その後(トースハウン領ギルドマスターの場合)
「冒険者ギルドのギルドマスター職を解任とはどういう事だ! こ、こんなの横暴だっ! グランドマスターに繋いでくれっ!」
フェロー王国トースハウン支部の冒険者ギルドでは、通信用の魔道具を持ったギルドマスターが抗議の声を上げていた。
『グランドマスターは会議中です。お繋ぎする事はできません。フェロー王国内における冒険者ギルドはこれより商業ギルドに統合されます。その際、人員整理がある事はお伝えしたではありませんか』
「だ、だから、それがおかしいと言っているのだ。何でこの私が一般職に格下げされなくてはいけないのだ」
今、フェロー王国内の冒険者ギルドでは、屋敷神が冒険者ギルドの経営に参画した事によりリストラの波が押し寄せていた。
『残念ながら、これは決定事項です。例外は認められません』
「だから、グランドマスターに繋げと言っている! 本部は冒険者ギルドトースハウン支部の状況をわかっているのか? 本部の人員整理により、トースハウン支部は既に俺しか残っていないのだぞ!?」
既に他のギルド職員達は、配置換えにより商業ギルドのギルド職員として働いている。
俺も冒険者ギルドのギルドマスター職から商業ギルドの討伐部門の一職員として働く様命じられたが冗談じゃない。
『はい。冒険者ギルドトースハウン支部は本日解体予定ですので、その予定に合わせて人員整理を行うのは当然の事です。……まさかとは思いますが、この通信、冒険者ギルドからかけている訳ではありませんよね? そろそろ、解体が始まる時間です。そこにいては危ないですよ?』
そんな事はわかっている。
時間を見るとあと五分で午前十時になる所だ。
「ふん! あと五分で解体が始まるというんだろ?」
『はい。その通りです』
しかし、その解体業者が来る事は絶対にない。
何故ならこの俺自らトースハウン領の解体業者全てに圧力をかけて回ったからだ。
冒険者ギルドトースハウン支部は、ギルドマスターである俺の城、絶対に解体させん!
「そんな事はどうでもいい。グランドマスターに繋いでくれるまで、この場所から絶対に動かないからな!」
万が一、解体業者がトースハウン支部の解体を強行しようとしても、この俺様がこの場に留まっている以上、解体する事はできない筈だ。
俺がそう言うと通信用の魔道具からため息が聞こえてくる。
『もう一度だけ申し上げます。今すぐその場から退避して下さい。今すぐです。もう解体が始まります』
何を言うかと思えば、何度も何度も同じ事を……。
「わからない奴だな。この俺をここからどかしたければグランドマスターに通信を繋げと言っている!」
通信用の魔道具に向かって唾を飛ばしながら声を荒げると、建物から声が聞こえてくる。
『これより冒険者ギルドの解体を行います。建物内にいる方は五分以内に退避して下さい』
「な、何事だっ! ま、まさか、この俺様が建物内にいるというのに、俺の城を……冒険者ギルドを解体する気かっ!? ……許さん! そんな事は絶対に許さんぞっ!」
俺は通信用の魔道具を放ると、声のする方に向かって走り出した。
「誰だっ! どこにいる!」
しかし、ギルド内のどこを探すも、解体業者の姿が見えない。
一体、何なんだ?
今のは幻聴か……いや、そんな馬鹿な。
ギルドマスター室に入った所で五分が経過し、またしても声が聞こえてくる。
『それでは、定刻になりましたので、冒険者ギルドの解体を行います』
「ま、待てっ! ふざけるなぁぁぁぁ!」
『
すると、突然、足元が滑り台に変化する。
「な、なんだ! 何が起こっているんだぁぁぁぁ!」
そして、滑り台に流されるまま、冒険者ギルドの外に放り出された俺が振り向くと、建物がどんどん消えていき冒険者ギルドが解体されていくのが目に映った。
「ち、ちょっと、待てぇぇぇぇ! 俺の城が……俺の冒険者ギルドがぁぁぁぁ!」
俺がそう声を上げるも、解体は止まらない。
そういえば、ギルド内に私物を置いていた事を思い出す。冒険者ギルドに籠城する為、家に帰るまいと、家にある金目のものは全てそこに置いてある。
も、もし、万が一、あれまで失えば俺は無一文に……!
「ま、ままままっ、待てと言っているだろうがっ! 冒険者ギルドの中には、俺の私物が……まだ俺の私物があるんだぁぁぁぁ!」
冒険者ギルドでの栄光の日々を綴った日記。
フェロー王国トースハウン支部ギルドマスターの任命書。
家の鍵に白金貨の詰まった財布、そして壁にたて掛けてあった業物の剣。
いつしか、グランドマスターになった時飲もうと思い熟成中の年代物のウイスキー。
それが冒険者ギルドと共に消えていく。
「あ、ああっ……待ってくれ……消さないでくれっ!」
後悔先に立たず……こんな事なら最初から退避していればよかった。
呆然とした表情で更地となった冒険者ギルド跡地に目を向ける。
「えっ? あ、あれは……まさかっ!?」
すると、更地となった冒険者ギルド跡地にとても見覚えのある物が落ちていた。
丁度、ギルドマスター室のあった辺りに日記と剣、鍵や財布など失ってしまったと思っていたものが、置いてある。
「おおっ……おおっ!」
ぶ、無事だったかっ!
冒険者ギルドの建物自体は消えてしまったが、自分の私物だけは辛うじて残った様だ。
こうしてはいられないと、俺は走り出した。
すると、またもや『
「へっ?」
冒険者ギルド跡地の地面が急に隆起し、俺の私物を取り込んで建物を形取っていく。
しかし、走り出した人は急に止められない。
「ぎゃぁぁぁぁ! へぶぅあ!」
突然、目の前に出来上がった建物に激突した俺は、小さく悲鳴を上げると仰向けに倒れ、そのまま気を失ったのだった。
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