい」

「わ、わかりました」


 原稿を持ち、立ち上がると、私は屋敷神さんに先導されるがまま、ハイヤーに乗り込んだ。

 その際、屋敷神さんがボソリと耳打ちをしてくる。


『教祖様。神棚に安置されていたフィギュアについて、差し出がましい様で恐縮ですが、こちらでより相応しい御神体に変更させて頂きました。全く、どなたでしょうね? 悪戯でフィギュアを安置するだなんて……』


 その一言は、中々に、衝撃的な一言だった。


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 明けましておめでとうございます!

 今年もどうぞ『転移世界のアウトサイダー』をよろしくお願いいたします(^人^)


 今年が皆様にとって良い年であります様に。


 びーぜろ


 次の更新は2022年1月3日AM7時を予定しております。

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