教祖様の苦悩 躍進①

「な、なんで、こんな事に……」


 佳代子さんと紗良さんが高校生の佐藤悠斗君を連れてきた翌日、財前友則とかいう金持ちが神興会に加入。その日から神興会が一変する。


 目の前に積まれた多額の寄付金。

 日を追う毎に増えていく信者。

 まるで学級新聞の様な神興新聞の購読者増。


 狂喜乱舞する佳代子さんと紗良さんの傍らで、神興会の教祖に祭り上げられた私は頭を抱えていた。


「教祖様、教祖様っ! 見て下さい。この寄付金の額!? 十億円もありますよ!」

「ああ、これだけ寄付金があれば、住宅ローンの返済にブランド物のバッグ、銀座でのランチ。なんでもし放題だわっ! 本当に教祖様についてきて良かった!」

「あ、あなた達ねぇ……」


 いや、一体何を言っているの?

 そんな事の為に寄付金を使うつもり??

 この寄付金はあなた達の住宅ローンの返済やブランド物のバッグ購入、銀座でのランチに使うような類のものではないのよ??


 私の住んでいる所の町内会の会長が、町内会費を使い込んで、海外旅行に行ったり、ブランド物のバッグを買い漁っていたりして逮捕されたけど、それと同じで、神興会の幹部だからといって、そんな馬鹿な使い方できる訳がないでしょう。


 信者の信頼を裏切る事になるし、そんな事をしたら財前さんにマジで怒られるわよ?


 とはいえ、これまで神興会を支えてくれた佳代子さんと紗良さんに報いない訳にもいかないし……。後で、財前さんに相談しよう。

 いや、そんな事よりも……。


「……佳代子さんに紗良さん? そんな事よりこの神興新聞の内容について教えて下さいます? 何なんですか、このデマは……」


 神興会の信者がお金を払って購読する神興新聞。

 信者数が少なかった頃は適当に読み流していたが、こうも信者数が多くなってくると、何かと心配になる。

 特に、佳代子さんと紗良さんがどんな内容の神興新聞を信者の皆さんに配っているのかが……。


 神興新聞を確認して驚いた。『なんだこれ?』と……。

 思わず握り潰してしまう程に……。


 そこには、私が起こした事のない数々の奇跡が書かれていた。


 曰く、教祖様には病気や邪気を祓い、癒す力がある。

 曰く、教祖様が手を翳すと水が極上の葡萄酒に変わる。

 曰く、教祖様が天に向かって『鎮まれ』と命じると嵐が止む。

 曰く、教祖様は予言する力を持つ。


 ――いや、イエスの奇跡かっ!?


 そんな事、できる訳がないでしょう。

 私は一般人なのよ?

 これを見て、信者の方が本気にしたらどうするのですか。


 私がそう言うと、佳代子さんと紗良さんは悪びれずに弁解する。


「いえ、私は教祖様が邪気を祓う力を実際に目にし、体感しました」

「…………」


 身体は不感症で、その目、潰れているんじゃないかしら?

 体感したって何を?

 もしかして、私があなたにやった整体の事を言っているの??

 嘘でしょ??


「私もです。教祖様に渡した水を入れたグラスが紫色に染まり、そのグラスからはまるで赤ワインの様な芳醇な香りがしたのを今でも覚えております……」


 ……それは、日頃のストレスが溜まり、あなたの目を盗んで昼から赤ワイン飲んでいただけよ。


「……他にも、教祖様が海外で嵐に見舞われた時、『鎮まれ』と口にした数秒後、嵐が止み晴れ渡る太陽が光指してきた事や、テレビを見ている際、流れてきた有馬記念杯で三連単を言い当てた事を今でも覚えています」


 いや、それスコールに襲われただけだから、スコールなんて数分待てば止むから!

 それに有馬記念の三連単だって、あなたが『教祖様は何番だと思いますか』と聞いてくるから適当に答えただけじゃない!

 あの時は悔しかった。まさか、適当に返事した数値が三連単を引き当てるなんて……。

 ……いやいや、あなた、まさかその事を言っている訳じゃないでしょうね??


「いや、それただの偶然だから!」


 私がそう言うと、佳代子さんと紗良さんは『またまた、そんな事を言って』といった表情を浮かべる。


「教祖様が偶然なんて言葉を使ってはいけませんよ」

「そうそう。それにこの神興新聞は信者達に送付済。もう回収する頃はできませんわ」

「な、何ですってっ!?」


 な、なんて事をしてくれたの……。

 これじゃあ私は稀代の詐欺師じゃない!


 ど、どうにかしなければ……。


 佳代子さんと紗良さんの言葉に頭を抱えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。


「はい。どうぞ……」


 そう呟くと、扉から財前友則が入ってくる。


「おお、教祖様! こんな所に、今、大変な事が起こっております。こ、こちらをっ! こちらをご覧ください!」


 財前友則はそう言うと、私にタブレットを見せてきた


「それがどうしたというのよ……。って、ええっ?」


 すると、そこには私の昔のアルバム写真が表示されていた。

 しかも、『神興会は詐欺集団。この女はその教団のトップです(笑)』といった言葉と共に……。

 しかも、住所も特定されているようだ。


 思わずタブレットを引っ手繰ると、その写真を凝視する。


「い、一体、誰がこんな事を……」


 こんなにも大々的にやられては、いずれ夫にバレてしまう。

 ……ま、まあ既にメディア展開している為、百パーセントバレていないかと言われたらなんともいえない気分になるけれども……。


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 2021年も今日を含めてあと二日。

 皆様、今年も一年お世話になりました。


 本作を見て下さっている方々、コメントを下さる方々、本当にありがとうございます。

 この一年で、本作の主人公、悠斗君が神様になってしまいました。

 子供の成長というのは早いものです。


 次の更新は2022年1月1日AM7時を予定しております。

 来年が皆様にとって良い年であります様に。


 2022年度もどうぞよろしくお願いいたします(^人^)


 びーぜろ

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